山肌を向こうに望めば荒野としか言いようがない場所、そこにレジャー用のテントと何故かスクーター、それに木製の丸テーブルと古ぼけた、それでも現代ものの屋内用の椅子らしきものが置かれている。
「キャンプ気分でお昼、と言いたいところだけど、場所的にあなたはそうはならないでしょうね」
「いやいや、招待するにはさびれ過ぎているだけで、あばら家でも「我が家」ってもんだよ。食い詰めた詩作家のように強がってやるさ」
「強がらなくていいと思うんだけど」
「もっと盛大に泣いていい立場よ、あなた」
「あたしの胸だって貸してやるぜ?」
それぞれの少女たちの言葉にブルーウィンドは混ぜっ返す。
「ルージュの胸は魅力的、というかルージュ自身すごく魅力的で魅かれるけどね、僕はもう派手に泣いて癇癪起こしたからさ。よく効いたでしょ、あいつらに」
「泣くんならあたしかマナの胸にしろよ。あいつらの悲鳴を子守歌に、なんて切りのない復讐の旅路じゃないか」
「そこでかなみと篝を外すのは違わない?」
「思い出ん中のママのでっかい胸を思い出せるってのが相場なんだよこの節操無しが」
まああたしじゃちょいと背が高すぎるなんて言ったガキもいたけどよ、と杏奈が口にすれば、
「「ちょっとそれどこクソガキ?殴りに行くわ」」
と不思議と篝とブルーウィンドが同調する。なんだかんだでスタイルのいい佐竹杏奈という少女は、義姉妹である篝、戦友であるブルーウィンドには誇るべき仲間であるのだ。それを貶す贅沢極まりないクソガキは折檻に値する、となる。
「まあ、それはさておき、一息入れようか。「カオル」の事もいい加減話すべきだろうし」
ブルーウィンドが置いてあるものと同じ円卓を召喚する。続けて簡素だが背もたれのある木製に見える椅子を4つ。そうして自分は、その場にあった「古ぼけた椅子」に座った。そして各々が椅子に座り、言葉を待つ。
「まあそこまで身を正して聞くようなもんじゃないよ、バスケット並べながらでいいさ。大体はみんなと同じ、普通に家族がいて、家が無くなったか家族がいなくなった時期が少しずれただけ」
「ブルー」
叱責に近い声音がマナから飛ぶ。
「「飛葉カオル」って子が、まあ対外的にはひとりぼっちになったのがあの夜ってだけさ」
いつものような、笑ったような顔を少女は崩さない。気にするようなことじゃない、このご時世珍しくない、あんたもそう思うだろう?まるで老人がそう問いかけるように彼女は言葉を紡ぐ。やれやんちゃな子だった、男の子みたいに野山をかけまわっては親に怒られてたような子だったな、そんなお転婆でも妹がもう少し大きくなる頃には少しだけマシになってた。その頃だったね、変な噂が出回るようになったのは。
「やれ、怪物が人を攫う、怪物が人を食うと来た。それから少しして戦争が始まった」
5年も続く戦争-国家と怪物と、国家と傀儡国家との戦争だった。
「そしてカオルはウィッチになった。「力が欲しいか?」―開口一番、それだよ。人「よりは」優れた身体能力、少なくとも人にはない力。すぐに悟ったね」
これは最低限度の力だ、敵を哂う暇などない、血反吐を吐いても零れ落ちるものを少し掬い上げるので手一杯の力だってね。
「僕は、英雄になどなれないし、それを望んでもいけない、その程度の力だってね。事実、英雄は他にいたさ。ラーズグリーズと、僕がろくに名前を口にすることのないウィッチ。本当だったら最近知ったその名で呼びたいよ。彼女の前に頭を伏せて、ありがとうございますって言いたいくらいさ」
彼女にとっては迷惑だろうけどね、と「飛葉カオル」は口を止めない。3年経っても自身の能力さえ把握しきれない。どこまで自分が死ねるのか?どれだけの武器を自分は呼び出せるのか。
「自分の限界を知る術もないまま、あの夜だ。もうどうでも良かったよ、君たちさえ残れば。守れなかったその咎で僕だけがここで消えればいい、そう思ったよ」
4人の前で、彼女は椅子に座りなおす。
「消えることもできないなんて、思いもしなかったよ」
いつもの笑い顔が消えた。
「椅子が、4つあった椅子が、あんな爆発だったのに、全部吹き飛ばしたはずなのに、これひとつだけ残ってしまった。まるでお前の席はあっちにはないと言わんばかりに」
