「「…」」
俺とシノンは気まずい空気の中、服を着直す。あれだけ激しくした手前、冷静になって羞恥がすさまじいから。
「あー…その、シノンさん?」
「何?」
ギロリと、俺を睨むシノン。さっきまで発情していたとは思えない。
「その……さっきのは、何というか……」
「蒸し返さないで。…その、あんたのおかげで助かったのは確かだけど…」
思い出したからか顔を赤くなってしまう。
「その、あんたとその、キスしたら、苦しい気分は収まったけど、どういう訳か、体が熱くなって、お腹の下が熱くなってきたのよ…」
「俺の唾液は特効薬か媚薬か何かかよ…」
しばらく俺たちは気まずくなる。
「…そ、そう言えばここって、まだ生存者とかいるのか?ほら、一部区画に避難してるとか?」
「っ、それは…ごめんなさい。そこまでは分からないわ。私も逃げてここまで来たから」
着直してから周りにゾンビがいないかの確認をする。見たところいないが、別区画に行けるところはシャッターが閉まってる。
「…あいつらはいないけど、どこも閉まってたり、開いてても荒らされた感じになってるな」
「そうね……最悪、別区画に移動はできないわね」
「これじゃあ生存者探すのも飯の確保もできないな…。どこかブレーカーがあるところがあって、そこで電気が通ったら良いんだがな…」
こういう時はブレーカーを探すのがいいかもしれない。リスクがあるから、何とも言えないが、今はそうするしかない。
「…それならどこかに管制室があるかもしれないわね。探しに行きましょう?」
「了解だ」
俺たちは管制室へと向かうことにした。
「にしても電気通ってないから暗いよな」
「そうね。足元気を付けましょ」
「そう言えばシノンって何者なんだ?銃とか持ってるし、明らかに普通の服装じゃないし、何というか、スナイパーって感じだけど」
「ただの軍事訓練生よ。言っておくけど、シノンって名前もコードネームみたいなもので、本名は名乗れないのよ。そういう規則だから」
「じゃあ銃があるなら戦えるってことか?」
「…そうね。でもそれがさっきのザマよ」
「…っ、おいあれ」
通路の先に数体のゾンビがいた。最早理性を失ってる状態だ。
「マジかよ、ここにもいたのか」
「雄介、下がって!」
シノンは銃を構えるが、手が震えて、顔が強張っていた。
「っ、シノン!」
近くにあったモップでゾンビたちを薙ぎ倒し、シノンを連れて隠れる。何とか気づかれずに済んだ。
「…大丈夫か?」
「…っ、こ、これぐらい何ともないわよ」
そう言いながらも震えが止まらないシノン。
相当怖いんだろう。
「とにかく落ち着けって。深呼吸してみろ」
「すぅ~はぁ~……ちょっとはマシになったけど、やっぱり無理ね……」
シノンに何があったのかは分からない。でもだからって放っておくわけにはいかなかった。
「…シノン、もしかして人を撃つのが怖いのか?」
「っ、そう、ね…」
「だったらここは俺が何とかしてやるよ」
「えっ……」
「だって今のお前を放っておけないだろ?それにまたさっきのトラウマ的なことが蘇るだろうしな」
「……ふざけないで!私は助けなんて必要ない!」
そう叫びながら銃を取ろうとするが、手が震えて上手く握れず、力なく落としてしまう。
「あっ……」
「…もしかして初めて会った時も、そうやって震えてたのか?」
「…そうね。…今なら、あいつらもいないし、あんたになら、話しても良いわよね」
と、一息着く
「私、訓練生って言ったでしょ?前に、その訓練の一つの事故で、教官を、殺してしまったことがあるのよ」
「教官を?」
「……本当に些細な事故だったわ。あの日もいつも通りの訓練だった。ライフルを持って狙撃の練習して、的を狙って撃つだけ。なのに、外れて、後ろにいた教官を……!」
声を荒げる。
「あの時の教官の姿が、血が、忘れられないの!その後も色々あって、銃を持つのすら恐怖に感じるようになった。この病が蔓延してるときも、自分自身で身を守ろうとした。なのに結局こうしてゾンビに噛まれて、雄介に助けてもらって……!」
