目を覚ますと澄乃さんはブラジャーをつけている最中だった。
「目を覚ましたのね、坊や」
澄乃さんはそういうとこちら身体を向ける
「見て、坊やのお陰で妊娠三か月みたいなお腹になっちゃったわ」
そう言いながらお腹をさする。
確かに最初に見たすらりとしたお腹ではなくなっていた。
「こんな壊れちゃいそうなほど激しいエッチをしてしまったのは初めてよ」
澄乃さんは手慣れた手つきで和服を着ていく。
「こんな燃えるような恋も」
「私は、あなたに惹かれてしまった」
言い切る声には、大人の色気があった。
「年齢の言い訳も、大人の理屈も……もう使えないくらいに」
俺も服を着ていく。
「……だから今は、あなたの前では大人でいられない」
「……ただの一人の女として、ここにいるわ」
澄乃さんは、少し間を置いてから口を開いた。
さっきまでより、声の調子が柔らかい。
「ねえ、坊や、連絡先交換してもいいかしら」
「もちろんですよ」
俺はスマホを取り出す。
「……ありがとう。こんなふうに頼むの、久しぶりだから……少し、恥ずかしいわ」
「さっきまで、もっと恥ずかしいことしてたじゃないですか」
「ふふふ、そうね。今度またあの”恥ずかしいこと”してね? あの感覚一度味わったらもう戻れないから」
「澄乃さんこっち来て」
「何かしら」
俺は澄乃さんの唇を奪う。
「んっ♡愛しているわ、私の愛おしい坊や♡」
「俺もだよ」
「貴方はこの世界でも類を見ないほどいい男よ」
「澄乃さんもいい女だよ」
「坊やと話してると胸がきゅんきゅんするわ」
「子供はできないかもしれないけど、もう澄乃さんは俺のパートナーだからね」
「パートナにまでしてくれるの? 嬉しいわ」
「澄乃さんとお別れするの寂しいですけど今日はそろそろ帰りましょう」
「待って車を呼ぶわ……あなたも一緒に乗りなさい。この時間に一人で帰すのは、さすがに気が引けるわ」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
俺がそう答えると、澄乃さんは少しだけ目を丸くして、それから柔らかく笑った。
「素直なのね、坊や」
澄乃さんはすぐにスマホを取り出した。
指先は落ち着いているのに、画面を見る目だけが少しだけ柔らかい。
「夜道を歩かせるのは、さすがに気が引けるもの」
「俺は平気ですよ」
「それでもよ。今日は……私のほうが、名残惜しいんですもの」
そう言って、小さく微笑む。
その笑みは、年上の余裕というより、素直な感情に近かった。
ほどなくして、車が到着した知らせが入る。
結構お高そうな車だ、女性の運転手が後部座席のドアを開く。
澄乃さんが先に乗り、俺も隣に腰を下ろした。
ドアが閉まると、外の音が一気に遠のく。
個室よりも近く、でも妙に落ち着いた距離。
「ねえ、坊や。今日は……無理をさせていないかしら」
「してないですよ、澄乃さんこそ」
「私は大丈夫よ。若い息吹を感じて元気なくらい」
「続きは……また今度。連絡、待ってるわ」
「俺から送ります」
「ふふ、ええ。急がなくていいから」
今度はおそらく美人な娘さんも一緒だろう。それが楽しみだ
「……それにしても不思議ね」
澄乃さんが、窓の外を見ながら呟く。
「あなたと並んで座っているだけなのに、
胸の奥が、さっきより静かで……それでいて、温かい」
「安心してくれてるなら、嬉しいです」
そう答えた俺に、澄乃さんはすぐには返事をしなかった。
窓の外を流れる街灯を目で追いながら、ゆっくりと息を吐く。
「……ええ。安心、しているわ」
一度、そこで言葉を切る。
それから、少しだけこちらに顔を向けた。
「でもね、それだけじゃないの」
声は低く、落ち着いている。
けれど、その奥にある感情は、はっきりと伝わってきた。
「若い人と話していると、普通は“元気をもらう”とか“懐かしい気持ちになる”とか、そういうものなのよ」
自分に言い聞かせるように、続ける。
「なのに、あなたと並んでいると……私のほうが、委ねてしまっている感じがする」
指先が、シートの縁をなぞる。
無意識の仕草だった。
「守られている、なんて言うと大げさだけれど……少なくとも、気を張らなくていい」
そこで、澄乃さんは小さく笑った。
「……こんな感覚、久しぶりだから。少し、戸惑っているの」
「戸惑わせてしまったなら、すみません」
そう言うと、澄乃さんは首を横に振った。
「いいえ。謝られることじゃないわ」
そして、はっきりと俺を見る。
「戸惑っているのに、離れたいと思わない。それが……たぶん、答えなの」
車内に、静かな沈黙が落ちる。
気まずさはない。
「離れたりしませんよ。僕たちはもう心でつながっている」
「本当に……余裕があるのか、無防備なのか、分からない子」
「余裕があるように見えるなら、たぶん……澄乃さんが落ち着かせてくれてるんです」
でも、その声は楽しそうだった。
やがて車が、俺の家の近くでゆっくり止まる。
「……ここまでね」
「送ってくれて、ありがとうございます」
俺がそう言うと、澄乃さんは少しだけ視線を下げてから、顔を上げた。
「坊や」
「はい」
「……いい夜を。今日のこと、絶対に忘れられそうにないから」
車のドアが開く。