※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

186 / 238
185話 ルーシッドライダーズの番宣

 土曜の夕方、スタジオ入り。

 外はまだ明るいのに、ビルの中は本番の空気ができていた。

 

 控室のドアを開けると、ひかりが先に座っていた。

 台本に付箋を貼りながら、顔を上げる。

 

「おはよ、参謀」

「その呼び方、現場外で定着したな」

「いいじゃん。分かりやすいし」

 

 紗夜も遅れて入ってきて、ペットボトルを机に置く。

 

「今日は戦わないんでしょ。なら、せめて言葉で勝ってよ」

 

 俺は短く返す。

 

「勝つっていうより、伝える日だな」

 

 メイクさんに呼ばれて、三人でスタジオへ移動する。

 セットはシンプルだった。

 番組ロゴ、作品ポスター、立ち位置マーク。

 余計な装飾がない分、喋りがそのまま出る。

 

 ディレクターが説明する。

 

「今日は前半が作品紹介、後半が共演者トークです。ネタバレは3話まで。変身回数や後半展開は伏せでお願いします」

「了解です」

 

 ひかりと紗夜も頷く。

 

 カメラチェック。

 音チェック。

 ライトが上がる。

 

「では、いきます。――3、2、1」

 

 MCが笑顔で口火を切る。

 

「新作『ルーシッドライダーズ』特集です!今日はキャストのお三方に来ていただきました!」

 

 拍手SE。

 ひかりが明るく手を振る。

 紗夜が軽く会釈。

 俺は短く頭を下げる。

 

 司会が改めて紹介する

 

「本日のゲストは『ルーシッドライダーズ』から、朝霧ひかり役の白石玲さん、獅堂紗夜役の桐谷みさきさん、そして氷室斎音役の天城ハヤトさんです!」

「よろしくお願いします」

 

 最初の質問は王道だった。

 

「まずは、作品の見どころを一言で!」

 

 ひかりが先に答える。

 

「一話から走ります。でも、ただ派手なだけじゃなくて、ちゃんと“守る理由”がある作品です」

 

 紗夜が続く。

 

「アクションは鋭く、ドラマは丁寧に。毎回、終わったあとに一個残る回になってます」

 

 カメラがこちらに向く。

 

「ハヤトさんは?」

 

 俺は息を一つ置いて言う。

 

「一人の正解より、全員で辿り着く正解を選ぶ」

 

 一瞬、スタジオが静かになる。

 MCがゆっくり頷いた。

 

「おお……強い言葉ですね」

 

 ディレクターが小さく手でOKを出す。

 空気がやわらいだところで、MCが笑って続けた。

 

「天城さん、率直に言って……めちゃくちゃイケメンですよね」

 

 スタジオが軽く沸く。

 白石玲がすぐ頷いた。

 

「分かります。カメラが寄ると、さらに映えるんです」

 

 桐谷みさきも笑って続ける。

 

「顔立ちがきれいなのはもちろんなんですけど、目線がやさしいから、かっこよさが強すぎないんです」

 

 MCが手を叩く。

 

「なるほど、ただの“イケメン”で終わらない、と」

 

 天城は少しだけ苦笑して、短く返した。

 

「ありがとうございます。見た目に負けないように、芝居で返します」

 

 MCが頷く。

 

「その返しまで含めて、もう斎音ですね」

 

 そのまま次へ進む。

 

 MCがカードをめくる。

 

「ここからは共演者トークです。まずは、現場で“この人すごいな”と思った瞬間から!」

 

 ひかりがすぐ手を上げた。

 

「はい。ハヤトくんです」

 

 スタジオが軽く沸く。

 MCが笑う。

 

「早い!」

「早いです。現場って、急に段取りが変わることあるじゃないですか。そういう時に“まず何やるか”を短く言ってくれるんです。それで全員の呼吸がそろう」

 

 MCが頷く。

 

「なるほど、座長タイプ」

 

 俺は首を振る。

 

「座長ってほどじゃないです。遅れないようにしてるだけで」

 

 紗夜がすかさず入る。

 

「それを自然にやるのがすごいの。しかも、言い方が押しつけじゃないんだよね」

 

 MCが興味深そうに身を乗り出す。

 

「どんな感じで伝えるんですか?」

 

 紗夜が考えてから言う。

 

「“まずここまでやろう”って区切る。全部を一気に片づけようとしない。だから、焦りが減る」

 

 MCが「おお」と声を漏らす。

 

