※この作品はR-18です。

密着取材:聖域の裏側で   作:railgunk

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第2章:掃除屋の休日 第7話:夢の国の三重奏

「うわあああ! すごい! 夢の国だー!」

 

ゲートをくぐった瞬間、沙花叉クロヱは年齢不詳の暗殺者から、ただの無邪気な少女へと変貌した。

カチューシャを選び、ポップコーンを頬張り、目につくアトラクション全てに歓声を上げる。その姿は、彼女が背負う「掃除屋」という業を微塵も感じさせなかった。

 

「元気ねぇ、さかまた。……滅道記者、疲れてない?」

「いえ、むしろ彼女のエネルギーに引っ張られて楽しんでいますよ」

 

マリンと滅道は、そんな彼女を保護者のような目で見守りつつ、並んで歩く。

昼食時、ワゴンで買ったフランクフルトを早々に食べ終えたクロヱが、滅道の手元をじっと見つめていた。

 

「……滅道さんのそれ、美味しそうですね」

「同じ味ですよ?」

「でも、人の食べてるものって美味しく見えるじゃないですかー」

 

物欲しげな小動物のような視線。

滅道は苦笑すると、まだ半分以上残っている自分のフランクフルトを差し出した。

 

「食べますか?」

「え!? い、いいんですか!?」

「どうぞ。俺はまた買いますから」

 

クロヱは一瞬戸惑ったが、すぐに嬉しそうにパクついた。

間接キスなど気にも留めない無防備さ。しかし、一口食べた後でハッと我に返り、耳を赤くして俯く。

(……あ、やば。これ、カップルみたいなことしちゃった?)

その初々しい反応を、隣のマリンが冷ややかな、しかしどこか楽しげな目で見つめていた。

 

午後の日差しが傾き始めた頃、三人は洋館を模したお化け屋敷の前に立っていた。

 

「む、無理です! 沙花叉、これだけは本当に無理なんです!」

「何言ってんのよ。ここまで来て入らない選択肢はないわよ」

「嫌だ嫌だ嫌だ! 帰るぅぅぅ!」

 

柱にしがみついて抵抗するクロヱ。

滅道はふう、と一つため息をつくと、しゃがみ込んで彼女の腕を掴んだ。

 

「行きますよ、沙花叉さん」

「ひぃっ!? ちょ、滅道さん!? 力強い!?」

 

有無を言わさぬ力で、彼は半泣きのクロヱを引き剥がし、そのまま荷物のように引きずって館の中へと入っていった。

暗闇の中、次々と襲いかかる恐怖の演出。

クロヱはプライドも何もかもかなぐり捨て、滅道の背中にしがみついた。

 

「ぎゃああああ! 無理無理無理! 離さないでぇぇぇ!」

「痛いです、沙花叉さん。爪が食い込んでます」

「うるさい! 今は沙花叉の命がかかってるんです!」

 

密着する体。背中に押し付けられる柔らかな感触と、震える体温。

滅道は冷静に歩を進めながらも、背中の感触を密かに楽しんでいた。

 

ようやく出口の光が見え、外に飛び出したクロヱは、その場にへたり込んで肩で息をした。

恐怖による冷や汗と、暴れたことによる熱気で、着ていたパーカーがしっとりと肌に張り付いている。

そのせいで、普段はダボッとした服に隠されている彼女のボディライン――意外なほど豊かな胸の膨らみや、くびれた腰の曲線が露わになっていた。

 

「……ふぅ、死ぬかと思った……」

 

顔を上げたクロヱは、滅道が気まずそうに視線を逸らしたことに気づいた。

彼女の瞳に、再び小悪魔の光が宿る。

 

「あれぇ~? 滅道さん、今どこ見てました?」

 

彼女は立ち上がると、わざと胸を張って彼に詰め寄った。

 

「汗で透けちゃった沙花叉の体、ガン見してませんでした?」

「……見てませんよ」

「嘘つき。男の人って、こういうムレムレな感じ、好きですよねぇ?」

 

勝ち誇ったように挑発するクロヱ。

しかし、滅道は観念したようにため息をつくと、彼女の耳元で囁いた。

 

「ええ。とても扇情的で……目のやり場に困りましたよ」

 

「――ッ!?」

 

予想外の直球な肯定。

クロヱの顔が、今度こそ爆発したように赤くなった。

からかうつもりが、逆にカウンターを食らった形だ。彼女は「バ、バカ!」と叫んで、逃げるようにマリンの背中に隠れた。

 

日は完全に落ち、パーク内は幻想的なイルミネーションに包まれていた。

最後に三人が向かったのは、ボートに乗って海賊の世界を巡るアトラクション。

しかし、ボートを降りた直後、マリンがベンチに崩れ落ちた。

 

「……うぷ」

「船長? 大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……ちょっと、揺れに酔っただけ……」

 

海賊船長にあるまじき船酔いでのダウン。

クロヱが「だっさ!」と笑いながら水を買いに走る間、滅道は冷たいペットボトルをマリンの頬に当てて介抱した。

 

「……お疲れ様です、船長」

「……うるさいわね。カッコ悪いとこ見せちゃったわ」

 

潤んだ瞳で見上げてくるマリン。

滅道は周囲に聞こえない声量で、甘く囁いた。

 

「大丈夫ですよ。……今夜ホテルに戻ったら、俺がたっぷりと『介抱』してあげますから」

 

その言葉に込められた意味を察し、マリンの顔が朱に染まる。

戻ってきたクロヱは、二人の間に流れる濃厚な空気に気づくことなく、無邪気に提案した。

 

「先輩、少し休んでてください! 閉園まであと少しだし、沙花叉と滅道さんで観覧車乗ってきます!」

「……ええ、行ってらっしゃい。二人で楽しんできなさいな」

 

マリンは力なく手を振った。

その目は、これから始まる「獲物」の運命を哀れむように、そして自分だけの「共犯者」を誇るように、静かに細められていた。

 

二人きりの観覧車。

密室の中で、クロヱと滅道の距離は、決定的に縮まろうとしていた。

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