※この作品はR-18です。

量産型魔法少女   作:Toygun

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量産型魔法少女 014 そして少女は武器を構える

 

バラバラと轟音に近い音を立てながら戦闘ヘリが飛行する。午前の日差しで山々の斜面に影を落としながら飛ぶ最中、操縦席の2人の目にそれが映る。

 

「今の、見たか?」

 

後席のパイロットの武田一尉が前席のガンナーに問う。

 

「ああ、橋だな」

 

「…司令部に確認する」

 

ガンナーである高村一尉の返事に、武田は基地と交信を開始した。

 

 

「HQ、こちらサンダーボルト4、現在国道299号に沿って東進中」

 

『こちらHQ』

 

「国道299号の崩落部に架橋装備を残したか、確認を乞う。旧晴嵐と小鹿野間、晴嵐側の奴だ」

 

『暫し待て』

 

1分もしない内に通信機ががなりたてる。

 

『こちらHQ、過去3度の派遣において架橋装備は都度撤去されている。燃料残量知らせ』

 

「巡航なら余裕はあるが、1時間を切ってる」

 

「ロケットは右側のみで3、20mmは300」

 

高村が残弾の少なさを指摘する。「奴ら」と相対するには心許ないが、今日び完調の機体で飛べる事など稀だ。本来なら居る筈の僚機も故障で出撃を取りやめた中での単騎駆けである。

 

『西進し旧晴嵐を確認せよ』

 

「サンダーボルト4、了解」

 

旋回し機首をもと来た方へと向ける。

 

「さて、鬼が出るか、蛇が出るか」

 

少なくとも今朝がた司令の口にした「嫌な予感」は、一部なりとも露見した状況だ。毒喰らわば皿までだな、と武田は言葉を吐いた。

 

「どっちも御免被りたいがね。蓋を開けてみれば浮浪者でした、て方を期待したいね」

 

うんざりした様子で高村が希望的観測を述べる。武田はそれにやや荒い機動と言葉で応えた。

 

「それはそれで困るな。俺の家だったら叩き出す」

 

「…すまん、ちと不謹慎だった」

 

「見えたぞ」

 

山あいから出る道路の、カーブ直後での半円上の崩落部。そこに金属製の足場が架けられている。二人とも一瞥しただけでその正体に気付き、高村は怒りを露わにした。

 

「冗談じゃねえぞ、部下だったら殴ってる」

 

 橋の正体はお粗末なものだった。金属製の梯子を崩落部に出来るだけ最短距離の場所でかけ、その上におそらく農機具店かバイク用品店から持ち出したと思われるラダーレールを、その長さ分だけ載せている簡易極まりない物だったのだ。むろんそのままではすぐ落ちてしまうが、周囲の無事な路面や露出した地面などに杭が打たれ、杭と梯子がロープで結ばれているところまでは二人とも視認した。ラダーレールはおそらくワイヤーなどで固定されているだろう。しかしどちらにせよ用途外、目的外。短期間で落ちる代物である。晴嵐側に飛行軌道を修正しながら、武田は相棒に続きを促す。

 

「安全講習をまあ通常の倍はやらせるとして、あとはどうするよ」

 

「構築と渡河を3倍だ!」

 

怒りが収まらぬ高村になだめるように声をかける。

 

「町に入るぞ」

 

「阿呆を見つけ出してとっちめてやる」

 

やや冷静さを欠いた二人を乗せて、戦闘ヘリは廃墟と化した晴嵐上空へと侵入した。

 

 

 

 

響く爆音に、建物の影から小鬼が上空を見上げて愚痴る。

 

「ちい、厄介な」

 

「奴は!?」

 

オークの一匹が「敵」の探索について仲間に聞くものの、同僚の返事は失望をもたらすものでしかなかった。

 

「いるのかさえも分からんぞ」

 

はたしてインクブスは晴嵐に侵入していた。ゴブリンとオーク混成の小集団である。

 

「逃げたとは思えんが、先にあれをどうにかせねば」

 

至近で風切り音が鳴り、ぐらりと一匹のゴブリンが建物の陰から国道上に倒れた。その首には金属製の矢が刺さっている。

 

「クソッ、またやられた!散れ!今のでもう上の奴には気づかれたぞ!」

 

