「ん……っ……は、ふ……んむ、ちゅ、むふぅ……」
ベッドの縁に腰かけ、膝の上に乗せた橘先輩と唇を重ねる。女性の中でも一際小柄な先輩はとても軽く、けれど太腿に感じる柔らかさは劣情を抱くのに充分な温もりがあった。
片手では背中を支え、反対側の手で茜色の髪を何度も撫で、合わさる小さく柔らかな温度を重ね合っていく。
「んふぅ……ちゅ、んん、ふぅ……ちゅる、んぅ」
舌を入れない重ねるだけの口づけを甘い熱を帯びた瞳が堪能していて、慣れてきたのか胸に添えていただけの両手を背中へと回してくる。
「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
唇を離すと思い出したかのように酸素を取り込み、薄く口を開いて見上げてくる橘先輩の表情は可愛らしく、扇情的だ。
服越しからでも伝わる体温をもっと感じたくて、優しく身体を寄せて僅かにあった隙間を完全に失くす。
「あ」
ぴったりと身体をくっつけると少しばかりの動揺の声が聞こえて、急かすような真似はせず橘先輩の額を肩に押し当てた。
両腕にすっぽりと収まる体躯は抱き心地がとても良く、ずっと抱き締めていたいと思うほどだった。抱き枕にして寝たら滅茶苦茶寝つきいいんだろうな。
「あの……柊くん……」
「はい、なんでしょう」
低い位置から聞こえる震えながらも甘さを宿す声に、頭を撫でる手を止めず聞き返した。
先輩の腕が少し動いて、緊張しつつもゆっくりと胸を抱き締める力がぎゅぅ、と強くなった。
「このままが、いいです……嫌とかではなくてですね?その……あれ以上は、幸せすぎて頭がどうにかなりそうで……」
……なんか、凄い嬉しいこと言ってくれたんだけど。
「全然いいですよ。橘先輩のペースで進みましょう。俺もこの体勢結構好きなので」
「そ、そうですか?えへへ、私も好きです。同じですね」
もう一度嬉しそうな声をもらして、橘先輩が首筋に顔を寄せてくる。毛先が当たる擽ったさと、小動物の求愛行動のような僅かに擦られる柔肌が思考を放り投げてしまいたいほどに心地良く、暖かい。
揉みくちゃにしたいなあ。抱きたいんじゃなくて、ただただ目一杯抱き締めたい比護欲をそそられる。
「ん、はふ……」
抱き締める力を強くし、できるだけいやらしさを感じさせないように橘先輩の全身を撫でまわす。鼻を擽る爽やかな柑橘系の香りに癒されながら、華奢な肢体を愛でていた。
橘先輩の可愛いさに当てられてしばらく撫でくり回していると、首に埋まっていた顔がゆっくりと俺の方へと上向く。
ぽう、と熱を帯びる蕩けた瞳と見つめあい、くしゃりと頭を撫でれば先輩は眼を瞑って唇を突き出した。期待に待つ姿勢に緊張は無くなっていて、微かに朱い頬には震えも強張りも失せている。
「んむ……」
唇を重ねると橘先輩は幸せそうにうっすらと眼を開いた。
「んふぁ……んんっ……」
俺が愛おしく撫でるように橘先輩も背中に手を這わせていて、布を擦る音と吐き出す温い吐息が何度も木霊していく。
先輩の唇は小さくて少し動かせばそのまま覆ってしまうんじゃないかと思うほどの大きさしかない。だから丁寧に慎重に輪郭をなぞり、あくまでもペースは橘先輩が握っていることを温もりを通じて伝えていく。
「んぅ……ふ……ちゅる、ん……っ」
ふにふにと唇の形が変わっていく中で、熱っぽい瞳を向けられながら僅か隙間が空けられた。期待と羞恥心の入り交じる橘先輩を何度も撫でて、優しく舌を侵入させる。
「んふぅ……っ」
舌が唇に触れながら進むと橘先輩は一瞬だけ身体を反応させたが、すぐに瞳を蕩けさせて受け入れた。
