※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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37話 デートの約束

 正直、俺は何もしていない。

 

 通学も、授業も、昼休みも。

 いつも通りで、特別なことは一つもない。

 

 なのに──

 なんとなく、空気が違う。

 

 原因がはっきりしているわけじゃない。

 ただ、命の様子が、少しだけおかしい。

 

 視線が合いにくい。

 合っても、すぐに逸れる。

 前は、もう少し落ち着いていた気がする。

 

 ……気がする、程度だ。

 

 俺が気にしすぎてるだけかもしれない。

 そう思おうとすれば、思えるくらいの違い。

 

 屋上でいつものメンツが集まっているときもそうだ。

 

 恵は変わらず前に出るし、日和はのほほんしてるし、レン騒がしい。

 

 命だけが、ほんの少し反応が遅い。

 

 話題が俺に触れると、

 一瞬、間が空く。

 

 誰かが気づくほどじゃない。

 でも、俺はなぜか引っかかる。

 

 ……なんだろうな、これ。

 

 週末のことか。

 遥香さんと出かけた話。

 

 男として務めを果たしたしたってこと自体は、隠してるわけじゃない。

 もちろん自慢でもないし、強調したいわけでもない。

 

 理由は分からない。

 でも今、ここで何か言ったら、空気が変わる気がする。

 

 変える必要は、まだない。

 

 廊下ですれ違うとき、命はちゃんと挨拶をする。

 

「……おはようございます、ハヤトさん」

 

 声も姿勢も、いつも通り。

 なのに、胸の奥で何かが引っかかる。

 

 俺が何かしたわけじゃない。

 した覚えもない。

 

 それでも──

 あれ、なんか。

 

 いい感じ、か?

 

 そんな手応えだけが、

 はっきりしないまま、残っている。

 

 考えるほどじゃない。

 でも、無視するほどでもない。

 

 放課後、昇降口で靴を履き替えているときだった。

 

 帰る流れの中で、

 命だけが、少し遅れる。

 

 理由は分からないけど、

 目に入った。

 

「命」

 

 呼ぶと、

 命は一拍置いてから振り返る。

 

「……はい、隼人さん」

「このあと、時間ある?」

 

 いつも通りの聞き方。

 

 命は少し考えて、

 控えめに頷いた。

 

「……少しでしたら」

「じゃあ、校門まで」

 

 歩き出す。

 

 命は半歩横。

 距離は近すぎず、遠すぎず。

 

 しばらく黙って歩いてから、

 俺は思い出したように言う。

 

「この辺、新しい店できたの知ってる?」

 

 命が、首を傾げる。

 

「……いいえ」

 

「駅前。ケーキを出すカフェなんだけど」

 

 それだけで、

 命の歩幅が、ほんの少しだけ揃う。

 

「……そうなのですか」

「日曜日、行ってみようぜ」

 

 軽く聞いてみる。

 

 命は、その場で止まりかけて、

 慌てて歩き直す。

 

「……日曜、ですか」

「うん。だめか?」

 

 命は視線を落としたまま、

 数歩、黙って歩く。

 

 それから、小さく息を吸って。

 

「いえ……大丈夫です」

 

 どうやら良いらしい

 

「じゃあ、連絡先教えて」

「……はい」

 

 さりげなく連絡先を手に入れる

 

 校門が見えてくる。

 

 命は、少し考え込んだまま歩いて、

 別れ際に立ち止まる。

 

「……ハヤトさん」

「何」

「……ありがとうございます」

「別に」

 

 そう返すと、

 命は一瞬だけ困ったように笑った。

 

「……はい」

 

 頭を下げて、去っていく。

 

 ☆

 

 家のドアを開けた瞬間、黒い塊が突っ込んできた。

 

「っと……こひな」

 

 黒柴のこひなが、尻尾をぶんぶん振りながら脚に体当たりしてくる。

 少し遅れて、廊下の向こうから三毛猫のココが、いかにも興味なさそうな顔で歩いてきた。

 

「はいはい、分かってる」

 

 頭を撫でると、こひなは満足そうに喉を鳴らす。

 ココは近くまで来て、俺の鞄を一瞥したあと、ぷいっと向きを変えた。

 

 ……いつも通りだ。

 

 なのに、

 胸の奥は落ち着かない。

 

 リビングに入ると、キッチンから母さんの声がした。

 今日は早かったみたいだ。

 

「おかえり、隼人」

 

 母・沙織は、やけに機嫌がよさそうだった。

 鼻歌まじりで、鍋をかき混ぜている。

 

「今日は、なんかいい顔してるじゃない」

 

 そう言われて、俺は一瞬言葉に詰まる。

 

 いい顔?

 そんなつもりはない。

 

「……そうか?」

「そうよ。分かるの」

 

 母さんは振り返って、にやっと笑う。

 

「何かあった?」

 

 俺は靴下を脱ぎながら、少し考える。

 考えてから、正直に言った。

 

「……デートの約束した」

「デート?」

 

 母さんはあきれていた

 

 

「相変わらずあんたもやるわね。あれだけしておいて、まだ他の女に手を出そうとしてるなんて」

「俺は女性を愛しているんだよ。もちろん母さんもね」

「わかってるわよ。毎日ベットで確かめてるじゃない」

 

「それで?」

 

 母さんは聞いてくる。

 

「相手は誰?」

「御堂命」

 

 名前を出した瞬間、

 期待で胸が、少しだけ跳ねた。

 

「……命? 御堂?」

 

 鍋をかき混ぜていた手が、止まる。

 

「もしかして、あの御堂家の?」

「そう」

 

 俺がそう答えると、

 母さんは短く息を吸った。

 

「へえ……」

 

 驚いた顔をしたのは、ほんの一瞬。

 すぐに、いつもの柔らかい表情に戻る。

 

「隼人、すごいところに声かけたわね」

「まぁもともと名家の子との結婚を狙ってはいたんだけど。命は名家じゃなかったとしてもアタックしていたと思う」

「そんなに良い子なの?」

「かなりの美少女だよ」

「面食いなのは相変わらずなのね」

 

 そう言って母さんは笑って、また鍋に向き直る。

 

「まぁでも、相手がどんな家でも、隼人が約束したってことの方が大事でしょ」

 

 ……まあ、そうだ。

 

 名家だとか、家柄だとか、

 そういうのは後からついてくる話だ。

 

「驚いたけどね」

 

 母さんは、楽しそうに付け足す。

 

「御堂家のご令嬢と、うちの息子がデートの約束なんて」

「必ず口説き落としてみせるよ」

「はいはい」

 

 軽く流される。

 

 ソファに座ると、

 こひなが隣に丸くなり、

 ココが背もたれに跳び乗った。

 

 名家御堂。

 そう言われて、少しだけ現実味が増す。

 

 でも、

 俺が思い出しているのは、

 肩書きじゃない。

 

 視線を逸らした横顔と、

 返事までの、あの一拍。

 

 ……やっぱり、効いてる、よな?




AI生成ですが立ち絵が出来ました。
初登場時に立ち絵を追加しました。

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天城隼人

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御堂命

【挿絵表示】

九条恵
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