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確かにそのとき、おしりを触られたような感覚があった。それは錯覚とか自意識過剰とかではなく、確かにお尻に触れられた、そんな実感があるものだった。
……いや、でも流石に、ねぇ?
ほら、ここって女性専用車両で、男の人は乗っていないわけだし。……いや、でも女性専用車両ってそういう風に区切られているだけで、一応男の人も乗ることはできるんだっけ。わからない、でもそういった動画を結構前に見たことがあるような気がする。
そんなことを思って私は周囲を警戒するように視線をやってみる。
けれど、やはり女性専用車両というだけあって、後ろには疎らにしか人がいないし、そして私の背後に立っているのは黒いスーツを来ている大人びたOLっぽい女性だけ。
いや、まあそうだよね。
この前痴漢をされた、ということで警戒する気持ちが強くなってきてしまっているのかもしれない。確かにお尻を触られたような気がしたけれど、後ろにはOLさんしかいないし、まさか触られるわけがない。
うん、大丈夫。ここに男の人はいないし。
そんな気持ちに私は切り替えて、それからまたスマートフォンの操作を開始する。友人に送るべきメッセージなんかを考えてみて、それから夕方の予定とか、友人とどのように過ごそうかな、とかそういうことを想像して画面をタップする──。
──さわ、さわ。
「──……っ」
──途端にやってくるくすぐったさ。背中に鳥肌を覚えさせるような、そんな身体の一部を、お尻を重点的に、優しくまさぐってくる感触。
い、いや。そんなはずはない。今確かに見たもん。確かに見て、そして後ろには女の人しかいなかったし、男の人はいない。だから、私の身体を触ろうとする人はいない。
私は懸命にそう考えながら、何も気づかないふりをしてスマホを触り続ける。ただ、画面には触れるだけで操作らしいことは何もできていないのだけれど。
──さわ、さわ。
──でも、やっぱりそれは行われている。私のお尻、確かに触られてる。
手のひらでさするように、もしくは指先でつん、つんと弾くように。私のお尻の感触を味わうように、スカートの上から撫ぜられている感覚が止まらない。
「え、えっ……」
こうなったら流石にもう誤魔化せない。どれだけ意識を逸らしてそれを錯覚だと思うようにしても、それでも実際にお尻に触れられているのだから。
え、えっと、とりあえず、どうすればいいんだろう。
そっと視線を後ろにやってみる。
……やっぱり後ろにはOLさんしかいない。少し身長が高めの、クールな感じのお姉さん。ウルフカットっていうのかな、なんというか髪が短めというか、少しボーイッシュのようにも感じる人が後ろに立ってる。
……ええと、じゃあ、あれ。あれなのかな。これ、私のお尻を触っているの、このOLさんなのかな。というか、それしかないよね。後ろに立ってるのこの人しかいないもんね。
女性専用車両にそんなに人はいない。空席もまだあるし、いちいち立っている人なんてそこまでいない。その上で私のお尻を触ることができる人なんて、やっぱりこの人しかいなくて。
──さわ、さわ。……しゅるるる。
「──えっ……?」
──そうして、先ほどまではスカートの上からだけでなぞる感触が、スカートの内側に、そして私の下着の中にまで入ってくる。
──すり、すり。すり、すり。
お尻の割れ目をなぞるように、指がそこを這うようにしてくる。
「──ひゃっ、ぎゅっ……」
──辛うじてそれは割れ目の表面をなぞるだけで、それ以外のことはしてこない。それでも、人に触られたことのない部分を、他人によって触れられる感覚には慣れていなくて、私は声を堪えることしかできない。
なんで、なんで、なんで?
ここ、女性専用車両だよ? ここ、女の人しかいないんだよ? 私の身体に触っても面白くないよ? お、男の人ならそういう人もいるのかなってそう思うけれど、でも、でも──。
──すり、すり。……にゅり、にゅり。
「──っ」
そうして、指はお尻の穴へと近づいてくる。
お尻の穴に近づいて、それからその入り口をくすぐるように、周囲の肉を回してくる。直接指を入れるようなことはしなくて、ただその部分の感触を楽しむように。
そ、そこお尻の穴だよ? そんなとこ触っても汚いだけじゃないの……?
そう誰かに、後ろの人に伝えたい気持ち。
でも、それを言葉にする勇気はない。言葉にしてしまえば、それだけで周囲の人に私が後ろの誰かさんにおしりを触られていることがばれてしまうから。
やだ、やだやだ。こういうことをされたくないからこっちの車両に来たのに、それなのになんで、なんで。
もうスマホをいじる余裕はない。誰かに助けを求めたい気持ちはあるけれど、他に女の人しかいないこの状況で誰に助けを求めればいいのだろう。
私はスマホを握りしめたまま、その手の甲を口元までもっていく。
お尻の穴の周囲をまさぐられて、よくわからない感覚。不快感というか、なんというかも表現し難い感覚。痛くはない、気持ちよくもない、異物感があるような、それでもわからない、わからない感覚。それに声を出しそうになってしまうから。
「──えらいね」
──そう、後ろから女の人の声が聞こえた。