「そうだねぇ、家族の為にあっちに吹っ飛ばしたってんなら、少しは納得できるかねえ」
一瞬、そこに老婆が座っているかのように杏奈は感じた。まるで重ねた経験に引きずられる様に。年老いた何かがそこに座っていると。
「町の人も空っぽの荒野じゃ困るだろうし、町の半分もあの世に移せたなら、マシかもしれないねえ。あとはあいつらを地獄に叩き落とせりゃいいさね」
ともすれば杏奈にも近い伝法な口調も混じる。
「とまあこんなところかね。さ、暗いお話はここまで。食べた食べた」
まあ材料費くらいしか出してないけどね!といつもの笑いで皆に促す。
ちゃっかりとかなみは皆のバスケットを並べ、蓋だけは全部開けていた。実のところ、彼女としてはブルーの、いやカオルの話をそう堪えてはいない。古傷を思い起こすには篝や杏奈よりも経験が近過ぎる。悲惨な話を聞いている、と言うにはマナよりも経験がある状態だ。雑な言い方をすればマナはこの中で一番恵まれている。それでも住み慣れた町を追われた者たち、と言えば同類で、五十歩百歩の話だが。円谷かなみがこのような話をより自分の事として捉えられるのは、もっと時間がたってから。きっとそれは「戦後」の話になるだろう。
軽いサンドイッチだったり、卵焼きや唐揚げ。野菜は具として挟まっているもの以外は少ない。
「野菜、まだまだ高いのよね」
「ブルーが材料費追加で出してくれたからレタスは買えたけど、なかったら二の足踏んでましたね」
「…いったいどうしてんだ?」
杏奈がやや目を細めて問う。隣の篝はそんなこと気にしてどうすると澄まし顔だが。
「僕がここ2年、「人のいない地域」で活動してるの分かってる?」
「…火事場泥棒かよ」
苦虫を噛み潰したように杏奈が顔を歪める。
「放棄された物資、だよ。正直アタッシュケースや金塊で見つけちゃうと役所の前に放り出すくらいしかないけどね。そういった金銭、備蓄された物資。僕自身はほとんど要らないにしても、最悪数日間は移動に時間を必要とする被害者には必要な代物さ」
何分移動の制限の多い地下空間や、そもそも距離的にどうにもならない地方の孤立地域だと速度って奴がねえ、と悪びれもせずにカオルはその懐具合を白状する。
「服は?」
「置き場、保管の手間を考えると僕が召喚した方が早い。被害者に着せる分も含めて」
その気になれば放棄されたモールのマシな服くらい調達できるとは思うけど、とカオルは口にする。
「人の多い場所に連れて行ったら、残ったお金を渡して解放?」
篝の質問にカオルは捕捉する。
「それでもいいし、そのまま病院まで直送でもいい。まあ近年の保存食は質がいいから、数日間なら被害者の心も保てるもんさ。飽きた頃には人のいるところに着ける」
日本はそれくらいの状態を維持できてるよ、と見て来たかのように彼女は言った。
「わたしたちだけでショッピングモールとか歩いてみたいかなぁ」
「管理されていないモールなんて薄気味悪いだけだからやめようよ、実際に歩いてみた僕だからその点は保証する」
「実施済みかよ」
「悪くないじゃない、ブルーが、ううんカオルがモールを歩きたがるくらい女の子してるってことで」
「そうね、でも最後に聞いておくわ」
サンドイッチの最後のひとかけらを飲み込んだ篝が表情を正す。
「最後のあれは、いつから使えると?」
「ずっと前から、理屈の上では」
まああっちじゃもっと才能のある子が斬撃飛ばしてたりするけど、とカオルは付け加える。
「なんであの時、そこまでやったの。あなたの再生能力の限界まで試すときではなかったの?」
「「ブルー」ならそうした。そうとしか言いようがないかな。あの時がきっと最後のチャンスで、兄弟たちのために自身を爆弾に作り換えた彼なら、きっとそうした」
どこのだれかは誰も聞かないし、彼女の中にあるヒーローに誰も触れない。多分それが彼女の原点。
「それが、あなたの名前の由来?」
マナの問い掛けに彼女は頷く。
「そうだね」
「青い空に吹く風…」
「そう、それ。自由な空を望んだ少年の、そして彼の死んだ姉の希望。そして風はどこにだって吹く。気ままに、自由に」
自分たちの知らない物語の、その一端を語る少女。
「両方とも英語だったからまあそのままで通しちゃって、みんなとは大分違いが出ちゃったけどね」
それは出会うタイミングの問題だった。
