家の音が落ちて、ようやく“今日が終わる”感じがした。
「命」
命が俺を見る。
「……はい」
「今日、よかったな」
命はすぐに頷かない。
いつもの間があって、それから小さく頷く。
「……はい。皆さまが笑っていて、安心しました」
「俺も」
言葉は短くていい。
でも、これだけは言う。
「命。誕生日、おめでとう」
命の視線が揺れて、すぐに落ち着く。
「……ありがとうございます」
俺は続ける。
「命がいると、安心する」
命の指先が、俺の袖を軽く摘む。
強くはしない。逃がさない程度。
「……私も」
命が言う。
「隼人がいると、落ち着きます」
「それで十分」
命は小さく息を吐いて、ほんの少しだけ口元をやわらかくした。
「……はい」
俺は頷く。
「今日」
「命が笑ってたの、見えた」
「……少しだけです」
「命が笑顔だと俺も笑顔になる」
「私もハヤトさんが笑顔だと嬉しいです」
俺は声を落とす。
「俺は、それで落ち着いた」
命の指先が、膝の上で小さく揃う。
「……隼人さんも落ち着いていましたか」
「命がいると、帰る場所って感じがする」
命は一拍置く。
それから、いつもより小さな声で言った。
「……私もハヤトさんがいると……戻れます」
言い切るのに、少しだけ勇気が要る声音。
だから俺は、すぐ返す。
「なら、ずっと戻れる場所を作って待ってる。俺が、そうする」
命の目が、ほんの少しだけ揺れて、落ち着く。
「……ありがとうございます」
「礼はいらない」
俺は言う。
「ただ、覚えといて」
「……はい」
「俺は命を大切にする」
命が息を止めて、吐く。
小さく頷いて、ようやく言った。
「……私もハヤトさんを、大切にします」
その言葉が、やけに真っ直ぐで。
俺は視線を逸らさずに頷く。
「それでいい」
命の指先が、俺の袖を軽く摘む。
強くない。けど、離さない意思だけがある。
「……もう一つ」
命が小さく言う。
「誕生日、おめでとうって……言ってくれて、嬉しかったです」
「言うに決まってる」
「……はい」
短い返事。
でも、灯りより温かい。
俺は命の歩幅に合わせて言う。
「戻ろう」
「……はい」
命が腕を組んでくる、今日は俺の肩に頭を預ける。
言葉はもう足りてる。
みんながそれぞれ包みを抱えて、リビングの空気がほどけていく。
千佳の声だけが少し跳ねて、すぐ落ち着く。
俺は席を立って、廊下へ出た。
次の段取りを頭の中で整えるため。
足音が一つ、後ろに重なる。
「ハヤトさん」
振り返ると、恵がいた。
ツリーの灯りが背中に当たって、輪郭が少し柔らかく見える。
「どうした」
「少しだけ」
恵は言う。
「お話を」
「うん」
廊下の窓辺に寄る。
家の中は静かだ。声を落とせば、誰の邪魔にもならない。
恵が先に言った。
「今日の流れ、綺麗でしたわ」
「恵が整えた」
「私は、整えただけ」
恵は上品に微笑む。
「動いたのは、ハヤトさんですわ」
俺は息をひとつ吐く。
「……最近、用事が増えてたの、分かってたろ」
「ええ」
恵は頷く。
「だから深掘りしませんでしたの。揺れが増えると、命が困ります」
その言い方が、恵らしい。
段取りのためじゃない。命を守るための線。
「助かった」
俺が言うと、恵の目が一瞬だけ動く。
表情は崩れないのに、受け取ったのが分かる。
「それで」
恵が続けた。
「今後は、家の中の共有だけは増やしてくださいませ。驚きが先に立つと、余計な揺れが出ますわ」
「分かった」
「必要な分は言う」
恵が小さく頷いた。
「十分ですわ」
沈黙が落ちる。
嫌な沈黙じゃない。確認の沈黙。
恵が、声をさらに落として言う。
「ハヤトさん、今日、命が落ち着いていました。それが、何よりですわ」
「うん」
「……私も」
恵は言葉を選ぶ。
「あなたが戻ってくる場所が、ここにあるのは、安心しますの」
俺は恵を見る。
言葉が真っ直ぐだから、返事も真っ直ぐでいい。
「恵も、ここにいる」
「ええ」
恵の声は変わらない。
「私はここにおります。席も、役目も。勝手に抜けたりしませんわ」
「それなら」
俺は短く言う。
「俺も、抜けない」
恵が目を細めた。
「良い返事ですわ」
その一言で、胸の奥が軽くなる。
恋だとかじゃない。
背中を預けられる相手がいる、っていう安心。
恵と並んで、リビングへ戻る。
家族との時間も終わり、今度は恋人の時間だ。
今日も今日とて命と恵と愛を確かめ合っている。
すでに、かわりばんこで五回戦目だ。
「はぁ……はぁ……ん、今日の命さんは凄いですわね」
「は♡っっ!ぁ♡っ♡♡んん♡ん♡あ!あぁあ♡あ!ん♡♡っんんああっぁぁ!ん♡♡っっ」
恵が言う通り、今日の命はいつにも増して激しい。
腰振りのスピードが段違いだ。
「はぁ♡♡っ♡…っ……!♡…♡♡……ああ…っっ!っ…っあ…っあっ!んっうっうんん!んあぁ♡っぁ…♡っ……あぁっあぁっ…♡♡…っぁ♡♡っ!」
命の嬌声が部屋に響く。セックスとは言え命がこんな大声を出すのは珍しい。
「ぁんん!あ゛あっ♡ぁんんあ♡♡ぁっ!ハヤトさん気持ちいいですか♡?」
「気持ちいい、もうイってしまいッそうだ」
「イってください。私でもっと気持ちよくなってください♡!はぁっ♡ぁあ!ぁっん♡っ♡♡んっ!」
ここまでハッスルしているのは、やっぱり今日一日嬉しかったのっかもしれない。
まぁ喜んでもらえたのならよかった。
さすがのハイペース命はたまらずイってしまう。
命の体が一瞬止まりビクンビクンと跳ねるが、すぐにまた動き出す。まだイってる最中なのに俺をイかせようと必死に腰を振る。
「命!イくぞ!」
「あっっ♡ぁ!んっ…っ!来てください♡!私の中にたくさん出してください♡ぁ♡♡!あっ♡っぁぁあっっぁあぁんん!」
俺が絶頂すると命もまた絶頂した。
魂ごと抜け出て行くかのような快楽がそこにはあった。
命もあまりにも気持ちいのか、めったに見せないあヘ顔を見せていた。
「……ハヤトさん……私、今とても幸せです」
「俺も。愛してるよ命」
「はい私も愛しています」