リーダーのオークの指摘通り、至近を通過した戦闘ヘリは急激に高度を上げ始めていた。

 

 

 

 

「HQ、こちらサンダーボルト4、旧晴嵐にて接敵」

 

晴嵐を突っ切る国道上にインクブスが倒れ込んだのを、見逃す2人ではなかった。即座に上昇と旋回を開始する。

 

「すでに誰かおっぱじめてるぞ」

 

トリガーを握る高村が状況を推察する。今倒れ込んだゴブリンだけではない、通りの一部に人間ではない手足が放り出されているのが見えた。

 

 

 

「来い、ジード!2人でハエを片付けるぞ!」

 

「おまえらは奴を探せ!」

 

オークの一匹が盾を持つ同僚とともに大通りに飛び出すと、倒れ伏した同胞の得物-棍棒に即座に飛びついた。オークの投擲と戦闘ヘリの銃撃がほぼ同時に行われる。爆音に銃撃音が重なり、前面に出たオークの盾がほぼ粉砕されるが彼は辛うじてその一連射に耐えきった。だが目的は果たされていない。

 

「くそう、かわしやがった!」

 

実際には機体下部をかすめていたが、撃破には程遠い。ヘリは二匹の頭上を急速度で通過していく。

 

「ジードは隠れていろ!」

 

「一人じゃ無理だ、ゲルド」

 

「貴様では次までは耐えられん、おれ一人の方がマシだ!」

 

彼の指摘通り、エナの障壁をほぼ剥がされたジードでは無駄死にが落ちである。ゲルドは剣を抜くと上空で再度旋回しているヘリを睨みつけた。剣vs20mm機銃、絵面は正気ではないがインクブス相手なら同等の勝負になってしまうのがこの「戦争」の狂気だった。そのままなら相打ちもありえたカードだ、そのままならば。

 

 

「くそ、左のランディングスキッド(着陸脚)を持ってかれたな」

 

受けた衝撃と操縦に対する左側の微妙な反応のズレに、損傷部位を推測する。落ちなかっただけマシではあるが、「歩兵」と呼ぶにはやはり相手が悪すぎる。

 

「一匹逃げるぞ」

 

再度射撃位置につかんと機首を向ける中、盾だったものを投げ捨てたオークが横道へと逃走する。

 

「追い切れんし、追えばあいつの剣がこっちを殺すって寸法だ」

 

槍のように剣を肩で構え、残ったオークはこちらを睨んでいる。

 

「20mmじゃ当て続ける間にやられる。ハイドラ(70mmロケット弾)を使おう」

 

高村の提案に武田は追加で注文をする。

 

「やるなら2発いる。1発ならあいつは剣を投げてから直撃をかわすぞ」

 

「仕方ないか」

 

同意を返す高村に、武田は再度攻撃位置へと機体を機動させる。対するオークはまだ剣を撃たず、ギリギリまで引き付ける気かと武田は推測するが本質的に対処方法はない。状況はガンマンの勝負の様相を呈していた。

 

「行くぞ!」

 

武田が宣言した直後に高村が叫ぶ。

 

「攻撃中止!上昇しろ!」

 

相棒の叫びにとっさに操縦桿を引き上げる。もちろんお互いに航空パイロットだ、それを既に視認していた。オークの後方、射線の先にウィッチが居るのを。

 

 

「逃げるのか!」

 

頭上をパスしていく爆音にゲルドは吠えて振り返る、それが彼の最後の行動だった。騎兵槍の穂先が胸当てを貫通して己の背に突き抜ける-先程まで相棒が機関砲弾に耐えていた事からすると、まるで冗談のような光景だった。己の左側をラッパのような軽い爆音が過ぎ去っていく。騎兵槍は半ばまで己の体に突き刺さるとそのまま残された。剣を取り落とし、突き抜けた穂先が自身の体を支えたせいで、背側に倒れかけながら空を仰ぐように膝をつく。上下がさかさまになった視界にそれが映った。

 

「ウィッチ…」

 

そして彼の意識は暗転する。

 

 

「いたぞぉ!」

 

「撃て!」

 

