学年問わず全生徒で行われた特別試験の過程がすべて終了し、赤く焼けた夕暮れを背景に各グループの成績が告げられていく。
暇すぎる時間にあくびを噛み殺しながら″どうやって四人を抱こうかな″なんて考えてやり過ごしていた。
「────以上。男女共に全てのグループで学校側が儲けたボーダーラインを越えており、退学者はいません。これをもって結果の発表を終了します。生徒の皆さん、お疲れ様でした」
筒がなく終わった義務的報告が閉じられ、聞いていた生徒らが一気に身体を緩めた。
「俺たちの勝利だな。南雲」
「……そうっすね。今回こそはと思ってたんですけど、やっぱり届きませんか。流石は堀北先輩ですよ」
死ぬほどどうでもいい乳繰り合いを尻目にぼーっとしていると、不意に感じる心地よい視線。
そわそわとほんの少しだけ落ち着かない波瑠加。
ちらちらと眼を行き来させて赤らむ愛里。
眼が合えばにっこりと柔らかく笑むひより。
ふん、と鼻を鳴らせて朱く染めた顔ごと逸らす真澄。
そして最後に眼が合うと少しだけ驚いて、周りを気にしながら控えめに手を振ってくる橘先輩。
順番的に最後になった橘先輩に腰の辺りで手を振って返せば、えへへとはにかんで三年生のバスの列へと消えていった。可愛い。
共有時間の時に喋ることは出来たが、スキンシップもなければ挨拶するだけで全くもって橘先輩の温度が足りない。何かしら頑張ったらしいのは表情や雰囲気で分かるものの、頭を撫でようものなら「試験が終わってからですよ」と咎められてしまったのだ。
それもこれも後少しの辛抱だ。橘先輩からのお誘いを心待ちにしながら、別のところで燻る熱を四人にたっぷりとぶつけてどろどろに溶け合うとしよう。
「かーくん、また別の女?」
ふわりと香る見知ったシャンプーの匂いと共に波瑠加が唇を尖らせて隣にやってきた。橘先輩と視線が合うのを見ていたのだろう。それでいて抑えているつもりの嫉妬心が声から滲みでていて、可愛らしいヤキモチに笑みが浮かぶ。
「まあな。ずいぶんと頑張ったみたいだからどう褒めてやろうと考えてた」
「否定せずに情報つけ足すところが本当に終わってるんだけど……」
「そんな可愛くむくれるなよ。心配しなくても、最初は波瑠加たちから相手するさ」
「たちって言って喜ぶと思ってるのかーくんだけだよ?」
「じゃあ嫌なのか?」
聞き返すと不満そうな顔を一変させて頬を朱くしながら悔しそうに睨みつけてくる。そんなに睨んでも可愛いだけだぞ?
波瑠加がもごもごと言葉を探している内にバスに乗り込む順番が来たようなので、青みがかった髪をぽんぽんと撫でて並ぶように促すとむくれながらも最後まで視線は切らさなかった。可愛い奴だなあ、ほんと。
バスに乗り込むと空調で暖められた温度に迎えられて指定された座席に座り込む。少しばかりの抑圧以外、特に荒れることもなく俺たちは合宿所をあとにするのだった。
『今週末、空いてますか?』
その連絡がきたのは1月の中旬のころだった。合宿から帰ってきたあともキスやハグ程度は続けていたものの、衣服の下には触れず健全な関係を保っていた。
それがようやく解禁される。他ならない橘先輩の意思によって。
ぱぱっと了承の旨を返信し、″楽しみにしてますね″と追加で送る。既読はついたが返信の気配はない。それでいい。返信がないということは、きっと顔を真っ赤にして悶えてるに違いなく想像すれば自然と頬が弛んだ。
波瑠加たちとは波瑠加たちとで欲望が赴くままに温もりを楽しみ、訪れる指定された週末。
部屋の中を整えて待っているとインターホンがなった。胸から沸き上がる期待と高揚をそのまま玄関を開けば、可愛らしくお洒落をした橘先輩が立っている。
薄い桃色のワンピースに、寒さ対策のブラウンの上着。シンプルながらもよく似合う装いは先輩のお気に入りだというのが一目で分かった。
「待ってましたよ橘先輩。取り敢えず、中へどうぞ」
「は、はい。お邪魔します……」
より口元が弛むのを自覚しながら橘先輩を部屋の中へと促すと、緊張を隠せない可愛らしい瞳がちらちらと俺の方に何度も向きつつ脚を進める。
ゆっくりと玄関を閉めると、いじらしく俺の様子を伺う愛らしさに堪えきれなくなって、衝動的に橘先輩を抱き締めた。
「ふぁ」
優しく傷みを感じないように。けれど出来るだけ体温を交換する抱擁。驚きながらも胸の前に頭を預けた橘先輩は遅れて華奢な手を背中に回してくる。
「そんなに、待たせちゃいましたか?」
「それはもう。橘先輩は一人しかいないんですから、ずっと待ってましたよ」
