※この作品はR-18です。

密着取材:聖域の裏側で   作:railgunk

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第2章:掃除屋の休日 第5話:悪魔の提案

宝鐘マリンとの「密着取材」という名の共犯関係が成立してから数日後。

取材の合間、スタジオの休憩室で二人はコーヒーを飲んでいた。

 

「……で? 次のターゲットは誰にするつもり?」

 

マリンが上目遣いで尋ねてくる。その瞳には、独占欲と、これから始まる新しいゲームへの期待が入り混じっていた。

滅道は手帳を開きながら、涼しい顔で答える。

 

「そうですね。編集部からは『ホロライブの多様な魅力』を求められています。船長のような華やかなトップアイドルとはまた違う、少し影のある、あるいは裏の顔を持つような……」

「あー、はいはい。要するに、アンタの『攻略欲』をそそる相手がいいってことでしょ?」

 

図星を突かれ、滅道は苦笑する。

マリンはストローを噛みながら、悪戯っぽくニヤリと笑った。

 

「なら、うってつけの子がいるよ。……『掃除屋』なんて、どう?」

「掃除屋……沙花叉クロヱさん、ですか」

 

秘密結社holoXの掃除屋、沙花叉クロヱ。

普段は愛嬌のある後輩キャラとして振る舞っているが、その肩書きが持つ意味は重い。

 

「あの子、懐っこいように見えて、実はガードが堅いんだよね。それに、あざといようでいて、変なところでウブだし」

「なるほど。面白そうですね」

 

滅道の目に、狩人の光が宿る。

それを見たマリンは、満足げに頷くと、とんでもない提案を口にした。

 

「じゃあさ、今度のオフ、遊園地に行かない? 取材の一環ってことで」

「遊園地?」

「そう。船長とアンタのデート……じゃなくて、密着取材。でも、二人きりだと怪しまれるでしょ? だから、カモフラージュとしてさかまたを呼ぶの」

 

それは、あまりにも大胆で、そして背徳的な提案だった。

ターゲットを、本命(仮)とのデートのダシに使いつつ、その隙を突いて攻略する。

 

「……さすが船長。悪魔的ですね」

「人聞きが悪いわね! 可愛い後輩と思い出作りをしてあげようっていう、先輩の優しさよ!」

 

数日後、東京駅の待ち合わせ場所。

週末の喧騒の中、フードを目深に被った小柄な少女が駆け寄ってきた。

 

「せんぱーい! おっまたせしましたー!」

 

沙花叉クロヱ。

マスク越しにも分かる満面の笑みで、彼女はマリンに抱きついた。

 

「おはよ、さかまた。……あんた、ちゃんとお風呂入ってきたでしょうね?」

「もう! ひどいですよ先輩! 今日はおデートだから、昨日からピカピカに磨いてきたんですから!」

 

「はじめまして、沙花叉さん。記者の滅道です」

「あ、どうもー! 沙花叉クロヱです! 今日は荷物持ち要員として呼ばれました! よろしくお願いしまーす!」

 

クロヱは滅道に対し、全く警戒心を見せず、人懐っこく挨拶をした。

その無防備な笑顔。しかし、滅道の鋭い観察眼は、彼女の視線が瞬時に自分の全身をスキャンし、身体的特徴や持ち物をチェックしたことを見逃さなかった。

(……なるほど。ただの無防備な少女ではない、か)

 

電車に乗り込み、舞浜駅へと向かう道中。

混雑する車内からホームへと降りた瞬間、事件は起きた。

 

人波に押され、前を歩いていた小さな女の子がバランスを崩し、階段から転げ落ちそうになったのだ。

 

「――ッ!」

 

周囲が悲鳴を上げるより早く、滅道は動いた。

脱力した状態から一気に加速し、重力を無視するかのような踏み込みで階段を滑り降りる。

女の子の体が地面に叩きつけられる寸前、彼はその体を優しく空中でキャッチし、回転の勢いを殺して着地した。

 

「……大丈夫かい?」

 

女の子が呆然と頷く。

しかし、彼女が背負っていたリュックサックまでは手が回らず、そのまま階段下へと飛んでいってしまう――はずだった。

 

バッ、と黒い影が走る。

滅道が動いたのとほぼ同時、あるいはコンマ数秒遅れて反応したクロヱが、人混みを縫うように疾走していた。

彼女は滑り込むようにしてリュックのストラップを掴み取ると、見事な受け身で衝撃を逃し、涼しい顔で立ち上がった。

 

「はい、荷物も無事ですよー」

 

周囲から拍手が起こる中、滅道とクロヱの視線が交差した。

 

「……素晴らしい動きですね、沙花叉さん。まるでプロのようだ」

「えへへ、運動神経には自信あるんですよー。滅道さんこそ、今の動き、ただの記者さんじゃないですよね?」

 

クロヱの目は笑っていたが、その奥には底知れない冷徹な光が宿っていた。

一般人なら見逃すであろう滅道の「異常な身体能力」を、彼女は正確に評価していたのだ。

 

「昔、少しスポーツを嗜んでいただけですよ」

「ふーん……秘密、ってやつですか?」

 

クロヱは人差し指を唇に当て、悪戯っぽく首を傾げる。

その瞬間、滅道は確信した。

この「掃除屋」は、一筋縄ではいかない。だからこそ、落としがいがある。

 

隣で一部始終を見ていたマリンが、呆れたように、しかし楽しそうに呟いた。

 

「……まったく。とんでもない二人を連れてきちゃったわね」

 

夢の国へのゲートをくぐる前、すでに「ゲーム」は始まっていた。

記者と、アイドルと、掃除屋。

三人の奇妙な休日は、波乱の予感を孕みながら幕を開けた。

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