※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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159話 手取りと買い出し

 夜。自室でスマホを開いて、入金を確認した。

 

 46万614円。

 

 66万が、こうなる。

 源泉と事務所の取り分が引かれても、思ったより残っていた。

 

 明細を下にスクロールすると「WEB使用料」の文字が見えた。

 ああ、そっちが効いてる。

 

「……結構、稼いだな」

 

 口に出した瞬間、すぐに画面を閉じる。

 浮かれると雑になる。

 

 メモを開いて、買う相手の名前を並べた。

 

 命。

 恵。

 澄乃さん。

 綾乃さん。

 由紀子姉さん。

 千佳。

 陽菜乃さん。

 千鶴さん。

 母さん。

 執事とメイドの皆さん。

 

 多い。

 でも、中途半端にはしたくない。

 

 俺はレンに送った。

 

 隼人

『レン、明日時間ある? 買い物付き合って』

 

 返事はすぐ来た。

 

 蓮

『僕、行ける。どこで会う?』

 

 隼人

『駅。昼』

 

 蓮

『了解』

 

 翌日。駅前でレンと合流した。

 

「お疲れ」

 

 レンが言う。

 

「お疲れ」

 

 俺が返す。

 

「今日は、かなり買う?」

 

 レンが聞く。

 

「買う」

 

 俺は短く言う。

 

「みんなには内緒だ」

 

 レンが頷いた。

 

「うん。僕も言わない」

 

 百貨店に入る。冬の匂いがした。

 包装紙の音がして、紙袋を持った人が行き交う。

 

 レンが言う。

 

「まず命だよね」

「まず、本命」

 

 俺が言う。

 

「コート」

 

 レンが一瞬だけ目を丸くした。

 

「いきなり重い」

「先に確保する」

 

 コート売り場は静かだった。布の匂いがする。

 俺は迷う前に条件を固める。

 

「命は、形が綺麗なやつ」

「派手じゃない」

「でも軽くない」

 

 レンが頷く。

 

「命は長く着るだろ。流行りより、形が綺麗なやつがいい」

「それ」

 

 店員が声をかけてくる。

 

「贈り物でしょうか」

「そうです」

 

 俺は短く答える。

 

「普段使いできる」

「上品で、主張しすぎないもの」

 

 何着か出てくる。

 色は落ち着いていて、形も整ってる。

 

 俺は一着だけ手に取って、袖の作りを見る。

 軽いのに、芯がある。

 

「これ」

 

 レンが触って頷いた。

 

「うん。命に合う」

「静かだけど、強い感じ」

「それでいい」

 

 俺は決めた。

 

「これにします」

 

 店員が言った。

 

「お渡しは本日お持ち帰りと、配送が選べます」

「持ち帰り」

 

 俺は即答する。

 

 レンが小さく言う。

 

「家に届いたら、バレるもんね」

「そう」

 

 ガーメントに入ったコートを受け取る。

 重い。重くていい。

 

 次はアクセサリー売り場。

 

「命は細いネックレス」

 

 俺が言う。

 

「派手じゃないやつ」

 

 レンが頷く。

 

「毎日つけられるやつだね」

 

 細いチェーン、小さなトップ。主張しないのに、品がある。

 

「これ」

 

 俺が一つだけ指す。

 

「うん。命に合う」

 

 レンが言う。

 

「目立たないのに、ちゃんとしてる」

 

「それでいい」

 

 俺は決める。

 

「これにします」

 

 恵はブローチ。

 場に合わせて使えるやつ。格が落ちないやつ。

 

「これください」

 

 箱を受け取る。

 

 恵は追加で、上質なペンも。

 段取りの人には、道具が刺さる。

 

 澄乃さんはマグカップにした。

 厚みがちょうどよくて、触っただけで長く使えるのが分かるやつ。

 

「上質なやつにする」

 

 俺が言うと、レンが頷いた。

 

「澄乃さん、喜ぶ」

 

 綾乃さんは香水。

 甘すぎない、静かな香り。近くにいる人だけが気づく程度。

 

「香水、いいね」

 

 レンが言う。

 

「派手じゃないのが、綾乃さんっぽい」

「そう」

 

 由紀子姉さんはキーケース。

 千佳は文房具セット。

 陽菜乃さんと千鶴さんは、小物を色違いで揃える。

 

 母さんはストール。

 現場でも使える落ち着いた色にした。

 

