※この作品はR-18です。

量産型魔法少女   作:Toygun

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量産型魔法少女 029 スクラップ

 

 

プシュ、と炭酸の抜ける音が響く。無造作に開栓したボトルに口を付けると、少女はそこそこの勢いでペットボトルのコーラを半分程開けてしまう。くはぁと強めに息を吐いてダンとボトルをテーブルに半ば叩き付けて置くと、少女-シルビアはソファにべったりと身を預けた。

 

「もったいないな、それじゃ配給が追い付かなくなるぞ」

 

手にしていたペーパーバックから顔を上げて、クレアがそう注意する。

 

「休むときははきっちり気を抜くものよ。補給の事まで気にしていたら心が疲れたままになるわ」

 

クレアの手にする書籍の背を見ながらシルビアはそう反論した。目にしたタイトルは「ファイア・スターター」。

 

「まあ、我らがステイツの補給だもの。気が抜けたものが回ってきたりはしないから、私といえど一気に飲み干すのは無理だけど」

 

国土の1/3が敵の手に落ちている、その状況であっても米軍は各戦線の現存する戦力に必要な補給を送る事は出来ていた。状況を打開可能な戦力を除いてだが。

 

「まあこんな生活では給料の使い処もないでしょうけれど、程々にしておかないと体重計が怖いわよ?」

 

テーブルを挟んで向かいに座っていたレイラが、本人でさえ実感のない言葉で揶揄するが。

 

「1回の出撃分にも成らないわね」

 

言われたシルビアは吐き捨てる様に「足りない」を言い換えて口にした。常人ならば充分過ぎる余剰カロリーである500mlのコーラであっても、鉄火場に身を投じる彼女らには不足だった。エナという奇跡で物理を超えた力を振るえるとしても、最後に当てに出来るのは己の肉体であり、それを支える純然たるカロリーという燃料だ。訓練に出撃を日常とする彼女らに食べ過ぎという言葉はどこかの夢物語に聞こえてしまう。かつて米国を悩ませた「肥満」という問題も、たった5年で消失してしまった。むしろ如何に食事を摂り体力を維持するかが彼女達の課題だった。エナの奇跡も胃の容量を大きくしたり消化吸収を助けてはくれなかった。

 

「正直、自分がここに居ていいのか疑問に思うことはあるわ」

 

ジュニアハイに上がったくらいで、レイラのそれまでの日常は消え去った。それまで学ばされていた社会問題も「戦乱」が全て覆い尽くす。お洒落なカフェやイケてるファッションの話は足を踏み入れる矢先に自分達の前から消え去り、最前線と兵舎を往復する日々。ウィッチという特殊性から優遇と酷使が混在する複雑な実情と、そこから櫛の歯が欠ける様に脱落していく肩を並べたウィッチ達。今日共に戦った誰かを明日には変わり果てた姿で救出する、そんな事もザラだった。明後日には自分の番かという怯えを呑み込んだままで。それさえもウィッチなら生きて救出されるかも、という「残酷な優遇」という事実。「Good Luck」と声をかけてくれた正規軍人は何人もそれに見放されて息絶えた。

 

 

 それが任務一つで、任地が変わるだけでこうも穏やかになる。

 

「深刻に考えすぎよ。束の間の休息を楽しむべきよ、レイラ」

 

勿論皆、焦燥感は持っていた。最前線から離れての任務。たった一人のウィッチを確保するために自分達を含め多くの人間が動いていた。果たして任務は成功するのか、成功したとして彼女は祖国を救えるのか、救ってくれるのか。彼女がいなくなったこの国はどうなるのか。そういった不安を押し隠して皆ここにいた。それさえも「そのウィッチ」が覆してしまった。個人ではどうしようもないだろうし考え込んでいたら動けなくなるだけだ、だから今は幸運を噛み締めて休め。シルビアの言いたい事はそういう事だ。

 

「ところで、モーガンったらずいぶん遅いわね」

 

話題を変えようとばかりにシルビアが部屋を出た仲間に言及する。

 

「PXに行くとしか言っていなかったが」

 

「…臨時の任務かしら」

 

「士官に捕まって事前説明、ありそうねぇ」

 

噂をすれば影、とここ日本では言うことがある。ガチャリとドアが開くと戻って来たモーガンが無表情に告げた。

 

「みんな、任務よ」

 

 

 

「忙しいところ集まってもらってすまない」

 

ブリーフィングルーム、檀上の会計士官の大佐はそう謝罪した。

 

「まずは気を楽にして欲しい、有り体に言えば只の回収任務だ。しかも善意の協力者から回収の要請さえ出ている、という好条件のものだ」

 

