土曜の夕方、スタジオ入り。
外はまだ明るいのに、ビルの中は本番の空気ができていた。
控室のドアを開けると、ひかりが先に座っていた。
台本に付箋を貼りながら、顔を上げる。
「おはよ、参謀」
「その呼び方、現場外で定着したな」
「いいじゃん。分かりやすいし」
紗夜も遅れて入ってきて、ペットボトルを机に置く。
「今日は戦わないんでしょ。なら、せめて言葉で勝ってよ」
俺は短く返す。
「勝つっていうより、伝える日だな」
メイクさんに呼ばれて、三人でスタジオへ移動する。
セットはシンプルだった。
番組ロゴ、作品ポスター、立ち位置マーク。
余計な装飾がない分、喋りがそのまま出る。
ディレクターが説明する。
「今日は前半が作品紹介、後半が共演者トークです。ネタバレは3話まで。変身回数や後半展開は伏せでお願いします」
「了解です」
ひかりと紗夜も頷く。
カメラチェック。
音チェック。
ライトが上がる。
「では、いきます。――3、2、1」
MCが笑顔で口火を切る。
「新作『ルーシッドライダーズ』特集です!今日はキャストのお三方に来ていただきました!」
拍手SE。
ひかりが明るく手を振る。
紗夜が軽く会釈。
俺は短く頭を下げる。
司会が改めて紹介する
「本日のゲストは『ルーシッドライダーズ』から、朝霧ひかり役の白石玲さん、獅堂紗夜役の桐谷みさきさん、そして氷室斎音役の天城ハヤトさんです!」
「よろしくお願いします」
最初の質問は王道だった。
「まずは、作品の見どころを一言で!」
ひかりが先に答える。
「一話から走ります。でも、ただ派手なだけじゃなくて、ちゃんと“守る理由”がある作品です」
紗夜が続く。
「アクションは鋭く、ドラマは丁寧に。毎回、終わったあとに一個残る回になってます」
カメラがこちらに向く。
「ハヤトさんは?」
俺は息を一つ置いて言う。
「一人の正解より、全員で辿り着く正解を選ぶ」
一瞬、スタジオが静かになる。
MCがゆっくり頷いた。
「おお……強い言葉ですね」
ディレクターが小さく手でOKを出す。
空気がやわらいだところで、MCが笑って続けた。
「天城さん、率直に言って……めちゃくちゃイケメンですよね」
スタジオが軽く沸く。
白石玲がすぐ頷いた。
「分かります。カメラが寄ると、さらに映えるんです」
桐谷みさきも笑って続ける。
「顔立ちがきれいなのはもちろんなんですけど、目線がやさしいから、かっこよさが強すぎないんです」
MCが手を叩く。
「なるほど、ただの“イケメン”で終わらない、と」
天城は少しだけ苦笑して、短く返した。
「ありがとうございます。見た目に負けないように、芝居で返します」
MCが頷く。
「その返しまで含めて、もう斎音ですね」
そのまま次へ進む。
MCがカードをめくる。
「ここからは共演者トークです。まずは、現場で“この人すごいな”と思った瞬間から!」
ひかりがすぐ手を上げた。
「はい。ハヤトくんです」
スタジオが軽く沸く。
MCが笑う。
「早い!」
「早いです。現場って、急に段取りが変わることあるじゃないですか。そういう時に“まず何やるか”を短く言ってくれるんです。それで全員の呼吸がそろう」
MCが頷く。
「なるほど、座長タイプ」
俺は首を振る。
「座長ってほどじゃないです。遅れないようにしてるだけで」
紗夜がすかさず入る。
「それを自然にやるのがすごいの。しかも、言い方が押しつけじゃないんだよね」
MCが興味深そうに身を乗り出す。
「どんな感じで伝えるんですか?」
紗夜が考えてから言う。
「“まずここまでやろう”って区切る。全部を一気に片づけようとしない。だから、焦りが減る」
MCが「おお」と声を漏らす。
