そもそもcpを競うのに自分たちもcp減らしたら意味ねーだろ。馬鹿なんじゃねえの?ここら辺で作者は考えることやめた。
要するにご都合主義注意。
厳しい寒さの真っ只中。三度目となる合宿形式の特別試験が通達され、各クラスが準備を整える中で異彩を放っているクラスがありました。
「私たちBクラスはこの14人で一つのグループを作るわ。あと一人、誰か入る気のある人がいたら声をかけて」
周囲に聞こえる声を張ったのはBクラスをまとめあげる生徒の一人、猪狩さん。対話の気配を感じさせない声色は試験に臨む姿勢を端的に示しています。
しかし、だからこそ彼女たちの考えに違和感を覚えました。
私たちAクラスとBクラスの差は残りの3ヶ月では覆しようのないほど開ききっています。故にポイントを増やすよりも減らさないことに注視するのは不自然ではありません。
ですが、曲がりなりにも虎視眈々とAクラスの座を狙い、私たちに挑み続けてきた彼女らがここにきて一番の安全策へと舵を切ったのが不可解でなりません。
ルールの特性上、4クラスを混合し互いに監視しあうグループの方が得られるメリットが多い。そしてそのメリットは実質的にローリスクで得られるものです。責任者には退学というペナルティがあるものの、一定のラインさえ下回らなければポイントの減少はあっても退学自体は避けられます。
つまり、ここで一歩引くような厳しいルールではないということです。今までの猪狩さんが率いてきたBクラスなら、間違いなく4クラス混合のグループを作るのが彼女たちの方針だったはず。
なのに何故、リスクを嫌ってリターンを減らすのでしょうか。猪狩さんらの心境が変化するような何かがあった?うーん、なんとも言えませんね。
「どうする、橘?出鼻を挫かれた形になっちゃったけど」
「そうですね……」
一緒に戦ってきた友人に方針を求められてしばし思案します。本来ならBクラスのやり方は私たちがやろうとしていたことでした。今回の試験がクラス同士の勝ち負けではなく、お互いの行動が各々のクラスに反映される以上無理にポイントを狙う必要がないからです。
先手を取られてしまったため、どう動いても猪狩さんの望む結果になってしまうのが少しばかり不安要素でしょうか。
「……」
私や他のクラスメイトが名乗り出るのは簡単です。しかし、急に方針を転換した他クラスに身を置くのは気分がいいものではありませんし、少し怖くもあります。
何よりも、猪狩さんのあの眼。安全策を取った人とは思えない、狙いすました獲物に食らいつこうとする、攻撃的な色を宿した瞳。
もし、猪狩さんらがまだAクラスを諦めていないとして。その上で一番効率的な方法はきっと、私たちの中から退学者を出すこと。例えば今回のルールでは、最下位になったグループの責任者には道連れにする生徒を一人選ぶ権利があります。
けれどそれは退学を取り消す2000万ppと200cpの補填を求められる非現実的で非効率的な手段です。猪狩さんたちにそんなことができる余裕があるとは……。
……いや、南雲くんが手を貸したなら……?
退学を取り消す莫大な資金を自由に使える生徒なんて、きっとあとにも先にも南雲くんしか現れないでしょう。それでいて、最近は堀北くんにも無下にされがちですし、痺れを切らして周りにちょっかいをかけ始める口実としては、なくもないかもしれません。
堀北くんや他の男子は南雲くんの勝負事に関する誠実さを信用しているようですが、私としては首を傾げざるを得ません。信用とは押し付けと妥協から得るものではなく、過程と結果を持って預けられるもののはずですから。
一度あの軽薄な顔がちらつくと段々あり得そうな気がしてきました。判断材料がただの想像しかないのが少し心許ないですけど、何をしてくるか分からないという点では考慮しないといけませんね。
「少しリスクが増えますけど、2クラス以上は受け入れましょう。私たちは同数か多く固まるようにして、代わりに責任者に立候補する。というのはどうですか?」
できるだけBクラスとは距離を置きたい気持ちもありますが、残りの6人はどう受け入れるか考えないといけませんね。
「グループ作りに関して異論はないよ。猪狩のグループについてはどうする?私たちから誰かいこうか?」
「いえ。CクラスかDクラスの人たちに頼みましょう。あのグループに入るのは少し不安がありますから」
そう言ってクラスメイトを見渡すと、互いに視線を合わせながら最終的に私に返ってきて肯定的に頷いてくれました。