「ぁ……え、へへ、そこまで言われると申し訳ないよりも、嬉しいです」
腕の中で擽ったそうに身を捩る橘先輩が朱くした顔で見上げてきて、花のような笑みではにかむ。開いた花弁から香る蜜に誘われるように顔を寄せれば、小さくて柔らかい唇が受け止めてくれた。
「ん」
何度も交わし合った温度は不思議と濃厚さを持っていて、混ざる温もりが高まる気分に陥る。
続きをしたい欲求を抑えて唇を離せば、期待に濡れる瞳がこてりと首を傾げた。
「中の方でたくさんしましょうか」
「……はい」
そっと小さな手を引いて室内へ水を向けると、橘先輩は俺を上目遣いで見つめながら頷いた。
先輩にテーブルの前に座ってもらい、キッチンからココアを二人分持ってきて小柄な身体の隣に腰を降ろす。すると、橘先輩がそわそわと落ち着かない様子で俺の顔と脚を組んだ胡坐に視線を行き来させはじめた。
「橘先輩?」
何をしたいのかはなんとなく察しているが、俺からいきなり股座に収めるのも変な話なので惚けたふりをして伺ってみる。
「あぅ……えっとお……膝の上に、お邪魔してもいいですか?」
顔を伏せて耳まで真っ赤にしながらも前髪の隙間から覗く瞳は期待一色に染まっていて、断る選択肢を端から破壊してくるような威力を持っていた。
ちょっとだけスペースを空け、軽く腕を広げる。
「どうぞ」
口元が弛みまくっているのを自覚しつつ橘先輩に身体を向ければ、彼女は一瞬だけぽかんとして、呆れたように自然な笑みを浮かべた。
「もう……そんな嬉しそうな顔されたら、どっちがお願いしてるか分からないじゃないですか」
頬の赤みを残しながらもほどよく緊張が解けたのか、橘先輩はほんの少しだけあった間を埋めて、背中からぽすりと脚の上に収まる。
太ももに小さな手が添えられ、僅かに俺の方へと向いた熱っぽい視線に何を求められているのかを察して、小柄な身体を両腕で包み込んだ。胸と背中をぴったりとくっつけ、橘先輩の肩に顎を乗せると抱え込むように回された手に優しく頭を撫でられる。
「…………寝るまでこの姿勢でお願いしていいですか?」
「どれだけこの体勢でいるつもりなんですか?」
…………橘先輩が許してくれるかぎりずっと?
「本当にスキンシップというか、肌を触れ合わせるのが好きなんですね」
「暖かいし柔らかいし安心するし、好きにならないところがないですよ」
「もう少し言い方どうにかなりません?」
他に包める語彙力がないのでどうにもなりませんね。
女の子の温もりはどうしてこうも安らぎ落ち着くのか。それでいて男の欲望を擽られるし、ムラつくのと当時にこのままがいいなんて矛盾した思考になる。女性というのはなんとも不思議な生き物である。
「それに……ずっとこのままだと、出来ないじゃないですか」
聞こえるか聞こえないかも分からない呟きが木霊して、服越しにも関わらず伝わる体温が高いものに変化した。
思いもよらない橘先輩の積極性に胸が高鳴る。
「そうですね。橘先輩を抱き枕にするのはいつでもできるので……」
林檎のように真っ赤に染まった頬に手を添え、優しく唇を重ねた。
「んむ……ふ、ちゅ……」
少し冷めてしまった熱を焼き直すように唇を合わせて、唾液の橋をかけながら離れる。
「今日しか出来ないことをしましょうか」
ほんの少しの口づけだけで艶やかさを取り戻した橘先輩が潤んだ瞳で見つめてくる。そして、小さく頷くと俺を見上げた姿勢で可愛らしく唇を突き出した。
焦らすような真似はせず、俺からも頭を撫でてあげながら唇を重ねる。
「んふぁ……ぁ、むふぅ、ちゅぴ……ふ、ちゅ、ちゅく……」
俺を招き入れた橘先輩は躊躇いの失くなった舌使いで情熱的に絡めてきた。
橘先輩が俺の舌を堪能し、橘先輩の口腔を俺が味わっていく。
「は、ふ……んんっ、ちゅく、ちゅぴ、ひうぅん……っ……ちゅくりゅ、ちゅるるる、れ……ぇ……れろ」
お互いを優しく犯しあい、ぴちゃぴちゃといやらしい音が鳴るのも構わず粘膜の逢瀬に浸る。
どうやら橘先輩は撫でられるのがとても好きなようで、手が止まっていることに気づくと潤ませた瞳で可愛らしくねだってきた。
「くふぅんっ、ちゅりゅりゅ、れろ……んっふぅ、ちゅるるる、はふ……ん、こく……」
小さな口腔で俺の舌を美味しそうに頬張り、陶然とした蕩ける表情で交ざりあう唾液を啜る。
真っ白な喉がこくりと鳴る度に閉じた太ももをもじもじと擦らせていて、温度の上昇した手は愛おしそうに俺を撫でてくるのが堪らない。
夢中になるあまり、舌がまぐわう隙間から唾液が唇を伝い艶かしく顎を彩る。けれど、橘先輩は気づいた様子もなくひたすら俺を味わっていた。