姿を現しながらも直線道路上を離れ行くウィッチの背に、インクブス達は複数の角から身を乗り出し矢を放った。ボウガンならば数百mの距離でも哀れな犠牲者の命を奪いうる、今ウィッチが足としているスクーター程度では逃げ切れるものではない。それを彼女はわずかに振り返り確認すると、左にハンドルを切り後輪を滑らせながら車体を倒す。進行に対し右側面を向けた両輪がブレーキとなり車体は急停止する。それは迫る矢に体を晒すだけの自殺行為だが、続く虚空に向けられた左手が結果を否定する、マジックだ。

 

「馬鹿な」

 

硬質な音を立て矢が出現した大楯に着弾する、たとえ鏃が盾を突き抜けてもウィッチの体には届かなかった。そうやって必殺が失敗に変わった瞬間、呆けてしまった異形の一部の命運は決まった。爆音、いや爆発である。ほぼ連続して3度、建物の一角ごと退避の遅れたインクブスが爆散する。彼らは戦闘ヘリの視界ー射界で動きを止めてしまったのだ。生き残ったインクブス達は慌てて逃走を選択するが、上空の爆音と地上のより軽い爆音が彼らを追い始めた。矢を放ってしまったのだ、彼らの力なら走りながらでもボウガンへの再装填は可能だが、それでも時間は必要である。路地裏に逃げ込んだ一匹のゴブリンが上空からの銃撃で蜂の巣になる。今は昼間だ、一度補足されたならば簡単に逃げ切れない。別の通りまで逃げ延びたオークも、いきなりの甲高い警笛に顔を向けて歩を緩めてしまい、通過する刃で首を落とされる。オークの首をはねたウィッチに対し、路上に飛び出した2匹のゴブリンは再装填したボウガンを向ける。

 

「死ね!」

 

既に捕獲すべき「獲物」という意識はない、殺るか殺られるかである。無手で突っ込んでくるウィッチに容赦無く矢が突き刺さる。殺った、そう思った哀れなゴブリン達の胴はまとめて上下に分離した。刺さる矢でチュニックの胸元を血に染めたまま、通過していくウィッチの手には異形の血が滴る長大な刀があった。彼女がスクーターで通り過ぎたその背後で、別の路地から飛び出したゴブリンが機関砲弾で肉塊となる。

 

 

 

「やったか?」

 

高村が呟く眼下で、青いマントのウィッチはスクーターを道の端で止めた。彼女は未だ残る柵に無造作に車体を立てかけると、そのまま無人の商店街、その廃墟を歩き出す。

 

「様子がおかしいな」

 

先程彼女が手にしていた得物も見当たらない。ホバリングで滞空する機体に背を向けて、ウィッチは歩きながら何かを投げ捨てる。

 

「待て、負傷してるのか!?」

 

続けて投げ捨てられた「矢」に気づいた高村が気色ばむが、

 

「…彼女なら大丈夫だ。残弾知らせ」

 

武田は言葉を返し、残弾確認で「戦闘続行」の意思を伝える。

 

「っ、20mmが44!」

 

混乱しながら返事をする高村に、武田は恐ろしいほど冷静になっている己を確認する。エンジン、ローターの回転音が遠くに聞こえる。

 

 

 わかってる、まだいるんだろう?

 

 

口には出したわけではないし、返事を耳で聞いたわけでもない。しかし問いに言葉は返ってきた。

 

 

 釣り出すよ

 

 

 

 了解だ、片は俺たちで付ける、そうだろう?

 

 

役割の伝達に思考を返すと武田は相棒に行動を促した。

 

 

「射撃準備」

 

「りょ、了解」

 

簡潔過ぎる言葉に高村は姿勢を正す。

 

 

 そりゃそうさ、ここは、俺たちの町だからな

 

 

感傷の混じった思考への返事はなく、状況だけが伝えられる。

 

 

 すぐ、もうすぐ

 

 

無防備に歩く彼女。

 

 

 いま

 

 

合図と同時に割れたショーウィンドウからゴブリンが彼女に飛び掛かる。しかし哀れな小鬼はバク転する両足に引っ掛けられ、路上へと放り出された。勢いのまま着地した彼女は動きを止めず逆にショーウィンドウへと飛び込む。

 

 

「今」

 

 

