※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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124話 文化祭後片付け

 文化祭が終わった。

 

 あれだけ騒がしかった校舎が、夕方になると急に静かになる。BGMが消えて、呼び込みの声が消えて、残るのは足音とガムテープを剥がす音だけだ。

 

 俺は教室に戻った。まだ執事服のまま。着替える気にならない。今は片付けの方が先だ。

 

「ハヤト様、お疲れさまでした!」

 

 クラス委員が深く頭を下げる。

 

「お疲れ」

 

 短く返して、机の上を片付け始めた。紙コップ、メニュー札、整理券の残り。全部、元の教室に戻すためのゴミと道具だ。

 

 レンが段ボールを抱えて運んできた。

 

「……僕、裏、まとめる」

「頼む」

 

 レンは黙って頷いて、手際よく角を揃えて詰めていく。こういうときのレンは強い。余計な言葉がない分、作業が早い。

 

 命は黒板の前に立って、掲示物を一枚ずつ剥がしていた。テープが残らないように、角から丁寧に。指先の力だけで、きれいに剥がしていく。

 

「命、無理すんな」

「……無理は、していません」

 

 いつもの返事。だけど今日は、その「……」が短い。疲れてるのを認めたくないだけだ。

 

 俺は黙って、命が剥がしやすいように次の紙の角を少し浮かせた。

 

 命が一拍置いて、小さく言う。

 

「……ありがとうございます」

「そう」

 

 それだけでいい。

 

 教室の外から、担任の声が聞こえた。

 

「各クラス代表、体育館に集合! 売り上げ報告と表彰な!」

 

 空気が一瞬だけ変わる。片付けの手は止まらない。でも、耳だけがそっちへ向く。

 

 クラス委員が俺を見る。

 

「ハヤト様、行けますか?」

「俺が行く」

 

 短く返すと、レンが小さく言った。

 

「……僕も、行く」

「来い」

 

 命が一歩近づいて、丁寧に言う。

 

「……私も、ご一緒します」

 

 体育館は、さっきまでの熱が薄く残ってた。クラスごとの代表が前に並び、先生たちが紙を持って話している。舞台の横に、でかいホワイトボード。

 

『売り上げランキング』

 

 そこに、次々と数字が書かれていく。

 

 最初は接戦だった。焼きそば、クレープ、ドリンク。どれも行列ができてたのを見た。

 

 でも、途中から空気が変わった。

 

 先生が一度、咳払いしてから言う。

 

「……えー、今年の一位は——」

 

 紙を確認して、もう一度確認して、笑う。

 

「ぶっちぎりです。圧倒的です」

 

 体育館がざわつく。

 

「一位、1年A組。執事&メイド喫茶」

 

 瞬間、歓声。拍手。どよめき。

 

「え、マジ!?」

「強すぎ!」

「そりゃそうだろ!」

 

 俺は顔を動かさない。予想してた。拡散もした。撮影OKもした。整理券も回した。全部、積み上げた結果だ。

 

 レンが小さく息を吐いた。

 

「……やっぱり」

 

 俺は短く返す。

 

「そうなる」

 

 舞台に上がって、表彰状を受け取る。クラス委員が笑顔で頭を下げる横で、俺は必要な礼だけする。

 

 戻る途中、先生が言った。

 

「ちなみに二位との差、かなりあります。……圧倒的一位です」

 

 またどよめきが起きる。

 

 体育館を出ると、廊下で待ってたクラスメイトが俺たちを見つけて叫んだ。

 

「ハヤト様! 一位です!」

「レン様も! やりました!」

 

 レンが少しだけ困って、でも小さく頷く。

 

「……お疲れ」

 

 俺は言う。

 

「片付け戻るぞ」

 

「はい!」

 

 教室へ戻る。片付けの続き。机を戻して、床のテープ跡を拭いて、ゴミ袋を縛る。

 

 命が黒板を最後に一度だけ見て、息を吐く。

 

「……終わりました」

「終わったな」

 

 俺がそう言うと、命が俺の隣に来る。腕は組まない。でも、ぴったり。今日の文化祭みたいに、近いのが当たり前になってる。

 

 命が小さく言った。

 

「……圧倒的、でした」

「お前が服買ったおかげだな」

 

 俺は冗談じゃなく言う。命が整えた形が、客を呼んだ。

 命は一拍置いて、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「……そう言っていただけると、救われます」

「事実」

 

 短く返すと、命は「はい」とだけ頷いた。

 

 教室の窓の外は、もう夕方だった。文化祭の熱が消えていく。その代わりに、残るものがある。

 

