※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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75話 ショッピング1

 男子部屋に戻ると、レンが窓際に立って、海を見ながら何かを数えていた。

 

「何してんだ」

「波。……いや、雲。雲の形がすごい」

 

 レンは振り向いて笑う。

 

「ここ、景色が強すぎる。もう一週間分の“いい夏”を先に食べた気がする」

「まだ始まってねえよ」

「始まってるよ。ほら、匂いが夏だもん」

 

 レンはカバンを開けて、さっさと荷物を整え始めた。

 “楽しむ担当”の切り替えが早い。

 

「命、何か言ってた?」

「……恵のサプライズが気になるって」

「そりゃ気になるよね」

 

 レンはさらっと言って、ベッドの枕の位置を直す。

 

「でもさ、隼人がちゃんと見てるから大丈夫だよ。命もそれ分かってる。だから言えたんじゃない?」

 

 軽い口調のくせに、妙に当たっている。

 

「……お前、たまに鋭い」

「たまに、じゃない。いつも鋭い」

「はいはい」

 

 そのタイミングで、ドアの外から控えめなノック。続いてスタッフの声。

 

「お荷物、こちらにお運びいたします」

 

 レンが小声で「プロだ……」と呟いて、俺は「お願いします」と返した。

 

 荷物が定位置に収まっていく。部屋が“滞在の形”になっていくと、ようやく身体の芯の緊張がほどけた。

 

 窓の外を見る。太陽はまだ高いが、光の色が少しだけ変わってきている。

 夕方に向かっている――それが分かる。

 

 そこへ、スマホが鳴った。

 恵から、簡潔なメッセージ。

 

『30分後、ロビー集合ですわ。島を軽く案内します。歩きやすい格好で』

 

 レンが俺の画面を覗き込んで、声を上げそうになって――自分で口を押さえた。

 

「……来た」

「来たな」

 

 レンは肩を回して、笑う。

 

「よし。次のサプライズ、受けて立つ」

「構えすぎるな」

「いや、これは構えるやつ。恵だもん」

 

 ロビーに降りると、すでに全員揃っていた。

 女子組は、空気が少しだけまとまっている。日和が真ん中で整えて、命はいつも通り静かに立ち、恵は当然のように“中心”にいる。

 

 恵は俺たちを見るなり、満足そうに頷いた。

 

「時間通りですわね。素晴らしい」

「恵が時間に厳しいだけでしょ」

 

 日和が笑って言うと、恵は悪びれずに返す。

 

「当然ですわ。島の運営は、時間で回りますの」

 

 命は無表情のまま、こちらに視線を向けた。

 さっきより落ち着いている。日和の“作戦会議”が効いた顔だ。

 

 恵は手を軽く叩いた。

 

「では、次はこちらですわ。まず――島を少し案内します」

 

 スタッフが静かに前へ出て、外へ促す。

 建物の外には、黒い車が二台並んでいた。派手さはないのに、車体の艶と静けさだけで“格”が分かるタイプだ。ドアはスタッフが先回りして開け、冷えた空気がふわっと流れ出す。

 

 レンが目を丸くする。

 

「車……! 移動車なんだ」

「日差しが強いですもの」

 

 恵は当然のように言って、運転席のスタッフに軽く頷いた。

 

「一台目に私と日和。もう一台に隼人とレン。命は――」

 

 恵が一拍置く。

 命が小さく瞬きをした。表情は読めない。けれど、視線が一度だけ日和のほうへ動く。

 

 日和がすぐに訊いた。

 

「命、こっち来る?」

 

 命は少しだけ間を置いてから、丁寧に答える。

 

「……よろしければ。日和さんの方が、落ち着きます」

「了解」

 

 日和が笑って手招きし、命は静かに頷いて一台目の後部座席へ。シートベルトを丁寧に締める所作が、いつも通りきっちりしている。

 

 俺とレンは二台目へ乗り込む。中は驚くほど静かで、冷房の風も強すぎない。

 

 レンが窓を見回して、小声で言った。

 

「……これ、もう“移動”がイベントだよね」

 

 レンは窓の外に視線を戻す。

 車内は静かで、冷房の風だけが一定に流れている。外の青と白が、窓枠で切り取られていく。

 

 前の車――恵たちの車が、滑るように右へ曲がった。

 こちらも続く。

 

 数分走ったところで、道沿いの景色が変わる。

 白い壁の低い建物がまとまって並び、看板の主張は控えめなのに、全部が綺麗に整っている。小さな街みたいだ。

 

 レンが小声で言う。

 

「……あれ、なに。商店街?」

 

 運転しているスタッフが、穏やかに答える。

 

「島内のヴィレッジです。ショップ、カフェ、用品店がまとまっております」

 

 俺が前を見たまま言う。

 

「買い出し用か」

「たぶん、恵が連れてくるってことは、そうだろ」

 

 レンが小声で続ける。

 

「……じゃあ、服とか? サンダルとか……そのへん?」

 

 言いながら、レンは自分の声が弾みかけたのに気づいて、咳払いを一つ。

 

「……その、滞在で必要なやつ、かな」

 

 車がゆっくり停まった。

 ドアが開く。午後の熱気が一瞬だけ押し寄せて、すぐにまた冷えた空気が恋しくなる。

 

 すでに恵たちは降りていた。

 恵は入口の前で当然のように待っていて、日和は影のある場所に命を寄せるように立っている。命は無表情のまま帽子のつばを整えていた。暑さへの反応が、ほんの少しだけそこに出る。

 

 恵がこちらを見る。

 

「皆さん、こちらですわ」

「ここ、なに?」

 

 レンが訊くと、恵はさらっと言った。

 

「リゾートのショップです。滞在に必要なものは、ここで揃いますわ」

 

 日和が笑って補足する。

 

「要するに買い物。水着とか、羽織りとか、サンダルとか」

 

 レンが目を輝かせる。

 

「買い物! 好き!」

「好きなのかよ」

「好き! だって、こういうの“旅行始まった感”あるじゃん」

 

 恵が扉を開ける。

 店内は冷房が効いていて、木の匂いがする。派手な音楽は流れていない。静かで、上品で、価格だけが想像できない。

 

 スタッフがすぐに近づき、恵に一礼する。

 

「九条様。ご用意しております」

「ええ。皆さんの分も」

 

 用意。

 レンが俺を見て口の形だけで「用意!?」と言う。

 

 日和がレンを軽く押して進ませた。

 

「とりあえず見る。値札は見ない。心を守る」

「守れるかな……」

 

 命は一歩遅れて入ってくる。

 表情は読めないまま。でも視線が店内を一通りなぞって、いちばん落ち着きそうな棚――色味が控えめなコーナーに自然と寄った。

 

 日和が命に小さく言う。

 

「命、こっち。シンプル系あるよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 命は丁寧に頷いて、そのコーナーの前に立つ。

 手を伸ばす前に、いったん立ち止まる。選ぶときの慎重さがそのまま出る。

 

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