"どうしてこうなった"
いや、分かってる。おせっかいが過ぎたってのは。いやでもさ、中身はともかく実年齢面で○○歳の側が依存されるとか普通考えないって。
『その「普通」というのが問題だろう。お前の考える「未成年」とやらは普通、武力を保有していない』
屋外で待機中の相棒に突っ込まれる。ウン、ソウダネ。
発端はもちろん僕のマント。僕のマジックによる生成物だからね、僕にとってはどこにあるか分かるんだよ。同時にエナの感知に長けている奴にも、「僅かにエナを発しているマント」として見える訳だ。近距離で見ないと分からないと思うけど。以前ライカンスロープが直接打ち合うまでこっちの武器を判別出来なかったのも、発するエナが非常に低いからだね。
それでまあ、さすがにフォロー無しで放置はまずいだろうとやって来た訳だ。問題があるだろうと分かりきってる場所に。あの夜から二週間、あの人は退院出来ていなかった。
「だれ?!」
「ピーターパンさ」
月明かりの下、窓を開けてこんばんわってね。面会の手続きとか取りようもないし夢の国の住人は窓からだよね、セリフは宇宙海賊だけど。まあどうせカメラで見られてる筈。それはそうと病室、2階なんだけど。
「でもちょっと不用心かな?窓の鍵は閉めようね」
リノリウムの床に降りて後ろ手で窓を閉める。ベッドから身を起こす彼女は消え入る様な声で口にした。
「来ると思ったから…」
低階でもさあ、突発的行動ってあるでしょ。何で窓開けられるのさ。本人の希望があるにしてもやっぱり治安機関の意図あるよね。
「ごめんね、連絡手段持ってなくてさ」
室内にあったパイプ椅子を逆向きにベッドの横に置いて、行儀悪くそれに腰掛けながら遅くなったことも詫びる。全部燃えちゃってさ、とつい口が滑ってしまって暗がりで彼女が息をのむ。まいったな、変に口が回る。
「お話しする?それとも眠れるまで手を握っていた方がいいかな?」
「深夜の訪問」にも関わらず起きている。大人は夜更かしだけど、退院出来てないって事はそういう事だろうね。おずおずと青い布―毛布と一緒に寝具代わりに使われていた僕のマントの下から出された彼女の手を握る。
「…いっしょに」
彼女の言葉にちょっとだけ動揺して、入り口天井のカメラに視線を走らせる。少しだけ間を置いて、うつむいた彼女に承諾の言葉を返した。
「…おっけー」
んで冒頭なんだけどさ、全力でしがみつかれてます。僕が下なんだけど、これ社会的にすごい不味くない?いや最初はお互い横向きで手をつないでた程度だったんだけど、少ししてから彼女の様子がおかしくなってね。
「大丈夫、大丈夫」
多分、気が抜けちゃったんだと思う。うめくような声を無視して背中をさすって上げる。濁ったような音―声にならない声に僕は言葉を返す。
「うん、こわかったね」
チュニックの胸元が濡れるのも構わず、傷み気味だけどマッシュに整えられた髪ごと頭を抱えてささやく。
「いっしょにいるよ」
ギリギリと脇に力がかかる。僕の背に回った手の指が立つけど爪、大丈夫かな?剥がれたりしない?あと多分傍目からだと事案一直線だけど平気?ぐぅうう、はっはっと乱れた声とも息ともつかない音に、つい口にする。
「はいすってー」
ぐ、と呼吸と言うか呻きが途切れる。
「はいはいてー」
かはっと呼気というには乱れたそれを無視して、また指示を出す。
「すってー」
すぅう、と今度はマシになった。
「はいてー」
はー、と普通になった。
「はい深呼吸」
それから何度か繰り返して落ち着いたかな?と思ったところで何か目があった。また浅い息をし始めた彼女が顔を少しだけ上げてこっちを見ていた。
「落ち着いたかな?」
返事の代わりにずるりと彼女がこちらにずれてくる。服越しとはいえ無造作に胸を当ててくるし、毛布も青い僕のマントもずれて寒そうだから背に回したこっちの手で寝具を肩くらいまで引き上げる。
「まだ寒いよ?」
腕を上げたままのところで左脇から彼女の右腕がからんでくる。左半身側に半ば乗られる形で抱き着かれた。脚までからめるのはやり過ぎでは?抱き枕代わりというなら付き合わなくなくもないけれど、左腕が雑に僕の胸の辺りを通って脇にいってるのはちょっとどうよ。性別違ってたら一応殴るよ?
「くび」
「はい?」
「なおってる」
いや見てたよね、その場で繋げたよね。
首の下を通った右手が僕の右ほおを押さえる。
「昨日は、こげてた。目、抜けた」
はい?
左手が僕の右上腕を握る。
「だいぶまえ、折れてた」
おいおい。その手が僕の右腕から離れると、無遠慮にチュニックの上から僕のろくに無い胸をまさぐる。
「一昨日刺さってた矢は?」
「もう抜いた」
「昨日、足も落としたでしょ」
「拾ったよ」
時系列はバラバラ、多分動画で流布してる内容も混じってる。
「うち、こよ?いていいよ」
「いや、あの」
「いたいのもこわいのもないよ?ね、いっしょにいよ」
語彙も変だ。あの狼ども何使った、それともエナか?バラバラにしても負傷の記憶が流入してる?