「いつも補欠みたいな立ち回りなのいったいどういうこと」
「昔だって篝は大分戦いにくかったでしょ?僕だって同じさ、いくら回復するからって刃にそのまま飛び込んでいけないでしょ」
それはそうである。篝―ノワールブークリエが本気で戦えば半ば市街戦の様相を呈する。建築物や避難しきれていない人々を考慮するなら自ずとその行動は制限され、おとなしく城壁の如き威容を利用する、という戦い方がもっぱらであった。ましてブルーウィンドに至っては、仲間にさえろくに知らせていなかった再生能力を自分自身でも当てには出来ず、動き回ってはその時々に合った武器を使う、そういった行動しか出来なかったと言える。
「だからね、僕の知る物語の登場人物たちと同じだね。その能力の根源たる部位はとんでもない再生能力を持っている、でもどこをやられたら死んでしまうかさえ分からない。これじゃ無謀に突っ込んでも死ぬだけだよ」
まあ違ったわけだ、とカオルは締める。
「雑に言うとね、僕にはそれを試す時間とチャンスがなかった。それがあの夜に来てしまった。ただ一つ慰めがあるとするなら」
あるなら?と皆が注目する中、彼女は少しだけ間を開ける。
「…慰めがあるとするなら。「彼女」が体制を整えたのはここ数年の事らしいってことかな。あの惨劇が、彼女の知るところでないとしても、彼女にとっての時間を稼げたならそれだけが救いかな」
だから、ブルーウィンドは椅子から転げ落ちた。彼女が座っていた目の前に、篝が立っていた。
「…ふざけんじゃないっ、ふっざけんじゃないわよっ!」
震えた声で、利き手の左手を払ったまま泣いていた
「ひどいっなあ、かがり。加減は出来るようになったみたいだけど、ずいぶん痛いよ?」
頬を張られたブルーウィンドが、上体だけ起き上がって返事をする
「全部なくしてっ泣き言もっろくに言わずっ!口を開けばその子のことばかり!あげく誰かもまともに教えないでっ」
そのままのブルーウィンドにしゃがみこんで篝が縋り付く、前と違って装甲なしのギャンベゾン(鎧下の布鎧)だが、装甲を振り回す膂力はそのままだ。ぎしぎしと抱き締められた少女の骨格が軋みを上げる。
「私も、杏奈も、5年前に失った!あなたもかなみも。マナだって帰る場所を失くした!それが時間稼ぎっ?!」
ぱきっとあまりにも軽い音が響く。
「いくら何だって、全てをバカにしてるっ!少しは泣いて見せなさいよっこの馬鹿!」
バキッっと重い音が響いた。最初は多分腕、次は複数の肋骨が同時に。それでも彼女は再生をかけない。
「闇の中であの子の顔を見る時がある。あれは鏡で見た僕の顔だよ」
「…っ?!」
「冷たい、とても冷たい顔だ。その中であの目が―あの紅い紅い眼が、全て殺そうとする眼が、あいつらを見てるんだ。そしてあの子が手を振り下ろす、「奴らを殺せ」ってね」
「僕は自分が走るしかない。あの子は自分で殺すには非力すぎる。ちょっとした合わせ鏡だったよ」
抱える憎悪はきっと同じ、得た能力は似ていて互い違い。
「だからあの子も同じ。誰を失ったかを聞くのは野暮。まだ何かを守ろうとしているのか―それを聞くのは無粋の極み」
篝の腕が弛む。
「それに、今は篝が代わりに泣いてくれるみたいだし。全部終わったら、僕も泣くよ」
ずるり、と力の抜けた篝の腕からブルーウィンドが崩れ伏す。
「言いたいこと、また篝さんに持っていかれたわね」
「あいつら皆殺しにしねぇとブルーのむかつく薄ら笑いは剥がせねぇって訳か」
「あいつらやっつけてからじゃないと飛葉カオルって子に戻りたくないってこと?」
「…かなみはそういうとこ、手厳しいね」
仰向けに転がったままでかなみにブルーウィンドは答える。完全に自白したようなものである。
「復讐するは我にありとほざいたところで、イエス様は手をお貸しにならず、ならば信徒が十字軍を率いるしかないってな」
「それの最大戦力が虫の軍勢とくれば、まるで時折蝗の大群と関連付けられるレギオンみたいなものだよ。皮肉が聞いてるね」
「直接出て来る時は悪霊の大群だぜ。そもそも」
「古代ローマ軍団の呼称でしょ?」
