※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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219話 ゴールデンウィークの予定

 ゴールデンウィーク、という単語が出たのは、茶会部のいつもの時間が落ち着いてきた頃だった。

 

 湯気の立つカップが机に並ぶ。

 紅茶の香りは強すぎなくて、部室の空気にすっと馴染んだ。

 

「先輩!ゴールデンウィーク、何するっすか!」

 

 日向結陽が、いきなり両手を上げる。

 声は大きい。けど、この部室では結陽の元気が邪魔にならない。

 

 俺はカップを持ち上げたまま、先に言っておく。

 

「俺の予定は最終日だけ」

「え、最終日だけっすか!?」

「そう」

 

 中身まではここでは言わない。

 ただ、空いてる日がある、という事実だけで十分だ。

 

 間柴ゆきが、静かにカップを置く。

 同級生の1年。声は小さいが、目がよく周りを見ている。

 

「じゃあ、最終日以外は動けますね、先輩」

「動けるとは限らない。調整は要る」

「はい」

 

 結陽がゆきの方を向く。

 

「間柴さん、先輩って忙しいっすよね!」

 

 日和がカップの縁を指で軽く叩いた。

 

「じゃあさ、最終日以外で、みんな何する? 家でだらだら派?」

 

 レンが小さく頷く。

 

「混む日は避けたいけど、せっかくの連休だしね」

 

 命が静かに紅茶を飲んで、目線だけを上げる。

 

「……遠出するなら、早めに決めた方がいいですね」

 

 恵が、そこで少しだけ姿勢を整えた。

 提案するときの顔だ。

 

「でしたら……皆さん。2泊3日で行ってみませんこと」

「え、どこっすか!」

 

 結陽が身を乗り出す。

 俺より先に、恵が笑った。

 

 恵がパンフレットを机の中央に置くと、結陽の視線がそこに吸い寄せられた。

 

「え、待って、これ……本物っすよね? 写真で見たやつっす!」

「本物ですわ」

 

 恵は当然みたいに言う。

 

「《AURORA FRONTIER(オーロラ・フロンティア)》ですの。ここ。皆さんも一度は名前を聞いたことがあるでしょう」

 

 日和が声を弾ませる。

 

「あるある。オーロラの夜ショーが有名なとこだよね」

 

 レンも頷いた。

 

「氷の城とか、空中船とか」

 

 結陽が椅子から半分浮く。

 

「ランドっす! それ、ランドっす!」

 

 ゆきがパンフレットを丁寧にめくり、静かに言う。

 

「……エリアが多い。1日で回り切れる量じゃないですね」

「その通りですわ」

 

 恵はにこりと笑って、もう一冊、別のパンフレットを重ねて置いた。

 

 表紙には、ガラス屋根のスタジオ棟。金のロゴ。

 

「それと、こちら」

 

 結陽が目を丸くする。

 

「え、もう1つ!?」

 

「隣にある別ゲートの第2パークですわ。《AURORA ANIMATION STUDIOS(オーロラ・アニメーション・スタジオ)》」

 

 その名前だけで、部室の空気が一段上がる。

 

 日和が思わず言う。

 

「うそ、スタジオもあるの?」

「ございますの。アニメーションの“作る側”を体験できる施設で、こちらも有名ですわ。2パークで行くのが定番ですのよ」

 

 レンが少しだけ身を乗り出す。

 

「作る側……ツアーみたいな?」

「ええ。原画の回廊や、工房、シアター。短編の上映もございます」

 

 結陽が机を叩きかけて、ぎりぎりで堪えた。

 

「やばいっす! それ、絶対行きたいっす!」

 

 命が静かにカップを置いて、恵を見る。

 

「……2泊3日、というのは。2パークを含めて、ですか」

「はい。含めてですわ」

 

 恵は淡々と続けた。

 

「1日目はフロンティアで夜ショー。2日目はフロンティアを制覇して、夜も楽しむ。3日目はスタジオでゆるく締める。そうすれば、無理がありません」

 

 ゆきが小さく頷く。

 

「……計画として、綺麗です」

 

 結陽がすぐ乗る。

 

「間柴さん、めっちゃ納得してるっす!」

 

「結陽、声」

 

「……はいっす」

 

 元気なままでも、空気は壊れない。

 茶会部の“許されてる”って、こういうことだ。

 

 俺は先に条件を置く。

 

「俺の予定は最終日だけ」

 

 日和がすぐ理解する。

 

「じゃあ、最終日を外せばいいんだ」

「そう」

 

 恵が頷く。

 

「ですから、最終日を避けて2泊3日。5/3から5/5でどうかしら」

 

