※この作品はR-18です。

とある死喰い人の犯罪記録   作:神魂

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ジョンとアリアの出会い。アリアの過去

【闇に咲いた傷花】

 

 

1978年4月1日 20:23 

ロンドン郊外

 

 

薄汚れたアスファルトに【アリア・ガーランド】の靴の音が虚しく響いた。

冷たい春の夜気が頬を撫でる。

片手に提げたウィスキーの瓶が重く感じられた。

アルコールの匂いが彼女の不安を煽る。

 

「……早く、帰らないと……また、怒られる……」

 

彼女の声は掠れていた。

唇の端には昨日の暴力の痕が紫色の痣となって残っている。

右手首には新しい指の跡が青黒く浮かんでいた。

左手で隠そうとしても隠しきれない傷だ。

 

前方から革靴の音が聞こえてきた。

アリアは無意識に身を縮めた。

夫ケビンの迎えなのか、それとも警察官なのか——いずれにしても厄介ごとに違いない。

だが通り過ぎたのは若い男だった。

長身で東洋人的な顔立ち。黒髪を後ろに撫でつけ、仕立ての良い黒いスーツを着こなしている。

 

「……今日はこの女にするか……」

 

男【ジョン・スミス】は小さく呟いた。

その瞳に迷いはなかった。

杖を取り出し、彼の口が動いた。

 

「インペリオ」

 

服従呪文が静かに発動した。

アリアの目から意志の光が消え、代わりに虚ろな焦点が定まった。

ジョンは彼女に歩み寄り、肩を抱いた。

アリアは何の抵抗もなく従順に従った。

 

近くの安ホテルに到着すると、ジョンは受付で手続きを済ませた。

鍵を受け取り、アリアを伴って部屋に入る。

照明をつけると彼は振り返った。

そこで彼は初めて気づいた——アリアの首筋と腕に広がる無数の傷痕に。

 

「……なるほど」

 

ジョンは冷笑した。

 

「これがマグルの愛か」

 

彼は杖を回し、アリアの服を脱がせた。

肌一面に広がる紫斑、引っ掻き傷、火傷の痕——それは彼の【趣味】を台無しにするほど醜かった。

 

「レジリメンス」

 

ジョンは杖をアリアに向けた。

アリアの記憶が奔流のように流れ込んでくる。

夫ケビンによる日常的な暴力。

恐怖に怯える毎日。

支配された人生……

 

「ふん」

 

ジョンは鼻で笑った。

 

「俺が求めていたのは新品同様の女だったのに」

 

苛立ちと共に彼は杖を構えた。

 

「エピスキー」

 

軽い切り傷や打撲痕が次々と消えていく。

 

「ヴァルネラ・サネントゥール」

 

古い火傷跡が鈍い光と共に平らになっていく。

アリアの白い肌が徐々に本来の姿を取り戻していった。

 

治療を終えた後、ジョンはアリアに新しい衣服を着せた後、彼女を眠らせ、そして彼女の夫が待つアパートへと向かった。

 

---

 

同日 23:07 

ケビンのアパート

 

 

玄関のドアを蹴破るように入ると、ソファで酔いつぶれていた夫ケビンが飛び起きた。

 

「誰だ!?」

 

ケビンが怒鳴った。

 

「アリア!帰ってきたのか!」

 

ジョンは無言で杖を振った。

 

『ペトリフィカス・トタルス』

 

その途端、ケビンの体が硬直し、地面に倒れた。

 

「……少し腹いせに付き合ってもらうぞ」

 

ジョンは冷たく告げた。

 

「アグアメンティ」

 

水責めの刑が始まると同時に

 

「クルーシオ」

 

苦痛呪文が追加される。

ケビンの苦悶の叫びが室内に響き渡った。

 

30分後。

ケビンは息も絶え絶えで床に転がっていた。

ジョンは彼に近づき、杖を額に当てた。

 

「オブリビエイト」

 

「……アリアに関する記憶は消せ。だが痛みと恐怖は覚えているといい」

 

