夜。自室でスマホを開いて、入金を確認した。
46万614円。
66万が、こうなる。
源泉と事務所の取り分が引かれても、思ったより残っていた。
明細を下にスクロールすると「WEB使用料」の文字が見えた。
ああ、そっちが効いてる。
「……結構、稼いだな」
口に出した瞬間、すぐに画面を閉じる。
浮かれると雑になる。
メモを開いて、買う相手の名前を並べた。
命。
恵。
澄乃さん。
綾乃さん。
由紀子姉さん。
千佳。
陽菜乃さん。
千鶴さん。
母さん。
執事とメイドの皆さん。
多い。
でも、中途半端にはしたくない。
俺はレンに送った。
隼人
『レン、明日時間ある? 買い物付き合って』
返事はすぐ来た。
蓮
『僕、行ける。どこで会う?』
隼人
『駅。昼』
蓮
『了解』
翌日。駅前でレンと合流した。
「お疲れ」
レンが言う。
「お疲れ」
俺が返す。
「今日は、かなり買う?」
レンが聞く。
「買う」
俺は短く言う。
「みんなには内緒だ」
レンが頷いた。
「うん。僕も言わない」
百貨店に入る。冬の匂いがした。
包装紙の音がして、紙袋を持った人が行き交う。
レンが言う。
「まず命だよね」
「まず、本命」
俺が言う。
「コート」
レンが一瞬だけ目を丸くした。
「いきなり重い」
「先に確保する」
コート売り場は静かだった。布の匂いがする。
俺は迷う前に条件を固める。
「命は、形が綺麗なやつ」
「派手じゃない」
「でも軽くない」
レンが頷く。
「命は長く着るだろ。流行りより、形が綺麗なやつがいい」
「それ」
店員が声をかけてくる。
「贈り物でしょうか」
「そうです」
俺は短く答える。
「普段使いできる」
「上品で、主張しすぎないもの」
何着か出てくる。
色は落ち着いていて、形も整ってる。
俺は一着だけ手に取って、袖の作りを見る。
軽いのに、芯がある。
「これ」
レンが触って頷いた。
「うん。命に合う」
「静かだけど、強い感じ」
「それでいい」
俺は決めた。
「これにします」
店員が言った。
「お渡しは本日お持ち帰りと、配送が選べます」
「持ち帰り」
俺は即答する。
レンが小さく言う。
「家に届いたら、バレるもんね」
「そう」
ガーメントに入ったコートを受け取る。
重い。重くていい。
次はアクセサリー売り場。
「命は細いネックレス」
俺が言う。
「派手じゃないやつ」
レンが頷く。
「毎日つけられるやつだね」
細いチェーン、小さなトップ。主張しないのに、品がある。
「これ」
俺が一つだけ指す。
「うん。命に合う」
レンが言う。
「目立たないのに、ちゃんとしてる」
「それでいい」
俺は決める。
「これにします」
恵はブローチ。
場に合わせて使えるやつ。格が落ちないやつ。
「これください」
箱を受け取る。
恵は追加で、上質なペンも。
段取りの人には、道具が刺さる。
澄乃さんはマグカップにした。
厚みがちょうどよくて、触っただけで長く使えるのが分かるやつ。
「上質なやつにする」
俺が言うと、レンが頷いた。
「澄乃さん、喜ぶ」
綾乃さんは香水。
甘すぎない、静かな香り。近くにいる人だけが気づく程度。
「香水、いいね」
レンが言う。
「派手じゃないのが、綾乃さんっぽい」
「そう」
由紀子姉さんはキーケース。
千佳は文房具セット。
陽菜乃さんと千鶴さんは、小物を色違いで揃える。
母さんはストール。
現場でも使える落ち着いた色にした。
最後に残ったのは、執事とメイドの皆さん。
「どうする?」
レンが聞く。
「ハンカチとマフラー」
俺は即答する。
「全員分、揃える。消耗品で、でも軽くない」
レンが頷いた。
「毎日使えるし、気持ちが見える」
同じデザインで色だけ違うハンカチ。
マフラーは厚すぎない、仕事の邪魔にならないもの。
「色、合うように分ける?」
レンが言う。
「うん」
俺は短く返す。
「似合う色がある」
数を伝えると、店員がまとめて用意してくれた。
包装が積み上がるほど、俺の中の線が整っていく。
全部選び終わったところで、俺はレンに言った。
「端数まで使い切る。包装もしてもらおう」
レンが小さく笑う。
「気持ちいいね」
「気持ちいい」
執事とメイドの分は個別に包む。
家の分も、渡しやすい形に整える。
会計を終える。
手元に残るのは、コートの重さと、紙袋の重さだけだ。
俺はレンを見る。
「次は」
レンが一拍置いて言う。
「……僕」
「日和だろ」
俺が言うと、レンが小さく頷いた。
「うん」
雑貨フロアに戻ると、空気が少し軽くなる。
並んでいるのは、生活に溶けるものばかりだ。
レンが棚を見ながら言った。
「日和、手が冷たいって言ってた」
「手袋」
俺が短く返す。
「うん」
レンが頷く。
「でも厚いと邪魔かな」
レンは薄手の手袋をいくつか手に取って、指先を動かして確かめる。
動かしやすい。だけど温かい。
「これ」
レンが一つ決める。
「いい」
俺が言うと、レンの肩が少しだけ落ちる。緊張が抜けた合図だ。
店員に渡して、包んでもらう。
箱が閉じられる音が静かに鳴る。
レンが小声で言った。
「……あと、もう一つ」
「何」
「手袋だけだと、すぐ使って終わる。形に残るのも欲しい」
俺は頷く。
「重くしすぎるな」
「うん。重すぎないやつ」
レンが目を動かして、髪留めの棚の前で止まった。
派手じゃない。揺れない。邪魔にならない。
「日和、髪まとめる時ある」
「それでいい」
レンは一つ取って、角度を変えて光を見た。
長く迷わない。でも、雑には選ばない。
「……これにする」
「決めたなら、いけ」
「うん」
レンは店員に言った。
「これ、お願いします」
包みが二つになって、レンの紙袋が一つ増える。
会計が終わって、レンは持ち手を握り直した。
紙袋ひとつなのに、持ち方がやけに丁寧だ。
「……渡すの、緊張する」
「緊張していい」
俺は短く言う。
「ちゃんと選んだ」
レンが頷く。
「うん」
俺は紙袋の持ち手を持ち直して、言った。
「このまま帰る。黙ってれば、バレない」
レンが小さく息を吐く。
「うん。そうだね」
店を出る。冬の空気が冷たい。
紙袋の音が小さく鳴る。
秘密は、隠し場所じゃなくて、顔で守る。
いつも通りの顔で帰って、いつも通りに過ごす。
それだけでいい。
家の門が見えた。
俺は足を止めずに歩いた。
命:細いネックレス …… 48,000円
命:冬のコート …… 120,000円
恵:ブローチ …… 58,000円
恵:上質なペン …… 22,000円
澄乃さん:マグカップ …… 9,000円
綾乃さん:香水…… 18,000円
由紀子姉さん:キーケース …… 19,000円
千佳:文房具セット …… 7,000円
陽菜乃さん・千鶴さん:小物(色違い) …… 16,000円
母さん:ストール …… 18,000円
執事・メイドの皆さん:ハンカチ+マフラー(例:計12名) …… 108,000円
執事:万年筆 ……12000 円
三毛猫ココ:おもちゃ・おやつ……2400円
黒柴こひな:おもちゃ・おやつ……2600円