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言葉と共に差し出されたチラシを少女は反射的に受け取ってしまう。その内容に彼女の浮かれた気分は一気に冷えた。
「少尉?」
傍らを歩くブライス大尉に声をかけられ、モーガンは我に返る。手にしたチラシにはウェーブする髪を明るい色に染めた少女が写っていた、「行方不明者」だ。
「彼女の軍勢でも、全てを救える訳ではありません」
ブライスに手にしたチラシを渡すと、モーガンは何故これを受け取ってしまったのかを考える。答えはすぐに浮かんだ、本国で散々見てきた「顔」だった。肉親を、友人を、戦友を探す人々の「顔」、同じ表情を浮かべて娘を探す父親がこれを渡して来たのだ。ならば受け取らなければならない、モーガンはウィッチだから。人々を探しに-救いに行く側であるから。その果てに、探される側になるとしても。
「…だが、仕方のないことだと諦めたくはないな」
チラシを眺めてブライス大尉は言葉をこぼす。この子は今どこに居るだろうか、生きているのか。
生きてはいても、この世には居ないかも知れない。其処まで自分は、自分達はどうやって歩いて行けばいいのか?2人は立ち止まると振り返り、通り過ぎた駅前を見やる。先程の男性を含む幾人かの人々が、姿を消した家族を求めて道行く人に声を掛け続けていた。
指定された場所は駅から離れ気味の、ビル街に埋没するような狭い公園だった。実のところ廃区画との距離も近く人気も少ないので治安的に問題のある場所なのだが、該当のSNSの投稿によれば、駅に近い公園などだと場所を占有すること自体が問題視されるかも、という心配が先に来たための場所の選定だとか。何より治安の問題は、
「右のビルの屋上、誰かいます」
「警備は万全って訳だ」
エナを感知したモーガンの指摘にブライスが陽気に返す。屋上にウィッチが歩哨に立っている時点で平時の安全は確保されているようなものだ。有事、特に本格的なインクブスの侵攻に対してはこの限りではないにしても。感知したモーガンもだが、ブライスも右手のビルを見上げたりはしない。尾行者相手に振り返ったりしないのと同様、気付いていないと思わせて善意のウィッチに余計な不審を抱かせないためだ。そうやって歩哨を通り過ぎて二方をビルに塞がれた公園に辿り着く。柵の類いはなくベンチがビル壁側の辺に沿って複数設置されており、一番奥の角にはそこそこ大きくなった立木があるくらい。遊具の類いは最初からなかったのか、基礎部分としてありそうなコンクリートの跡もない。地面も剥き出しだが定期的に手入れはされているようで、丈の長い雑草などはなかった。
その公園の一辺、ベンチの前で学生らしい3人の少年達がドローンをいじくっていた。レジャーシートの上に工具や部品が所狭しと散乱している。それを2人の少女が眺めていた。
2人の少女-ウィッチだ。
「大尉」
「モーガン」
「…すみません、おじさん。多分、黒い装束の子がフランチェスカだと思います」
階級で呼んでしまった事を名前で呼び返すことで訂正され、モーガンは言葉を選び直す。
「だろうな、この時点で3人か」
屋上に立つ誰か、ブルーウィンド、フランチェスカ。ブライスの指摘の時点で、優劣はあれど単体で完結しているウィッチが3人もいる。ともすれば一つの前線を支え得る戦力だ、下手な対応は出来ない。その2人のウィッチがこちらを向いた。
「お客さんだね」
ブルーウィンドはベンチから立つが、フランチェスカは2人を一瞥しただけで座ったままだ。興味が無さそうに金色の長いウェーブヘアを指で玩んでいる。
「Hello!」
「え、外人さん」
ブライスが声をかけたことで少年達もモーガンとブライスに気が付く。
「こちらで、無くしたドローンを返してもらえると聞いたのですが」
モーガンが「日本語」で話しかけた事で少年達は安堵の表情を浮かべた。只でさえトラブルが起きやすい落とし物の返却だ。本来は警察の仕事であるが、そもそも飛んでいたこと自体が問題にされかねない代物なのだ、それ故のユーザー同士での直接交渉による解決である。言葉の遣り取りで更に問題が増えるなど誰も歓迎しない。
「あ、残りはこっちの2機なんだけど」
ブルーウィンドが示す先の無地の白い布の上に2機のドローンが置かれているが、どちらも状態はひどい。墜落のダメージ以前に、明確に何かの攻撃を受けたような外装の破損が見られた。ブライスがシートの前に屈み込んで、取り出したマニュアルと見比べる。パラパラとページを捲ると巻末側の一点で指を止め、それから破損したドローンをひっくり返した。
「OK、OKこいつだ、助かるぜ」
「シリアル、一致しました?」
「もちろんだ」
学生の一人の確認にブライスがマニュアルに記載されたシリアルNoとドローンの銘板のそれを示す。
「じゃ、これも返却済みで投稿しますね」
眼鏡の学生はスマホを操作するとよしっと呟く。ブライスはというとリュックから大き目の布製の袋を取り出し、やや雑にドローンを放り込んだ。「撃墜された」ことはもともと知っていたのだ、状態については期待しておらず緩衝材の類いも持って来ていなかった。ただ備品管理担当の重荷を少しだけ軽くしてやるだけのことなのだ。それ故に、同仕様と思われる残る1機が気になった。
「それはそうとこっちの同型はどういう事だ?」