数日後。ジョンは法的手続きを済ませて二人を離婚させた。

アリアには新しい住処が用意され、記憶は巧みに改竄された。

 

「私、独りになっちゃった……」

 

新しいアパートの前でアリアは呟いた。

 

「でも大丈夫。君には俺がいる」

 

背後からジョンの声がした。

 

振り返ったアリアの目には疑いの色はなかった。

ただ一人の頼れる男性を見つめる安心感だけがあった。

 

「ジョン……」

 

彼女は微笑んだ。

 

「新しい恋人ができてよかった」

 

ジョンは満足げに頷いた。

彼の計画は完全に成功した。

最高の玩具と隠れ蓑が手に入ったのだ。

 

 

1978年4月15日 7:45 

アリアの新居

 

朝食の準備をしていたアリアが突然悲鳴を上げた。

 

「どうした?」

 

ジョンがキッチンに駆けつけた。

 

「火傷しちゃった……」

 

アリアは怯えた目で左手を見せた。

ほんの小さな水ぶくれが指先にできている。

 

ジョンはアリアに気付かれない様に、無言呪文で魔法を使った。

 

ジョンの手がアリアの指を包み込む。

ジョンが手を放すと痛みが消え、痕跡さえ残らなかった。

 

「すごい……」

 

アリアは驚きと敬意の混じった目でジョンを見上げた。

 

「ありがとう」

 

ジョンは穏やかに微笑んだ。

 

「何て事ないさ。愛する人に怪我をさせるわけにはいかないからね」

 

この歪んだ関係がどれほど続くのか。それは神のみぞ知る事だった。

 

 

【幸福の仮面】

 

 

1978年12月24日 15:15 

ロンドン・クリスマスマーケット

 

 

雪が静かに降り積もる石畳を、アリアとジョンは腕を組んで歩いていた。

市場のあちこちでキャンドルの灯りが揺れ、温かな蜂蜜酒とホットワインの香りが漂う。

子供たちの笑い声とジングルベルの音色が混ざり合い、聖夜の雰囲気を一層盛り上げていた。

 

「ジョン!」

 

アリアの声は弾んでいた。

 

「あのお店に寄りたいわ!」

 

彼女が指さしたのは木彫りの工芸品が並ぶ小さな露店だった。

以前の彼女なら人混みを避けて早足で通り過ぎていたはずだ。

今は違う。

自信に満ちた足取りで進む姿は見違えるほどだった。

 

「いいよ」

 

ジョンは微笑みながら応じた。

 

「ゆっくり見て回ろう」

 

露店でアリアが選んだのはシンプルな樫の木彫りの雪だるまだった。

店主が「お似合いのご夫婦ですね」と声をかけると、アリアは頬を赤らめながらも誇らしげに「ありがとう」と返した。

 

「気に入ったかい?」

 

ジョンが尋ねる。

 

「ええ、とっても」

 

アリアは大切そうに包みを胸に抱いた。

 

「家に飾れば毎年思い出せるでしょう?私たちが出会った年の最初のクリスマスの事を」

 

ジョンは内心苦笑した。

「出会った」という表現に一抹の罪悪感を覚える。

実際は「拾った」というべきなのに。

だがアリアの輝くような笑顔を見ると何も言えない様な気がした。

 

二人は小高い丘にあるパブに向かい、窓際の席で夕暮れを眺めた。

アリアのワイングラスが陽の光を受けて輝く。

彼女の髪もまた同じように夕陽に照らされ、漆黒の海のような艶やかさを放っていた。

 

「ねぇジョン」

 

アリアは囁くように言った。

 

「私、今すごく幸せなの」

 

「そう?」

 

ジョンはわざと驚いたふりをした。

 

「ええ」

 

彼女は熱っぽい目でジョンを見つめた。

 

「こんな素敵な人と過ごせて……夢みたい」

 