方針が決まり数人が他クラスに声をかけにいく後ろ姿を、少しばかりの安堵の息を吐きながら眺めます。
「それにしても……」
「……はい?なんですか?」
隣に立つ友人にじろじろと不思議そうに眺められて首を傾げました。どこか変なのでしょうか。見慣れたジャージ姿のはずですけど。
「いやー、最近頼もしくなったなって思ってさ。橘っていつも空回ってるとこが目立ってたし、少しでも予想から外れると慌ててたじゃん?」
「うぐっ……」
直球で投げられた言葉がぐさりと胸に刺さりました。ひ、否定できないのが苦しいです……。
「堀北にも目をくれなくなったし、すっぱり切り替えれてるとこ見ても長い付き合いだから少し心配だったんだよねー」
気遣ってくれるのはとても有難いんですけど……。
「私ってそんなに分かりやすいですか?」
「女子がそういう話題に敏感なのを加味しても、橘は顔に書いてあるからね。隠しても無駄無駄」
そ、そこまでですか……。多少の自覚はありましたけど、きっぱり口に出されるのはちょっと胸にくるものがありますね。
一番付き合いの長い堀北くんは全く読み取ってくれませんでしたが、柊くんは逆に察しがよすぎて先回りされるんですよね。どうしてこう、丁度いい感じの人がいないんでしょうか。
「二年以上も一途に追っかけてたのに心変わりできた理由はなに~?もしかして別の男でもできた?」
「……」
流石に失礼では?と半目を向けても羨ましいくらい長い指で頬を弄ばれるだけです。
頬を押し込まれる感覚に、柊くんの指とは全然違うなあなんてふと思ってしまいました。まだ、ちゅーだけとはいえ、彼も結構スキンシップが好きですしちゃんと気を遣ってくれてるんですねえ。
……心の準備にはまだ時間がかかりますけど、彼の手の大きさと、唇に残る温もりはずっと私を暖めてくれます。柊くんへの愛情は増えていくばかりなのに、心は静かに波を起こす水面のように凪いでいて、顔を思い出す度に胸の奥が暖かくなる。
堀北くんに抱いていた恋とは真逆といっていい心情ですが、柊くんに向ける恋もまた本物なのだと胸を張って言えます。
……帰ったらすぐにでもぎゅーしたいです。頭も撫でてもらって、たくさんちゅーしてもらって……えへへ。
「……え、冗談のつもりだったんだけどマジで?」
「はっ」
横からこぼれる声で我に返り、慌てて友人の顔を見ると驚きを隠せない様子で瞠目していました。ぽかんとした顔を一変させ、人の悪い意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あんなに一途な橘が惚れる相手かー。誰なん?私に教えてみ?」
「も、黙秘権を行使します……!」
手をわきわきとさせながら迫る彼女の前に腕でバツ印を作って抵抗を示します。
相手が相手なので進んで明かそうと思いませんし、そもそも惚気話しと言われるものも得意ではありません。残り少ない高校生活で私の心配に時間を使わせるのも悪いですし。気にかけてくれるのは有難いですけれどね。
「もう、関係ないこと言ってないでちゃんと特別試験に臨みますよ。お話しできるようになったら教えてあげますから」
少しずつ人が戻ってきそうな気配を感じて意識を切り替えるように水を向ければ、肩をすくめながらも一旦引いてくれましたが諦めていないのは明白でした。
うむむ、悪い人ではないんですけど、下世話な話に食い付きがちというのがちょっと苦手なんですよね。気遣いの裏返しなのは分かっているんですが。
柊くんのことを教えるのもあまり気が進みません。彼の手の早さは女の子の間では有名ですし、余計な心配をかけてしまいます。
特別試験をこなしていれば忘れてくれる、というのは希望的観測ですよね……すごく軽率なこと言ってしまった気がします。
……いえ、今は目の前のことに集中しないと。柊くんとのことは、特別試験を無事に終わらせないと進みませんから。ちゃんと私の方から彼のもとに向かうためにも、気をぬかず、けれど気を張りすぎず臨むことにしましょう。
柊くんの前では、胸を張れる私でありたいですから。
「……よし」
自分の頬をぐにぐにと力強くこねくりまわして渇を入れる。不安も考えないといけないこともいっぱいだけど、彼の温もりを思い出せば不思議と思考が回ります。
いつも頼ってばっかりの堀北くんがいない状況で新しい自分を確かめるために、私は一歩前に踏み出すのでした。