※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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233話 ゴールデンウィーク明け

 朝。

 廊下は静かだった。昨日の席が嘘みたいに、家が普段の顔に戻っている。

 

 それでも、空気の底に余韻が残っている。

 畳の匂いがいつもより落ち着いて感じる。

 俺はネクタイじゃなく、制服の襟を整えた。

 

 居間に行くと、命が先にいた。

 今日は腕を組んでこない。学校へ行く朝は、いつも通りの距離だ。

 

「おはようございます」

 

 命が丁寧に言う。

 

「おはよう」

 

 俺が返すと、命は頷いた。

 

「昨日……お疲れさまでした」

 

「命も」

 

「はい」

 

 そこへ恵が入ってきた。

 髪も服も整っている。いつも通り。

 でも目だけが少し柔らかい。昨日の夜が残ってる。

 

「おはようございますわ。寝不足ではありませんわね」

 

「大丈夫」

 

 俺が答えると、恵は満足そうに頷く。

 

「結構ですわ。今日は学校。崩しません」

 

 恵が上品に笑って言った。

 

 玄関で靴を履く。

 外に出ると、空気が冷たくて、頭が冴える。

 昨日の緊張がやっと抜けた。

 

☆

 

 登校の道。

 いつもの景色。いつもの音。

 でも、俺の中だけが少し違う。

 

 命が隣を歩く。

 

「……学校に戻りますね」

 

「戻る」

 

「はい」

 

 命はそれだけ言って、前を見た。

 

 校門が見えて、人が増える。

 噂の速度が上がる場所だ。

 俺は短く決めておく。今日は余計なことは言わない。

 

 昼休み。

 茶会部の部室に入ると、空気が一気に緩んだ。

 

「おかえりー!」

 

 日和が先に叫ぶ。

 

「ただいま」

 

「休み、短かったね」

 

 日和はそう言って笑った。

 軽い言い方なのに、こっちの疲れも分かってる声だ。

 

 ゆきが机の上にメモ帳を置いて言う。

 

「連休明けは、体調が落ちやすいです。無理しないでください」

 

「まず自分の心配しろ」

 

 俺が言うと、ゆきは淡々と頷いた。

 

「はい。僕も無理しません」

 

 レンが袋を抱えたまま言う。

 

「でも、ちょっと楽しかった分、戻るのが早いね」

 

「分かる」

 

 日和が頷く。

 

 結陽が勢いよく入ってきた。女の子の勢いで、扉が軽く鳴る。

 

「先輩たち! もう普通に授業っすよ! 早すぎっす!」

 

「声でかい」

 

「元気っす!」

 

 止まらない。

 

 恵が上品に言った。

 

「休みは短い方が、日常に戻りやすいですわ」

 

 命は椅子に座ってから、静かに言った。

 

「……今日は、眠いです」

 

「珍しい」

 

 日和が笑う。

 

「昨日、遅かった?」

 

「……少し」

 

 命はそれ以上言わない。

 言わないまま、ちゃんと頑張って座ってる。

 

 俺は鞄を置いて言った。

 

「茶、淹れる」

 

「それがいい」

 

 日和が即答する。

 

 ゆきが立ち上がって、手際よく湯を用意する。

 恵が茶葉を選ぶ。

 命が湯呑みを並べる。

 結陽は何もしない代わりに、ずっと喋ってる。

 

「今日、授業長く感じるっすよね! 絶対長いっす!」

 

「気のせいだろ」

 

「絶対長いっす!」

 

 日和が笑って、結陽の肩を軽く叩いた。

 

「はいはい。とりあえず飲んで落ち着こ」

 

 恵が茶葉の缶を軽く振って、蓋を開ける。

 香りが立っただけで、部室の空気が一段落ち着いた。

 

「今日はこれですわ」

 

「いつものやつ?」

 

 日和が聞く。

 

「いつものですわ」

 

 恵が言い切ると、ゆきが湯を注ぐ。

 手際がいい。無駄がない。

 

 命がティーカップを並べて、俺の前にも置く。

 

「ありがとう」

 

「はい」

 

 短い返事。けど目は柔らかい。

 

 結陽が湯気を覗き込んで言う。

 

「これ飲んだら目覚めるっすか?」

 

「目は覚める。元気も戻る」

 

「やったっす!」

 

 日和が笑う。

 

「単純だね」

 

「単純が最強っす!」

 

 レンが一口飲んで、息を吐いた。

 

「落ち着く」

 

「落ち着くな」

 

 俺が言うと、レンは小さく笑った。

 

 恵はティーカップを持ったまま、全員を見た。

 

「では、今週の確認ですわ。休みが終わったので、戻します」

 

「段取り」

 

 日和が笑う。

 

「段取りですわ」

 

 恵は上品に頷いた。

 

「まず部の記録。次にテスト。次に――」

 

「待って。テスト、あるの?」

 

 日和が顔をしかめる。

 

 レンが小さく頷いた。

 

「あるよ。英語と理科。週末まで」

 

「うわ」

 

 日和が小さく呻く。

 

 結陽が手を挙げる。

 

「それ、1年もあるっすか?」

 

 ゆきが結陽を見る。淡々と答える。

 

「あります。1年もあります。内容は学年で違います」

 

「あるんすね……」

 

 結陽が一瞬だけ真顔になる。すぐ胸を張った。

 

「余裕っす! 私、気合でいけるっす!」

 

「気合だけでいくな」

 

 俺が言うと、結陽は即答する。

 

「気合とノリっす!」

 

「絶対足りない」

 

「ひどいっす!」

 

 命が湯呑みを置いて言った。

 

「……帰ったら、やります」

 

「命、えらい」

 

 日和が言うと、命は頷くだけだった。

 

 恵が扇子を軽く揺らす。

 

「結陽さんは、今日の放課後に少しやっておきましょう。先に済ませれば安心ですわ」

 

「やるっす!」

 

 結陽は素直だ。勢いだけで返事するけど、やる時はやる。

 

 レンが袋を指で押さえた。

 

「僕、今日は早めに宿題やる」

 

「偉い」

 

 日和が頷く。

 

 俺は湯呑みを一口飲んで、言った。

 

「じゃあ今日、放課後は軽く勉強会にするか。部室で」

 

 日和が目を見開く。

 

「え、ハヤトが言うの珍しい」

 

「戻さないとだるい」

 

「確かに」

 

 日和が笑って頷いた。

 

 ゆきがすぐまとめる。

 

「時間は30分で十分です。やる範囲を決めましょう」

 

「そうだな」

 

 俺が言うと、恵が満足そうに口元を緩めた。

 

「よろしいですわ」

 

 命が俺の腕に少しだけ力を入れる。

 何も言わない。けど同意だ。

 

 窓の外で、昼休み終了の気配が近づく。

 部室の空気が落ち着いたところで、日常がまた動き出す。

 

「行くぞ」

 

 俺が言うと、結陽が元気に立ち上がった。

 

「午後、がんばるっす!」

 

「声、下げろ」

 

「下げるっす!」

 

 下がってない。

 

 日和が笑って、ドアを開けた。

 

「はいはい。午後ねー」

 

 俺たちは教室へ戻った。

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