ジョンは内心の打算を押し殺し「俺もだよ」と優しく答えた。

アリアが自分に殆ど疑問を持たないのは都合がよかった。

 

「あなたの言う通りだったわ」

 

アリアは続けた。

 

「前の夫のストレスが無くなったから……こんなに綺麗になれたのよね?」

 

「そうだよ」

 

ジョンは躊躇なく嘘をついた。

 

「環境が人を変えるんだ」

 

実際はそうではない。

ジョンの特製魔法薬と定期的な治癒魔法が彼女の容姿を劇的に向上させていた。

その効果は予想以上で、今やアリアは街を歩けば男たちの視線を集める美女となっていた。

 

「それにね」

 

アリアは少し恥ずかしそうに笑った。

 

「体型も……変わってきてるみたいなの」

 

彼女は少し体を捩らせ、コートの下で女性らしい曲線が強調される。

確かに前よりも腰回りのラインと胸の大きさが際立っていた。

 

「それは健康の証拠だね」

 

ジョンは知らぬ存ぜぬで言った。

 

「ストレスが無くなれば体も反応するさ」

 

「本当に?私もそう思うわ」

 

アリアは満足げに頷いた。

 

「あなたって何でも知ってるのね」

 

日が沈み始め、マーケット全体がキャンドルと街灯の橙色の光に包まれた。

イルミネーションが雪に反射し、幻想的な風景を作り出している。

 

「ジョン」

 

アリアは突然真剣な表情になった。

 

「私……来年も再来年もずっとあなたと一緒にいたいわ」

 

「もちろんさ」

 

ジョンは微笑んだ。

 

「俺も同じ気持ちだよ」

 

夜の帳が降りる中、二人は手を繋いで歩き出した。

アリアの無邪気な幸福とジョンの計算尽くの優しさが交錯する複雑な空間。

雪は静かに降り続き、まるで二人の不確かな未来を暗示するかのようだった。

 

 

【魔法と妄信の狭間】

 

 

1980年9月18日 16:33 

英国魔法省闇祓い本部 取調室

 

 

取調室は魔法省地下に位置し、壁に掛けられた時計が規則正しく時間を刻んでいた。

四角いテーブルと木製の椅子が置かれ、部屋の隅には闇祓い達の報告書や資料が積み上げられている。

部屋の中央には一枚の写真――ジョン・スミスの姿が浮かび上がり、まるで映像の様に動いていた。

 

アリアは窓もない小さな部屋に案内された。

最初は不安そうな様子だったが、机の上に置かれた写真を見た途端、その表情が一変した。

 

「ああ……ジョン」

 

彼女の声には甘い響きが混ざっていた。

 

女性闇祓いは困ったように眉をひそめた。

 

「アリアさん、あなたがマグル……非魔法族だという事は承知しています。ですから我々のことは『魔法使い』と思ってもらって結構です」

 

「マグル……そう」

 

アリアは静かに頷いた。

 

「私は彼に出会うまでは最底辺の人間だったわ。でも今は……違う」

 

若い闇祓いは慎重に言葉を選んだ。

 

「ジョン・スミスは闇の魔法使いの一員です。あなたを利用していただけかもしれません」

 

「利用?」

 

アリアは美しい眉をひそめた。

 

「彼は私を救ってくれたのよ。あの最低な元夫から」

 

「ですが……」

 

男性補佐官が割り込もうとしたが、女性闇祓いが手で制した。

 

「アリアさん」

 

女性闇祓いは真摯な眼差しで続けた。

 

「ジョン・スミスは多数の犯罪に関与しており……」

 

「犯罪?」

 

アリアの声が高くなった。

 

「彼がどんな罪を犯したと言うの?」

 

「例えば……」

 

女性闇祓いは慎重に言葉を選びながら言った。

 

「複数の窃盗行為や複数の女性に対する暴行行為……」

 

「嘘よ!」

 

アリアは机を叩いた。

 

「彼は優しい人よ!私にはいつもそうだったわ!」

 

