※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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46話 運動会準備

 午後の校庭は、思ったよりも騒がしかった。

 テントの骨組み、ライン引き、用具運び。

 運動会の準備っていうのは、始まってみるとやることが多い。

 

「ハヤト、こっち持ってくれる?」

 

 レンが軽く手を挙げる。

 遠慮のない声。

 

「ああ」

 

 二人で長机を持ち上げる。

 男子が少ないから、自然と俺たちが駆り出される形だ。

 

「しかしさ、運動会って聞くとちょっと緊張するね」

「なんで?」

「だってさ、目立つじゃん。ハヤト」

 

 言い方は軽いけど、冗談半分じゃないのは分かる。

 俺は肩をすくめた。

 

「今さらだろ」

「ハヤトは余裕だね」

 

 そう言って、レンはくすっと笑った。

 

 少し離れたところで、日和が白線引きの補助をしている。

 帽子をかぶって、相変わらずマイペースな動き。

 

「命さん、そこ、もう少し右です」

「……はい。ありがとうございます、日和さん」

 

 命は巻尺を持ったまま、静かに頷く。

 声は落ち着いているけど、作業に集中しすぎて周りが見えていない感じだ。

 

 そこへ、恵が自然に割り込んでくる。

 

「ハヤト様、そちらは終わりましたの?」

「もうすぐ」

「でしたら次はテントの布を運びましょう」

「分かったよ」

 

 俺がそう答えると、恵は満足そうに頷いた。

 

「助かりますわ。さすがですわね」

 

 そのやり取りを、命がちらりと見る。

 一瞬だけ視線が揺れて、すぐに手元へ戻る。

 

 日和がそれに気づいて、ふわっと笑った。

 

「ふふ、みんな真面目だねえ。でも、準備ってこうやってわいわいするのが楽しいよ」

「だね。なんか、もう本番終わった気分」

 

 レンがそう言うと、日和が首を振る。

 

「まだまだこれからだよ。当日はもっと賑やかになるんだから」

 

 俺はテントの支柱を肩に担ぎながら、空を見上げた。

 雲は高くて、風は少し暖かい。

 

「……まあ、悪くないな」

 

 思わずそう漏らすと、恵がすぐに反応する。

 

「あら、楽しみですの?」

「準備がな」

 

 そう答えると、恵は意味ありげに微笑んだ。

 

「本番も、きっと注目されますわよ。ハヤト様」

 

 命は何も言わない。

 でも、ペンを持つ手が、ほんの一拍遅れた。

 

 準備が一段落すると、校庭のあちこちに小さな空白ができた。

 人が動かなくなると、急に広く感じる。

 

「次は何だっけ?」

 

 レンが作業表を覗き込みながら首を傾げる。

 

「用具倉庫の整理と、応援席の札付けですわね」

 

 恵が即答する。

 こういうときの段取りの良さは、本当に助かる。

 

「じゃあ、俺とレンで倉庫行くか」

「了解」

 

 命は日和と一緒に札の確認に回ることになったらしい。

 二人並ぶと、不思議と落ち着いた空気になる。

 

「命さん、無理しないでね」

「はい……日和さんも」

 

 そんな短いやり取りが、風に溶ける。

 

 倉庫の中は、土とゴムと金属の匂いが混じっていた。

 綱引き用のロープ、玉入れの籠、古いカラーコーン。

 

「こうして見ると、毎年同じもの使ってるんだね」

 

 レンがロープを持ち上げながら言う。

 

「まあな」

「でもさ」

 

 レンはちらっと俺を見る。

 

「運動会って、ただの行事なのに、妙にわくわくするよね」

 

 ロープを棚に戻す。

 

 外に戻ると、日和が応援席の札を結び終えたところだった。

 

「ハヤトくん、これで全部だよ」

「ありがとう」

 

 命は少し遅れて、帽子を直しながら立ち上がる。

 

「……明日、早いですね」

「ああ。集合、かなり朝だな」

 

 そう言うと、命は小さく息を吸った。

 

「……頑張ります」

 

 それだけ。

 でも、どこか覚悟みたいなものが滲んでいた。

 

 恵が全体を見渡して、手を叩く。

 

「では、本日の準備はここまでですわ。皆さん、お疲れさまでした」

 

 その言葉で、ようやく実感が湧く。

 明日が本番だ。

 

 校庭の影が、少しずつ長くなってきた。

 太陽が傾くと、さっきまでの賑やかさもどこか落ち着いてくる。

 

「そろそろ片付けに入ってくださーい」

 

 教師の声が響いて、あちこちで「はーい」と返事が上がる。

 

「やっと終わりかあ……」

 

 レンが背伸びをして、腰をとんとん叩いた。

 

「思ったより疲れましたわ」

 

 恵はそう言いながらも、制服の乱れを直す所作がやけに優雅だ。

 

「命、大丈夫?」

 

 日和が声をかける。

 

「はい。少し、肩が張っただけです」

 

 そう答えつつ、命は肩を軽く回した。

 無理してるわけじゃない。

 でも、どこか気を張り続けていた感じが残っている。

 

「ほら、これ返しに行こう」

 

 俺がそう言って、備品箱を指すと、自然と全員が集まった。

 歩きながら、レンがふと思い出したように言う。

 

「明日、天気は大丈夫なんだよね?」

「予報では晴れですわ」

 

 即答したのは恵だ。

 

「気温も高すぎず、風も弱い。運動会日和、ですわね」

「さすが恵、調べてる」

「当然ですわ。段取りが崩れるのは、好みませんの」

 

 日和がくすくす笑う。

 

「でもさ、運動会って何があるか分からないから楽しいんだよ」

「分からない、ですか」

 

 命がぽつりと繰り返す。

 

「はい。でも……皆さんと一緒なら、大丈夫な気がします」

 

 一瞬、場が静かになってから、

 

「それ、いいこと言った」

 

 レンがすぐに空気を戻した。

 

「明日はチーム戦だしね。誰か一人だけ頑張っても意味ないし、恵さんと日和さんは敵同士だけど負けないからね」

 

 

 その言葉に、恵が少しだけ視線を俺に向ける。

 意味深だけど、何も言わない。

 

 備品庫の前で立ち止まり、箱を下ろす。

 

「じゃあ、今日は解散だな」

「お疲れさまでした」

 

 命が丁寧に頭を下げる。

 

「お疲れー」

 

 レンと日和は同時に言って、顔を見合わせて笑った。

 恵は一歩だけ俺に近づいて、小さな声で。

 

「明日……期待していますわ」

「ほどほどにな」

「それは、無理ですわね」

 

 そう言って、くるりと踵を返す。

 

 皆がそれぞれ帰路につく中、

 校庭には、完成したテントと白線だけが残った。

 

 さあ明日は運動会だ。

 

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