 命が静かに言う。

 

「……5/5の夜に戻れれば、最終日に影響しませんね」

「影響させない」

 

 俺が短く返すと、恵

 

 俺が短く返すと、恵が満足そうに微笑んだ。

 

「では、その日程で手配いたしますわ。2パークのチケットも、宿も」

 

 レンが小さく笑う。

 

「……決まるの早いね」

「決まらないと、混みますもの」

 

 日和が頷く。

 

「よし。じゃあ、もう行く前提で話そう」

 

 ゆきが静かにまとめる。

 

「集合と移動だけ、決めておきましょう。あと、夜ショーは場所取りの方針も」

 

 恵がうなずく。

 

「素晴らしいですわ」

 

 カップの湯気が、ゆっくりと上に消えていく。

 ゴールデンウィークの予定が、ただの雑談から、はっきり“旅”になった。

 

「スタジオって、参加できるやつあるっすよね!? やりたいっす! 私、原画のパラパラやつ!」

「ええ、ございますわ」

 

 恵が微笑んで、パンフレットの該当ページを指先で示す。

 

「やった! 動かすっす! 私、スノル走らせるっす!」

「暴走させるな」

「しないっす! ……たぶん!」

 

 レンは紅茶を一口飲んで、小さく言った。

 

「僕は、短編上映が気になる。限定のやつ」

 

 命はページの写真を一枚だけ見て、目線を落とす。

 

「……原画の回廊。気になります」

「命さん、そういうの好きそうっす」

 

 結陽が言うと、命は否定も肯定もしない。

 ただ、ゆっくり瞬きをする。肯定に近い。

 

 恵が微笑んだ。

 

「原画展示は、落ち着きますわ。……あと、スタジオ限定のグッズもございます」

 

 結陽が即反応する。

 

「グッズ!!」

「結陽、落ち着け」

 

 ゆきが淡々と釘を刺す。

 

「落ち着くっす……! 落ち着くけど、買うっす!」

 

 日和が笑いながら、俺を見る。

 

「ハヤトさんは? どれが気になる?」

「……夜ショー」

 

 答えると、日和が「分かる」と頷いた。

 

「2回見るんだよね。場所変えるやつ」

「それ」

 

 恵がうなずく。

 

「では、1回目は全景が見える場所。2回目は氷の城寄りにいたしましょう」

 

 ゆきが小さく手を上げる。

 

「……待ち合わせと移動のルールを決めませんか。現地で散ると迷子になります」

 

 結陽が即座に胸を張る。

 

「迷子にならないっす!」

「なる」

 

 俺が言うと、結陽が「先輩!」と抗議した。

 

「……たぶん、ならないっす!」

「たぶん禁止」

 

 ゆきが即答する。

 

 そのテンポで、部室が一段だけ柔らかくなる。

 茶会部の空気は、こういう時に一番落ち着く。

 

 恵が指を折っていく。

 

「まず、宿は敷地内を押さえますわ。朝の入園が楽ですもの。夜ショーのあともすぐ戻れます」

「敷地内ホテル、強すぎ」

 

 日和が笑う。

 

「移動で消耗しないの、神」

 

 レンが小さく頷く。

 

「うん。次の日が楽になる」

 

 命が静かに言う。

 

「……荷物を置けるのも、助かりますね」

 

 俺はその言葉に小さく頷いた。

 体力だけじゃない。気持ちの余裕が残る。

 

 ゆきがスマホを出す。

 

「当日の集合時間だけ、先に決めたいです。朝いちを狙うなら、起床時間も逆算できます」

「ゆき、急に強い」

 

 日和が笑うと、ゆきは少しだけ目を伏せた。

 

「……慎重なだけです」

 

 結陽が乗る。

 

「慎重、助かるっす! 私は勢い担当っす!」

「担当分けるな」

 

 俺が言っても、結陽は止まらない。

 

「じゃあ、私、広報担当もやるっす!」

「掲示板は禁止」

 

 命が淡々と言い切る。

 

 結陽が固まって、ゆきが小さく頷いた。

 

「命先輩の一言は、効きますね」

「効くっす……」

 

 結陽の声が小さくなる。

 その小ささが面白くて、日和が笑った。

 

 俺はカップを置く。

 この雑談が、予定を現実にしていく。

 

「細かいのは次で決める」

 

 そう言うと、全員が自然に頷いた。

 

 決めるのは早い。

 でも、急がない。

 茶会部は、こういう速度がちょうどいい。

 

 その時、俺のスマホが短く震えた。

 画面に出た名前は、澄乃さん。

 

 俺は一拍置いてから、通知を開いた。

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