「くらくてせまいところもやめよ?かべでつぶれてたよね」
おい、旧首都探索中のまでってか損傷ログレベルで漏れてんぞ、どうなってるんじゃこれ。
『ブラウ!聞いてる!?』
『呼び方が戻ってるぞ。あと今調整しているところだ』
「だれ?」
彼女の視線が虚空をさまよう。
『…ブルファントム、多分聞かれてるよ』
『ウィッチになれる程ではなくとも、素質を持った人間はいる。短期間で多量のエナを浴びてチャンネルが開きっぱなしになったんだ。おそらく別の要因もあるがね』
『別の?』
『それについては後日彼女に確認してくれ。推測通りなら、現状で聞くのは精神的に負担が大きいだろう』
先日の戦闘の件といい、訳が分からないよ。
「ねえ、こっちをみて」
相棒との「会話」に思考を割きすぎたせいか、どうも対応がおざなりになっていたようだ。気付けばべったりと上に乗られて間近に彼女の顔、両頬に彼女の両手。少しだけ彼女の眼を見つめてから目を閉じた。そして距離が零になる。
「あ…れ?」
しばし間を置いてからの第一声がそれは傷つくなぁ。僕の頭の左右に手をついて少し上体を起こした彼女は困惑したままだ。そのまま乗っかられてた方が柔らかい感触を楽しめるんだけど。
「続き、する?」
「続、き?」
返事を待たず首に腕を絡めて引き寄せて、今度は僕から2回目を。少し唇が荒れ気味かな?がばりと彼女が腕を立てて離れる。
「ご、ごめん!どうかしてた!」
やっぱり最初のキスは無意識ですかそうですか。
「…その一言ですまされるとちょっとつらいなぁ」
これは嘘。美人さんのキスなら大歓迎だし。
「うっ」
色々精神的ダメージを受けてはいるけど、「上」に乗ったままで動く気はないみたい。もう一押しかな?
「王子さまと言うにはにはちんちくりんだけど、今ならほぼ新品の僕を好きに出来るよ?」
痛い目にはあってても酷い目にはあってないからね。
「なによそれ」
冷えた声が上から降ってくる、まあ当然かな。
「ふざけてんの」
いや大真面目、と開きかけた口を塞がれ、唇をこじあけられる。彼女の首に回してた腕もなんかわざわざ掴んでシーツの上で押さえつけられてるんだけど。抵抗なんてしないから抱き締めてくれればいいのに。
「な゛ん゛て゛よ゛」
たっぷりと僕の咥内を蹂躙した後、僕の目を覗き込んで彼女が問う。だからメモにあった名前で呼んだ。
「だってハル、僕と繋がろうとしてくれたじゃん」
一般人がウィッチと接点を持つなんてリスクしかない。敵はあいつらだけじゃないからね、つけ回してウィッチごと盛大に自滅したストーカーとかいたわけで。「戦力」を欲する他国の工作員だって敵として候補に上がってくるし。何よりウィッチは、インクブスにとって得難い獲物だ。一緒にいた方がむしろ危ないんじゃないかと僕は思ってる。
まあ煽ったけどさ!あんな目にあった彼女に僕は新品とか嫌味でしかないし。でもキスする程度にハルにとっては「有り」って事じゃん、錯乱してたにしても。だから、抱いてくれるってんなら大歓迎だし、抱いて欲しいってんならヤるよ。
「ただまあ、あえて「ここではいや」って理由を上げるなら、多分見られてるってことかなぁ」
「え」
目をまんまるに見開く彼女に、指だけで天井のカメラを示す。それを彼女はえらい首をひねって確認すると
「しにたい」
そういって毛布の中に引っ込んじゃった。
「それはやだなぁ。やっとこさ助けられたのに」
「仕事だってどうせクビだし、次探したってどうせまた遅い仕事よ」
暗くなったらあいつらがくる、とハルは泣いた。
「町は燃えるしみんないなくなっちゃったし、もうやだ」
もうやー!おうちかえるー、とハルが幼児のように駄々をこねる。
「…ごめん、家は晴嵐のどのあたり?国道の南と北西は結構な範囲吹っ飛ばしちゃったけど」
「家ないじゃん」
聞けば北西のエリアだったとか。
「ちなみに南側は僕んち中心に吹っ飛んでる」
「ふうん」
「急に落ち着いたね」
「なんかどうでもよくなっちゃったかも」
落差激しいな。
「…ねる」
「はい、おやすみ」
宣言から少しして、ほんとに寝息っぽいのしか聞こえなくなった。なんか腰を抱えられてるけど、朝になったら腕痺れてないかな?まあ抱き枕に徹するけど。それはそうと。
『晴嵐の人間とは思考その他がリンクしやすいってこと?』
先ほど中断された話題について、相棒に聞く。
『可能性としてはだ。確証はない』
『ヘリパイの人の経歴、確認しようもないから保留かなぁ』
『まあそうなるな』
『んじゃ僕ももう寝るよ』
『おやすみ』
『おやすみ』
さて、朝になったら誰が起こしてくれるのかね?