丈が意を決して振り返ったその先に待っていたのは――。
「――なーんてね! 何か期待した?」
そこには、ゆったりとした部屋着のTシャツとショートパンツに着替えた、いつもの星街すいせいが立っていた。
彼女は腕を組み、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて丈を見下ろしている。
完全に一杯食わされた。
丈は一瞬呆気にとられ、自分の早とちりと、彼女の演出の上手さに脱帽した。
「……やられましたね。完全に、想像力を利用されました」
「あはは! アンタの背中、ガチガチで面白かったよー!」
すいせいはケラケラと笑う。
勝負あり。このラウンドは彼女の完勝だ。
丈は苦笑いしながら視線を戻そうとしたが――その時、ふとある一点に目が釘付けになった。
ソファの端。
そこに、無造作に積み上げられた「抜け殻」があった。
先ほど脱ぎ捨てられたワンピース。ストッキング。
そしてその一番上に、彼女が実況した通りの、水色のレースのブラジャーとショーツが、まだ主の体温を残したまま鎮座していた。
「…………」
丈の視線が、吸い寄せられるようにその布切れに固定される。
(……これが、今の今まで、彼女の肌に触れていたもの)
その生々しい実在感に、彼の喉がゴクリと鳴った。
その視線の動きを、すいせいは見逃さなかった。
「……ふーん?」
彼女の瞳が細められ、愉悦の色が濃くなる。
「あたしの本体よりも、そっちの抜け殻の方に興味があるんだ?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「嘘つき。目が釘付けじゃん。……アンタも、相当なヘンタイだねぇ」
図星を指され、丈の顔が耳まで赤くなる。
小悪魔の掌の上で転がされ、恥部を暴かれる屈辱と快感。
彼は観念したように、大きなため息をついた。
「……敵いませんね、あなたには」
それは、偽りのない敗北宣言だった。
丈はゆっくりと立ち上がると、脱ぎ捨てられた服の山へと歩み寄った。
そして、まるで神聖な儀式を行うかのように、それらを丁寧に手に取った。
「ちょ、何してんの……」
すいせいが引くほどの丁寧さで、彼はワンピースの皺を伸ばし、畳み始める。
そして、最後に残った小さな下着を手に取ると、一瞬動きを止め――そっと鼻を近づけた。
「ッ!? な、ななな、何してんのよ!?」
「いえ……いい匂いがしたので」
悪びれる様子もなく、恍惚とした表情で答える丈。
その瞳に宿る、純粋すぎて狂気すら感じる愛情に、すいせいの顔がカッと沸騰した。
「バ、バカ! 返してよ!」
「はい、どうぞ。綺麗に畳んでおきました」
彼は丁寧に二つ折りにした下着を、他の服と一緒に彼女へと差し出した。
その手際と、変態的なまでの執着。
すいせいは真っ赤な顔でそれを受け取りながら、背筋がゾクリとするのを感じた。
この男は、ただの記者じゃない。
自分の想像を遥かに超える「捕食者」だ。
からかっていたつもりが、いつの間にか自分が追い詰められているような、そんな危うい予感が彼女の胸を騒がせた。