※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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70話 澄乃さんと綾乃さんで高級焼き肉2

 澄乃さんが口を開く

 

「綾乃の事気に入ってくれたかしら?」

「はいとても魅力的な女性だと思います」

「本当に? 良かったわ」

 

 澄乃さんはそう言って、上機嫌に笑った。

 でも次の瞬間には、いつもの余裕のまま綾乃さんの方を見る。

 

「ほら、綾乃。坊やがこう言ってる」

 

 綾乃さんは表情を崩さない。

 けれど、箸を置くタイミングがほんの少しだけ遅れた。

 

「……ありがとうございます」

 

 短い。

 でも、それだけで十分に“効いてる”のが分かる。

 

 澄乃さんが楽しそうに言う。

 

「綾乃ね、こう見えて褒められるのに慣れてないの。逃げられてばっかりだったから」

「お母さん」

「事実よ。坊や、遠慮しないで。綾乃は分かりやすい言葉の方が助かるの」

 

 俺は頷いた。

 

「分かりました」

 

 綾乃さんが小さく息を吐く。

 

「……母が余計なことを言いましたが、私は今の言葉で十分です」

 

 肉も野菜もひと通り落ち着いて、澄乃さんが上機嫌にお茶を口にした。

 その横で、綾乃さんがふと俺を見た。視線がまっすぐで、逃げない。

 

「……ハヤト君」

「はい」

 

 綾乃さんは一拍置いて、淡々と言う。

 

「お母さんが、あなたの容姿の話をする理由が分かりました」

 

 澄乃さんがすぐ拾う。

 

「あら。綾乃、言ったわね」

「事実です」

 

 綾乃さんは俺から目を逸らさない。

 褒め言葉なのに、確認みたいな言い方だ。

 

「整っています。目立つのは、髪型や服より……顔立ちのほうです」

「直球ですね」

「回りくどいのは苦手です」

 

 澄乃さんが笑う。

 

「ほら、坊や。綾乃はそういう子なの」

 

 俺は少しだけ水を飲んでから、丁寧に返した。

 

「ありがとうございます。そう言ってもらえるのは嬉しいです」

 

 綾乃さんが小さく頷く。

 

「……それと」

 

 綾乃さんは言葉を選ぶみたいに一拍置いて、それから続けた。

 

「“綺麗”というより、“品がある”に近いです。無理に作っていない感じがします」

 

 澄乃さんが満足そうに頷く。

 

「そうなのよ。坊やはね、見せつけようとしてない。だから余計に目を引くの」

 

 俺は少しだけ肩をすくめた。

 

「慣れてるだけです」

「慣れてるのが、また厄介です」

 

 綾乃さんが淡々と言って、でも口元だけがほんの少し緩んだ。

 照れているわけじゃない。気に入った時の反応だ。

 

 澄乃さんが楽しそうに言う。

 

「綾乃、言ったじゃない。坊やは見れば分かるって」

「……はい。分かりました」

 

 綾乃さんはそう言って、俺の皿に焼けた肉をそっと置いた。

 言葉より先に、動きが丁寧だった。

 

「澄乃さんも、綾乃さんも……本当に綺麗です」

 

 澄乃さんが楽しそうに笑った。

 

「まあ、坊や。口が上手い」

 

 綾乃さんは一拍置いて、淡々と。

 

「……ありがとうございます」

 

 俺はそれ以上その話を引っ張らず、箸を進めた。

 褒め言葉は短い方が、ちゃんと残る。

 

「夏休みは、どう過ごす予定ですか」

 

 綾乃さんがそう聞いた。

 けれど今日は、言い方が少し柔らかい。

 

「宿題は終わってます。自由研究も、もう完成しました」

「……え、完成?」

 

 綾乃さんの目がはっきり大きくなる。

 無表情じゃない。素直に驚いてる。

 

「早いのねえ、坊や」

 

 澄乃さんが楽しそうに笑う。

 

「材料を先に揃えてたので。作るだけでした」

 

 目が少し丸い。さっきより分かりやすく興味が出てる。

 

「……何を作ったんですか?」

「ラジオです。電池のない」

「電池のないラジオ……?」

「ラジオ局の電波だけで動くんです」

「……すごい」

 

 ぽろっと出たみたいな声だった。

 綾乃さんはすぐ整えようとして、軽く咳払いをする。

 

「……いえ、すごいです。本当に」

 

 澄乃さんが嬉しそうに頷く。

 

「ね? 坊や、こういうところがあるのよ」

 

 綾乃さんが思わず笑いかけて、でも真面目に戻る。

 

「……見たいです」

 

 その言い方だけは、整えきれてなかった。

 欲しいものを口にする時の、素直な声。

 

「今度、持ってきますよ。見せます」

 

 綾乃さんがほっとしたみたいに息を吐く。

 

「……約束です」

 

 澄乃さんが楽しそうに言った。

 

「坊や、綾乃は“約束”って言葉に弱いの。逃げられてるから」

「お母さん」

 

 綾乃さんは小さく睨むけど、口元が緩んでる。

 

「……でも、はい。約束してください」

 

 俺は丁寧に頷いた。

 

「ええ。約束します」

 

 俺がそう言うと、綾乃さんは小さく頷いて、ようやく箸を進めた。

 さっきまでの勢いが落ち着いて、空気がまた食事の温度に戻る。

 

 澄乃さんが満足そうに笑う。

 

「よし。今日はそれで十分。坊や、ちゃんと食べなさい。綾乃も、もう質問は一旦おしまい」

「……はい」

 

 綾乃さんは少しだけ名残惜しそうにしながら、でも素直に引いた。

 その引き際の良さが、逆に可愛い。

 

 肉を食べ終えて、冷たいお茶が運ばれてくる。

 沈黙が挟まっても居心地が悪くない。

 

 会計は澄乃さんがさらっと済ませた。

 俺が何か言う前に、目だけで制してくる。

 

「坊や、今日は私が連れてきた日。気にしなくていい」

 

「……ありがとうございます」

 

 店の外に出ると、夜風が涼しかった。

 澄乃さんは少しだけ足を止めて、俺を見る。

 

「坊や、その……今日この後時間あるかしら」

「もちろんですよ、約束ですからね、ちゃんと”三人で”ですよね」

「本当に変わってる子ね」

「何の話ですか?」

「すぐにわかるわ」

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