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ぞわり、と背中をなぞられるような感触。でもそれは物理的に触れられたとかそういうわけじゃなくて、声だけで背中に鳥肌を覚えるような、そんな感覚。それは声に生理的な気持ち悪さを抱いたとかでもなく、単にくすぐったさを反芻するような。でも、それはそれとして耳馴染みするような、すごくきれいな声というか。わかんないけど、そんな感じを私は覚えた。
私はその声にびくんと身体を弾ませてしまう。まさか声を掛けられるだなんて思ってもいなかった。
え、えっと、今、なんて言ったんだろ、この人。えらいね、ってそう声をかけてきたんだっけ。
な、なにが偉いの? ……というか、本当に痴漢されちゃってるのかよ私。ここまできて流石に勘違いだとは思わないけれど、それでも実際にそう言った行為をされてしまっている、という実感は、これまでに感じた焦燥感をより大きくさせてしまう。
……あとあれだ、この場合痴漢って言うのかな。痴漢の漢って男の人を表すやつだよね。だから、この場合は痴女……? ……いや、そんなことはどうでもいい。
私はそう声をかけてきた女性に反応して、そのまま後ろを向く。やはりそこには背の少し高いOLっぽい感じの人が立っている。
その女性は口元に指を持ってきて、子どもに教えるように「しーっ」と小声で音を出す。それがどこか悪戯っぽく感じたけれど、それはそれとして何を言っているんだこの人は、という気持ちの方が強かった。
「あ、あの──」
「──声、出しちゃっていいの? ……みんなにバレちゃうよ?」
「──あっ」
OLさんの言葉で私は押し黙ってしまう。そ、そうだ。私がここで声を出して助けを求めたら、この人に痴漢、……じゃなくて、痴女されていることが周囲の人にバレてしまう。
「……ふふ」
私が声に出せないでいると、OLさんは微笑を浮かべる。まるで舌なめずりでもしそうな雰囲気。彼女自身の口元に運ばれていたジェスチャーのための指は、そうしてOLさんの口の中に入って、……入ってていうか、本当に舌なめずりっていうのかな、ともかくその指を撫でて、また私の下腹部へ──。
「──んっ」
──入ってくる。それも、さっきみたいにお尻の穴の近くに。下着の中に手を入れて、それですぐに触ってほしくない場所に指を運ばれてしまう。
「うん、いい子だね。そうだよ、声出したら、あなたがお尻で感じちゃう子だってバレちゃうからね。変態さんだってみんなに知られちゃうから、静かにしないと」
「なっ──」
か、感じてない。感じてないです。
そう声に出したい気持ちはあるけれど、それでも私が誰かに身体を弄ばれている事実がバレることはわかっているから、やっぱり声は出せない。
「──ん、ふっ」
──にゅりにゅり、にゅりにゅり。
さっきOLさんの指を見たからわかる。今私、唾液をお尻の穴に塗られてる。な、なんで? なんでこんなことするの? 意味わかんない、何が楽しいの──。
──ず、にゅ、にゅ、にゅ。
「────!!」
「──あ、入っちゃったっ」
──どうしようもない異物感覚。
感じたことのない圧迫感というか、受け入れられない感触というか。なんかこれよくわかんないけど、なんか苦しいというか。
「い、痛い、です……」
声は出したくなかった。出したくなかったけれど、あまりにも慣れない衝撃が身体の中にあるから、それを言葉にしてOLさんに伝える。それは暗にやめてください、という気持ちも含んでいたけれど、それでも指は止まることがない。
……どころか。
「──じゃ、前の方も……」
「──ふぇ? ──んぁっ」
──声が漏れる。
──さわさわ、さわさわ。
今私、OLさんに抱きしめられてる。なんか抱きしめられてるというか、なんというか。いや、Olさんの右手がお尻にあって、左手が私の、その、あ、アソコに伸びているというか。
お尻は直接触れられているけれど、一応前の方は下着の上から触られてる。だから、妙なくすぐったさというか、少しだけ熱がともるような、そんな感覚だけがある気がする。……というか一応ってなんだよ。これから前も直接的に触られるみたいな言い方じゃんか。
と、というか、他の人は気が付かないの?
これ、あからさまに不自然な体勢だよ? 満員電車とかならともかく、この車両、それに比べて人が少ないんだからさ、こんな抱きしめるというか密着することなんてないじゃん!
そう懇願する気持ちで周囲の方に視線をやるけれど、……ダメ。みんな携帯とか本とか、化粧とかに夢中で、こっちの方に視線なんて向けやしない。
う、うう。なんだよぉ、なんだよこれぇ。
痴漢が怖いからこっちの車両に来たのに、なんで私、ここでも痴漢というか痴女されなきゃいけないの?
