※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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12話 レンとショッピング

 スマホを手に取って、短く打つ。

 

隼人

『レン、ショッピング行くぞ。文具と服な』

 

 送信してから、画面を伏せて少し待つ。

 すぐに既読がついた。

 

蓮

『え、急だね。でも行く!どこ集合?』

 

隼人

『駅前。昼過ぎで』

 

蓮

『了解!』

 

 それだけで話は決まった。

 

 約束の時間、駅前でレンと合流する。

 私服のレンは相変わらず少し落ち着かない様子で、視線があちこちに泳いでいる。

 

「人、多いね……」

 

 エスカレーターを上がると、最初に目に入ったのは文具フロアだった。

 

「じゃあ、まずは文具からだな」

 

 そう言うと、レンはほっとしたように頷いた。

 服よりも、こっちのほうが気楽らしい。

 

 店内には、新学期向けのコーナーが大きく作られていて、ノートやペンが整然と並んでいる。

 色分けされた背表紙、用途別に書かれたポップ。見ているだけで、中学が現実として近づいてくる感じがした。

 

「和敬って、ノート指定あるのかな」

 

「最低限だけだと思うぞ。罫線とか、サイズとか」

 

 レンは棚の前で立ち止まり、A罫(けい)とB罫(けい)を見比べている。

 真剣な顔だ。

 

「……どっちがいいと思う?」

「字、細いからBでいいんじゃないか」

「じゃあ、それにする」

 

 即決だが、ちゃんと納得して選ぶ。

 レンらしい。

 

 次はペンケース。

 レンは派手な柄のものを一瞬手に取って、すぐに戻す。

 

「……やっぱ無難なのにしよう」

「中学だしな」

 

 結局、落ち着いた色のシンプルなものに決まった。

 中身のペンも、必要最低限。使いやすさ重視だ。

 

 買い物かごが少しずつ埋まっていくにつれて、レンの肩から力が抜けていくのが分かる。

 さっきまで人混みを気にしていたのが嘘みたいだった。

 

「文具選ぶの、ちょっと楽しいね」

「だろ。最初はこんなもんだ」

 

 レジを済ませ、紙袋を受け取る。

 

 文具店を出て、エスカレーターで一つ下の階に降りる。

 フロアの雰囲気が一気に変わって、ガラス張りの店構えとマネキンが並ぶ。

 

「……次は、服だな」

 

 俺が言うと、レンは一瞬だけ足を止めた。

 

「うん……分かってる」

 

 分かってはいるけど、緊張しているのが丸分かりだ。

 人混みより、こっちのほうが苦手らしい。

 ラックの前で足を止めたレンを、隼人は一歩前に出てから振り返った。

 

「じゃあ、俺が組むな」

「え、全部?」

「全部」

 

 服のラックの前で立ち止まったレンを見て、ハヤトは一度だけ全体を眺めるように視線を走らせた。

 

「じゃあ、これで組もう」

 

 手に取ったのは、クリーム色のパーカー。

 柔らかい色味で、顔まわりの印象が一気に穏やかになる。

 

「上はこれ。レンの雰囲気に合う。近寄りやすいし、変に目立たない」

 

 次に合わせたのは、淡いブルーのデニム。

 細すぎず、動きやすいシルエットだ。

 

「下は軽さ重視。色が明るいと、全体がちゃんと″春″になる」

 

 足元には白のスニーカー。

 迷いはなかった。

 

「ここは清潔感。考えなくていい、白一択」

 

 最後に、小さめのネイビーのリュックを背中に回してやる。

 

「淡い色が多いから、背中に締め色。これで完成」

 

 試着室から出てきたレンは、鏡の前で一瞬固まった。

 クリーム色のパーカーの下で、淡いブルーが軽く揺れる。

 茶色に染めた髪が、動くたびにふわっと跳ねた。

 

「レン、鏡見ろ」

 

 鏡を見て、目を見開く。

 

「……俺、こんな感じになるんだ」

「なる。元がいいからな」

 

 ハヤトはそう言って、リュックの肩紐を軽く整える。

 

「派手じゃないけど、ちゃんとしてる。これで十分」

 

 レンは照れたように笑い、でもどこか誇らしげだった。

 その服装は、無理をしていないのに、確かに変わったことを伝えていた。

 

「中学デビューって、こういうことかも」

 

「別にデビューしなくていい。ただちゃんとしてるだけでいいんだよ」

 

 隼人はそう言いながら、袖を一度だけ直してやった。

 

「これで行ける。ファッション誌なら、たぶん見開き一ページだな」

 

 レンは少し照れたように笑って、でもはっきりとうなずいた。

 

「……ありがとう。なんか、自信出た」

 

 その一言で十分だった。

 

「次は俺だな」

 

 そう言って、俺はラックの間に足を踏み入れた。照明の下で並ぶ服は、色も形も主張が控えめで、視線が自然と流れる。ネイビーのショートコートを手に取ると、鏡の前で軽く肩に掛けた。

 

 「それ、似合いそう」

 

 レンが素直に言う。声に迷いがないのがいい。

 

 コートを羽織り、前を開ける。中はチャコールの薄手ニット。光を吸う色合いが落ち着きを作る。次に濃紺のスラックスを合わせ、裾の落ち方を確かめる。足元は黒のレザースニーカー。派手さはないが、線がきれいだ。

 

 鏡の中の俺は、年相応より一段静かな顔をしていた。近づけば子ども、離れれば大人。狙いどおりだ。

 

 「どうだ」

 

 「……急に大人だね」

 

 レンの言葉に、店員が小さく頷く。サイズ感を微調整して、袖を一折り。時計を一本添えるだけで、全体が締まった。

 

 試着室を出ると、通路の向こうから視線が流れてくるのを感じる。騒がしくはない。ただ、見られている。

 

 「決まりだな」

 

支払いを終え、そのまま買った服に着替えて店を出るとき、ガラスに映る二人を一瞬だけ見る。

レンの柔らかさと、俺の静かな色合いが、ちょうどいいバランスだった。

 

「……レン、ちょっと立ってみろ」

「え? なに?」

 

 通りの端、光のいい場所に立たせてスマホを構える。

 クリーム色のパーカーに淡いブルーのデニム、白いスニーカー。

 作りすぎてないのに、ちゃんと決まっていた。

 

「そんな緊張するな。普通でいい」

「普通が一番難しいんだけど……」

 

 シャッター音が軽く鳴る。

 

「……どう?」

 

 画面を見せると、レンは目を瞬かせた。

 

「これ、俺? なんか雑誌みたい」

「だから言っただろ、似合うって」

 

 照れたように視線を逸らすレンを見て、俺は言う。

 

「次は俺だな」

 

 ネイビーのショートコートを整えて立つと、今度はレンが真剣な顔で構えた。

 

「……はい、撮るよ」

 

 二回シャッターが切られる。

 

「ハヤト、大人っぽい」

 

 撮った写真を見るといい感じだった。

 

「このまま街でぶらぶらしようぜ?」

「うん、いいね」

 

俺たちは街へと繰り出した。

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