涙目になりながらシノンは言う。
「もう何もかも嫌になった。早く死んでしまいたいと思うこともあった。それでも生き続けようとした。でも結果は何も変わらなかった。結局私は何もできなかった……」
自嘲気味に笑う。彼女なりの精一杯の笑いだったのだろう。
「……」
俺はシノンを抱きしめる。
「ちょっ、離してよ!」
「そんなことするなよ」
「でも私は……!」
「良いから少し黙ってろよ」
強く抱きしめる。すると少しずつシノンの力が抜けていく。
「もう大丈夫か?」
「……」
「…そうか。なら、無理しなくていい。俺は訓練なんて受けたことないから戦いの素人だ。でも、何とか凌いで見せる。バリケード作ったりとかしてな」
「…強いのね、あんた」
「強くねぇよ。出来たら殺したくないないし、それにお前のことも見捨てたくもないからな」
「……ありがと」
シノンはそのまま静かに泣いた。
しばらくしてシノンが落ち着いた頃を見計らい、改めて移動することにする。
「あんたはどうするの?ここに残るの?」
「いや、俺はこのまま管制室に向かうよ。シャッターを開けれないとどうしようもないから。それでシノン、もしまたゾンビが来たら俺が囮になるから、先に行っててくれ」
「…っ、それじゃああんたが」
「何とかするから、さぁ、行くぞ!」
「……えぇ」
俺たちは再び進みだす。しばらくするとまたゾンビが姿を現し、襲い掛かってきた。
「…っ、走れシノン!!」
「っ!」
モップで撃退しながら、シノンに先に行くように促す。その間にも次々と増えてくるゾンビたち。
「キリがない……!」
ゾンビ達を薙ぎ払う。その度に血しぶきが舞う。
シノンは躊躇いながらも走ろうとする。しかし、途中で足を止めてしまう。
「どうしたシノン!?」
「っ!!」
俺に群がるゾンビたちに銃を向けていた。表情は強張り、手が震えて撃てる状態じゃないのに。
「よせ!俺に構わず早く行け!!」
そう叫ぶもシノンは固まったままだ。
「っ……シノン!早く!!」
それでも動かない。そんな時だった。
「…っ!?しまっ」
ゾンビに押し倒され、まさに噛まれてしまう寸前だ。モップで押し返すも、やられるのも時間の問題だった。
その瞬間。
パァンッ!!
乾いた音と共に、押し倒してたゾンビが頭を撃ち抜かれ、倒れた。
振り返ると、シノンが震えながら銃を構えていた。銃口から煙が出てる。つまり……シノンがゾンビを撃ったということだ。
「シノン……お前……!」
「はぁ……はぁ……!」
「…っ!」
話を後に、まずは倒れたゾンビを払い除け、目の前のゾンビをモップで殴り、俺に近づくゾンビをシノンが撃ち抜く。
そうして見渡す限りのゾンビを倒し、管制室に向かって、ブレーカーを上げて電力を復旧させた。
「ふぅ」
俺とシノンは座り込んで、安堵の一息つく。
「…どうして、助けてくれたんだ。無理せずに、あのままここに向かってれば良かったのに」
「……分かんないわよ。咄嗟の行動だったわよ。……でも、少なくとも、あんたを死なせたくなかった。今でもゾンビとはいえ人を殺したのは、辛い。けど、あんたがいなくなる方がもっと辛いと思ったの」
と、シノンは笑みを見せてくれた。初めて見る彼女の優しい笑みに心臓が高鳴った。
「……あんたが良ければ、私はこれからも、あんたのために、戦うよ。今の私ができる、唯一のことだから」
「……ありがとう。シノン」
そして俺たちはしばらく休むことにした。
「そろそろ動くか」
「そうね」
俺たちは立ち上がり、歩き出す。
「……ねぇ、雄介」
「何だ?」
「その、キスをしてほしいんだけど。そうしないと、不安なの」
「……良いぜ」
俺はシノンにキスをし、唾液を飲ませる。舌を入れて絡ませ合うディープキス。
「んっ♡」
甘い吐息を漏らしながら互いの唇を貪るように吸い合い、唾液を交換していく。
「ぷはっ……これで良いか?」
「えぇ……ありがと」
互いに微笑み合う。
俺たちはこのショッピングモールを探索してみることにした。