※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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41話 身体測定

 四月の終わり。

 体育館に、やけに人が多い。

 

 身体測定。

 毎年ある行事のはずなのに、今年は空気が少し違った。

 

 理由は分かってる。

 俺がいるからだ。

 

 身長体重の列に並ぶだけで、女子の視線が集まる。

 騒ぐわけでも、声を上げるわけでもない。

 ただ、距離感が妙に慎重だ。

 

「次、天城」

 

 名前を呼ばれて前に出る。

 

 計測台に立つ。

 姿勢を正せと言われて、素直に従う。

 

 カチ、とバーが下りる音。

 数字が読み上げられる。

 

「……記録、取れたな」

 

 淡々とした声。

 評価も感想もない。

 

 表示された数字を、俺は一度だけ見た。

 

 ……あ。

 

 頭の中で、去年の記憶と重なる。

 はっきりした数値じゃない。

 でも、感覚として分かる。

 

 伸びてる。

 

 靴を脱いで立った時の目線。

 天井との距離。

 ほんの数センチ程度の違いなのに、妙に実感があった。

 

 そうか、と内心で思う。

 

 成長してるんだな。

 

 体重計に移る。

 思ったより重たいのは筋肉のせいだろう。

 

 終わって、記録用紙を渡される。

 

「次の検査は、クラスごとに案内するからな」

 

 そう言われて列を外れる。

 

 指定された場所に戻る途中、恵と目が合った。

 

 恵は、にこりと笑う。

 いつも通りの余裕のある表情だ。

 

「お疲れさまですわ、ハヤト様」

「まだ始まったばっかだろ」

「それでも、ですわ」

 

 軽い会話。

 けれど、その直後に、恵の視線が一瞬だけ俺の記録用紙に落ちた。

まぁ

 

 その少し後ろで、命が静かに立っている。

 

レンがすぐ隣に来た。

 

「ハヤト、どうだった?」

 

 軽い声が飛んでくる。

 

「どうって、普通だろ。測っただけだ」

「えー、でもさ」

 

 レンは俺の顔をじっと見てから、にやっとする。

 

「なんか、堂々としてた」

「意味分からん」

「分かるでしょ」

 

 そう言って、肩をすくめる。

 

「みんな、すごい静かだったし」

 

 俺はタオルで首元を拭きながら、天井を見る。

 

「毎年こんなもんだろ」

「去年と違うよ」

 

 即答だった。

 

「去年は、もう少しざわざわしてた」

「そうか?」

「そうだよ」

 

 レンは足をぶらぶらさせながら続ける。

 

「今日はさ、静かすぎる」

「体育館だからだろ」

「ちがうって」

 

 レンは楽しそうに笑う。

 

「ハヤトが前に出るたびに、みんな息止めてる感じ」

 

 俺は小さく息を吐く。

 

「大げさだ」

「大げさじゃないよ」

 

 レンはそう言い切ってから、少しだけ声を落とす。

 

「でもさ」

「ん?」

「ハヤトは、別に変わってないよね」

「そりゃな」

 

 測られただけで、性格まで変わるわけがない。

 

 レンはその答えに満足したのか、うんうんと頷く。

 

「だよね。だから安心した」

「何が」

「変に遠く行っちゃわないかなって」

 

 その言葉に、少しだけ視線を向ける。

 

「行かない」

「即答だ」

「当たり前だろ」

 

 レンはくすっと笑って、前の方を見る。

 

「じゃあさ、昼休み屋上行こ」

 

「弁当だろ」

「うん。今日はハヤトの席、確保しとくから」

「ありがと」

 

 そんな会話をしているうちに、次の名前が呼ばれる。

 

 視線は自然と前に戻る。

 

 昼休み。

 屋上は、風がちょうどいい。

 

 いつもの場所に、五人で腰を下ろす。

 俺は弁当箱を開きながら、さっきまでの体育館の空気を思い出していた。

 

「いやー、終わったね」

 

 最初に声を出したのはレンだった。

 恵が小さく息を吐く。

 

「身体測定、思ったより気を使いましたわ」

「そうですか」

 

 命が静かに返す。

 

「まあ。ずいぶん落ち着いていらっしゃるのね」

「……そうでしょうか」

「ええ」

 

 恵は頷いてから、さらりと続ける。

 

「身体測定のときも、ずっと平然としていらしたでしょう」

 

 命は一瞬だけ、箸を止める。

 

「特に、理由はありません」

「まあ」

 

 恵は小さく笑う。

 

「わたくしでしたら、あんなに近くにハヤト様がいらしたら、少しは意識してしまいますのに」

 

 その瞬間、命の視線がわずかに揺れた。

 

「……」

 

 答えない。

 

 けれど、指先が箸を持ち直すのに、ほんの一拍遅れる。

 

「意識、なさらないのですか?」

 

 恵はあくまで柔らかく、からかうように言う。

 

「御堂さんは」

「……」

 

 命はしばらく黙ってから、静かに口を開いた。

 

「していない、わけでは……」

 

 そこで言葉が切れる。

 恵の眉が、楽しそうにわずかに上がった。

 

「あら」

「していない、わけでは……ない、です」

 

 命は視線を伏せたまま、続ける。

 その声は低く、抑えられている。

 屋上の風が、少しだけ強く吹いた。

 

「えっと……」

 

 日和が少し困ったように笑う。

 

「もう終わったことだし、気にしても仕方ないよ」

 

 のほほんとした声で、場を包むように続ける。

 

「屋上、風が気持ちいいね。ごはんも美味しいし」

 

 その一言で、空気がふっと緩んだ。

 

「そうね」

 

 恵が肩の力を抜く。

 命も、小さく頷いた。

 その流れを見ていたレンが、弁当箱を持ったまま言う。

 

「なんかさ」

 

 日和を見る。

 

「日和さんと一緒にいると、安心するね」

「……え?」

 

 日和が瞬きをする。

 さっきまでの、のほほんとした表情が、一拍遅れて変わる。

 

「え、えっと」

 

 頬が、じわっと赤くなる。

 

「そ、そうかな……」

「うん」

 

 レンは深く考えずに頷く。

 

「場が落ち着くっていうか」

「……」

 

 日和は視線を下げて、照れたように笑った。

 

「ありがとう……」 

 

 昼休みは穏やかに流れていく

 

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