通常のルートの任務ではない、と彼は強調するとスクリーンに映像を投影する。電力を喰うプロジェクターを未だに使っているわけだが、更新予算を出していないだけだ。映る映像にゴースト7及びブライス大尉以下同席する支援部隊も注目する。

 

「ご覧の通り、この間損耗したドローンだ。善意のウィッチによって回収され、民間人によって回収の呼び掛けがなされている」

 

SNSのスレッドが表示され、複数のドローンに「返却済み」の注釈が追加されている。民生機に偽装した米軍のドローンは「未返却」のグループに入れられたままだった。

 

「ここを見て欲しい。個人情報保護ためか画像は投稿者により加工されているが、ウィッチのみ顔を出している。モーガン少尉には事前に軽く説明したが、「誰が持ち主ならば好印象を与えられるか」を重視したい。これがわざわざゴースト7に要請した理由だ」

 

画像の一つが選択され、破損した機体が映される。ドローンとしての形は保っているが墜落したことは一目瞭然だ。

 

「画像からするとドローンの状態は残念なものだが、彼らは持ち主が現れない機体については警察に届け出るとの事だ。同盟国の警官の手間を省くのもまあ善き隣人の務めであろうし、毎度「任務中に損耗、回収不可」と文言のみで済ませてはあらぬ疑いを受ける事もある。というわけでお使いをお願いしたい」

 

「回収後は?」

 

ブライス大尉の質問に大佐が答える。

 

「自由時間で構わない。車輌や備品の盗難にだけは気を付けてくれ、それこそ勘定が合わなくなるからな」

 

つまり任務の名を借りた外出許可付きの休暇である。シルビアが口笛を吹き、兵士達が歓声を上げる。失点の一つであったドローンが休暇に化けたのだ、喜びもしようというものだ。

 

「街ではお行儀良く頼むよ、憲兵隊の世話にならないようにな」

 

浮き足立つ皆を大佐が静める。と、一人の兵士が発言の許可を求めた。

 

「何かね、えーと」

 

「スティーブン・ロメロ伍長です、大佐。3名に民間人及びそのウィッチについての情報はありますか」

 

「どちらも調査は継続中だが民間人については3人ともハイスクールの学生、かつ危険性は確認されていない。ウィッチについては彼ら自身と共にあり、なおかつ順調にドローンを返却中であるという事実を以て同様の判断をした」

 

これが我々を釣り出す罠でなければ、という注釈は付くがねと大佐が締める。

 

「つまり、現時点で司令部および会計科では彼女を認識していないと?」

 

伍長の発言に大佐は聞き返す。

 

「伍長?」

 

「危険性が低いだろう事は同意です。半ば情報公開されているニッポンのウィッチの中ではアクセスしにくい対象であるのも確かですね。彼女の戦闘スタイルは過激なので」

 

「ロメロ伍長、知っているのか」

 

振り返ってブライスが後列に座る部下に聞く。

 

「以前飲んだとき、ホラー映画が趣味だったって言いましたが彼女、ホラーサイトの人気者ですよ。後はダークウェブですが。通り名はvoodoo girl。一般のSNSや動画サイトじゃすぐ削除されますね」

 

慌てて大佐が端末を操作してブラウザのタブを開くと、伍長がそれを制止する。

 

「止めといた方がいいですよ。不死身頼りのカミカゼアタックだけが取り柄のウィッチです。見ないでやってください」

 

「万が一の場合はゴースト7で対処出来るか、それを確認して置きたい」

 

入力ウィンドウに「voodoo girl」とタイプされると無制限設定のブラウザがたちまちに検索結果を表示する。矢印が「Today's voodoo girl」を選択し、拡大されたとおぼしき画質が粗いウィッチの顔と、動画サムネイルが多数表示される。

 

「動画増えすぎだろ」

 

ロメロ伍長の吐き捨てるような呟きに、モーガンは先程の発言との矛盾を感じたが続く思考がそれを打ち消した。「趣味だった」のだ、彼は今それを見られない程消耗している。現実のモンスターに対処するために。

 

「伍長、彼女の戦闘能力が分かるのはどの動画かね」

 

「分かりません。丸焦げの腕で槍を投げるところで俺は吐きましたんで」

 

大佐の質問ににべもなく拒絶のごとき回答をする伍長。仕方なく大佐は最新の動画を選ぶ。

 

『だから逃げろっていってんだろバカァ!』

 