取調室に緊張が走った。

補佐官が立ち上がりかけたが、女性闇祓いは再び手で制止した。

 

「アリアさん」

 

彼女は声を和らげた。

 

「私達はあなたの安全を心配しているのです。奴は危険な男です」

 

「安全?」

 

アリアは泣きそうな目で微笑んだ。

 

「彼ほど私を守ってくれた人はいないわ」

 

女性闇祓いは内心困惑した。

これは典型的なストックホルム症候群かと思ったが、どこか違う。

アリアの表情には純粋な愛情と信頼が溢れていた。

 

「分かりました」

 

女性闇祓いは深呼吸した。

 

「では質問を変えましょう。あなたはジョン・スミスについてどれくらい知っていますか?」

 

「全部よ」

 

アリアは即答した。

 

「彼の母親は日系で……学生の頃は【ホグワーツ】と言う名前の学校に……」

 

「そのような詳細をどうやって知ったのですか?」

 

女性闇祓いは驚いた。

 

「彼が教えてくれたの」

 

アリアは得意げに答えた。

 

「私たちは魂で結ばれているのよ」

 

補佐官が筆記しながら「……これは完全に洗脳されていますね」と小声で呟いた。

 

「アリアさん」

 

女性闇祓いは核心に触れた。

 

「あなたはジョン・スミスの居場所を知っていますか?」

 

一瞬の沈黙の後、アリアは静かに答えた。

 

「分からないわ。でも彼は必ず戻ってくる」

 

「それまで一人でどうするつもりですか?」

 

女性闇祓いは厳しい現実を突きつけた。

 

アリアは微笑んだ。

 

「心配しないで。私はもう一人じゃないの」

 

「どういう意味です?」

 

女性闇祓いは警戒した。

 

アリアは幸せそうにお腹に手を添えた。

 

「私のお腹には……彼との子供がいるの」

 

部屋中の空気が凍りついた。

補佐官が立ち上がり、記録帳を落とした。

 

「な……」

 

女性闇祓いは言葉を失った。

 

「そうよ」

 

アリアは満面の笑みを浮かべた。

 

「私達の赤ちゃんよ。彼によく似た顔をしているんじゃないかしら」

 

補佐官が慌てて部屋を飛び出し、他の闇祓いを呼びに行った。

女性闇祓いは頭を抱えた。

これでは尋問どころではない。

 

「アリアさん」

 

彼女は弱々しく言った。

 

「奴は死喰い人ですよ。あなたの子供がどんな運命を辿るか……」

 

「運命?」

 

アリアは嘲笑うように笑った。

 

「私たちの子供は特別よ。きっと世界を変える存在になるわ」

 

その言葉に込められた希望と狂気が入り混じった響きに、女性闇祓いは背筋が寒くなるのを感じた。

これは洗脳ではなく、もっと根源的な別のナニカだった。

 

扉が開き、補佐官と共に数人の闇祓いが入ってきた。

アリアは興味深そうに彼らを見つめた。

 

「まあ」

 

彼女は微笑んだ。

 

「みんな魔法使いなのね。面白いわ」

 

女性闇祓いは疲れた表情で仲間に事情を説明した。

彼女の声が遠くに聞こえる中、アリアは自分のお腹を優しく撫でた。

 

「大丈夫よ」

 

彼女は囁いた。

 

「パパは必ず戻ってくるわ。そしたら私達は一緒に……」

 

その言葉の続きは誰にも聞こえなかった。

だがその瞬間、アリアの瞳の中に一瞬だけ冷たい光が閃いたように見えた。

 

闇祓い達が新たな対策を話し合う中、アリアは幸せそうにジョンの写真を見つめ続けていた。

彼女の妊娠が現実であるならば、その子供――後の【ジョン・スミス・ジュニア】は特殊な出生背景を持つことになる。

それはやがて魔法界の複雑な因縁をさらに深める要因となるかもしれない。

 

部屋の窓も無いはずなのに、どこからか冷たい風が吹き抜けた気がした。

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