※この作品はR-18です。

密着取材:聖域の裏側で   作:railgunk

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第1章:宝鐘の海賊船 第4話:共犯者の夜明け

バスルームから響いていたシャワーの音が止み、しばくしてドアが開いた。

湿り気を帯びた温かい空気と共に、湯上がりの宝鐘マリンがリビングに戻ってきた。

 

「お待たせ、滅道記者。……ふん、まだいたのね」

 

彼女は少し大きめのバスローブを身に纏い、濡れた髪をタオルで拭きながら、努めて平然を装っていた。

しかし、その頬は湯気のせいだけではなく、明らかに赤い。

先ほどの「乳首、立ってますよ」という指摘が、まだ彼女のプライドを内側から焼き焦がしているのだ。

 

「ええ、契約ですから」

「……まったく。アンタのその鉄の心臓、少しは分けてほしいわ」

 

マリンは呆れたように肩をすくめると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干した。その無防備な喉の動きに、滅道はふと視線を奪われる。

先ほどの強烈なハプニングを経て、二人の間には奇妙な空気が流れていた。

それは気まずさというよりも、お互いの「見られたくない部分」を共有してしまった者同士特有の、共犯関係に近い連帯感だった。

 

「さて……取材はまだ続くの? もう寝る時間だけど」

「そうですね。少し雑談でもして、今日は終わりにしましょうか」

 

滅道が提案すると、マリンはソファに深く腰掛けた。

話題は自然と、部屋に溢れるゲームや漫画のことへと移っていった。

 

「へえ、そのRPG、最新作までやり込んでるんですね」

「当たり前よ! 船長を誰だと思ってるの? このシリーズはストーリー考察だけで一晩語れるレベルなんだから!」

 

共通の趣味が見つかると、彼女の表情から警戒心が消え、純粋な少年のように瞳が輝き始めた。

「あそこのボスの攻略法がさあ!」

「わかります、あの初見殺しは酷いですよね」

「でしょ!? 運営に問い合わせようかと思ったもん!」

 

いつしか時間は深夜を回り、二人は記者と取材対象という立場を忘れ、ただのゲーム好きの男女として笑い合っていた。

完璧なアイドルの仮面の下にある、等身大の彼女。

そして、無機質な記者の仮面の下にある、人間くさい彼。

その両方が混ざり合い、リビングには心地よい温度が生まれていた。

 

「……ふわぁ」

 

不意に、マリンが大きなあくびをした。

時計の針は午前2時を回っている。

 

「そろそろ寝ましょうか。俺はソファをお借りします」

「え? 記者さん、ソファで寝るの?」

 

マリンは悪戯っぽくニヤリと笑うと、寝室の方を指さした。

 

「せっかくの密着取材なんだから、同じベッドで寝なくていいの? 船長、寝相悪いから夜中に抱きついちゃうかもよ?」

 

それは、彼女なりの「配信モード」を取り戻すための、最後の意趣返しだった。

この真面目な記者が、慌てて否定する様を見て楽しもうとしたのだ。

 

しかし、滅道は静かに立ち上がると、涼しい顔で寝室へと歩き出した。

 

「わかりました。では、お言葉に甘えて」

「……は?」

「夜中に抱きしめてもらえるなんて光栄です。いい絵が撮れそうですね」

 

滅道がベッドの端に腰掛けると、マリンの顔が沸騰したように赤くなった。

 

「ちょ、ちょっと! 冗談よ、冗談! バカ! 何本気にしてんのよ!」

「おや、誘ったのは船長では?」

「うぅ……! もういい! アンタはソファ! 船長はベッド! おやすみ!」

 

彼女は滅道をリビングへと押し出すと、パタンと寝室のドアを閉めてしまった。

ドアの向こうから、「……心臓に悪いわよ、もう」という独り言が漏れ聞こえてくる。

 

滅道は苦笑しながら、ソファに横になった。

天井を見上げながら、彼は確信していた。

この密着取材は、ただの記事作りでは終わらない。

宝鐘マリンという魅力的な人間に、自分自身もまた、惹きつけられ始めていることを。

 

翌朝。

リビングに差し込む朝日で目を覚ますと、キッチンからトーストの焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。

 

「……おはよ、滅道記者」

 

寝癖のついた髪のまま、コーヒーカップを手渡してくれるマリン。

そこにはもう、昨日のような過剰な警戒心も、無理なキャラ作りもない。

ただ、同じ秘密の夜を過ごした相手に向ける、柔らかな信頼だけがあった。

 

「おはようございます、マリンさん」

 

二人は顔を見合わせ、自然と笑みをこぼした。

恋人でもない。友達とも少し違う。

しかし、誰よりも深くお互いの素顔を知ってしまった、「共犯者」たちの朝が始まった。

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