※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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121話 執事服

 二学期初日の放課後は、教室を出た瞬間から空気が軽かった。みんな文化祭の話で頭がいっぱいで、廊下の声がいつもより高い。

 

 俺は鞄を肩にかけて、レンを見る。

 

「行くぞ、レン」

「……うん」

 

 そこへ、少し離れたところから恵が近づいてきた。

 

「ハヤトさん。買い出し、今日のうちに済ませてしまいましょう」

「分かった」

 

 日和も横から顔を出す。

 

「私たちのクラスも、たこ焼きの消耗品いるし! 一緒に行こ!」

 

 恵が頷く。

 

「ええ、日和。合流した方が効率がよろしいですわ」

 

 ──そのタイミングで、背筋の伸びた足音が混ざる。

 

「……遅れてすみません」

 

 命だった。声はいつも通り。表情も読みにくい。けど、俺の前で止まる間が、ほんの少しだけ長い。

 

「命、来たな」

「はい……ハヤトさん」

 

 短い「はい」。それだけで、今日はちゃんと来るって決めてきたのが分かる。

 

 俺たちは駅前の商業施設まで歩いた。人の視線は相変わらず寄る。男子が少ないせいもあるし、制服の集団は目立つ。けど、恵が前に立つと、不思議と流れが整う。

 

「まず、消耗品ですわ。次に衣装。最後に食材関係——日和のクラス分は、別会計で管理しますの」

「さすが恵さん!」

 

 日和が素直に感心する。

 レンが小さく言った。

 

「……迷わないの、助かる」

「当然ですわ」

 

 恵はさらっと言う。こういうときの恵は、迷いを許さない。

 

 文具店で、養生テープ、手袋、メモ用紙、ペン。俺は必要な分だけカゴに入れる。レンは同じ商品でも、なぜか一番コスパがいいやつを迷わず選ぶ。

 

「レン、詳しいな」

 

「……前にやった。学級委員が押しつけてきた」

 

 言い方は淡々としてるのに、少しだけ恨みが混じってて笑いそうになる。

 

 次は衣装コーナーのある店へ向かった。エスカレーターに乗る直前、命が俺の袖を軽く掴む。迷いみたいな一瞬の間のあと、いつも通りの丁寧な声。

 

「……あの、ハヤトさん」

「どうした」

「二人の執事服、ですけれど……買っておきたいです」

 

 俺は一拍置いた。

 

「俺が買う」

 

 短く返すと、命の目が一瞬だけ揺れる。息を吐く間が少し長い。

 

「……私が買います」

「命」

「私に買わせてください」

 

 珍しく命の押しが強い

 恵が横で小さく微笑んだ。

 

「変わりましたわね」

 

 日和は目を輝かせる。

 

「命さんが選ぶ執事服、絶対かっこいいやつ!」

 

 レンが小さく頷く。

 

「……僕も、いるの?」

「いるだろ」

 

 俺が言うと、レンは一瞬だけ困った顔をして──すぐ戻した。

 

「……面白そうなら、いい」

 

 衣装売り場は明るくて、鏡が多い。執事服のコーナーに近づいた瞬間、店員の視線が俺とレンに集まった。すぐに笑顔で寄ってくる。

 

「いらっしゃいませご試着をご希望ですか?」

「はい」

 

 命が先に答えた。落ち着いてて、隙がない。

 

「執事服を二着。サイズを見たいです。……この二人です」

 

 店員が「かしこまりました」と言って、俺とレンを見比べる。

 

「では採寸から――」

 

 店員に案内されて、俺とレンはメジャーを当てられた。胸、肩、袖、ウエスト。手際がいい。周りの視線を集めないように、声も動きも最小限で進めてくれる。

 

 命は少し離れたところで、ラックを見ながら待ってた。落ち着いた顔のまま、指先だけが布地の端を確かめている。

 

「ありがとうございます。では仮のサイズで一着ずつご用意しますね。先にこちらの方からご試着を」

 

 店員がレンにハンガーを渡して、試着室のカーテンを開ける。

 

 レンが中へ入るのを見送ったところで、俺たちは試着室の前に下がった。

 試着室の前で待つ間、恵がすっとスマホを取り出した。目がきらっとする。珍しい。

 

「撮影、いたしますわ」

 

 日和が即反応した。

 

「え、いいの!? やった! 絶対撮る! レン、ほら、後で一緒に!」

 

 レンが一瞬だけ目を逸らして、いつもの小さい声。

 

「……僕、写りは得意じゃない」

「だいじょぶ! 盛れる角度探すから!」

 

 恵が上品に頷く。

 

「ええ。撮りますわ」

 

 先にレンが出てきた。黒のベストが似合う。普段より輪郭が締まって見える。

 

「レン! やば、超いい!」

 

 日和の声が跳ねる。レンは「僕」を崩さず、照れたみたいに小さく返す。

 

「……うるさい」

 

 恵がすぐにカメラを構えた。

 

「レンさん、こちらを向いて。はい、背筋を少しだけ——よろしいですわ」

 

 シャッター音が軽く鳴る。

 

 写真を確認した瞬間、日和が跳ねた。

 

「やば! これ、文化祭の宣伝に使お! SNSにも上げよ! 絶対人来る!」

 

 恵も珍しく乗り気で、スマホを持ったまま頷く。

 

「ええ。出しましょう。クラスの出し物ですもの。告知は必要ですわ」

 

 レンが小さく覗き込んで、ぽつり。

 

「……僕、こういうのは、ちょっと楽しい」

 

 言ったあとで気づいたみたいに目を逸らすけど、口元はほんの少しだけ緩んでる。

 命は一拍だけ置いた。表情は変わらない。でも、息を吐く間が少し長い。

 

「……大丈夫、でしょうか」

「大丈夫」

 

 俺は短く返す。

 

「出すなら、ルールも一緒に載せる」

 

 恵がすぐに拾う。

 

「整理券、時間枠、撮影のマナー、列の導線。全部、告知文に入れますわ」

「それ!」

 

 日和が勢いよく頷く。

 

「“来てね!”だけじゃなくて、“こうしてね!”も書く!」

 

 命が小さく頷いた。

 

「……承知しました」

 

 俺はそれだけ確認して、恵を見る。

 

「投稿、任せる」

「ええ、ハヤトさん」

 

 恵は上品に笑う。

 

「一番見栄えの良いものを選んで、きちんと文章を整えて出しますわ。——当然ですけれど、盛りますの」

「盛るな。嘘はダメ」

「嘘ではなく、品良く見せるのですわ」

「それは……まあ、いい」

 

 日和がケラケラ笑って、スマホを握りしめた。

 

「じゃあ私も、たこ焼きの方の宣伝作る! 負けない!」

 

 レンが小さく言う。

 

「……負けるとかじゃなくて、流れを作るんだろ」

「レン、急に賢い!」

「……僕はいつも賢い」

 

 その返しが小さすぎて、また笑いが起きた。

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