※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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236話 久しぶりに、二人きり

 土曜の朝は早い。

 制服じゃない。私服でもない。撮影用の服に袖を通す。

 

 鏡の前で髪を整えていると、母さんが台所から顔を出した。

 

「朝ごはん、持っていく?」

 

「食べる。時間まだあるし」

 

 家を出る直前、命が廊下に立っていた。

 今日は腕を組まない。見送りの距離だ。

 

「……行ってらっしゃい」

 

「行ってくる」

 

 命が一拍置いて言う。

 

「無理は、しないでください」

 

「しない」

 

 短く返して靴を履く。

 外に出た瞬間、頭が仕事の形になる。

 

☆

 

 スタジオに着くと、空気が変わる。

 白い壁。ライト。レフ板。人の声が切れない。

 でも騒がしいというより、手順が早い。

 

「ハヤト君、おはよう」

 

 浅野さんが来た。呼び方はいつも通りだ。

 

「おはようございます」

 

「今日はスチールだけ。午前は制服、午後は私服。表情のパターンも撮る」

 

「分かりました」

 

 メイクが入って、髪が整う。

 服が変わるだけで、体のスイッチが切り替わる。

 

 撮られるのは慣れてきた。

 でも“慣れ”は油断と違う。ここは毎回ちゃんとやる。

 

 カメラマンが言う。

 

「まず正面。目線こっち。笑わなくていい、軽くで」

 

 シャッター音が続く。

 止まらない。数が必要だ。

 

 合間に水を飲んでいると、浅野さんが横に来た。

 

「この後のスケジュールなんだけど――」

 

 俺は先に言った。

 

「しばらく入れられません。学校優先にします」

 

 浅野さんが一瞬だけ止まって、それから頷いた。

 

「分かった。正しい。今日だけきっちり終わらせよう」

 

「はい」

 

 それで十分だ。

 切らない。濁さない。ちゃんと線を引く。

 

☆

 

 午後。

 私服の撮影に入る。雰囲気が少し柔らかくなる。

 “笑って”と言われるカットが増える。

 

「もう少しだけ口角上げて。そう、それ」

 

 シャッター音。

 ライトの熱。

 一日が短く感じる。

 

 最後のカットが終わって、スタッフが拍手みたいに手を叩く。

 

「お疲れさまでした!」

 

「お疲れさまでした」

 

 俺は頭を下げて、荷物を持つ。

 外に出た瞬間、風が冷たくて現実に戻る。

 

 今日はこれで終わり。

 ここからしばらく、学校に戻る。

 

☆

 

 スタジオを出ると、外の空気が涼しかった。

 ライトの熱がまだ肌に残っていて、風がそれを一気に冷ます。

 

 車に乗って、窓の外を流れる景色を見る。

 街は普通に動いている。俺だけが少しだけ遅れて戻っていく感じがする。

 

 スマホが震えた。

 母さんからの短いメッセージだ。

 

『お疲れ。ごはんあるよ』

 

 俺は短く返す。

 

『帰る』

 

 それだけで十分だった。

 

☆

 

 家の門を抜けると、音が変わる。

 外の音が薄くなって、砂利を踏む音だけが残る。

 仕事の空気が静かに剥がれていく。

 

 玄関の灯りの下に、命が立っていた。

 見送りの時と同じ距離。

 でも目は、ちゃんとこっちを見ている。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

 俺が靴を脱ぐと、命は一歩だけ近づいた。

 腕は組まない。今日はまず、帰ってきた顔を確かめるみたいに見る。

 

「……疲れましたか」

 

「疲れた」

 

 正直に言うと、命の表情が少しだけ柔らかくなる。

 

「お茶、淹れます」

 

「頼む」

 

 命は頷いて、台所へ向かった。

 その背中が落ち着いていて、家に戻ったと分かる。

 

 居間に入ると、母さんがちょうど皿を並べていた。

 

「おかえり。どうだった?」

 

「終わった」

 

「そりゃそうよ。顔、ちゃんとしてるじゃない」

 

 母さんは笑って、それ以上は聞かない。

 余計な心配も、余計な詮索もしない。ありがたい。

 

 命が湯呑みを持って戻ってきた。

 湯気が立つ。香りが落ち着く。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 俺は湯呑みを受け取って、一口飲んだ。

 熱が喉を通ると、肩の力が少し落ちた。

 

 命が俺の横に座る。

 今日は腕を組むんじゃなく、膝の上に手を置くだけ。近いのに静かだ。

 

 浅野さんから着信が来た。

 俺は廊下へ出て、電話に出る。

 

「もしもし」

 

『ハヤト君、今日は助かった。最後に一点だけ確認』

 

「はい」

 

『次の話、いくつか来てるけど、当分は学校優先でいいな?』

 

「はい。しばらく入れられません」

 

『分かった。じゃあ、落ち着いたら声かける。お疲れ』

 

「ありがとうございました」

 

 切る。

 それで終わりだ。

 

☆

 

 居間に戻ると、命がこちらを見た。

 聞いてないふりをしてるけど、目で分かる。どうだった、って。

 

「当分、休みだ」

 

 俺が言うと、命ははっきり頷いた。

 

「……はい」

 

 母さんが皿を置いて言う。

 

「よし。じゃあ食べて、風呂入って、寝なさい。明日からは学生ね」

 