どれくらいそうしていただろうか。数十分か一時間か、それ以上か。時間の感覚が曖昧になるほどお互いを緩やかながらも貪りあって、一区切りをつけるように橘先輩は唇を離した。
薄く瞼を降ろした橘先輩は紅潮した頬で熱い吐息を吐き出し、脚を入れ替えると身体を反転させる。
俺の両腿に跨がる体勢になり、手を肩に添えて正面から熱っぽい瞳で覗いてきた。
「んむ……」
今度は橘先輩から唇を重ねられて、蕩けきった表情のまま粘膜の逢瀬が再開される。
「んふぅっ……れ、ぇ……ちゅぱ、ちゅくくく、れろ、ふっ……ちゅくりゅ、ちゅりゅ、れろれろ、ふうぅんっ……」
うっとりとした瞳に見つめられながら口内を貪られていく。舌が蛇のように這いずり、歯の裏側を丹念に味あわれて、舌を吸い付かれながら唾液を啜られていく。
「ちゅぴりゅ、ちゅるるる、んっく……はふぅん、ちゅるるるる、ちゅるるるる……こく、こく、こく、こく……」
嚥下の響きはまるで熱量を表すかのように甘美な音で、喉が鳴る度に橘先輩の甘ったるい香りが濃厚になり脳髄を溶かす。
夢中になっている橘先輩の表情を眺めながら、片手をほっそりとした腰に添え、少しずつ下の方へと滑らせていった。
「んぅっ……?ふ、ぁ……はふ……っ」
小ぶりな桃にたどり着くと不思議そうに橘先輩が震えて、それが快感だと理解すれば恥ずかしそうにしつつも熱のある吐息をこぼす。
口づけを橘先輩の思うままにしてもらって、俺は先輩の桃を楽しもう。なんて考えていたら、蕩けた顔が名残惜しさを隠せないないまま唇を離した。
橘先輩は依然として真っ赤に染まる顔で少しばかり俯き、両手を胸の前で組むと可愛らしくもじもじと弄っている。
「その、眼を瞑ってくれませんか?」
心臓を撃ち抜くような上目遣いに反射的に頷き、眼を閉じた。
しかし、橘先輩は一体なにをするんだろう?
──しゅる、しゅるり、ふさ……。
疑問は衣服の擦れる音と僅かに聞こえる落ちる音でもって答えられて、鋭敏になった鼓膜のせいで思わず生唾を呑んだ。
少しばかり空気が動く気配と布の擦れる音が響いて、空間を支配する静寂は橘先輩の緊張を乗せているのかとさえ錯覚する。
「……眼を開いていいですよ」
「…………おぉ」
許可を貰って視界を開けば、そこには水着姿の橘先輩が立っていた。
ガーベラの花柄を基調にし、フリルがあしらわれたピンクのビキニに、腰から下は太ももの中ほどまでを同色のスカートが覆っていて、晒された日焼けを知らない白磁の肌が輝いている。
「えっと、季節からずれているのは分かってるんですけど……どうです、か?」
腰の後ろで手を組み、恥ずかしそうにしながら内腿を合わせる橘先輩がか細い声で聞いてきた。
答えなんてのはとっくに出ているのだけども。
「他の誰にも見せたくないくらいに似合ってます。それでプールとかにいくのは辞めましょう。道行く野郎の眼を潰さないといけません」
「それはちょっと過激ですけど……そこまで言ってくれるのはすごく嬉しくて、幸せな気分になっちゃいます」
肩にまで火照りの朱さを滲ませ、俺をしっかりと見据えながら幸せそうにはにかむ。そして、くりくりとした瞳が下にずれるとテントを張った下半身を見つけて、大きく見開いた。
「ぁ……私を見て、そうなっちゃったんですか……っ?」
「そりゃあもう。そんなに可愛い姿を俺のために見せてくれたんですから、嫌でも興奮しますよ」
隠しようもないバキバキに隆起した局部に、橘先輩は恥ずかしそうにしながらちらちらと視線を送ってくる。
瞳に宿るのは羞恥心と好奇心、そして熱のこもった期待。
「っ……決して嫌なんかじゃないですけど……ちゃんと優しくリードしてくださいね……?」
こきゅっと喉の鳴る音が響いて、不安と高揚を綯交ぜにした瞳が見つめてくる。
今さら俺が自分の意に反することをするなんて橘先輩は思ってないはずだ。それでも、わざわざ水着まで用意してるのはきっと前の失恋が相当堪えたからなのだろう。
そんな彼女が羞恥心に耐えながらも願ってくるのならば、応えてやらなければ男が廃るというものだ。
「先輩が魅力的過ぎるので優しくは保証できませんけど……後悔なんてさせませんよ、絶対に」
どれだけ言葉が軽く聞こえようとも、明確な意思を持って口にした。信用はすでに預けてもらっている。あとは行動をもって彼女に信頼してもらうだけ。
橘先輩にこの時間を、思いだしたら笑ってしまうくらい楽しんでもらうのだ。
果たして、橘先輩は納得したのか或いは腹を括っていたのか、俺の言葉を吟味するような間を置いて、ゆっくりとこちらに脚を進めてくるのだった。