※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

14 / 238
14話 ダブルデート

 カップの底が見え始めた頃、玲奈がストローをくるりと回しながら、ふと思い出したように顔を上げた。

 

「ねえ、二人ってこのあと時間ある?」

 

 軽い調子で投げられた問いに、レンが一瞬だけ俺を見る。確認するみたいな視線。俺は肩をすくめて、うなずいた。

 

「俺は大丈夫だ」

 

 それを合図にしたみたいに、レンも小さく息を吸ってから答える。

 

「……うん、ある」

 

 玲奈の表情が、待ってましたと言わんばかりに明るくなる。

 

「よかった。じゃあさ、近くにゲーセンあるんだけど、行かない? お茶だけじゃもったいないし」

 

 提案は押しつけがましくなくて、断られても引ける余地を残している。まぁ引くつもりもないし何ならベットまで行くつもりだ。

 レンの方を見ると少し悩んでいた。さすがに急すぎたかと思っていると。意を決したように顔を上げた。

 

「……行く」

「決まりだね」

 

 玲奈がぱっと笑って立ち上がる。もう一人の女性、澪も、楽しそうに頷いた。

 

「じゃ、出よっか」

 

 店を出る準備をしながら、俺は内心で思う。

 いい流れだ。

 

 ゲーセンに入った瞬間、音と光が一気に押し寄せてきた。電子音、歓声が混ざり合って、さっきまでのカフェとは別の世界だ。

 

「最初、あれ行こうか」

 

 俺が指さしたのは、奥に並ぶプリクラ機だ。派手な装飾の中に、やたら“盛れる”と主張の強い文字。

 

「え、いきなり?」とレンが小声で言う。

 でも、玲奈が笑って背中を押した。

 

「いいじゃん、記念。最初に撮っとこ」

 澪も頷く。

 

 流れで四人、ブースに入る。カーテンが閉まると、外の喧騒が少し遠のいた。

 立ち位置を決めるだけで、レンはぎこちなく足と手が同時に動いてる。

 

「レン、真ん中でいいよ」

「え、僕?」

 

 俺が言うと、二人が自然に左右に入った。俺は端でカメラの位置を確認する。画面に映ると、レンの緊張がそのまま顔に出ていて、思わず笑いそうになる。

 

「はい、三秒前でーす」

 

 カウントが始まる。

 レンは必死に笑おうとして、結果ちょっと硬い。レンらしい。

 フラッシュ。

 次のカットでは、玲奈がピースを出し、澪さんは少し顎を引いてクールに決める。俺は肩の力を抜いて、指でハートマークを作る。

 

 最後のシャッターが切れた瞬間、ブースの中に小さな笑いがこぼれた。

 

「思ったより普通だ……」

 レンがほっとした顔で言う。

 

「普通が一番だろ」と俺は言う。

 画面に並んだ写真を見て、レンも二人も、同じところで笑った。

 

 プリクラを出たあたりで、レンの肩から余計な力が抜けているのが分かった。

 さっきまで少しぎこちなかった動きが、今は自然で、視線も前を向いている。いい調子だ。

 

「ねぇ動画撮っててもいい?」

「いいね、あとで俺のルネットに送ってよ」

 

 そう言って玲奈は動画をまわし始めた。

 

 次に足を止めたのはクレーンゲームの列だった。

 澪さんが何気なく並びを眺め、レンの視線が一台に吸い寄せられているのを見逃さない。

 

「……あれ、好きそう」

 澪さんが、ぽつりと言う。

 

 レンが見ていたのは、棚の奥に引っかかるように置かれた、小さな動物のぬいぐるみだった。色合いも表情も素朴で、確かにレンの雰囲気に合っている。

 

「え、分かります?」

 レンが驚いたように言うと、澪さんはもうコインを入れていた。

 

「こういうのは、持ち方が大事なんだよ」

 

 操作は無駄がなかった。アームの位置を一度で決め、ためらいなくボタンを押す。

 がしゃん、と音がして、ぬいぐるみが少し動く。

 

「……もう一回」

 淡々と、でも確信を持った声。

 

 二回目で、ぬいぐるみはすとんと落ちた。

 

「え」

「すご……」

 

 レンが言葉を失い、玲奈が思わず拍手する。

 澪さんは表情をほとんど変えず、ぬいぐるみを取り出してレンに差し出した。

 

「はい。視線、これに釘付けだったから」

 

「い、いいんですか?」

「うん。似合うし」

 

 レンが受け取った瞬間、ぱっと表情が明るくなる。

 その反応を見て、澪さんは少しだけ口角を上げた。

 

 ゲーセンの休憩スペースで、四人並んで腰を下ろしていた。

 クレーンゲームの戦利品が足元に転がっていて、さっきまでの賑やかさが少しだけ残っている。

 

 俺は一度レンを見る。

 レンは小さくうなずいた。――任せる、って合図だ。

 

「今日さ、正直に言うけど」

 

 俺は視線を二人に向ける。

 

「俺もレンも、すごく楽しかった。

 それで……よかったらなんだけど」

 

 一拍置いてから、続ける。

 

「俺とレンのパートナーになってほしい」

 

 俺が言葉にした瞬間、空気が一拍、遅れた。

 

「俺は玲奈とパートナーになりたいな」

 

 玲奈はきょとんと目を瞬かせてから、次の瞬間には信じられないものを見るみたいな顔になった。

 

「……え、ほんとに?」

 

 疑うというより、確認する声だった。

 それも、何度も胸の奥で想像したことが、急に現実になったときの。

 

「冗談じゃないですよね?」

「本気だよ」

 

 そう答えると、玲奈は思わず小さく声を漏らした。

 

「……うそ、だってさ……ただでさえ男の人少ないでしょ?」

 

 おれもレン以外の男性はほとんど見たことがない。

 

「その上で、こんな……反則みたいな顔の人に、真正面から″パートナーになって″とか言われるとか……本当に嬉しい」

 

 澪の方を見ると、彼女は一瞬遅れて反応していた。

 驚きが、ゆっくり感情に変わっていくタイプだ。

 

「……いいんですか私で」

 

 静かな声だったけど、視線は真っ直ぐだった。

 

「澪さんの事いいなって思ったんだ」

 

 レンがそう言った瞬間、澪の表情がふっと緩む。

 

「……ありがとうございます」

 

深く息を吐いてから、控えめに、でもはっきりと笑った。

 

「選んでもらえるって……嬉しいですね」

 

 レンの方もうまくいってるようだ。

 

 告白の言葉が落ちたあと、すぐに誰も声を出さなかった。

 遠くでゲームの電子音が鳴っているのに、ここだけ時間が一拍遅れたみたいだった。

 

 玲奈が周囲を見回してから、声を落とす。

 

「……ここ、人多いね。ちょっと視線集まってるかも」

 

 確かに、通路を行き交う人の中に、ちらちらとこちらを見る視線が混じっている。

 四人の空気が変わったのは、自分でも分かるくらいだった。

 

「じゃあ、場所変えようか」

 

 俺が言うと、澪がすぐにうなずいた。

 

「はい。静かなところの方が、落ち着けそうです」

「じゃあ俺いい場所知ってますよ」

 

 もちろんラブホテルなんだけどな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。