相棒の合図に高村は機械的にトリガーを引き、650発/分のM197機関砲が唸りを上げる。都合4秒、カラカラと砲身回転音だけが響き始めたことに気付くと、彼は左手で引き剝がすようにうまく動かない右手をトリガーから外した。残弾カウンターはゼロを示している。照準器越しにはほぼ肉塊と化したインクブスが見えた。そこへ彼女がーよく見ればまるで子供でしかない背丈のウィッチがまた姿を現すと、ゆっくりと右手を上げて握りこぶしの親指を立てた。

 

「敵勢力の掃討を確認。帰還する」

 

乗機が上昇を始めたことで高村は戦闘の終了を理解したが、未だに思考は混乱していた。

 

「いったい何がどうなってんだ!」

 

相棒の言葉に武田は唐突に正気に返る。

 

「…すまんが俺も説明できん。ただ」

 

「ただ?」

 

「今日の俺たちは間に合った、て事だ。2年前と違ってな」

 

沈黙していた通信機がノイズ交じりに交信を再開する。

 

『…ボルト4、サンダーボルト4、返事をしろ、聞こえているか』

 

「こちらサンダーボルト4、旧晴嵐にて敵勢力と接敵した。現地活動中のウィッチと共同にてこれと交戦、掃討を完了。これより帰還する」

 

『…HQ、了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手慣れた様に、サーベルを鞘から引き抜く。刀身は曇り無く、錆一つ浮いてもいない。素質ある者が見ればそこに僅かなエナを感知出来るだろう。当然、鞘自体にもだ。剣どころか鞘で殴りつけても、インクブスにそれなりの打撃を与えられると言うことだ。

 

 剣を鞘に納めると、一旦それを剣帯ごと机の上に置く。

 

「ボナパルト、お願い」

 

『あいわかった』

 

返事と共に、部屋の中央で立つマナの周囲にエナが流れ出す。瞬き一つの短い時を経て、そこにはウィッチ「エクレールアンブル」が佇んでいた。

 

「んっ」

 

直後、彼女の体が僅かにふらつく。

 

『マナ』

 

「大丈夫よ。久しぶりだったから、少し当てられたみたい」

 

エナそのものの異常性、身体能力の急激な上昇、知覚そのものの過敏とも呼べる高感度化。いずれも長期間変身していなかった彼女にとっては厳しいものだ。エクレールアンブルというウィッチは剛力を誇るようなタイプではないが、それでも勢い余って手を突く事となれば余裕で壁に穴が開く。ハインラインの機動歩兵がその場に出現したようなものなのだ、変身中のウィッチというものは。

 

 暫しの逡巡の後、机上のサーベルを手にすると剣帯を腰に回す。左腰にサーベルとマン・ゴーシュ、右腰にピストルという完全武装の銃士が完成した。

 

「こうしてみると、わたしって能力偏ってるわね」

 

『無い物ねだりであろう。各々の才は違いがあり、限りもバラバラである。全てを望むのは難しいことだ』

 

強力な電撃魔法を複数使いこなす、この時点でかなり恵まれているのだ。これに身体強化、補助武装の短剣とある時点でかなりバランス型のウィッチである。ただ、この街に移ってからというもの、報道で目にする「ナンバーズ」がどうしても頭によぎる。

 

『より強い銃や剣が欲しい、というのは分からんでもない。だが、砲兵隊の陣地を見てそう考えるのは飛躍が過ぎる』

 

砲兵隊の陣地―いつぞや見た報道だけでなく、ウィッチについて検索した時に出てきた「ゴルトブルーム」の事である。実態はそれどころか複数の砲兼盾を自在に操る「空中機動要塞」としか言いようがない相手だ、「銃士」が羡むにしても、その能力一つ渡されただけでもて余すのが目に見える。強力な砲で狙えるのか、飛び回る盾をきちんと敵の攻撃に合わせられるのか、あれ程の飛行能力できちんと機動出来るのか?

 

イメージが湧かない。

 

そう思った時点で自分には過大な力だろう。飛びたいのならもっと跳躍を制御出来なければならないし、マン・ゴーシュの攻防一体の特性をもっと生かすべきである。ピストル―電撃魔法に至ってはあの砲数門に匹敵する「砲撃」も可能であるのだから、急がば回れで己の能力とその使い方を磨くべきだ。

 

『それに、手本とするなら同じ銃士であろう。ダリアノワールといったか、同様に上位に名を連ねる猛者だ』

 

ボナパルトは、銃種さえ切り換えて巧みに立ち回るウィッチの名を挙げる。確かに彼女のスタイルの方が参考になる。

 

『その上で、足りぬ分は仲間を頼れ』

 

「そこに行きつくのよね」

 

サーベルの柄にかけた左手に、無駄に力が入る。己の全力で足りなければ仲間の手も借りる、勝ちたいならば当然のことだ。

 

…それで、いいのか?

