※この作品はR-18です。

よう実のヒロインを好き勝手に抱く話   作:ぼっちプレイヤー

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櫛田桔梗 1

 

 「抱いて」

 

 「自暴自棄にでもなったか?」

 

 頭の悪い特別試験を挟んでやってきた土曜日に俺の都合も考えず押しかけてきたのは、承認欲求の塊でストレスが弱点とかいう生きるのが大変そうな櫛田桔梗だった。

 部屋の前にいる櫛田は今までのような明るい雰囲気は霧散していて覇気がなく、綺麗だった亜麻色の髪も艶を失って乱れている。肌も荒れてはいないものの血色がいいとはいえず、顔色はもはや病人一歩手前だ。俺を貫く瞳はひたすらに鋭く、しかしどんよりと重苦しい。

 

 俺は確かに女の子が好きだし肌を重ねる瞬間はそれはそれは夢中になるが、だからといってどうみても病院の方がお似合いの女性に手を出すほど飢えていないのだが。 

 

 「あんたが私を助けた理由なんて身体目当て以外にないでしょ。先延ばしにされる前にさっさとヤらせてあげるって言ってんの」

 

 「お前を助けたつもりはないんだが?言っただろ。他人に値段のレッテルを貼るのは俺の主義に反する。それだけだ。あの立場にいるのが誰であろうと俺は同じことをしたぞ」

 

 「っっ!!」

 

 勿論、櫛田のプロポーションは非常に魅力的だ。顔立ちは小動物のように可愛いらしく、くりくりとした大きな瞳は比護欲をそそられる。小柄な身体つきは出ているとこは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる、男の本能を刺激するには過剰とも言える瑞々しい肢体。並みの男なら涎ものだろう。

 

 だがそれ目当てと言われたら首を振らざるを得ない。既に俺の寂しさを埋めてくれる女の子は充分いる。

 

 「それにメリットデメリットで女を抱くほどつまらんことはないからな。乗り気じゃない女の子を無理矢理するのも俺の主義に反する」

 

 感情の大小はあれど、お互いに通じ合ってるからこそセックスは最高のスキンシップになるんだ。快楽を求めるだけなら自家発電で済ませた方が楽だし効率もいい。性行為に効率を求めるのもあれだが。

 しかし、人を信用できない櫛田は当然納得できなかったらしい。

 

 「……じゃあなんで助けるようなことしたの!?地位も本性も暴かれてあんな無様でっ、みっともない姿にされてっ!あのままいなくなってた方が──」

  

 暴れそうになる櫛田に顔を寄せて、その小さな唇にそっと人差し指を押しつける。予想外の行動に彼女は目を見開いて、怒りで顔を赤くしたまま静まった。至近距離で涙を浮かべる瞳を穏やかに見つめ続けると、その中にある発火した感情がゆっくりと萎んでいく。

 

 やがて落ち着きを取り戻した櫛田から指を離して、中に入れるように入り口を大きく開いた。正直そのつもりは全くないが、このままにするのも気が引ける。依存させてしまうのも考えものなんだよな。

 

 「上がれよ。中でならいくらでも聞いてやる」

 

 返答を待たず一歩部屋の方に身を引けば、櫛田は逡巡しているのか微動だにしない。しかし、唇を抑えるために伸ばした腕を反射的に掴んだ小さな手は繋がれたままで、彼女の弱り具合を表している。

 

 部屋の中の時計の音が聞こえるくらい静かな時間を経て、櫛田はゆっくりと前に脚を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこ座ってろ」

 

 「……何してんのよ」

 

 「その顔だ、どうせろくなもん食ってねえんだろ?腹ごなしが先だ」

 

 「いらない。食欲なんてあるわけないでしょ」

 

 「だろうな。それでも食え。腹が減ってる時に喋ってもまともな会話にならん。今の櫛田ならなおさらだ」

 

 冷蔵庫から小さめの鍋を取り出し火をかけて、一緒に手にしていた卵をお椀に割って入れる。普段よりも薄めの味付けにした溶き卵を暖めていたフライパンに流して形を整えていく。

 

 「勝手にすれば。何だされても食べないから」

 

 「言ってろ」

 

 櫛田から見える位置で手を動かし卵をひっくり返していく。ひっくり返したら端に寄せて溶き卵を流し、またひっくり返す。それを数回続ければ立派な卵焼きの出来上がりだ。うむ、我ながらいいできだ。