本当に小さい先輩の口内は狭くて暖かい。一息で口の中の酸素をすべて吸えてしまいそうな内側に差し込んで、舌先をゆっくり触れさせながら馴染ませていく。
「ふ、ぅ……っ、ちゅ、んんっ……れ……ぇ……っ」
もう一つの温度に慣れてくると控えめながらも橘先輩の舌が触れてきて、感触を確かめるように少しずつ少しずつ触れあう面積が大きくなっていった。
次第に触れるだけの粘膜は求めるように絡みついてきて、俺からも交じりあわせると満足げな吐息をこぼす。
「んふぁ……っ……ちゅるる、んぅ、ふ……ちゅくく、ちゅぴ、れ……はふ、ぅん……っ」
絡められる粘膜の間で小さく水の音が弾け、湿度を上げた吐息が空気を揺らす。
堪らない可愛さに背中を支えていた手で耳の裏を擽れば反射的に身体を跳ねらせるも、視線を切らさない瞳は甘く艶やかで振り払おうとはしなかった。
「先輩、まだ出来そうですか?」
頭を撫でながら額をこつりと合わせて問いかける。熱に濡れる瞳はじっと俺を見つめていて、ベッドの方に視線が向くと耳まで真っ赤に染める。
「まだ、したいです。でもゆっくり、お願いしますね……?」
上目遣いで放たれる甘ったるい声色に脳がくらくらと揺らされる。どうしてこうも、小さい女の子は加虐心と比護欲を同時に刺激してくるのか。
ベッドの中心に移動して橘先輩を優しく寝かせる。内股になって両手を胸の前で組む先輩を上から覆い被さった。
勢いはなくゆっくり。けれど、安易に逃がすことはないように彼女の全身をすっぽりと覆う。
膝の上で抱き締めるのとは違う、背後を断たれる姿勢に小さな喉がこきゅっと可愛らしく音を鳴らせた。見つめてくる瞳は期待に満ちていて、顔を寄せれば当たり前のように唇を薄く突き出した。
「んふぅっ……んむ、ちゅる、ちゅぴ……あふぁ……っ……んふぅん……くふぅんっ」
蕩けきった瞳で橘先輩が舌を絡めてくる。主導権は俺に、しかし熱量の在りかは橘先輩が握っていて先ほどよりも慣れた様子で情熱的な口づけに耽っていく。
「はふうぅ……っ、れ……ぇ……ちゅくりゅ、れる、れろ……んっふぅっ、はふぅんっ……」
小さな舌は足りない大きさを補うように積極的に動き、時折俺の舌を食むように唇が波打たせる仕草が情動に薪をくべる。
橘先輩の口腔を充分に堪能したら、今度は分泌される唾液を少しずつ流し込んでいく。
「んむぅ……?ふうぅんっ、んく……こく、こく、こく……」
とろりとした生ぬるい粘液を橘先輩は一瞬だけ不思議そうにして、俺が与えていると分かればうっとりとした表情で喉を鳴らした。
貪るような激しさは無く。しかし、鼓動を早めるほどには情熱的な粘膜の逢引を楽しんでいる。
口づけを堪能しながらも茜色の髪を撫で、耳の裏や首筋を擽り、無理のない範囲で俺という存在を刷り込んでいった。
「こく、ふ、んっく……はっ、はぁ……はぁ……」
お互いの境界線が曖昧になる心地よさを味わい、ゆっくりと唇を離せば唾液の糸が伸びて橘先輩の口内へと消えていった。
最後まで美味しそうな表情で唾液を飲み干した橘先輩は恍惚とした顔で荒い吐息をもらしている。
「はぁ……はぁ……柊、くん……んぁ、ひゃぁぁっ……!」
焦がれるような声色に堪らなくなって、うっすらと赤らむ滑らかな肌触りの首に吸い付いた。鼻腔を通る爽やかな香りはどこか甘ったるく、唇を優しく押しつけて吸い付くと小柄な肢体がぶるぶると震えた。
舌先でなぞりあげながら真っ赤な耳に唇を寄せ、なるべく穏やかに語りかける。
「橘先輩、無理そうならちゃんと言ってくださいね」
処女とかそういう以前にピュアな性格なのは分かっているため、線引きは橘先輩に委ねるべきだろう。現に見た感じでは結構ギリギリのところで頑張ってくれてる気がしている。
