僕は、弱い。
マジックと言うには効果の弱い魔法。
武器ではあるがありふれている片手剣。身を隠すには小さな盾。
空を飛べる訳でもなく、怪力と言う程の筋力もなく、神速と呼べるような速さもない。
成り立てのような、どこにでも居そうな「量産型魔法少女」
そう表現するのが相応しい、そんな存在が、僕だ。
棍棒の振り下ろしにバックラーで合わせると、はぐれのゴブリンは弾かれた武器に引き摺られて半歩後退する。追撃に右手のスパタで突き込むが、胸を狙った剣先は更に身をひねったゴブリンの右肩に刺さった。ギャッと言う耳障りな悲鳴を無視して剣を引き戻す。チュニックの裾とトーガを靡かせ飛びずさるとバックラーを前に掲げ、僕はスパタを肩に担ぎ上げた。
遭遇したのは今宵の不運、はぐれだったのが今夜の幸運。出会った時点で何かから逃げているような素振りが、僕を目にして恐怖を忘れたらしく棍棒からのご挨拶である。対応策がまるで新米冒険者のようで、カウンターで決められなかったのが残念だ。ゴブリンが辛うじて持っていた棍棒を左に持ち換えた、と同時にろくに利かなくなった右腕を上体ごと振り回して躍りかかってくる。「生身」とはいえ怪物のそれは棍棒と大差ない。だから牽制にのって剣を打ち合わせる。下腕から肘へと斬り捨てると剣も投げ捨て止まらず右肩でタックル、もつれあって倒れ込む。強引に上体を右に捻り起こすと僕は眼下の不細工ヅラを殴り始めた。盾が鈍くいい音を立てる度、短い悲鳴と共に奴のツラが潰れる。5回程で頭蓋の陥没と共にゴブリンは動かなくなった。
短くため息をつく。
今夜も泥試合一歩手前だ。相手が集団なら死んでるならマシ、確実に拉致されて孕み袋コースだ。ノロノロと立ち上がって左側に投げ捨てた剣を拾うと、死んだゴブリンの首に突き立てた。幅広のスパタだとそれだけで奴の首が転がった、これでもう起きてこない。
「んじゃ、持ってちゃって」
到着した追撃者ー人間大のアリに声をかける。インクブスの死体は放置厳禁だからね。専門の業者さん-ナンバー13の昆虫軍団のご飯にするのが一番楽だ。こっちを一瞥すると、ハリアリ達はいそいそとゴブリンの骸を運んでいく。その様子を少しだけ眺めてから、僕は「巡回ルート」のパルクールを再開した。
「行ったか」
『声はかけないのですか?』
高台よりナンバー13、シルバーロータスは立ち去るウィッチを見ていた。
「…あちらもそこまで求めてはいない」
パートナーの問い掛けに、僅かに間を置いて彼女は答えた。
『貴重な協力者なのでは?』
ここ一月、郊外のパトロールを行っているウィッチに対し、パートナーのハエトリグモはそう評した。シルバーロータスとしては、それ以前から知っている存在だったが。
「協力者、と言うには関係は薄いな。直接会ったこともない」
『それはそうですが、やっと現れた仲間では』
「それは違うな、彼女は前からああだ」
『なんと』
接触は常にファミリア越し。意識してテレパシーを繋いでいなければ認識しづらい相手だ。ファミリアは人間もウィッチも区別しない。
「もっと遠くの町にいた筈だが、こちらに移って来たようだな」
それだけの事が起きたのだろう、と呟く。
「それに、彼女はそこまで能力が高い訳でもないようだ。下手に協力態勢など取ると、彼女のペースを乱すだろう」
それはこちらもだが、とも呟く。無理の代償は大きすぎるものだ。
『残念です』
情報の秘匿、という点で考えても彼女の行動は有り難い。知らないならば誰かに伝えようもないと言うことだ。
「今夜の仕事は終わりだな」
逃れたインクブスの骸を持ち帰ったハリアリ達に、巣に戻るよう指示してから彼女はそう宣言した。