ショッピングモールの非常灯が、赤く廊下を染めていた。
さっきまで動いていた照明は、いつの間にか落ちている。
残っているのは警告灯だけだ。
……ウゥゥン。
空調の低い振動が天井裏を流れている。
俺は通路の角で足を止めた。
背後で靴音が止まる。
シノン。
そのさらに後ろに斑鳩。
三人の呼吸が静かに重なる。
遠くで物音がした。
……ガン。
金属がぶつかる乾いた音。
シノンが銃を上げる。
銃口が通路の奥を向く。
「出口はこの先よ」
小さな声。
俺は頷く。
モールの外へ出る非常口は、もうすぐだ。
ここを抜ければ駐車場に出られる。
その時。
……グルル。
低い唸り声。
通路の奥の暗がりで何かが動いた。
次の瞬間。
ゾンビが飛び出した。
腐った顔。
開いた口。
腕がこちらへ伸びる。
パァン!!
銃声。
頭部が弾ける。
倒れる。
だが奥の暗闇が揺れた。
もう一体。
さらにもう一体。
靴音が床を叩く。
俺は近くにあったショッピングカートを蹴り飛ばした。
ガシャァン!!
カートが横倒しになる。
ゾンビがつまずく。
その横を斑鳩が踏み込んだ。
ワイシャツが揺れる。
拳。
骨が砕ける鈍い音。
体が崩れ落ちる。
もう一体が斑鳩へ腕を振るう。
彼女は半歩引く。
回転。
肩を掴む。
そのまま投げる。
ゾンビの体が床に叩きつけられた。
シノンの銃声。
頭部が弾ける。
静寂。
……いや。
奥からまだ音がする。
複数の足音。
引きずるような音。
シノンが舌打ちした。
「数が多い!」
俺は非常口を見る。
扉は二十メートル先。
「走るぞ!!」
床を蹴る。
三人で通路を駆ける。
背後から唸り声が膨らむ。
振り向くと、暗闇から十体以上の影が流れ出てきていた。
シノンが撃つ。
パァン!パァン!
二体倒れる。
だが後ろから次が押し出される。
距離が縮まる。
非常口が近づく。
あと十メートル。
その時。
一体が横の店から飛び出した。
腕がシノンへ伸びる。
シノンが反応する。
だが距離が近すぎた。
その瞬間。
斑鳩が前へ出る。
体当たり。
ゾンビを弾く。
拳。
顎が折れる。
だが。
ゾンビの腕が掴んだ。
布。
皮膚。
ガブッ。
鈍い音。
斑鳩の肩がわずかに揺れる。
すぐに肘を叩き込む。
ゾンビが離れる。
喉へ一撃。
体が崩れ落ちた。
「斑鳩!」
俺が声を上げる。
彼女は振り向かない。
「問題ありません」
息は乱れていない。
足も止まらない。
「出口を優先してください」
非常口に到達する。
俺がバーを押す。
バン!!
扉が開く。
外の光が差し込む。
三人で飛び出す。
背後でゾンビが扉へぶつかる。
ドン!!ドン!!
金属が揺れる。
シノンが近くの鉄パイプを差し込んだ。
ガチン。
簡易ロック。
扉が揺れ続ける。
だが開かない。
……。
静寂が戻る。
三人の呼吸だけが残った。
駐車場の風が吹く。
遠くで車の警報が鳴っていた。
……ピーポー。
シノンが壁に背をつける。
銃を下げる。
肩が上下している。
俺も膝に手をついた。
汗が額から落ちる。
数秒。
誰も喋らない。
その時。
布の擦れる音。
斑鳩がワイシャツの袖を整えていた。ゆっくりと、腕を押さえる。
一瞬だけ。すぐに離す。
何も言わない。視線は前。
背筋は伸びたままだ。
シノンの視線がそこに止まる。
一秒、二秒、三秒。
斑鳩は気づかないふりをしている。
「……行きましょう」
斑鳩が言う。
声は変わらない。
「ここも安全とは言えません」
シノンは何も言わない。
ただ銃を握り直す。
俺は頷いた。
「次の拠点を探そう」
三人で歩き出す。
コツ…、コツ…。
駐車場のコンクリートに足音が響く。
その後ろで。
ワイシャツの袖口から、赤い染みがゆっくり広がっていた。
誰も何も言わない。
風だけが吹いていた。