 温めていた味噌汁をお椀に注いで、綺麗な長方形の卵焼きを平たい皿に乗せる。あとは箸を2膳用意して櫛田の正面にある机に置いた。

 

 卵の焼けた優しい匂いと、気分を落ち着かせる味噌汁の香りが部屋に立ち上って程よく鼻腔を擽る。櫛田は一度視線を寄こして興味がないようにすぐに逸らした。

 しかし、身体は空腹を隠しきれないのか、或いは今空腹だと気づいたのか可愛いらしい虫を鳴かせてしまう。

 

 「……」

 

 彼女の状況を考えれば当然の反応だと言えるし、ここで指摘するのは悪手だ。何も言わず味噌汁を口にして、卵焼きを割って放り込む。悪くない味だがやはりこれだけだと物足りないな、白米が欲しくなる。

 

 俺が無言で食べ進めるのを眺めていた櫛田だったが、食欲の方が勝ったのかゆっくりと箸をもち卵焼きを掴むとその口へと運んだ。何かを確かめるように咀嚼し、こくりと飲み込む。そしてそのまま味噌汁を手に持つと、熱さに怯えるように唇を近づけお椀を傾ける。

 味噌汁で喉を潤し、傾けたお椀を元の位置に戻した櫛田は顔を俯かせた。

 

 「……なんで、こんな美味しいのよ。ほんとにっ、ムカつく奴……っ」

 

 「場数が違うんだよ場数が。つっても暇人の娯楽だけどな」

 

 泣くほど美味しかった、なんてことはなく久しぶりに感じた味とその暖かさが涙腺を刺激しただけである。腹の虫と同様、指摘するのは野暮だろう。ま、美味いと言われたら悪い気はしない。

 

 「にやけんなバカっ!」

 

 「誤解だ。櫛田が美味いって言ってくれたのが嬉しいだけだよ。今のお前を笑うほど鬼畜じゃない」

 

 「うるさいっ。そもそもあんたの所為なのにっ」

 

 酷い責任転嫁である。一から十まで全部こいつの自業自得だというのに。まぁ、それで多少気が済むのなら受け止めてやるのも器量というやつだろう。ここで正論かますやつは器が小さい。

 

 ぐずりながら箸を進める櫛田は時間はかかったものの空にしたようで、それを台所に放り込んだら机を挟んで櫛田の正面に陣取る。食事をしたことで少し血色が良くなり活気の戻った顔はその瞳に涙のあとをつけている。

 

 「で、他に言いたいことあるか?もう隠す必要性ないんだしこの際だから全部ぶちまけた方が楽だと思うぞ。ストレス発散だと思ってやればいい」

 

 「……」

 

 訪れた時にあった猜疑の瞳は悪意を探るようなものから純粋な疑問に答えを求めているように見えた。

 意を決したのか、答えを得ることの方が大事だったのか彼女が口を開く。

 

 「なんで私の本性を知ってたくせに、バラしたりネタにしてゆすったりしなかったのよ。あんたなら上手く使って自分のために色々できたはず。なんでよ」

 

 「そんなことが気になるのか?単純にメリットがないからだ。あとお前のことそこそこ好きだし」

 

 「……あんたが好きなのは!へらへら笑っていい顔してる方の私でしょ!今、この私を見て同じことが言えんの!?」

 

 「言える。どっちの櫛田も人間味があって好きだよ、俺は」

 

 「っっ」

 

 まさか即答されるとは思ってなかったのか櫛田の目が大きく見開く。そんなに驚くことか?特別試験の時も言っただろうに。

 

 「櫛田が他人を見下して利用する自分自身をどう思ってるかは知らんけど、その考え方は割りと普通のことだし誰だって多かれ少なかれそうだぞ。お前は普段との二面性のギャップが大きいから酷く見えるだけで、ごく一般的な思考だ」

 

 「普通な訳ないじゃん……ならなんで特別試験の時にあんな荒れたのよ」

 

 「馬鹿しかいないからだ」

 

 「……」

 

 二回目の即答に櫛田が押し黙る。

 

 「あの教室にいるやつ全員、自分は良い人間だって勝手に思ってんだよ。出来た人間である自分は理由なく騙されていいはずかないって、利用されていいはずがないってなんの疑いもなく思ってやがる。だから都合の悪いことが起きると騙されたと思うし、利用されたら責任転嫁するんだ。入学してから成長してないんだよ、あそこにいる殆どのやつが」