「分かった」

 

 俺が答えると、母さんは満足そうに頷いた。

 

 命は一拍置いて、小さく言った。

 

「……お疲れさまでした」

 

「ありがとう」

 

 飯を食べ終えて、箸を置く。

 母さんが片付けに立つのを見て、俺も立ち上がった。

 

「綾乃母さんのところ、寄ってくる」

 

「行っておいで」

 

 母さんはそう言って、手を動かし続けた。

 家の流れが戻っている。

 

 廊下を歩いて、本邸の方へ向かう。

 夜の家は静かだ。

 昼のスタジオの音が、遠くなる。

 

 戸の前で一度だけ止まって、ノックした。

 

「綾乃母さん」

 

「どうぞ」

 

 部屋に入ると、灯りが落ち着いていた。

 綾乃母さんが座っていて、近くに菜桜がいる。

 春雅は寝ているのか、布団の方が静かだ。

 

「おかえりなさい、ハヤト君」

 

「ただいま戻りました」

 

 綾乃母さんは俺の顔を見て、すぐ分かったみたいに言う。

 

「お仕事、終わったのね」

 

「終わりました」

 

「お疲れさま」

 

 その一言が、今日一番効いた。

 俺は短く頷いた。

 

 菜桜がこちらに気づいて、小さく声を出す。

 呼ぶみたいな音だ。

 

 綾乃母さんが笑って言う。

 

「ほら。来たって分かってる」

 

「抱きます」

 

「お願い」

 

 綾乃母さんが菜桜を渡してくる。

 受け取った瞬間、菜桜の顔が変わる。

 嬉しい時の顔だ。

 

 手が俺の服を掴む。

 小さく足が動いて、落ち着く場所を探して、見つけたら止まる。

 

「……落ち着いた」

 

 俺が言うと、綾乃母さんが口元を柔らかくした。

 

「うん。ハヤト君だと安心するのね」

 

 その言い方が、まっすぐだった。

 俺は菜桜の背中を軽く支える。一定に。

 それだけで菜桜は静かになる。

 

 綾乃母さんが布団の方を見て、小さく言った。

 

「春雅も、さっきまで起きてたのよ」

 

「今は寝てますか」

 

「寝た。頑張ったみたい」

 

 綾乃母さんの声が少しだけ優しくなる。

 母親の声だ。

 

 菜桜が俺の胸元に頬を寄せて、目を細めた。

 小さな温度が、今日の疲れをほどいていく。

 

 綾乃母さんがぽつりと言う。

 

「こういう時間、嬉しい」

 

「俺もです」

 

 俺がそう返すと、綾乃母さんは少しだけ驚いた顔をして、すぐ笑った。

 

「ふふ。じゃあ、今日はよく頑張りましたね」

 

 菜桜を綾乃母さんに戻すと、菜桜は名残惜しそうに小さく声を出した。

 でも綾乃母さんの胸元に収まると、すぐ落ち着く。

 

「ありがとう」

 

 綾乃母さんが小さく言う。

 

「こちらこそ」

 

 俺が丁寧に返して、部屋を出ようとした瞬間だった。

 

「ハヤト君」

 

 呼ばれて振り返る。

 

 綾乃母さんは菜桜の背中を軽くさすりながら、声を落とした。

 

「今、2人とも寝ますので……少しだけ、ここにいてください」

 

「はい」

 

☆

 

 綾乃母さんが俺を見る。

 それから、丁寧に言った。

 

「……お疲れさまでした」

 

「ありがとうございます」

 

「今日は、ちゃんと帰ってきてくれたのですね」

 

「帰ってきました」

 

 綾乃母さんの口元が柔らかくなる。

 

「そういう返事、好きです」

 

 言い切ってから、少しだけ息を吐く。

 照れを隠さない。

 

「お仕事、しばらく休むのでしょう」

 

「はい。学校優先にします」

 

「良かったです」

 

 即答だった。

 綾乃母さんは一拍置いて、続ける。

 

「無理をしてほしくありません。……私は、そういうのが一番嫌です」

 

「無理はしませんよ」

 

 俺が言い切ると、綾乃母さんは小さく頷いた。

 

「はい。信じます」

 

 綾乃母さんは椅子から立って、俺の横に来た。

 

「……ねえ」

 

「はい」

 

 綾乃母さんは俺の肩に手を置いた。触れているだけ。

 

「久しぶりに、2人きりですね」

 

「そうですね」

 

 俺が言うと、綾乃母さんは小さく笑った。

 

「ふふ。こういう時間が……足りませんでした」

 

 綾乃母さんは俺の隣に座る。肩が触れる距離。

 

 綾乃さんの肩に手をまわし抱き寄せる

 

 「……ハヤト君♡……好き♡」

 

 もう片方の手で綾乃母さんの顎をもってキスをする。

 綾乃母さんの手が俺の後頭部に回る。

 

 深いキスで互いを求め合う

 

 「……はぁ、女の部分が疼きます。子宮がキュンキュン来て、もう我慢できません。ベットに行きましょう♡」

 

 綾乃母さんに急かすように手を引かれベッドに導かれていった。




男女比1対100の彼女たちの世界で
2026/08/18をもって、更新を停止いたします。

次の展開をどうしても描けず、筆を進めることが難しくなりました。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
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