※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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79話 海遊び

 午前中に海へ入ったせいで、体が少し塩っぽい。

 髪も乾ききってなくて、風が当たるたびにひんやりする。

 

 パラソルの影に戻ると、恵がもうタオルと飲み物を並べていた。

 

「はい。休憩。水飲んで」

「仕切りが早い」

 

 日和が笑って言うと、恵は当然みたいに頷く。

 

「早い方が楽でしょ」

 

 レンが砂を払って座り、息を吐く。

 

「……午前でこんなに楽しいって、反則じゃない?」

「反則は島のせい」

 

 日和が軽く返す。

 

 命はタオルを肩にかけたまま、少し離れたところに座った。

 白い水着が乾いて、さっきより光が落ち着いて見える。

 表情は読めない。でも、さっきより呼吸が整っている。

 

 恵が言う。

 

「昼は、軽く食べる。ついてきて」

「軽く……」

 

 レンが小声で言いかけて、すぐやめる。恵の“軽い”は信用しない方がいい。

 

 ビーチ沿いに、屋台みたいなカウンターがあった。

 木の屋根と白い布。メニューは少ない。匂いだけで腹が減る。

 

 鉄板の上で、エビが音を立てて焼けている。

 にんにくの香りが風に乗って流れてきた。

 

 レンが目を輝かせる。

 

「ガーリックシュリンプ……!」

 

 日和が笑う。

 

「好きでしょ、そういうの」

「好き! 旅行っぽい!」

 

 恵が一歩前に出て、スタッフに短く言った。

 

「ガーリックシュリンプ、五つ。あとライスも。飲み物は水で」

「はい、かしこまりました」

 

 恵は財布も出さない。

 スタッフが当たり前みたいに動く。

 

 命が小さく言った。

 

「……屋台、なのですね」

「屋台っぽいだけ」

 

 日和が言う。

 

「こういうの、リゾートほどあるよ。雰囲気だけ屋台」

「……なるほど」

 

 命は頷いた。納得の仕方が丁寧だ。

 

 レンがハヤトの方へ身を寄せて、声を落とす。

 

「ねえ、にんにくの匂い、やばい。最高」

「あとで水飲め」

「はい……」

 

 出来上がったパックが並ぶ。

 熱い。香りが強い。レモンが添えられている。

 

 恵がそれを受け取って、迷いなく配る。

 

「はい。食べて」

「恵、配給みたい」

「配給で結構」

 

 日和が笑って、レンに渡す。

 

「レン、落とさないでね」

「落とさない!」

 

 レンは受け取った瞬間、鼻から息を吸ってしまって、すぐ咳き込んだ。

 

「っ……にんにく強い……!」

「吸うな」

 

 日和が肩を叩いて、笑いをこらえる。

 

 命はパックを両手で持って、一口だけ小さく食べた。

 一拍置いて、目を瞬かせる。

 

「……おいしいです」

 

 言い方が淡々としてるが、おいしいようだ。

 

 俺は思わず言う。

 

「味、強いだろ」

「はい。ですが……海の後なので」

 

 命はそう言って、もう一口食べた。

 さっきより食べ方が迷わない。

 

 恵が満足そうに言う。

 

「午後も動くから、ちゃんと食べて。倒れたら意味がない」

「うん」

 

 日和が頷く。

 

「午後は何する? 泳ぐ? 浮き輪?」

 

 レンが即答する。

 

「泳ぐ! 今日はちゃんと遊ぶ日!」

「ちゃんと、って何」

 

 日和が笑って、レンは照れたように口を閉じた。

 それから小さく言う。

 

「……楽しく、ってこと」

 

 日和は一瞬だけ目を逸らして、耳が赤くなる。

 

「……うん。楽しくね」

 

 レンはそれ以上言わない。

 でも、嬉しそうにエビを食べた。

 

 命はそのやり取りを見て、視線を落とした。

 表情は読めない。でも、さっきより肩が柔らかい。

 

 昼の匂いはにんにくで、風は海で、空はまだ高い。

 午後の遊びが、もう待っている。

 

 食べ終わると、恵が手を叩いた。

 

「はい。午後」

「急!」

 

 日和が笑う。

 

「でも、そうしないとだらだらするよね」

「そう。だらだらは夜にやる」

 

 恵は当然みたいに言って、砂浜の方を指す。

 

「浮く道具、用意してある。使う?」

 

 レンが目を輝かせる。

 

「使う!」

「即答」

 

 恵の合図でスタッフが運んできたのは、浮き輪とボディボードと、フィン。

 遊び道具は派手だけど、新品みたいに綺麗で、全部が整ってる。

 

 レンがボディボードを抱えた。

 

「これ、やりたい。波に乗るやつ」

「浅瀬だけ」

 

 恵が即決する。

 

「沖はダメ。見張りも付ける」

「はーい」

 

 レンは素直だった。今日は“ちゃんと遊ぶ日”だから。

 

 日和が命の方を見る。

 

「命はどうする? 泳ぐ? 浅瀬で浮く?」

 

 命は一拍置いてから答えた。

 

「……浅瀬で、浮くなら」

「じゃあ浮き輪持ってこ」

 

 日和は命に大きめの浮き輪を渡した。

 命は両手で持つ。表情は読めない。でも受け取り方が慎重だ。

 

 俺が言う。

 

「命、無理しなくていい」

 

 命はすぐ返す。

 

「……はい。ですが、少しだけ進みます」

 

 その返事は、午前より強い。

 

 海に入ると、午後の水は少しだけ温かい。

 波も午前より大きい。遊べる波だ。

 

 レンはボディボードを抱えて、浅いところで構えた。

 

「日和、見てて。いくよ」

「うん。転ばないでね」

「転ばない!」

 

 レンはタイミングを見て、波に合わせて飛び込んだ。

 板が前に滑る。体が乗る。波が押す。

 

 レンは一瞬だけ真剣な顔になって、そのまま笑った。

 

「うわ、いけた!」

 

 日和が拍手する。

 

「すごいじゃん」

「ね! 僕、できる!」

 

 レンは戻ってきて、息を弾ませて言った。

 

「もう一回!」

「休憩入れて」

 

 日和が止めると、レンはすぐ頷いた。

 

「……はい」

 

 恵が砂浜から声を飛ばす。

 

「レン様、偉いですわ。ちゃんと聞いて」

「恵、うるさい!」

 

 恵は涼しい顔で手を振った。

 

「褒めてるだけ」

 

 日和が笑って、レンは顔を赤くして海へ戻った。

 

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