 

「彼女は」

 

ほぼ事実同然の、仮定。言葉にすること自体が罪に思えた。

 

「わたしたちが助けを求めたら、彼女は「どこまで」やると、思う?」

 

『…』

 

パートナーは沈黙する。

 

「あの時、欠片さえなかった。もしも」

 

そんな状態からでさえ、元通りになってしまうのなら。能力の極致に気付かせたのが自分たちの無力であるなら。

 

「彼女は今も、「死に続けている」」

 

エクレールアンブルやローズフレシェのようなマジックを持たず、ルージュミラージュのような速度や回避手段もない。ノワールブークリエのような強固な装甲も膂力も持っていない。

 

『すべて、を使うであろうな、ブルーウィンドは。あの力と種類以外は通り一辺倒な武具で、戦列の兵士の様に倒れ、這いつくばりながら』

 

あらゆる傷をものともせず、進み続ける兵士。字面は勇壮だが、実態が相手を喰い殺すまで止まらないゾンビだ。映像に撮られている=守るべき対象が至近距離にいる図式のため、形振り構ってられない彼女が映る動画は特殊メイクが最上級のゾンビホラーと化す。犠牲者役がインクブスの為に絵面は最悪である。噂のシルバーロータスのファミリアも乱入した日には、そこらのパニックホラーでは追随出来ない「作品」が「上演」されることだろう。

 

「もう一度、共に並んでくれるのなら」

 

『ならば?』

 

「…せめて服を戻す暇くらいはわたしたちが稼がないとね」

 

インクブスの「ハラスメント攻撃」はちょくちょく発生するが、ブルーウィンドに至っては丸焼けなどからの再生で、いつもの装束も戻さず武器だけ振り回すのもザラなのだ。対応の手間が惜しいにしても、せめてレオニダス王くらいには着て欲しい、というのがマナの正直な感想であった。

 

 そんな会話をしていたところでの突然のノックである。マナは何も考えずにどうぞ、と声を返していた。

 

「ただいま」

 

扉を開けて男性がー父親の武田隼人が帰宅を告げたが、「ウィッチ」を認識して一瞬呆ける。

 

「父さん!今日は帰れたの!」

 

飛びつこうとするマナに警告が飛ぶ。

 

『マナ!』

 

すんでの所で「エクレールアンブル」は静止する。重篤なケガまではいかないだろうが意識のずれを修正しないままでは、二人して廊下の壁まで突っ込んでいただろう。

 

「ごめん、今変身を解くね」

 

父、隼人の眼前でウィッチは発光すると、直後にはいつもの武田マナが、娘がそこにいた。気の抜けた父親は扉を開けたまま座り込む。

 

「どうにか仕事も片付いてさ」

 

「母さんは?」

 

マナは腰に残ったままのサーベルも意識せずに同様に座る。

 

「その片付けた仕事の余波で今日も泊まりだ。実のところ父さんも付き合いたかったんだけどな」

 

二晩続けて娘を一人でいさせる気か、とどやされたよと父はぼやく。

 

「母さんらしいわ」

 

「お前に聞かなきゃいけないことまで出てきたのもあって、会議室から追い出されたよ」

 

その言葉に彼女は表情を消した。彼女の両親、武田隼人、友恵は軍人だ。父は戦闘ヘリのパイロット、母は同駐屯地の司令部の参謀だとか。年代と方向性はずれるものの、自分のウィッチとしてのスタイルにも影響があるとも前から思っていた。

 

「どんなこと?」

 

「一昨日、晴嵐まで飛んだんだ。お前が言ってたあの子がいたよ」

 

一緒に戦ったよ、そう父は告げた。

 

「あの子、資料の通り無茶な戦い方するんだな」

 

父の言葉に、マナは目を逸らしつつも聞き返す。

 

「話しても、大丈夫なの?」

 

「聞かなきゃならないって事は言わなきゃならないって事だ。一昨日の事については話してもいいって言われてる。同僚もだいぶ怒ってたしな」

 