ゆっくりと再生しながら起き上がるブルーウィンド、いや飛葉カオル。聖書絡みの会話も、他人が聞けば中二病のくだらないやり取りだ、平時ならば。ここにいるのはウィッチで魔法少女で、戦士。親を失った子供たちが大半だ。そのうちの教会の娘―佐竹杏奈と、どういうわけかそれなりに知識のある飛葉カオルの会話である。約5年も教会に身を寄せている暁篝も多少はそういった知識が身に付いているが、そもそも生まれた時に洗礼を受けた杏奈ほどではない。その杏奈自身はそこまで教会の作法に染まっていないというエラーは別として。
「何か大きなお話に巻き込まれているって言いたいの?」
マナ自身は両親からきな臭い不確かな情報を聞く立場であった。あまりよろしくない話ではある。何分情報漏洩すれすれである以上何を咎められるか分かったものじゃない。それでも国防軍はウィッチを「政争」に巻き込むことを忌避しており、故に不穏な情勢に関する情報は保護下のウィッチにそれとなく非公式に伝えられることとなっていた。
「そうでないといいね。彼女らはとっくに巻き込まれてるかもしれないけど」
ラーズグリーズだしなぁ、とカオルは口にする。
「ナンバー1が何か?」
「有名どころの「ブリュンヒルデ」じゃなくてラーズグリーズなんだ。原典通りに「計画を壊すもの」ならマシなんだろうけど」
「北欧神話で何か気になるのかよ」
「創作神話で名前が使われてるんだ。あの辺はフリー素材みたいなもんだからねえ。最初の段階から何か計画してる奴が絡んでたら嫌だなって」
チョッパーになるのは僕でいいけどね、と意味不明の事をカオルは口にする。
「調べておく?」
マナの言葉にカオルは首を振った。
「藪はつつかないで。ゲームだって入手困難な昨今、あれを符丁に使うイカれ野郎がいるなんて考えたくない。存在しないってんならともかく」
「さわりだけ調べるとして、あなたの考える安全なラインは?」
「ラーズグリーズとゲームかな。それで戦闘機の作品が出てこないならそれでおしまい。それ以上は彼女のファンなのかを「見てる奴」がいたらおっかないから止めて」
「なんで気になるの?」
かなみの言葉に、カオル-ブルーウィンドは笑顔を消した。
「あの子はナンバー13。レギオンの軍団長にユダの番号を振るってさ、僕は悪意しか感じない。彼女が裏切るのか、それとも」
-誰が、彼女を裏切るのか
「今言ったの、全て戯れ言の笑い話って方に賭けたいね」
ブルーウィンドはそう言って笑った。
「その賭けは少なくとも聞いた私たちでは成立しないわね」
マナの言葉に全員が頷く。自分たちの事だけでも手一杯、日々防備を固めてのパトロールだ。今日だって日帰り出来る算段があるから帰郷などという手段を取った。収穫があったにせよ、全員が残った家族の元を離れるというのは、本来するべきではない。
それでも故郷を見たかった、仕方ないじゃない
厳密には篝と杏奈には仮の宿でそこでさえも追われて来たのだが、そこで暮らした3年も嘘ではない。そこで篝は気付く。
全部終わったとき、私は果たして帰るのだろうか。
今目にした「飛葉カオル」は、故郷に執着する私なのか。こうなることも出来ずに、悲惨な最期を迎えるのか。故郷を胸の奥に、新しい道を歩むのか。
「故郷さえ忘れて、戦い続けるのか」
「なにか言ったかい?」
「…いいえ、もう帰りましょうか」
「そうねぇ。戦利品が軍資金ごとだもの。クリーニングとコインランドリーで分配も早い方がいいわね」
「だからそれは」
「無くしたはずのあぶく銭よ。必要なものに使って、ちょっと美味しいものでも食べてそれでおしまい。そうでなきゃツキが落ちるってもんよ」
「マナさんがそう言うなら。ママでもそう言いそうだし」
「借りは、返すぜ」
「記憶に残ってるものが無駄にならない。それだけで返してもらったようなものよ」
本当は全部燃えてしまったと思ったもの、とマナが言えば杏奈も黙った。その真横で篝がカオルを-少なくとも仲間内ではカオルと名乗った少女を抱えあげる。
「あれれ?」
「今日も骨を砕いたお詫びに、抱いて帰るわ」
「そうねぇ、いい加減教会にも顔を出すべきよねぇ」
この数日間、ブルーウィンドは円谷家と武田家を行き来していた。人数と戦力で考えると教会組は常時2人のウィッチを抱える拠点なのだ。その上で今夜はマナの両親が帰ってくる予定である。各拠点でウィッチと最低でも大人1人以上の構成になるならば、教会に顔見せしておいた方がいいと言う判断である。