「現場で実際に助かるやつですね」
ひかりが笑って続ける。
「助かります。私、テンションで前に出ちゃう時あるんですけど、ハヤトくんが一言くれると戻れる」
「例えば?」
ひかりは肩をすくめる。
「“一回整理しよう”とか。普通の言葉なんだけど、言うタイミングが上手い」
MCは俺に振る。
「ハヤトさん、意識してます?」
「してます。強くやるより、正確にやる方が結果が良いので」
紗夜が笑う。
「はい出た、正確。でもほんとそう。アクションでも芝居でも、結局そこなんだよね」
次のカード。
「続いて、“撮影現場での意外な一面”」
MCが読み上げると、紗夜がすぐ反応した。
「ひかり、待機中めっちゃ静かです」
「え、私?」
「うん。本番前は、イヤホンで集中してる。普段の明るさとのギャップすごい」
ひかりが照れて笑う。
「バレた。でも、集中切れるとダメだから」
MCが笑う。
「プロですねえ。じゃあハヤトさんの意外な一面は?」
ひかりと紗夜が同時に言った。
「甘いもの好き」
俺は一拍遅れて苦笑する。
白石玲がすぐ補足した。
「休憩入ると、だいたい一人でデザート食べてるんです。端っこの席で静かにプリンとか」
桐谷みさきも頷く。
「そうそう。しかも食べるの早い。で、食べ終わると何事もなかった顔で台本見てる」
スタジオが軽く笑う。
MCが楽しそうに手を叩いた。
「ギャップありますねえ。クールな参謀が、甘党」
俺は短く返す。
「……否定はしないです」
スタジオに笑いが広がる。
MCがすかさず拾う。
「それは現場で差し入れ争奪戦に参加するタイプ?」
「争奪戦はしないです。最後に残ってたら取りに行くタイプです」
紗夜が言う。
「で、結局なくなる」
「なくなる」
ひかりが笑いながら補足する。
「ハヤトくん、取りに行くの遅いんだよね。人に譲って、自分の分なくなるタイプ」
MCが頷く。
「人柄出ますねえ」
次のテーマは、作品に寄せた質問。
「チームで一番大事なものは?」
ひかり。
「信頼。背中を預けるって、言葉より行動だから」
紗夜。
「連携。一人が強くても、噛み合わなきゃ意味がない」
最後に俺へ視線が集まる。
「順番です」
MCが復唱する。
「順番」
「はい。正しいことでも、順番を間違えると被害が出る。チームは“何をやるか”より“いつやるか”が大事です」
数秒、スタジオが静かになってから、
MCがゆっくり頷いた。
「……いい言葉ですね。この作品の芯、伝わりました」
収録終盤、告知前のフリートーク。
MCが笑顔でまとめに入る。
「最後に、視聴者のみなさんへ。この作品を一言で表すと?」
ひかり。
「熱いだけじゃなく、ちゃんと優しい作品です」
紗夜。
「戦う話だけど、毎回“戻ってくる場所”がある」
俺はカメラを見る。
短く、はっきり言う。
「勝つより先に、街を戻す。――それが斎音です」
MCが笑顔で締めた。
「ありがとうございます。放送が楽しみです!」
「カット! OKです!」
ライトが落ちる。
スタッフの「おつかれさまでした」が飛び交う中、
ひかりが伸びをしながら言う。
「やりやすかったー。トーク、テンポよかったね」
紗夜が頷く。
「うん。余計なこと言いすぎなくてよかった」
俺はマイクを外しながら短く返す。
「二人が前で回してくれたからだ」
ひかりが笑って肩をすくめる。
「ハヤトくん、ほんとそういう返しするよね。でも、今日は素直に受け取って。ハヤトくん、良かった」
紗夜も続く。
「“順番”の話、ちゃんと届いてた。あれ、番宣で言えるの強いよ」
俺は小さく頷いた。
「なら、よかった」
収録は終わった。
次は本編で、その言葉を映像にする番だ。