 

 例外は堀北と波瑠加、あとは平田くらいか。入学してから成長できているのは。他の奴らの努力は認めるし尊敬もしてる。けど、成長できているかと言われれば首を横に振らざるを得ない。

 

 「確かに櫛田は明確な意志を持って騙したし、悪意を持って秘密をばらまいた。それは責められても仕方ない。でもな、俺から言わせれば騙されたやつが悪いし、利用された奴が悪い。クラスの連中は笑顔で近づいてくる人間は良い人だってあの時まで思ってたんだよ。笑顔は詐欺師の基本装備だってのにな」

 

 あそこにいる殆どの連中は入学してからあの日に至るまで、櫛田のことを疑いもしなかった。そして考えもしなかったのだ。櫛田桔梗が良い人である理由を。それがどれだけ危険な思考か、入学して一ヶ月で分からされたはずなのに。

 

 「俺は最初から疑ってたし櫛田の二面性にも気づいてた。その上で両方とも個人的に好みのタイプだったから眺めていた。それが全部だ」

 

 他人を見下しているのに他人に執着せずにはいられず、しかも自分から関わりにいってるくせに、小さなことが重なってストレスを抱え込む。それでいて無駄に攻撃的だから手に入れた秘密を爆弾にする。

 

 うーん、字面にすると本当にドクソメンヘラ女だな。なんだこの面倒くさい性格のハッピーセットは。まぁ、こんなのがタイプの俺も人のこと言えんのかもしれんが。

 

 「無理に信じる必要はねえけど、俺はその二面性が人間らしくて好きなんだよ。理由のない善意よりよっぽど信用できるし、信じていいか考えさせてくれるからな」

 

 逆に帆波みたいなタイプは良いとは言えん。人を信じ過ぎているし、相手に信じていいか考えさせてくれないから。打算があった方が思考が回るし、思考が回ればより人を知ることになる。それが信用であり信頼なのだ。

 だが、帆波には一生あのままでいてほしいのもあるのが、ままならないところだな。

 

 「……うそよ、そんなわけないっ、こんな私を受け入れるやつが、いるわけないんだからっ」

 

 受け入れられないような、或いは現実から眼を背けるような櫛田はどこか真に迫っているように見えた。あぁ、人間不信にはトラウマか実体験があるパターンか。だから攻撃性も高くなってるのかもしれん。ただし、俺の好みを勝手に否定されても困るんだよな。

 

 「人の好みにケチつけんなよ……櫛田は本当に変なとこで自己評価低いよな。お前を受け入れられない人間なんてその程度の人間でしかないんだから、そんな奴は搾り取るだけ搾り取って捨てりゃあいいんだよ。得意だろ?そういうの」

 

 「あんただって、捨てるかもしれないのにっ……?」

 

 「その時は俺が釣り合ってなかったか、櫛田のお眼鏡に叶わなかった、それだけだ。それに、俺は女の子の嘘とか悪意くらい笑って受け止めてやるのが男の度量だと思ってるからな。利用するだけ利用して、飽きたら捨てればいいさ。そんな身勝手さも含めて女の子の魅力なんだよ」

 

 「信じられるわけないじゃん……柊も私のこと、どうせ他の奴みたいになるに決まってる」

 

 「くくくくっ……」

 

 「なに、笑ってんのよ」

 

 「いや、面白いことをいうもんだなって思ってな。俺よりも人間性が終わってる奴なんているわけないだろ?櫛田が自分にあると思ってる醜さは全部俺以下なんだよ。そんなのがわかった所でお前のこと見限るわけないだろうに」

 

 俺の人間性が終わってることなんてもはや周知の事実であるのに、何故そんな心配をしてしまうのか。無用すぎる心配だ。

 

 「っっ……ありえないっ、ほんとにっクズっ、そんなことでっ、胸張るとか意味わかんないっ……女の敵っ、カスっ」

 

 「魅力的な女の子が沢山いるのが悪い。勿論、櫛田を含めてな」

 

 「しねっ!」

 

 俺がどういう人間が思い出した櫛田は可能な限りの罵詈雑言を吐きながら大粒の涙をあふれさせ、感情の濁流を洗い流していく。喉をしゃくりあげながら泣いているというのに、むしろ元気になりそうでさえある櫛田を俺は自然な笑みを浮かべて寄り添っていた。

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