いきなりの怒声から始まり、ウィッチがゴブリンの群れに無謀にも飛び込んでいく。マジックの一つも無く、剣と小盾を振り回してインクブスを引き寄せる様に立ち回っていた。剣先が掠り血を飛び散らせたり、小盾で手を打たれて棍棒を取り落としたりするゴブリンは出たものの、未だ8体の群れは健在だった。横殴りの棍棒が彼女を別のゴブリンの方へと弾き飛ばす。

 

『へへっ、かわいがってやっ』

 

受け止めたゴブリンは鼻の下を伸ばした直後に胸を貫かれた。路上には弾き飛ばされた時に彼女が手放した武器が転がるものの、ウィッチは新たな剣を仕留めた獲物から引き抜く。

 

『このガキッ』

 

2体のゴブリンが棍棒で襲い掛かり、片方が剣に弾かれる。無手の左側を狙ったもう1体が「新たな小盾」で殴り返されてたたらを踏み、「転がる小盾」に蹴躓いて倒れた。躊躇無く剣を投げてその小鬼の命を奪うウィッチ。この時点で小鬼たちは顔見合わせる。

 

『囲め!』

 

6体が一斉に殴り掛かる。幻想的な外観はともかくゴブリンたちと同等な体格の、ともすれば貧相ともいえる小柄で手頃な獲物だ。既に2体やられていてさえ殺すという選択をインクブスたちは取らないし、取れない。雌の捕獲そのものがインクブスの生存戦略である以上、致命的瞬間まで殺すという思考が意識にのぼらないのは良くあることだった。棍棒の1本が剣に弾き飛ばされてコンクリートの塀を突き崩す。短剣が小盾で殴られ小鬼の指ごとへし折れる。違う棍棒が細く白い腕を叩き折る。関節とは逆に曲がった腕がまた剣を取り落とすが、蹴り上げた足がそれを弾いて彼女の正面の小鬼を殺した。その足を下ろす直前、背後に寄っていたゴブリンがウィッチの腹に両腕を回して抱え上げる。

 

『手間ァ取らせやがってっ!』

 

雑魚でもウィッチだ、3体もやられたのだから「使って」補充しなければ割りに合わない。とはいえ既に片腕を折り取り押さえた以上、抵抗は出来ないだろう。小鬼の思考を肯定するようにウィッチが左手の盾を手放す。

 

『そうやって大人しくしてりゃ』

 

『voodoo girlは虚名にあらず!』

 

折れた筈の腕も構えてウィッチは逆手で生じた得物を躊躇無く突き刺した、「己の胸」へと。刀身は薄い彼女の身体を余裕で突き抜け、背後の小鬼の心臓を破壊する。突然の少女の自殺に囲んでいたゴブリン達の動きが止まる。人間もインクブスも変わらない、未知の存在にぶち当たると動けなくなるものだ。そんな異形達の前で少女は刀を引き抜いた、小鬼と自身の身体から。血振りの様に「右手で」刀を振ると左手を添えて正眼に構える。チュニックは半ば裂け、胸の傷口は赤黒く開いたままだ。折れた筈の腕は今、刀の柄を握っている。

 

『なんだこいつは』

 

造りの歪な短剣を手に小鬼の1体が呟く、その思考には逃亡が視野に入り始めていた。その仲間の1体が雄叫びをあげてウィッチに殴り掛かるも、武器のリーチの差で斬り捨てられる。そして彼は踏み出す。歩いて5歩の距離を一足で、身体ごとウィッチに短剣を押し付けた。

 

『あ?』

 

肉に鋼が食い込んだ瞬間に小鬼の思考が戻った。

 

 

 逃げるつもりだったのに、なんでオレはウィッチに突っ込んだ?

 こいつは死なないんだからこんな武器じゃ駄目だ

 

 

甘い香りが彼の鼻を擽る。

 

 

 そうだ獲物なら他にもいたじゃないか、なんで俺達はこいつだけに

 

 

砂糖菓子の香りの中、喉を貫かれて彼の意識は途絶えた。

 

汚い悲鳴をあげて残る小鬼は逃亡を始めた、カメラの方へと。ひっとこれまでなかった誰かの声が映像に混じるが、カメラそのものは動きもしない、見上げた馬鹿なのだろう。1体が胸から刀の切先を生やして倒れ、続けて彼女が叫んだ。

 

 

『フランチェスカーッ!』

 

 

重い風切り音がカメラの至近を通って最後のゴブリンを塀まで吹き飛ばした。轟音と共にゴブリンとそれがコンクリート塀に着弾して塀がまた崩れる。インクブスを屠ったそれは重厚なハルバードであった。

 

カツン、と硬いヒールの音をさせて黒いものがカメラを塞ぐ。

 

『…次は』

 