「このまま連れ帰っても?」
「乾燥まで出来た分も後で届けるわ。そうね、そのまま縛り付けちゃってもいいわよ」
「篝ぃ、流石に神様に言えないことまでは無しで頼むぜ」
「お手伝いはするけど、信徒ではないと前にも言ったわよね?」
けんもほろろな篝から、抱えられた「カオル」に杏奈が視線をずらす。
「神様は尊重するけど、実質彷徨えるユダヤ人かもしれない僕に言われても。あとウィッチの力でも篝相手じゃ無理だよ。杏奈でも僕を押さえ込める筈だし」
「百歩譲って告解までよ、義理としては」
カオルからのなす術無しの降伏宣言、加えて篝の追い打ちに杏奈は額を押さえてぼやく。
「頼むから追い出されるような真似だけは止めてくれ」
見た目と態度とは逆に篝の方が「破戒」的である。そもそもが一般家庭の人間で5年前に保護されただけとなれば、正直「神よ、何故見捨てたもう」と先に悪態をついても不思議ではないのだ。
「おおブッダよ、ねているのですかってところかな」
「イエスさまも寝ているなら「悪いこと」も出来るかしら」
「真面目な天使さまに真っ二つにされると思うよ」
半ば下らない会話の向こうで、かなみとマナの2人であたふたと物を片付けえ終えていた。それを見てカオルを抱えたまま篝は数歩進んで装甲を展開すれば、皆が装甲にスーツケースやバッグを縛り付ける。
「あれはどうするんだ?」
スクーターだ。
「置いたままで。最悪でもここで活動中のお巡りさんに届けるのが筋だし」
「そうすればあなたの名前も使えるものね」
マナの補足通り「飛葉カオル」の名で所有者不明のスクーターを遺失物として届ければ、彼女は行方不明者のリストから生存確認済み、に格上げされる。
「そういうこと。椅子もテーブルも、残しておけば最悪誰かが使える」
残る3人が走行ユニットに乗り込む。
「それじゃ、出すわね」
「お願いね」
キュラキュラと荒野から町の外周部を廻って元来た方へと走る。どちらにせよ一度報告と手続きに止まるのだが、好きに走れる無制限の地形と言うのも楽しい、と篝は感じた。あとは、
「そうね」
「なに?」
「装甲無しの方があなたを抱えて走るのは楽しいでしょうね」
お互いに肉付きの悪い細い体だが、鎧よりはずっとマシだろう。鼻に届く甘い香りにきっと素敵なもので出来ている、そういう子だったなら。
「ねえ、カオル。あなたってなんで出来てるの」
「…そりゃ砂糖とスパイス、それに素敵なものって言いたいんだけどね」
「マザーグースね、それじゃ不満?」
「僕の場合ヴードゥーの何か、混ざってるよね?」
「聖書と聖水、塩と十字架で迎えて上げるわ。動けなかったら本気で犯すわよ」
「もうその時点で追い出される素行不良じゃない?無許可悪魔祓い入ってるよね?」
「かがりぃ、止めてくれよぉ」
「最悪両親のツテで2人で住める場所はなんとかなると思うけど、2人ともちゃんと学校に通える事が条件の筈よ?ブルー、っとカオルがちゃんと通えるくらいに加減してくれないと困るわ」
「2人が一緒だったらわたしも入り浸っちゃいそう」
「僕、平時は神経の回復遅いんだけど」
毎朝腰砕けでは登校に響くだろう。
「私が抱えて登校すれば問題ないわ」
「大有りよ。教室行かないでどこかに消えるでしょ、それじゃ」
「…その手もあったわね」
「ダメよ、退学になって2人して将来棒に振る気?」
「そうしたら故郷に逃げるわ。正直人も住んでるか怪しいけれど」
「僕みたいな生活はお勧めしないよ。第一、篝は食べなきゃ生きられないし」
「業腹だけど止めておくわ、そもそもあなたにマシな生活させなきゃ本末転倒よね」
「君の生活をまず考えようね?抱き枕役は僕も役得だから引き受けるけどさ」
「言質取ったわよ、速度上げるわ」
増速に旋回まで混じるものだから、後部に乗ってる方はたまったものではない。
「安全運転!安全第一!な!?」
「帰りも手続きあるんだから、ちゃんと途中で止まってちょうだい!」
「篝ちゃん、いいなぁ」
「君は昨晩まで枕役の僕を楽しんだでしょ」
きゃあきゃあと姦しくウィッチの一団は帰路に就く。お年頃の少女たちは難しいものである。
ARMSとエースコンバット5で適当に陰謀論を展開させて遊んでみた。
所詮は中二病の会話、ということで。