※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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74話 部屋割り

「まずは部屋を決めましょう。疲れを残したくありませんの」

 

 嫌な予感がした。

 この島に来てからずっと、恵の“サプライズ”は段階を踏んで重くなる。

 

「……恵、まさか」

 

 俺が言いかけると、恵はあっさり首を振った。

 

「安心なさいませ。二部屋、取ってありますわ」

「二部屋?」

 

 レンが条件反射で顔を上げる。

 

 恵はリビングの外――いま俺たちが立っているこの部屋の玄関側を顎で示した。

 つまり、“この部屋の奥”ではない。同じフロアに並ぶ、もう一枚の扉のほうだ。

 

「このスイートと、隣のスイート。どちらも同じグレードですわ。コネクティングで内側からも行き来できます」

 

「コネクティング……?」

 

 日和が理解して頷く。

 

「隣同士の部屋が、中のドアで繋がってるやつだね」

「その通りですわ」

 

 レンが目に見えて安堵する。

 

「さすがに一緒だと寝る時と落ち着かないもんね」

 

 命は無表情のまま窓の外から視線を戻し、恵の言葉を受け取るように小さく頷いた。

 俺は短く言う。

 

「男子は俺とレン。女子は恵と命と日和。これでいいな」

「ええ。合理的ですわ」

 

 恵は上品に微笑んで――最後に余計な一言を添えた。

 

「ただし、“内側のドア”は後で開けられるようにしておきますわね」

「……そんなことできるんだ」

 

 レンが小声で言い、日和が笑って宥めた。

 

「とりあえず荷物置こう。ドアの話はそのあと」

 

 恵は「ええ」と短く答えて、スタッフに小さく合図をした。

 動きは無駄がなく、声も立てない。島の“整っている”感じがそのまま人に移ったみたいだった。

 

「では、男子は隣室。女子はこの部屋ですわ」

「ここが女子?」

 

 レンが一瞬だけ名残惜しそうに海を見て、それから俺のほうを見る。

 

「隼人、男子部屋も同じくらいすごいよね?」

「同じグレードって言ってたろ」

「信じる……!」

 

 レンは自分に言い聞かせるみたいに頷いて、スタッフの案内についていった。

 

 俺も一度だけ振り返る。

 恵はすでに“この部屋の主”みたいに立っていて、日和は自然にソファの端へ荷物を置く場所を作っている。

 命は窓際から離れ、部屋の入口に近い位置で立ち止まっていた。

 

 目が合う。

 命の表情は読めない。丁寧に整っている。

 でも視線の留まり方がほんの少し長い。――それだけで、“何か言いたい”が分かる。

 

 俺は小さく頷いて、隣の部屋へ入った。

 

 男子部屋も、同じように広かった。

 海の角度が少し違うだけで、眺めの格は落ちない。空調の音すら上品で、床が静かに足音を吸う。

 

 レンは入った瞬間、ぱっと笑って両腕を広げた。

 

「うわ、やっぱり同格! ね、隼人。恵ってこういう“全部ちゃんとしてる”のが怖いよね」

「怖いって言うな」

「褒めてる。褒めてるよ」

 

 レンはソファに腰を落として、窓の外を眺める。テンションは高いのに、変に浮ついてない。

 “ここまで来たら楽しむ”って割り切りが早い。

 

 それから、壁際の目立たない扉――コネクティングのドアに目をやった。

 

「これが例のやつか。……まあ、開くなら恵がちゃんと言うでしょ」

「お前、さっきより落ち着いてんな」

「だって隼人いるし」

 

 あっさり言って、レンは肩をすくめた。

 

「隼人がいるとさ、僕、余計に警戒しなくていいって思えるんだよね。変なこと起きても“整えてくれる”じゃん」

 

 その言い方が、冗談みたいで本気だった。

 

「信用しすぎだろ」

「信用してる。だって今までそうだったし」

 

 レンはベッドの端にちょこんと座って、靴を脱ぎながら笑った。

 

「だから僕は、楽しむ担当。隼人は、やばくなったら止める担当。ね?」

「勝手に役割作るな」

「できてるでしょ」

 

 レンはケロッとして荷物をほどき始めた。

 それからふと、俺のスマホに視線をやる。

 命からだった

 

「……連絡?」

「……みんな自販機前で集まってるんだって」

「うん。行っておいで。僕、ここで景色見てる」

「景色奇麗だもんな」

「ここからの眺めはいいよ」

 

 レンはそう言って、海を見た。

 

「このバカンス、楽しもうよ」

 

 俺はスマホを握り直して、短く頷いた。

 

「……行ってくる」

「いってらっしゃい」

 

 ロビーの奥にある自販機コーナーは、冷房が強くて少しだけ肌寒い。機械の低い唸りと、ボトルが落ちる音がやけに大きく聞こえた。

 

 先に来ていた日和が、ボタンの前で腕を組んでいる。真剣な顔で並んだペットボトルを見比べて――俺に気づいて肩越しに笑った。

 

「お、来た来た。ねえ、こういうとこってさ、絶対“島限定”あるよね」

「あるな」

「買う? 買わない? ハヤトは味見するタイプ?」

「味次第」

「現実的〜。じゃ、今日は水だね」

「水」

 

 隣で、恵が上品に首を傾げた。

 

「お水は正解ですわ。移動のあとに甘いものを入れると、余計に喉が渇きますもの」

「今それ言う?」

「止めないで。私は後で飲みます。後で」

 

 日和が笑って、ボタン列を指でトントン叩いた。

 

「でもさ、明日どうなるんだろ。恵のことだから、朝から“はい、集合”って言い出しそうじゃない?」

「言うな」

「言うよね。しかも早い。何時集合とかじゃなくて、“今から”って言うタイプ」

「……否定できませんわ」

 

 恵がさらっと肯定して、俺は苦笑した。

 

 日和が財布を出しながら俺の方をちらっと見る。

 

「てかレンは?」

「部屋。海見てる」

「え、もう優雅」

 

 日和がボタンを押して、水を二本取り出す。

 

「はい。ハヤト一本」

「サンキュ」

 

 俺が受け取ると、日和はもう一本を命の前にそっと置いた。

 

「加湿器あると思うけど、移動の疲れは水がいちばん効くよ」

「ありがとうございます」

 

 命は丁寧に受け取る。表情は読めないまま。でも、受け取る動作が一瞬だけ柔らかい。

 

 日和は自販機の前で水を選びながら、肩越しにこちらを見た。

 

「じゃ、飲み物持ったら一回解散ね。女子は女子で荷物置いて、作戦会議。男子も荷物置いて休んでて」

 

 恵が言い出す、という言い方が妙に現実的で、俺は苦笑した。

 

「了解」

 

 日和が水を二本取り出して俺に一本渡し、もう一本は命の前にそっと置いた。

 

「加湿器あると思うけど、移動の疲れは水がいちばん効くよ」

「ありがとうございます」

 

 命は丁寧に受け取る。表情は読めないまま。でも、受け取る動作が一瞬だけ柔らかい。

 

 俺は水のキャップをひねりながら、命に短く言った。

 

「さっきの話、またあとで。無理しなくていい」

 

 命はすぐには返事をしなかった。

 一拍置いてから、丁寧に言う。

 

「……無理は、していません。ですが、安心しました」

 

 日和が「よし」と小さく頷いて、場を畳むみたいに手を叩いた。

 

「じゃ、戻ろ。荷物片づけちゃお」

 

 

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