『ありがとう、今日はもう終わり』

 

『はい』

 

黒いもの、ドレスの布地がカメラの前で揺れる。それが急に横にずれると白い裂けた胸元が大写しになった。カメラの位置が低く、揺れもしないところを見るとやや低い三脚などで固定しているようだ。

 

『馬鹿かあんたは!逃げろっていったろうがっ!』

 

撮影者はまともに反応出来ていない。言葉にならない呻きが音として入るのみ。

 

『お陰でリハビリ中の子に手伝わせる羽目になったじゃないか!』

 

胸の傷は開いたままだ、だが出血もない。

 

『おまけに風下に立ちやがってガスを避ける気もないのかっ!?僕を襲いたいとか大馬鹿をいうなよ!』

 

『とっとと消えろ命知らずっ!すぐ死ぬ人間が化け物に近寄るな馬鹿っ!』

 

映像が乱れて荒い呼吸音と共に路面が映る。彼女の剣幕に撮影者がやっと逃げ出したらしい。そこで映像が途切れる。

 

「ハラキリ…」

 

クレアが呟く。突き刺したのは胸だったが、得物が刀だっただけに皆それを連想した。

 

「キョメイってなんだっけ」

 

シルビアの疑問にモーガンが答える。

 

「多分、「虚名」だと思う。偽りとか実態のない呼び名って意味だったと思うけど」

 

「「あらず」で否定してるから、voodoo girlという名は嘘ではない、だから死なないって宣言かしら」

 

レイラが「ウィッチ」の言葉の意味を推測した。

 

「伍長、背中しか見えなかったがもう1人は?」

 

ブライス大尉の質問にロメロ伍長は首を振る。

 

「知りません。リハビリって聞こえましたから、長らく退いていた仲間を連れ出していたんじゃないですか?俺は彼女がソロ活動中のものしか見ていません」

 

「フランチェスカというようだな、武器はハルバードだが」

 

檀上の大佐が情報を確認するように口にした。

 

「民間人に退避を警告、自身の特徴を生かして敵を全て引き付け、カバー仕切れない分も予備戦力で対処。従わなかった民間人にも口頭での叱責に止めるなど、非常に抑制的だな」

 

ブライス大尉の分析に、大佐が感想混じりに追加する。

 

「実年齢は不明だが、あの剣幕なら手が出てもおかしくはないな。この分だとその可能性は低いものの、ゴースト7で制圧は可能かね?」

 

「あのノータイムでの武器召喚と、必要な部位を瞬時レベルで再生出来る点に注意は必要です。ですがシルビアとレイラだけで押さえきれると思います。逆に私やクレアだとゾンビに対処しようとした警官役にしかなれませんね」

 

「心臓を破壊されても平然と動くのではな」

 

「フランチェスカというウィッチが一緒だと厄介です。技量次第ですが、シルビアでないと十全な対処が面倒でしょう」

 

レイラのロングソードの速さは頼りになるものだが、時間稼ぎにしてもハルバードと打ち合えとは言いづらい。あれを投げる怪力込みなのだ、防御の面で不安が出る。

 

「面倒、なのだな。困難ではなく」

 

「4人でなら、まずフランチェスカを制圧してからになりますね。レイラがvoodoo girlの足止めして、その間にフランチェスカを無力化します。懸念はvoodoo girlが他にも武器を呼び出せるかですが。今の動画だけでも刀に中程度の剣、小盾を使っています。それも即座に」

 

「呼び出す武器によっては態勢を一気に崩されるな。ボウガンどころかダーツの矢でも」

 

「剣も刀も投げていますから、短剣を無限に投げられると想定しただけでも今のプランが崩れます。生け捕りならば、ですが」

 

完全な敵対ならばまずフランチェスカを「排除」してそれから彼女を無力化することになるだろう。

 

「とはいえ、今回はそれもないだろう。彼女達は友好的だからな。もしもの時の留意点としてはあるものの、そこまで疑う状況ではない」

 

返却の申し出は向こうから出されているのだ。であれば争う必要は何処にもない。

 

「ああ、最後に一つだけ。帰隊時刻は守るように。外泊の許可は出せんのでね」

 

ラジャーと全員が返事をし、ブリーフィングが終了となった。

 

 

 

 

 

 

 




・スティーブン・キングとロメロ監督の合成で説明のとっかかりキャラを捏造。現実がクソなパニックホラー過ぎてホラーファン休業中のお労しいキャラ。
・当然ゴブリンの心情を米軍の皆さんは動画で読み取ることはできないが、読者は読めるということで。あと唐突な四聖剣ムーブ。
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