今回はkitiさんからのリクエストで、柳瀬舞衣と刀堂綺凛の話となります。
コンビニを出たあと、俺たちは夜明けの街を進んでいた。
空気は妙に静かだった。
風の音と、遠くで響くガラスの割れる音だけが聞こえる。
「……静かですね」
斑鳩が小さく言う。
俺は前を見たまま答えた。
「静かな方がいい。ゾンビが集まってないってことだ」
シノンは周囲を警戒しながら歩いている。
背中のライフルがわずかに揺れた。
やがて、通りの先に校門が見えてきた。
フェンス越しに、暗い校舎が立っている。
「学校ね……」
シノンが呟いた。
「生存者がいる可能性はありますね」
斑鳩が静かに言う。
俺は門に手をかけた。
鉄が軋む音が、夜に広がる。
ギィ……。
門を開けて中に入る。
校庭は荒れていた。
倒れた自転車、散らばった鞄。
そして――
校舎の中から、何かがぶつかる音がした。
ドン。
ドン。
「……戦ってる」
シノンが小さく言う。
俺たちは顔を見合わせた。
そして校舎へ向かう。
入口のガラス扉は半分開いていた。
中へ入ると、薄暗い廊下が続いている。
奥から足音が聞こえた。
そして次の瞬間、ゾンビが一体、廊下の角から飛び出した。
腐った腕を伸ばしながらこちらへ向かってくる。
だがその瞬間。
銀色の光が走った。
斬。
一瞬でゾンビの首が落ちる。
その後ろに、小柄な少女が立っていた。
制服姿。
手には日本刀。
肩までの髪が揺れている。
さらにもう一体のゾンビが迫る。
その横から、もう一人の少女が踏み込んだ。
長い髪の少女。
その刀が、迷いなく振り抜かれる。
ズバッ。
ゾンビの胴体が崩れ落ちた。
……。
静寂が戻る。
蛍光灯がジジッと鳴る。
小柄な少女がこちらを見た。
鋭い目だった。
「止まってください」
刀の切っ先がこちらに向く。
「それ以上近づくなら、斬ります」
俺は両手を軽く上げた。
「待て。俺たちは生存者だ」
後ろの長髪の少女が、俺たちをじっと見た。
そして言った。
「……ゾンビではないですね」
刀が少し下がる。
「私は柳瀬舞衣です」
小柄な少女が言う。
「こちらは刀藤綺凛」
綺凛と呼ばれた少女が軽く会釈した。
その時だった。
舞衣の体が、ふらりと揺れた。
「……っ」
膝がわずかに折れる。
「舞衣さん?」
綺凛が慌てて肩を支える。
舞衣は額を押さえた。
呼吸が荒い。
「……大丈夫、です」
そう言ったが、声がかすれていた。
俺は違和感を覚えた。
顔色が悪い。
異常な汗。
そして――腕。
制服の袖が、少し破れている。
そこから見える皮膚。
歯形。
俺の背中に冷たいものが走った。
その時、綺凛の体も大きく揺れた。
ガンッ。
刀が床に落ちる。
「……っ」
綺凛が壁に手をついた。
呼吸が荒い。
シノンが小さく息を呑む。
「まさか……」
舞衣が壁にもたれながら言った。
「さっきの……ゾンビに……」
言葉が途切れる。
腕を押さえている。
そこにも、噛み跡があった。
血が滲んでいる。
「……でも」
舞衣は歯を食いしばった。
「まだ……戦えます……」
そのまま刀を拾おうとする。
だが手が震えている。
綺凛も同じだった。
足がふらつき、立っていられない。
「……くっ」
次の瞬間。
ドサッ。
舞衣が床に崩れ落ちた。
綺凛も膝から落ちる。
呼吸が荒い。
体が震えている。
シノンが俺を見た。
「感染……」
その言葉が、静かな廊下に落ちた。
二人は、必死に戦っていたのだ。
感染しているのに。
それでも、ゾンビと戦い続けていた。
俺は二人の前にしゃがみ込んだ。
舞衣の意識はまだある。
だが目が霞んでいる。
綺凛も同じだった。
「……すみません」
舞衣がかすれた声で言う。
「……もう、限界みたいです」
そのまま目が閉じかける。
廊下に、重い沈黙が落ちた。