 最後に残ったのは、執事とメイドの皆さん。

 

「どうする?」

 

 レンが聞く。

 

「ハンカチとマフラー」

 

 俺は即答する。

 

「全員分、揃える。消耗品で、でも軽くない」

 

 レンが頷いた。

 

「毎日使えるし、気持ちが見える」

 

 同じデザインで色だけ違うハンカチ。

 マフラーは厚すぎない、仕事の邪魔にならないもの。

 

「色、合うように分ける?」

 

 レンが言う。

 

「うん」

 

 俺は短く返す。

 

「似合う色がある」

 

 数を伝えると、店員がまとめて用意してくれた。

 包装が積み上がるほど、俺の中の線が整っていく。

 

 全部選び終わったところで、俺はレンに言った。

 

「端数まで使い切る。包装もしてもらおう」

 

 レンが小さく笑う。

 

「気持ちいいね」

「気持ちいい」

 

 執事とメイドの分は個別に包む。

 家の分も、渡しやすい形に整える。

 

 会計を終える。

 

 手元に残るのは、コートの重さと、紙袋の重さだけだ。

 俺はレンを見る。

 

「次は」

 

 レンが一拍置いて言う。

 

「……僕」

「日和だろ」

 

 俺が言うと、レンが小さく頷いた。

 

「うん」

 

 雑貨フロアに戻ると、空気が少し軽くなる。

 並んでいるのは、生活に溶けるものばかりだ。

 

 レンが棚を見ながら言った。

 

「日和、手が冷たいって言ってた」

「手袋」

 

 俺が短く返す。

 

「うん」

 

 レンが頷く。

 

「でも厚いと邪魔かな」

 

 レンは薄手の手袋をいくつか手に取って、指先を動かして確かめる。

 動かしやすい。だけど温かい。

 

「これ」

 

 レンが一つ決める。

 

「いい」

 

 俺が言うと、レンの肩が少しだけ落ちる。緊張が抜けた合図だ。

 

 店員に渡して、包んでもらう。

 箱が閉じられる音が静かに鳴る。

 

 レンが小声で言った。

 

「……あと、もう一つ」

「何」

「手袋だけだと、すぐ使って終わる。形に残るのも欲しい」

 

 俺は頷く。

 

「重くしすぎるな」

「うん。重すぎないやつ」

 

 レンが目を動かして、髪留めの棚の前で止まった。

 派手じゃない。揺れない。邪魔にならない。

 

「日和、髪まとめる時ある」

「それでいい」

 

 レンは一つ取って、角度を変えて光を見た。

 長く迷わない。でも、雑には選ばない。

 

「……これにする」

「決めたなら、いけ」

「うん」

 

 レンは店員に言った。

 

「これ、お願いします」

 

 包みが二つになって、レンの紙袋が一つ増える。

 

 会計が終わって、レンは持ち手を握り直した。

 紙袋ひとつなのに、持ち方がやけに丁寧だ。

 

「……渡すの、緊張する」

「緊張していい」

 

 俺は短く言う。

 

「ちゃんと選んだ」

 

 レンが頷く。

 

「うん」

 

 俺は紙袋の持ち手を持ち直して、言った。

 

「このまま帰る。黙ってれば、バレない」

 

 レンが小さく息を吐く。

 

「うん。そうだね」

 

 店を出る。冬の空気が冷たい。

 紙袋の音が小さく鳴る。

 

 秘密は、隠し場所じゃなくて、顔で守る。

 いつも通りの顔で帰って、いつも通りに過ごす。

 

 それだけでいい。

 

 家の門が見えた。

 俺は足を止めずに歩いた。




命:細いネックレス …… 48,000円
命:冬のコート …… 120,000円
恵:ブローチ …… 58,000円
恵:上質なペン …… 22,000円
澄乃さん:マグカップ …… 9,000円
綾乃さん:香水…… 18,000円
由紀子姉さん:キーケース …… 19,000円
千佳:文房具セット …… 7,000円
陽菜乃さん・千鶴さん:小物(色違い) …… 16,000円
母さん:ストール …… 18,000円
執事・メイドの皆さん:ハンカチ+マフラー(例:計12名) …… 108,000円
執事:万年筆 ……12000 円
三毛猫ココ:おもちゃ・おやつ……2400円
黒柴こひな:おもちゃ・おやつ……2600円
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