※この作品はR-18です。

男女比1対100の彼女たちの世界で   作:ののじん

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92話 最後の海

 朝が早い。

 ロビーに降りた瞬間、もう「最終日」だと分かる空気があった。

 

 恵が当たり前みたいに言う。

 

「帰る前に、もう一回遊びますわ」

 

 レンが即反応する。

 

「遊ぶ! 派手に!」

「派手に、ですわ」

 

 恵はさらっと肯定した。

 

「最後ですもの。中途半端は嫌ですわ」

 

 日和が笑う。

 

「恵、こういう時だけ素直」

「素直で結構ですわ」

 

 命は静かに並んでいた。表情は読めない。

 でも、目が落ち着いてる。昨日までとは少し違う。

 

 俺が小声で聞く。

 

「暑くない?」

「……大丈夫です」

 

 丁寧な返事。

 それだけで、俺も落ち着く。

 

 車で島の端へ向かった。

 人が少ない、静かな浜。スタッフも最小限だけで、準備だけきっちり揃ってる。

 

 砂浜が見えた瞬間、レンが声を上げた。

 

「うわ……ここ、貸切?」

「ほぼ貸切ですわ」

 

 恵が涼しい顔で言う。

 

「朝は人が来ませんもの。こちらの都合で使えます」

「都合で海使えるのやばい」

「やばくありませんわ。普通ですわ」

「普通じゃない!」

 

 日和が笑って、レンの腕を軽く叩いた。

 

「レン君、今日は沢山叫んでもいいよ」

「いいの!?」

 

 命は砂浜に降りて、海を見た。

 水面の光が跳ねてる。波は小さい。今日はコンディションがいい。

 

 準備されてた道具が、やたら本気だった。

 

 大きめのフロート。ビーチボール。水鉄砲。

 それと、ロープがついたソファ型のボート。

 

 レンが指をさす。

 

「なにこれ! 引っ張るやつ!?」

「ソファボートですわ」

 

 恵が淡々と言う。

 

「沖へ行きません。浅い範囲で。安全に派手に」

「最高!」

 

 日和が笑う。

 

「レン君、落ちても泣かないでね」

「泣かない!」

「絶対?」

「……たぶん」

「たぶん禁止」

 

 日和のツッコミで、レンが笑った。

 

 最初は水鉄砲から始まった。

 

 レンが構えて日和を狙う。

 

「日和!」

「レン君!」

 

 日和が同じのを持って即反撃。水が光って、朝の海に弾ける。

 

「うわ、つめたい!」

「気持ちいい!」

 

 二人が走って笑って、波を蹴る。

 

 恵は最初、涼しい顔で見てたのに、日和の水が飛んだ瞬間に表情を変えた。

 

「……やりましたわね」

「え、恵もやるの!?」

「やりますわ。最終日ですもの」

 

 恵の一発が正確で、レンが一撃でやられる。

 

「うわ! えぐい!」

「レン君、騒がない」

「騒ぐ!」

 

 日和が笑って、恵がさらっと言う。

 

「日和、もう一発いきますわ」

「やめて!」

 

 恵が追う。日和が逃げる。レンが混ざる。

 朝から全力で、ちゃんと派手だった。

 

 命は最初、少し離れてた。

 にぎやかなのが苦手なのは分かってる。

 

 でも今日は、日和が命を振り返って手を振った。

 

「命さん! こっち来て!」

 

 命は一拍置いて、ゆっくり近づいた。

 俺も横につく。

 

「無理しなくていい」

「……はい」

 

 命は丁寧に答える。

 でも、歩みは止めない。

 

 波が足に触れた瞬間、命の肩が少しだけ上がる。

 それでも下がらない。

 

 恵が命を見て言った。

 

「命、今日は派手でいいですわ。静かなのは明日から」

「……はい」

 

 命は短く返して、波を見た。

 分かりにくいけど、口元がほんの少し緩んだ。

 

 ソファボートの準備ができた。

 スタッフが説明する。

 

「スピードは出しません。手は必ず持ち手を握ってください。落ちたらすぐ止めます」

 

 レンが勢いよく手を上げる。

 

「乗る! 僕、最初!」

 

 日和が笑う。

 

「私も乗る」

「え、二人で?」

「二人で」

 

 レンの耳が赤くなる。

 

「……うん」

 

 恵が当然のように言った。

 

「二人で乗りなさい。最終日ですもの」

 

 レンと日和がボートに座って持ち手を握る。

 合図で、ゆっくり引かれた。

 

「うわ、動いた!」

「レン君、握って!」

「握ってる!」

 

 波を越えるたびに二人が揺れて、日和が笑って、レンも笑う。

 その途中で大きめに揺れた瞬間、レンが日和の腕を支えた。

 

 日和が一瞬だけ驚いて、それから笑って頷く。

 ……昨日までとは少し違って見えた。

 

 次は恵が乗る番だった。

 恵は涼しい顔で座って、俺じゃなくレンを指名した。

 

「レン様、引いてください」

「僕が!?」

「あなたが」

「え、僕が引く側!?」

「そうですわ」

 

 レンは慌てながらロープを持って、スタッフと一緒に動かす。

 

「こわ……! 責任重い!」

「重くありませんわ。ゆっくりでいいですの」

 

 恵は揺れても姿勢が崩れない。

 日和が笑って言う。

 

「恵、強い」

「当然ですわ」

 

 レンが小声でぼやく。

 

「強すぎ……」

 

 最後に、命の番が来た。

 

 命はボートの前で一度止まった。

 それから、丁寧に言った。

 

「……乗ります」

 

 俺は横で短く言う。

 

「ゆっくりでいい」

「……はい」

 

 命が座って、持ち手を握る。背筋がまっすぐ。

 恵が言った。

 

「ゆっくりですわ。怖かったら言いなさい」

「……はい」

 

 ボートが動き出す。

 最初の揺れで命の肩が少しだけ上がる。けど、目は閉じない。

 

 波を越える。もう一回。

 命の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

 

 俺は、つい小さく言った。

 

「……似合う」

 

 命は聞こえたのか、聞こえないふりをしたのか。

 表情は変わらない。だけど耳が少し赤い。

 

 遊び終わるころには、全員びしょ濡れだった。

 笑って、疲れて、でも顔は明るい。

 

 恵がタオルを配りながら言う。

 

「よろしいですわ。最後にふさわしい」

 

 日和が息を吐く。

 

「全力だった……」

 

 レンも頷く。

 

「最高だった……」

 

 命はタオルで髪を押さえながら、海を見ていた。

 終わりが近いのは分かる。だけど今は、寂しさより先に、楽しかったが残ってる。

 

 そこに恵が言った。

 

「……写真を撮りますわ。全員、並びなさい」

「撮る!」

 

 レンが即答して、日和が笑う。

 

「命も、ね」

「……はい」

 

 命が小さく頷いて、俺の隣に立つ。

 もう迷わないみたいに。

 

 シャッターの合図がかかる。

 俺は海を背にして、命の隣で前を向いた。

 

 この一週間の最後の一枚。

 ちゃんと、ここに残す。

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