「あの子、何をやったの」

 

父が問題の橋の事を話すとマナも怒り出す。

 

「会いに行くつもりだったから、会ったら伝えるわ。梯子が落ちてもどうせ落ちるだけ、とか考えてるかもしれないし」

 

「然り。いくら何でも油断が過ぎる」

 

ボナパルトも声に出して同意した。自分たちが言うの何だが、始めから安全を無視するのもそれはそれで違う話だ。ふと、父があくびをしたのが目に入る。

 

「お風呂、先にお湯を張るわ。あとは紅茶でも入れて、話の続きにはそれからね」

 

「あ、ああ、すまない。軽く聞くだけのつもりだったんだけどな」

 

「夕飯は?」

 

「職場でな。本当は何か土産でもとも思ったんだが、このご時世じゃ寄る場所もないし」

 

夜間外出はほぼ禁止のご時世である。隼人にしても帰宅途中で何度も警戒中の警官に止められている、店などほぼ開いてはいない。公的機関のすぐそばの店が半ばボランティア的に遅くまで開店している程度である。

 

「帰って来てくれるだけでいいわ。無事なだけで」

 

私がいう事じゃないけれど、との呟きに隼人は聞こえない振りをした。ぱたぱたとスリッパの音をさせて娘の背が廊下の奥に消える。手伝おうという意識は妙な疲れで消えてしまい、ふと視線が無造作にベッドの上に置かれたサーベルと保安官のバッジを捉える。

 

「少なくとも2年、ご息女は戦場に出ていない」

 

唐突にバッジがーボナパルト、と紹介されたパートナーは告げた。

 

「そうか。でも」

 

今日、その姿を目にして気付いてしまった。あの夜、妙に気になったウィッチの姿が娘だったと教えられたその日から、またそれが来ることは予感していた。

 

「すまぬが我には止められぬ、止めてもいけない立場でもある」

 

「そうだろうな、前線士官殿」

 

「撤退を促すくらいが我が出来る最大の譲歩よ」

 

「もう一歩だ。直前でもいいから出撃スケジュールもくれ」

 

「共同戦線、であるか。止めぬのか」

 

「俺はあの子の戦友と共同戦線を張ったんだぞ。どの面下げてやめろって言えるんだ」

 

「…貴官らは公正を重んじすぎるな。そんなもの、砲声の前には塵も同じぞ」

 

親として、もっと利己的になるべきではないか?と彼は説く。

 

「俺たちはその砲を信じて戦うんだ。砲は公正に、可及的速やかに敵に向けられその効力を発揮する。そう信じられるから皆前に出られる」

 

だから教えてくれ、俺はその砲を運ぶ側だと父は宣言した。

 

「あい分かった。砲が増えるならば心強いのは確かだ」

 

予定については知らせるよう、進言することを彼は約束する。

 

「彼女に聞き入れられぬならば、こうするとしよう」

 

いきなり隼人の携帯に着信が入る。驚いた彼が仕事用の簡素な携帯電話を開くと、メッセージが着信していた。私物のスマートフォンにではない。

 

「我は前線士官として、兵が帰還できるよう全力を果たすとしよう。各所への伝達は貴官に任せるが…」

 

僅かの間、彼は沈黙する。

 

「遅れぬように、願う。この度もまた5人になるであろう」

 

それでも組織は動かない時もある、ボナパルトはそれを理解している。故に願う、と。

 

「全力を尽くすよ」

 

あの夜、帰還できたのは4人だけ。最後の1人は誰にも助けてもらえず、ただ1人自力で帰ってきた。せめて次は。

 

「今度は5人とも、俺たちの後ろに居てほしいな」

 

「難儀な話である」

 

 

やがて戻って来たマナに1人と「一つ」は話を1度中断した。少しの休息の時間ー人としての生活の時間を経て、2人と一つは取り留めの無い事も含めて、眠くなるまで話込んだ。茶飲み話と言うには剣呑であったが、親子の会話ではあった。

 

「次…母さんも…」

 

「そうだな」

 

キッチンで眠りかけている娘を、父は部屋へと運んでやる。

 

「おやすみ、マナ」

 

ちらりと枕元の置かれたバッジに視線をやると、彼はわずかだけ発光する。父は崩し気味の敬礼を返し、静かに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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