※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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187話 出だしは上々

 翌朝、教室の空気はいつもより少しだけ浮いていた。

 席に着く前から、廊下で声が飛ぶ。

 

「天城くん、昨日見た!」

「斎音、めっちゃかっこよかった!」

 

 俺は鞄を置いて、短く返す。

 

「ありがとう」

 

 それ以上は足さない。

 浮かれた返しをすると、言葉が軽くなる。

 

 レンが隣で小さく笑った。

 

「朝から人気者だね」

「いつも通りでいく」

「うん。その方がハヤトっぽい」

 

 授業の合間の小休憩

 日和が階段の手すりにもたれて、のんびり言う。

 

「いやー、普通にすごかったよ。うちのクラスでも話題だった」

 

 恵が頷く。

 

「評判は上々ですわね。特に“説明が分かりやすい”という声が多かったですわ」

 

 命はいつも通り表情を大きく動かさない。

 それでも、俺の隣に来ると自然に腕を組んだ。

 

「……昨日、拝見しました。とても、良かったです」

「ありがとう」

 

 短く返すと、命は小さく頷く。

 それだけで十分伝わる。

 

 日和が笑って肩をすくめる。

 

「はいはい、朝から温度高いですねえ」

 

 恵が軽く咳払いする。

「茶化さないでくださいまし。ですが……ふふ、よい傾向ですわ」

 

 レンが話を戻す。

 

「で、次。反応よかったけど、ここからどうする?」

 

 俺は手すり越しに空を見て、答える。

 

「やることは同じだ。浮かれない。雑にしない」

 

 命が静かに続ける。

 

「……はい。積み重ねるのが一番です」

 

 恵も頷く。

 

「一話で終わる評価では意味がありませんもの。二話、三話で“本物”にしていきましょう」

 

 チャイムが鳴る。

 みんなが階段へ向かう。

 

 そのとき、スマホが震えた。

 浅野さんからのメッセージ。

 

『視聴反応良好。週末の撮影、予定通り。斎音の会議室シーン増える。資料は放課後共有』

 

 俺は短く打つ。

 

『了解。確認します』

 

 画面を閉じる。

 評判は追い風だ。

 でも、追い風だけで走ると転ぶ。

 

 昼休みのチャイムが鳴ると、俺たちは食堂へ向かった。

 湯気の立つ定食、トレーの音、席を呼ぶ声。

 いつもの昼のざわめきの中で、昨夜の『ルーシッドライダーズ』の話題があちこちから聞こえてきた。

 

「昨日見たよ、ルーシッド!」

「斎音、想像よりずっとよかった!」

 

 俺は箸を止めて、短く返す。

 

「ありがとう」

 

 レンが向かいで小さく笑う。

 

「朝より増えてるね、感想言いに来る人」

「昼のほうが話しやすいんだろ」

「それもある。あと、ほんとに評判いい」

 

 そこへ日和がパンを持って割り込んできた。

 

「はいはい、人気者二人を発見~。隣いい?」

「いいよ」

「どうぞ」

 

 日和は椅子を引いて座ると、パンの袋を開けながら言う。

 

「うちのクラス、誰推しかで教室がちょっと騒がしかったよ」

 

 レンが吹き出す。

 

「なんだそれ」

「平和な分裂」

 

 そこに恵と命も来る。

 恵はお弁当箱を丁寧に置いて、いつもの上品な笑み。

 命は静かに俺の隣へ座った。

 

「ごきげんよう。少しご一緒してもよろしくて?」

「もちろん」

「……失礼します」

 

 命は弁当を開きながら、控えめに言う。

 

「……昨夜、拝見しました。斎音さんの場面、分かりやすかったです」

「ありがとう」

 

 短く返すと、命は小さく頷いた。

 表情は大きく変わらない。

 でも、箸を持つ指先の力が少しだけやわらかい。

 

 恵が会話を引き取る。

 

「評判を見ても、“難しい設定なのに入ってくる”という感想が多いですわね。とてもよい傾向ですわ」

 

 日和がパンをかじって頷く。

 

「うんうん。あと“顔がいい”って感想もめっちゃ多かった」

 

 俺は水を飲む。

 

「それは作品の感想か?」

 

 日和が笑う。

 

「入口はなんでもいいの。見てくれたら勝ち」

 

 レンが真面目に続ける。

 

「入口が見た目でも、中身で残れたら強い。昨日はそれができてたと思う」

 

 恵が満足そうに頷いた。

 

「ええ。まさにその通りですわ」

 

 命が小さな声で添える。

 

「……今後が大事ですね」

「そうだな」

 

 俺が返すと、全員の視線が一度だけ揃った。

 一話の反応は追い風。

 でも、追い風だけで進めるほど甘くない。

 

 日和が空気を軽くするように手を叩く。

 

「じゃ、結論! 浮かれすぎず、でも喜ぶとこは喜ぶ。これでいこ」

 

 レンが笑って頷く。

 

「いいまとめ」

 

 恵も上品に同意する。

 

「採用ですわ」

 

 命は俺を見て、静かに言った。

 

「……ハヤトさん。私も、応援しています」

「うん。助かる」

 

 その瞬間、スマホが震えた。

 浅野さんからメッセージ。

 

『第6話の改稿到着。放課後に15分だけ通話確認できるか』

 

 俺はすぐ返す。

 

『できます。放課後でお願いします』

 

 画面を閉じる。

 昼休みのざわめきは、さっきより少し遠く聞こえた。

 やることが、次の形になって目の前に来た感じがする。

 

 チャイムが鳴る。

 弁当箱を閉じる音が重なる。

 

 立ち上がる前に、命が小さく言った。

 

「……無理は、しないでください」

 

 俺は短く頷く。

 

「分かってる」

 

 昼休みが終わる。

 次の授業が始まる。

 そして、次の話数の準備も、もう始まっていた。

 

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