※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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184話 番宣の話が来た

 放課後、鞄を肩にかけたところでスマホが震えた。

 画面には浅野さんの名前。

 

「はい、ハヤトです」

 

『ハヤト君、今いい? 番宣の話が来た』

 

 俺は廊下の端に寄る。

 レンと日和が少し離れて待ってくれた。

 

「内容は?」

『放送前の共演者トーク。三人並びで一本。作品紹介と現場の話が中心。無茶な企画じゃない』

「日程は」

『3月第1週の土曜、夕方入り。収録は長くて二時間。学校にはかからないように組める』

 

 条件は悪くない。

 むしろ、今の流れなら受けるべきだ。

 

「受けます」

『即答、助かる。先方には私から“出演OK”で返しておく』

「お願いします」

『あと、事前にコメント案だけ作っておいて。“斎音の見どころ”を短く二つ。これは明日まで』

「分かりました」

『いい返事だった。じゃ、また連絡する』

「ありがとうございます」

 

 通話を切る。

 画面が暗くなって、廊下の音が戻ってきた。

 

 日和がのんびり近づく。

 

「なんの電話〜?」

「番宣。共演者トーク」

 

 レンが先に笑う。

 

「いいじゃん。ハヤト、ああいうの向いてる」

「喋りすぎないようにする」

 

 恵が上品に頷いた。

 

「ちょうどよろしいですわ。放送前に“作品の空気”を伝えるには、最適ですもの」

 

 命は静かに、でもはっきり言った。

 

「……ハヤトさんなら、大丈夫です」

 

 俺は短く頷く。

 

「やることは同じだ。役に嘘を入れない」

 

 スマホをポケットにしまって、階段へ向かう。

 番宣も本編の一部だ。

 受けると決めたなら、きっちり通す。

 

 階段を下りながら、俺は頭の中でコメントを組み立てる。

 短く、分かりやすく。

 盛らない。濁さない。

 

 斎音の見どころは二つ。

 ひとつは「順番」。

 もうひとつは「独りで勝たない判断」。

 

 昇降口で靴を履き替えると、外はもう薄暗かった。

 冬の終わりの空気は冷たいのに、どこか軽い。

 

 駅までの道で、もう一度スマホが震える。

 浅野さんからメッセージ。

 

『先方にOK返した。衣装は制服寄りで相談中。事前コメント、明日18時までで』

 

 俺は歩きながら返す。

 

『了解。2案送ります』

 

 すぐ既読がついて、短く返ってくる。

 

『助かる。ハヤト君は“言い切る短文”で』

 

 駅のホームで、俺はメモアプリを開く。

 人の流れの中で、親指だけ動かした。

 

 ――斎音は、派手に勝つ人じゃない。

 ――焦る場面で、順番を守って街を戻す人だ。

 

 悪くない。

 でも、まだ固い。

 

 電車に乗って、窓に映る自分を見る。

 言葉は、読んだ時より口に出した時の方が正直だ。

 小さく声にして、削る。

 

「勝つより先に、街を戻す。それが斎音です」

 

 これなら入る。

 もう一つ。

 

「一人の正解より、全員で辿り着く正解を選ぶ。」

 

 指を止めて、保存する。

 必要な分だけ、できた。

 

 家に着く頃には夜になっていた。

 玄関の灯りの下で、コートのポケットからスマホを出す。

 浅野さんへ下書きを送信。

 

『①勝つより先に、街を戻す。②一人の正解より、全員で辿り着く正解を選ぶ。』

 

 数分で返信が来る。

 

『それでいこう』

 

 短い文なのに、背中が軽くなる。

 受けると決めた仕事が、ひとつ形になった感じがした。

 

 リビングに入ると、母さんが温かいお茶を置いてくれる。

 

「おかえり。今日は遅かったわね」

「番宣の連絡が入った」

「受けたの?」

「受けた」

 

 母さんは嬉しそうに頷く。

 

「いいじゃない。先に声が届くと、見始めるきっかけになるもの」

 

 俺は湯気の立つ湯呑みを持つ。

 指先が温まる。

 

「やることは同じだ」

「ええ」

 

 母さんは笑う。

 

「あなたは、同じを積めるのが強いのよ」

 

 その言葉を聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。

 机に戻って、明日の予定を開く。

 放課後、学校。

 そのあと短い打ち合わせ。

 週末、撮影。

 その先に番宣収録。

 

 詰まっている。

 でも、順番は見えている。

 

 俺は手帳の端に、短く書いた。

 

 番宣も本編。嘘を入れない。

 

 ペンを置く。

 窓の外は静かな夜だった。

 明日は、また一段進める。

 

 そう思ったところで、スマホが短く震えた。

 画面には、グループのトーク。

 

 最初に来たのは日和だった。

 

『今日の風、冷たすぎ〜。みんな生きてる?』

 

 すぐに恵が返す。

 

『生きておりますわ。日和、語彙が雑ですの』

 

 間を置かず、レン。

 

『僕は生きてる。今、あったかいお茶で復活中』

 

 その流れのあと、命から短く届く。

 

『……ハヤトさん、おつかれさまです』

 

 四人分の温度が、画面の中に並ぶ。

 それだけで、肩の力がひとつ落ちた。

 

 俺は打つ。

 

『生きてる』

 

 日和がすぐ返す。

 

『みんな生きてるね〜』

 

 命は少しだけ間を置いてから、もう一通。

 

『……温かいものを飲んで、早めに休んでください』

 

 命らしい。

 

 俺は湯呑みに残っていたお茶を飲む。

 ぬるくなってるはずなのに、さっきより温かく感じた。

 

『了解。みんなも風邪ひくな』

 

 送ると、日和が最後にまとめる。

 

『はーい。じゃあ明日、いつもの場所で!』

 

 恵。

 

『遅刻は不可ですわよ』

 

 レン。

 

『先に行ってる』

 

 命。

 

『……はい。明日』

 

 画面が静かになる。

 部屋もまた静かになる。

 でも、さっきの静けさとは違った。

 

 一人で詰めていた頭の中に、ちゃんと余白が戻っている。

 俺は机の明かりを落として、椅子から立った。

 

 寝室に移ると二人が先に横になっていた。

 恵が毛布から少しだけ顔を出した。

 

「ハヤトさん、もう初めますの?」

「そうだな、命と恵が良ければ」

「私は……したい、です」

 

 命が頬を染める

 

「好きですわね、ハヤトさんも、命も、そして私も」

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