「現場で実際に助かるやつですね」

 

 ひかりが笑って続ける。

 

「助かります。私、テンションで前に出ちゃう時あるんですけど、ハヤトくんが一言くれると戻れる」

「例えば?」

 

 ひかりは肩をすくめる。

 

「“一回整理しよう”とか。普通の言葉なんだけど、言うタイミングが上手い」

 

 MCは俺に振る。

 

「ハヤトさん、意識してます?」

「してます。強くやるより、正確にやる方が結果が良いので」

 

 紗夜が笑う。

 

「はい出た、正確。でもほんとそう。アクションでも芝居でも、結局そこなんだよね」

 

 次のカード。

 

「続いて、“撮影現場での意外な一面”」

 

 MCが読み上げると、紗夜がすぐ反応した。

 

「ひかり、待機中めっちゃ静かです」

「え、私?」

「うん。本番前は、イヤホンで集中してる。普段の明るさとのギャップすごい」

 

 ひかりが照れて笑う。

 

「バレた。でも、集中切れるとダメだから」

 

 MCが笑う。

 

「プロですねえ。じゃあハヤトさんの意外な一面は?」

 

 ひかりと紗夜が同時に言った。

 

「甘いもの好き」

 

 俺は一拍遅れて苦笑する。

 

 白石玲がすぐ補足した。

 

「休憩入ると、だいたい一人でデザート食べてるんです。端っこの席で静かにプリンとか」

 

 桐谷みさきも頷く。

 

「そうそう。しかも食べるの早い。で、食べ終わると何事もなかった顔で台本見てる」

 

 スタジオが軽く笑う。

 MCが楽しそうに手を叩いた。

 

「ギャップありますねえ。クールな参謀が、甘党」

 

 俺は短く返す。

 

「……否定はしないです」

 

 スタジオに笑いが広がる。

 MCがすかさず拾う。

 

「それは現場で差し入れ争奪戦に参加するタイプ?」

「争奪戦はしないです。最後に残ってたら取りに行くタイプです」

 

 紗夜が言う。

 

「で、結局なくなる」

「なくなる」

 

 ひかりが笑いながら補足する。

 

「ハヤトくん、取りに行くの遅いんだよね。人に譲って、自分の分なくなるタイプ」

 

 MCが頷く。

 

「人柄出ますねえ」

 

 次のテーマは、作品に寄せた質問。

 

「チームで一番大事なものは?」

 

 ひかり。

 

「信頼。背中を預けるって、言葉より行動だから」

 

 紗夜。

 

「連携。一人が強くても、噛み合わなきゃ意味がない」

 

 最後に俺へ視線が集まる。

 

「順番です」

 

 MCが復唱する。

 

「順番」

「はい。正しいことでも、順番を間違えると被害が出る。チームは“何をやるか”より“いつやるか”が大事です」

 

 数秒、スタジオが静かになってから、

 MCがゆっくり頷いた。

 

「……いい言葉ですね。この作品の芯、伝わりました」

 

 収録終盤、告知前のフリートーク。

 MCが笑顔でまとめに入る。

 

「最後に、視聴者のみなさんへ。この作品を一言で表すと?」

 

 ひかり。

 

「熱いだけじゃなく、ちゃんと優しい作品です」

 

 紗夜。

 

「戦う話だけど、毎回“戻ってくる場所”がある」

 

 俺はカメラを見る。

 短く、はっきり言う。

 

「勝つより先に、街を戻す。――それが斎音です」

 

 MCが笑顔で締めた。

 

「ありがとうございます。放送が楽しみです!」

「カット! OKです!」

 

 ライトが落ちる。

 スタッフの「おつかれさまでした」が飛び交う中、

 ひかりが伸びをしながら言う。

 

「やりやすかったー。トーク、テンポよかったね」

 

 紗夜が頷く。

 

「うん。余計なこと言いすぎなくてよかった」

 

 俺はマイクを外しながら短く返す。

 

「二人が前で回してくれたからだ」

 

 ひかりが笑って肩をすくめる。

 

「ハヤトくん、ほんとそういう返しするよね。でも、今日は素直に受け取って。ハヤトくん、良かった」

 

 紗夜も続く。

 

「“順番”の話、ちゃんと届いてた。あれ、番宣で言えるの強いよ」

 

 俺は小さく頷いた。

 

「なら、よかった」

 

 収録は終わった。

 次は本編で、その言葉を映像にする番だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。