 派手な一日だった。でも、内側は崩れなかった。

 

 それが、一番でかい収穫だった。

 教室の隅に積んだゴミ袋を見て、俺は短く言った。

 

「最後。運ぶぞ」

「……僕、持つ」

 

 レンがすぐ動く。軽く見えるのに、持つと重い。紙コップと段ボールと、湿った布の匂いが混ざってる。

 

 命は黒板消しでチョークの跡を落としていた。丁寧に、一度で終わらせる。そういうやり方。

 廊下に出たところで、スマホが震えた。

 恵から。

 

『圧倒的一位、おめでとうございますわ。こちらも片付けに入りました。余っているたこ焼き、少し持って行きます』

 

 俺は短く返した。

 

『助かる。こっちも片付け中』

 

 ゴミ捨て場まで往復して、戻る。教室に入った瞬間、クラスの空気がまた少しだけ明るくなった。

 

「ハヤト様! 表彰状、見せて!」

「あとで」

 

 俺は紙を机の上に置くだけにした。騒ぎすぎると、片付けが終わらない。

 

 レンが小さく言う。

 

「……早く終わらせた方が、楽しい時間増える」

「正しい」

 

 俺が返すと、クラスが「確かに!」って一斉に動き出す。こういうとき、レンの一言は効く。

 

 そのタイミングで、教室の扉が開いた。

 

「お邪魔しますわ」

 

 恵が入ってくる。手には袋。後ろから日和も顔を出した。

 

「片付け終わってる!? 早っ!」

「まだ」

 

 俺が言うと、日和が袋を掲げる。

 

「じゃーん。たこ焼き、余り! 差し入れ!」

 

 恵が上品に頷く。

 

「一位のお祝い、ということで。——あ、命さん、こちらも」

「……ありがとうございます、恵さん」

 

 命が小さく頭を下げる。恵は命に「さん」を付ける。そこは崩さない。

 

 日和が俺を見てニヤッとする。

 

「ハヤトさん、文化祭の王様だったね。廊下、ずっと悲鳴だった」

「うるさかった」

「それが文化祭!」

 

 日和は笑って、レンにだけ呼び捨てで言う。

 

「レン、手伝ってたの見たよ。執事のままたこ焼き焼くの、反則だった」

 

 レンが小さく咳払いした。

 

「……僕は、暇だっただけ」

「嘘。楽しそうだった」

「……まあ」

 

 その“まあ”が出た時点で、認めてる。

 

 恵が俺を見る。

 

「投稿の反応も、すごいですわ。『整理券制で助かった』という声が多いですの。ハヤトさんの条件、正解でした」

「そう」

 

 俺は短く返す。正解かどうかは、結果が出る。

 

 命が、片付けの手を止めずに言った。

 

「……外が騒いでも、崩れませんでした」

 

 俺は命を見る。

 

「命が整えたからだ」

 

 命は一拍置いて、ほんの少しだけ息を長く吐いた。

 

「……はい」

 

 その返事は軽い。今日の一日が、命の中でちゃんと“良い日”になってる。

 

 クラス委員が手を叩いた。

 

「よーし! 片付け終わったら、差し入れ食べながら反省会! 表彰状も写真撮ろ!」

「撮りすぎるな」

 

 俺が言うと、笑いが起きた。

 

「分かってるー!」

 

 机が元に戻る。床が見える。ゴミ袋が消える。教室が“学校”に戻っていく。

 

 最後に、担任が戸口から顔を出した。

 

「二年A、終わったか? ……よし。解散。気をつけて帰れ」

「ありがとうございました!」

 

 クラスが一斉に頭を下げる。俺は礼を最低限で済ませた。

 

 帰り支度をして、廊下に出る。

 

 命が、当然みたいに隣に来る。腕は組まない。でも、ぴったり。

 

「……ハヤトさん」

「ん」

「今日は……楽しかったです」

 

 命が「楽しかった」と言うのは、簡単じゃない。だから刺さる。

 

「俺も」

 

 短く返すと、命は小さく頷いた。

 

「……はい」

 

 後ろから日和の声が飛ぶ。

 

「ハヤトさん! 命さん! また写真見せてね!」

「恵さんもね!」

 

 恵が上品に笑って手を振る。

 

「ええ。今日の記録は、きちんと残しておきますわ」

 

 レンが小さく付け足す。

 

「……僕も、あとで見る」

 

 そしてすぐ、いつもの静かさに戻る。

 

 校門へ向かう道。夕方の光が長く伸びる。

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