※この作品はR-18です。

量産型魔法少女   作:Toygun

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量産型魔法少女 013 そして少女は走り出す

 

 

 "ブルーウィンドは生きている"

 

エクレールアンブルに告げられたあの晩から、ルージュミラージュ―佐竹杏奈の思考にはそればかりが巡っていた。鐘楼の屋根に居座る今でさえも。

 

 インクブスを狩りに出るわけではない。ただ、動くことが怖いだけ。

 

 インクブスに備えているわけでもない。ただ、動かないことが怖いだけ。

 

 この街はとても安全だ、それが砂上の楼閣かもしれなくても。晴嵐よりも人が多く、晴嵐よりもウィッチも多く、そして「アレ」がいる。あるウィッチのファミリアらしい。だから、自分のような半端者が気張らなくても―がむしゃらに前に出なくてもきっと何とかなる。自分のような半端者が前に出たところで。

 

 

 ビシャリと両手で頬を張る。今夜は特にひどいな、と彼女は歪んだような笑いを浮かべた。ちらりと視線を暗い街にやれば、教会から少しだけ離れた公園入口に特徴のないセダンが止まっていた。彼女を監視している警官達の車輌だ。

 

「毎晩大変だな」

 

『あなたがおとなしく寝てるか、それとも一歩踏み出せば変わるのではなくて?』

 

久々に声をかけてきた相棒に、ただどうしようもないことを愚痴る。

 

「眠れるんならな」

 

2年前のあの日からだ、まともに眠れなくなったのは。自分だけではない、篝もだ。理由なんて分かっていたから、どうにかしようとして一歩踏み出した結果がー踏み出せなかった結果がこれだ。以来、身体の方が意識を落としてくれるまで「見張り」に立つのが日課になっていた。

 

「今夜も飛んでるんだな」

 

見上げた夜空、三日月のそばを影が移動していた。見張りならあいつらがいるじゃないか、なら自分がやっている事は無駄なのでは。警察にまで負担をかけて。そんな考えも度々よぎるが、やめることも出来ない。ただただ、怖いのだ。眠ることも、まして戦うことも。

 

眠れば、また彼女が死ぬところで飛び起きるだろう。だが、ブルーウィンドは生きていた。

 

戦えば、今度は誰が死ぬ?違う、きっとまたブルーウィンドが死ぬ。死んでも死なない、その事に気付かせてしまったから。あたしがヘマしたせいで。

 

 あいつは今も、死にながら生きている。

 

 ならあたしらは、生きながら死んでいるのか?

 

「冗談じゃねえっ、あたしは生きている、まだ戦える!」

 

鐘楼の上に立ち、手のひらを天にかざす。

 

「リリース!」

 

赤光が雷光のごとく夜に煌めき、2年の間手にしなかった重みを取り戻す。矛槍を手に飛び降りルージュミラージュは駆け出した。背に響くエンジン音を無視し、目にしたそれに向けて。

 

「アンリ!見えてっか!」

 

『次の角を右よ、準備は宜しくて?』

 

ロザリオの声に言葉を-数を読み上げる。

 

「アン」

 

一人が二人に。

 

「ドゥ」

 

二人が三人に。

 

「トロワ!」

 

四人の槍兵が次々に角の向こうに走り込む。声に振り返ったゴブリンは「四本の矛槍」に首をはねられ勢いのまま骸が左の壁に叩きつけられる。

 

「新手のウィッチ!?」

 

残り一体に「四つの斬撃」が殺到する。振り上げた棍棒ごとゴブリンは裂かれて事切れた。

 

「幻…影か。借り、ばかりのっ、夜だな」

 

アレンジの強い修道服のウィッチだった。

 

「貸しにもならねえ無駄なおせっかいさ。あたしがやらなくてもそいつがいたよ」

 

石突きで右の建物を指し示す。節足動物の長い脚が2本、屋根のこちら側にかかっていた。

 

「あいつの、ファミリアかっ」

 

苦悶の表情を浮かべて修道女が胸元の十字架を握りしめる。

 

『主よ、落ち着かれよ』

 

「借りが、増えた」

 

「悪い、引き留めちまったな」

 

ルージュミラージュはハルバードを担ぐと、修道女に背を向けた。

 

「今夜も案山子はやっておくぜ」

 

「だからあんたの知り合いに会ったら伝えてくれよ」

 

「なに、を?」

 

「おかげで十分休めたってな。あたしはまた戦えるっ」

 

タンっと随分と軽い音で踏み切って、紅衣の槍騎士は跳躍した。塀の上、電柱、街灯の鉄柱を足場に移動し、またもと来た教会の尖塔に着地する。カン、と石突が屋根に置かれ、騎士は直立で夜の街を睥睨する。

 

「杏奈?」

 

鐘楼の出窓から、黒いボブヘアの少女が顔を出す。

 

「篝、また始めようぜ」

 

「やれるの?」

 

「ああ、やれるさ」

 

「なら、私から言うことはないわ」

 

「でけえ借りもあることだしな」

 

「そうね、借りっぱなしだわ」

 

あのバカと、この街の守護者に。借りっぱなしは癪だからな、と杏奈は呟いた。

 

 

 

巨大なアシダカグモが、小鬼の骸を糸に巻く。その様子を動くことなく修道女―ゴルトブルームは眺めていた。ふと顔を上げて槍を持つウィッチが去った方を見る。

 

「教…会?」

 

少しだけ目を凝らそうとしたところでパートナーが注意を促す。

 

『主よ、エナの変調は治まっておりません』

 

視覚を強化しようとする直前で彼女は止まる。

 

「わかって、る」

 

ゆっくりと背を向けて歩き出す。案山子―時折あそこに誰かがいる、そう気付くこともあった。

 

 

 "あたしはまた戦える"

 

 

先ほどのウィッチは自分をあまり認識してくれていないようだった。だが、彼女の復帰までの時間も稼げたのなら、それで良しとするべきか。

 

「どう、思うよ」

 

『主の思うがままに』

 

はっ、と軽く笑ってゴルトブルームはまた歩を進める。次はもっと派手にやろう、借りの一つや二つ、利息付きで突き返せるほどに。

 

 




◎2026/03/26 現在時間軸の髪型変更
・篝/ノワールブークリエ : 鐘楼の出窓から、黒いボブヘアの少女が顔を出す。
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