大雨によって増水し、激流になった大滝の打ち水の音が周囲に木霊する。
狙い通りイシの大滝にルーラで飛んでこれたみたいだ。ゲームではユグノアから流れ着いてここに来たからテオはまだ居ないし雨も降りしきっている。エレノアママとマルティナの二人は魔物に襲われて極限状態に襲われていたせいで酷く疲れ切っていたからラリホーで眠らせて置いた。
「(取り敢えず、テオが俺たちを拾ってくれるまで待つか。意思疎通は俺がテレパシーでやるとしよう。若い頃はトレジャーハンターをしていたらしいし驚かれても勇者の痣を見せれば納得してもらえるだろう)」
そう楽観的に希望的観測を考えながら雨に近くの木陰に寄って雨を避け、2人の雨に濡れた身体をメラを使って暖を取りながら夜が開けるのを寝て待った。
ーーチュンチュン
一夜が過ぎ小鳥の囀りを目覚ましに目が覚める。怒涛の一日過ぎて忘れていたが俺はまだ生後1日の赤ちゃんの筈なのに働きすぎではないか?両目を閉じ自分の身体に意識を向けると手足の感覚もまだ朧気でやはりチート能力が無ければ昨日を乗り越えることは出来なかったのだと深く感じる。
その他にも昨日の魔物を倒して得た経験値でレベルが上がったことで増えた暖かい魔力の存在も感じ取れた。前世では感じれなかったもの故に少し不思議な感覚だ。
そこまで気付くと更に他の力にも勘づく。それは神力と呼ばれるものでチート能力を行使する際に必要となる力の源だ。魔力と比べると圧倒的にこの神力の存在がより濃く膨大に感じられた。
そこまでで自分の現状確認を済ませ、目を開ける。エレノアママとマルティナはまだお互いによりかかり木を背にして微睡みの中にいるようだ。
「(まだテオは来ないようだし先に二人を起こして現状説明するか。)」
「ん... ここは、 どこでしょう? イレブンとマルティナも起きたのね。」
「んン、 ふぁ〜」
ザメハの呪文を唱えるとふたりが起きだす。
エレノアママは周囲を見渡し困惑しているが俺とマルティナを見つけると安堵の表情を浮かべる。マルティナはまだぼんやりとしているようだ。
取り敢えず、テレパシーを使って事の顛末を2人の脳に直接話しかけ、ラリホーとメダパニも活用して唱えて夢の中で映像も交えて説明する。
「そう、
「お父様が... 魔王に乗り移られて、アーウィン様も....」
俺がルーラで運んだこと、アーウィンが死んだこと、又、それが魔王が入り込んだデルカダール王の手によることだと説明された2人の反応は、どちらも悲しみに目に涙を濡らしていた。当然だろう、エレノアママは伴侶を失いマルティナも父親が魔物に操られたのだから。
しかし、
「しかしデルカダール王に乗り移った魔王の存在。 あれが、
「ッ許せない! 絶対に、 私がお父様を助けてみせる!ふぅ...ただ、私にはまだ力も何もかも足りない。 それに、魔王を討つなら勇者であるイレブンの力も借りる必要があるわ。」
エレノアママはすぐに伴侶の死を飲み込み、魔王の脅威と勇者の定め、自身の務めについて考え始めたていた。
そしてマルティナは、激情に感情を乗せられて復讐に身を燃やしていた。ただ、それは危ない雰囲気を醸すものではなくしっかりと現実を理解したものだった。
二人の持つ心がこんなにも強いとは思わなかった。エレノアママならば現実を受け入れ前を向くことも出来るだろうと思っていたが、マルティナがここまでしっかりと前を向けれるとは思わなかった。
「(マルティナやエレノアママがこれで少しでも塞ぎ込むような事態になるようなら催眠で強制的に精神を安定させようと思ったけどこの分なら必要なさそうだな。)」
そんな感じで情報の共有が終わったので辺りを見回すとちょうど奥の方から人影がこちらに向かってくるのが見えた。
「ふむ、この辺りに人が居るとは珍しいのう。それも気品の良いお嬢さん方が2人に赤ん坊も居るとは。
・・・ なんと!その首にかけられている首飾りは もしや」
ベストなタイミングで現れたのはずっと待っていたテオおじである。
こちらの一番年長者であるエレノアママが返事を返す。
「ご慧眼の通り私はユグノア王家のもの。見たところただの村人とお見受けしますが、 よくご存知ですね。」
「えぇ、昔はトレジャーハンターなんてものをやってましてねぇ。ユグノアもその時に訪れたことがありまして。」
「なるほど」
「ところで、斯様なお方が何故こんな辺鄙な場所に?ここは ユグノアとも遠く離れたデルカダールの中でも田舎も田舎の方ですが」
テオの当然の質問にエレノアママが答えようとしたけど、ここからは俺が代わって話させてもらおう。
「(ここからは代わりに俺が説明させてもらう。)」
「っ!頭の中に急に声が」
「(驚かしてしまって済まない。俺はイレブン。目の前にいる赤ん坊だ。)」
「なっ、 これをこの赤子が?」
案の定疑心的な目でこちらを見てくるテオ。いちいち反応するのも手間だしさっき2人にした要領でテオにもこちらの状況を理解させる。
「ふむ にわかには信じ難いが、あのユグノア王国が魔物に滅ぼされたというのか。そしてこの赤子が伝説の勇者じゃと。たしかにその痣は勇者の紋章....」
「信じられないかもしれないけれど、ほんとうだよ!私たちはイレブンに助けられてここまで逃げてきたの」
マルティナの訴えと俺の痣の存在もあり、テオはこちらの話を一応信じてくれたみたいだ。後は俺たちをイシの村で匿ってくれないか相談してみる。
「ユグノアが堕ち、デルカダールも魔物の手によって堕ちつつあると言うならば行き場所もないでしょう。うむ 勿論いいでしょう。どうぞうちの村にお越しください。村長にはわしの方から一言話しておきます。案内するのでこちらへどうぞ」
イシの村の人々はみな優しく、何よりテオの影響力もあって快く俺たちを村のみんなは受け入れてくれた。
そして、村の集落から少し離れた神の岩へと続く道にあるあまり使われてなかった大きめの納屋を家として自由に使わせてもらえるようになった。
ベッドなどの家具も数日のうちに整えてもらえるらしく、その間はテオとペルラの家に居候させて貰った。
こうしてようやく、本当に腰を落ち着けて16年後の旅立ちの日までゆっくりと過ごせるようになった。