俺としてはやはり、お互いになんの隔たりもなくどろどろのぐっちょぐっちょになりたいので橘先輩の意思を流したくない。
と思っての発言だったのだが。
「ううぅっ……!なんでそういうところはちゃんと聞くんですかぁ……っ」
震える声色の橘先輩が「ばかあっ」と呟き、少しばかり強引に顔を引っ張られたと思ったら唇を塞がれた。
溢れでる感情をぶつけるような口づけをされ、向き合う瞳はこぼれそうなくらい潤んでいる。けれど宿るのは甘い喜びと燻った熱だった。
情熱的で理性的でもある口づけに同じ熱量で応え、嬉しそうに眼を細める橘先輩を撫でていく。
やがて落ち着きを取り戻しはじめるのが分かり、ぽんぽんと頭を撫でて唇を離した。薄くなる温もりを惜しむ瞳が可愛らしく、最後に一つ口づけを落とす。
「柊くん…………」
「大丈夫ですよ。分かってますから」
熱を残す瞳で申し訳なさそうな声を漏らす橘先輩を優しく抱き締めると擽ったそうに身を捩り、ほっそりとした華奢な腕で抱き締め返された。
心音がお互いに伝わるような抱擁に浸っていれば、言葉を探るように橘先輩が口を開く。
「……実は、もうすぐ特別試験があるんです」
肩に乗る形で寄せられた唇が不安と確証を混ぜ込みながら囁く。
「例年通りでいけば冬休みが開けた直後に合宿のような形で発表されると思います。今さら困惑するなんてことはないですけど……でも、柊くんとい、一緒になったら……集中できないような気がして……」
なるほど。
内容がどうであれ、残り少ない時間をAクラスで終えるには確かに、気を散らせてしまう関係だ。特に橘先輩は真っ直ぐだが内気な性格だし、もし何かしらのアクシデントがあった時に自責の念にかられるのは想像に容易い。
恋愛や人付き合いに夢中になって学業が疎かになる、なんてのはよく聞く話だ。
「だから待ってくれますか?お正月が開けて無事に試験が終わったら……私から連絡、するので。その時までには、心の準備もしておきますから」
少しずつ小さくなる声には不安と葛藤が滲んでいて、背中にある手が服に皺を作った。
女の子が準備をするから待ってと言われて、本能が滾ると同時にその不安を消してやりたい比護欲に駆られる。
「いくらでも待ちますよ。橘先輩の意思で、俺のところにいて欲しいですから」
穏やかな声色を乗せて額をこつりと合わせた。一緒にいられる時間はあまり多くない。しかし、少ないからこそ濃い一日にできるはずだ。橘先輩からそうしたいのだと言われたら、俺だってそっちの方がいいに決まってる。
それが伝わったのか、橘先輩は擽ったそうに眼を細めてはにかむと何度目か分からない口づけを求めてきた。
そっと唇を重ね熱く交わろうとしたところで、ぱっと顔を離す。
「柊くん……?」
梯子を外されて首を傾げる橘先輩に、比護欲と共に膨れ上がった加虐心を乗せて口元を緩めた。
「慣れてるから我慢できるって思われても嫌なんで……今日はたっぷり味わわせてくださいね」
心の割合を持っていかれるのは俺だって同じなのだ。今日はキスしかしないし、首から下にキスマークをつけたりもしない。だから、他の部位に当てる熱量を橘先輩の唇と顔にだけ集中させる。
「ぁ──んむぅ……っ」
眼を見開いて微かな声が漏れる。潤んだ瞳に浮かぶのは期待と艶やかな熱だけで、唇を重ねれば恍惚とした表情に蕩けた。
そこからはひたすら口づけの時間と相成った。体勢を変え、少しばかりの工夫をして、濃密で濃厚なスキンシップを心行くまで楽しんで。
「んふぁっ……ひいらぎくぅん……っ」
艶やかに唇を震わせる橘先輩の表情を堪能しながら、時間の許すかぎりただただ唇を重ねあうのだった。