──さわ、さわ。……しゅるしゅる。
「あっ、──んんん」
や、やっぱり前の方も手が入ってきた。下着の中、直接私のアソコを触ることを目的とするように。
すっごくビラのところを指でなぞられてる。でも、直接触られてはいるけれど、それでもさわさわ、さわさわって羽根で触ってくるみたいな感じで、なんか嫌だ。
──にゅり、にゅり。にゅり、にゅり。
そして、一瞬だけ忘れてしまいそうになる異物感。
前の方に意識を持っていかれたからわからなかったけれど、でもまだ、というかずっとお尻の穴の方も、入り口の部分に指を入れられて触られ続けてる。
や、やだ。なにこれ、本当にやだ。
──さわ、さわ。
──にゅり、にゅり。
「んっ──」
だめ、声が出てしまいそうになる。私はスマートフォンを持っている手で口を押えながら、何とか声と音を出さないようにしてみる。
それでも身体になぞる感触が消えるわけじゃない。
ひたすらお尻の穴をねちねちといじめる指の感触。ひたすらもどかしいようにアソコを羽根で触れられるような感触。
……いや、もどかしいって何だし。全然、そんなもどかしさなんて感じてないけどね。
心の中で変に強がってみるけれど、そんなことを考えているのも小恥ずかしいし、それで他の人にこの光景を見られたら、バレてしまったら、という気持ちもある。
誰かに助けを求めたい。運良くこちらに視線を向けてくれる人がいれば助けてほしい。でも、それだとOLさんに変な子とされているのがバレちゃう。男の人ならまだしも、女の人に変なことされた、なんてバレるの、なんかすごく嫌だ。
だから見てほしい、見てほしくないの気持ちがせめぎ合ってしまう。結局それで、早く最寄り駅までついてくれ、っていう風に祈るんだけど──。
──にゅりゅりゅりゅ。
「────っっ」
──ようやく、指が入ってくれた。
……違う、違うでしょ。ようやくって何。違うじゃん。今私痴漢というか、痴女されてるんだよ。そんな、期待していたみたいなこと、思ってるわけないじゃん──。
──ぐにゅり、ぐにゅり。
「──ぁあっ」
──息が漏れる。
いつも自分で触っている部分が指で触れられる。いつも自分が好きなポイントを的確に人の手で、知らない誰かの手でかき混ぜられる。思わず声を漏らして、押さえていた手を離してしまった。
「──気持ちいいんだ?」
「──ッ」
違う、違う違う違う。気持ちいいわけがない、人に触られて、それで気持ちよく感じるわけがない、何を言っているのこの人、やっぱり頭が可笑しい人だ。そうだ、そうだよ、だって私をいきなり痴漢してるんだもん、女の人なのに痴漢してきてるんだもん、そりゃおかしい──。
──ぐにゅり、ぐにゅり。
──にゅり、にゅり。
「────」
──なに、これ。
さっきまで異物としか感じられなかったお尻の感触が、途端に熱を持ったようにその指を受け入れてる。まるで自分のものではないように、それははっきりと快楽を連動させるような──。
──ぐにゅうり、ぐにゅうり。
──にゅり、にゅり。にゅりにゅりにゅりにゅり──。
──お尻の中にある指の動きが早くなる。そして前に入れられている指も、いつも触っている部分を大きく引っ掻くように指の腹で押してくる。
────待って、まってほしい。
「──ま、待って」
いやだ、いやだいやだいやだ。これで、これでイきたくない。イくとかないと思っていたのに、直前に迫ってきているその快楽の波に、私は辛うじて保っている意識でOLさんに声をかける。
やだ、やだ。なんで、なんで電車の中でイかなきゃ、イかされなきゃいけないの。やだ、やだ──。
「──待たないよ」
くすくす、と笑う小声。
──ぐにゅぐにゅぐにゅ。
──にゅりにゅりにゅり。
速くなる指。的確に私に気持ちよさを刻み付けるように。
「あ、ぁ、ぁっ──」
やだ、やだ。も、もうすぐ駅につくのに。もう解放されるのに──。
「んッ、……っ────」
──それでも、私はイかされてしまった。
──頭に走る電流の渦のような感覚。お尻に感じる異物ではない熱っぽい感触。ぐりぐりぐり、と膣内を指でかき混ぜられる感覚。
──ぷしゅ、ぷしゅ。
下着の中で、私の快楽の形がはぜる。暖かい感触、それでも濡れてしまっているそれに不快感を覚える何か。
ぼうっとする意識。ちょっと頭が真っ白になる。
聞こえてくるアナウンス、最寄り駅、お出口は右側らしい。
「────」
「──うん、えらいね。よくできましたっ」
私はその声に力を失くして、目の前で開く扉を呆然と見つめた。