ブライスの疑問に、意味を理解出来ず少年もウィッチも首を傾げた。ブライス達の隊が飛ばしていたのは1機だけだ。他に行動中だった隊の話は聞かされていない。無論わざわざ告知されない事も良くあるのは分かっているが。
「これ、本国…アメリカ製ですよね。おじさん」
言外に込めたモーガンの、「軍の備品か?」という確認をブライスは肯定した。
「そうなんだよな。いやまあ、うち同様に国から持ち込んだってのは分かるんだが」
自分たちの分だけならマジックの流れ弾や誤射などの偶然も有り得たし、その結果パッケージ13(シルバーロータス)の警戒を喚起したのは不幸な事故であったと納得できた。だが同日とは限らないとはいえ、別にもう1機飛んでいた上にそちらも「撃墜されていた」ならば、その執行者はこちらに対し何らかの隔意を持っている可能性が高い。まず候補として上がるのは日本国防軍のウィッチだが、そのほとんどは保護された少女たちでしかないと米国側も知っている程で、ともすれば国家間のパワーゲームに引き起こす事態に積極的に関わってくるとは考えにくい。日本国防軍は対国家、というシチュエーションではウィッチに対しいささか過保護な傾向にある為、任務として強要したとも思えない。では事態に介入してきたナンバーズと呼ばれるウィッチたちか?それともそれ以外に秘密裏にシルバーロータスを護衛している者がいるのか。現状のブライスにとっては情報不足としか言いようがない。かといって大げさに走り回っているかも分からない犯人を捜索するのも、「藪をつついて蛇を出す」ということになりかねない。
「そういえばその2つだけ電撃以外で落ちてるね」
「What?」
「あー、僕らのこれとか、電撃系のマジックで回路やられたみたいでして」
少年が外した回路基板をブライスに見せる。基板上の複数の部品-コンデンサが破裂したり、チップが割れていたりと電気的な異常で破損した跡があった。彼らは電撃系と言ってはいるがブライス、そしてモーガンには心当たりは一つしかない。シルバーロータスが何らかのマジックを以って行ったEMP攻撃の瞬間、このドローンはタイミング悪く付近を飛行していたのだろう。幸いな点を挙げるならば彼らがその夜のことに何も言及していないことから、あの夜の状況をカメラ越しに見ていなかった可能性が高いことだ。とはいえ目撃されていた場合も考えてしばらく彼らを注視した方がいいかもしれない。当然これは他のドローンユーザーたちにも言えることだ。少なくとも情報部はそれなりに忙しくなるだろう。
「こっちはどっちも誰かのマジックの射線遮っちゃったんじゃないかな。プラが割れて部分的に融けてるし」
「そう…みたいですね」
おそらくブライスと同様の結論に到達したモーガンが深刻そうに声を絞り出す。誰の機嫌を損ねたのか、慎重な確認が必要かもしれない。
「おーっと、皆さんお揃いで?」
突然の声に全員が顔を上げる。視線の先にはアロハにスラックスというラフな服装の黒人男性が、先客のブライスと同様のドローンマニュアルを手に立っていた。
「…エディ?」
「ってブライスじゃん。お宅も頼まれたクチ?」
「いや、ご覧の通り姪が無くしたドローンの回収でさ」
「ああ、そういうこと」
「そっちもか」
「いや「shop」の奴がさ、仕入れた商品testでちょいとlong flightさせてそれっきり、って事らしくってBossがカンカンだったわけ」
「ああ、そりゃ大変だ」
「でそれが出てきたってんで、非番ついでに見て来てくれないかって事で来たわけよ」
「まあうちのと同様にscrapだけどな」
「ワーオ、こりゃひどい。shotgunにでも突っ込んだのかね。こりゃ仕入れがんばんないと赤字だね」
エディと呼ばれた男性が機体の番号を確認する。
「うん、うちの商品だった奴だね。バラしてpartsで並べるかね?」
「最後の1機も返却済み、と」
「やあBoys、回収アリガト!」
「あ、お礼はそちらに。持ってきてくれたのは彼女なんで」
「おおっとsorry、ありがとね」
「あ、どうも」
「しかし同じ日に飛ばしてたのか」
「その辺はちょいと分からんのよね、出張から帰って来たらshopのrayoutもえらく変わっててさ。shopの奴らも随分忙しそうにしてるぜ。で、そっちの景気は」
言葉通りの出張帰りの為該当の作戦については不明、その上大幅な配置変更が行われ次の作戦らしきものが動いている―意訳すればそういうことになる。
「商談が上手いこと運んでね。合間の休暇でこれの回収に付き添いさ」
作戦は成功、次段階に進行中でおまけに休暇までもらえたことをブライスが告げれば、
「そいつは羨ましいねぇ。こっちはコレと言いBossのorderといいなんかチグハグでね。事務屋上がりを悪く言いたくないけど、もうちょいお客さんの事考えて欲しいよ」
言葉通りの出張のため不在中の作戦については不明、おまけに大幅な配置変更が行われ命令系統さえ混乱したまま新たな作戦が進行中で、どうにも現在のボスはいけすかないとエディが愚痴り、ブライスもつられてため息をつく。どこもかしこも現場の負担が重い。
「お互い大変だな」
2人の会話を横に、モーガンは視線を2人のウィッチに向ける。黒いゴシックドレスのウィッチがおそらく「フランチェスカ」だろうと推測出来た。彼女は周囲に対してまるで関心がないかのようにベンチに座ったままで、モーガンの視線にも無反応だ。一方のブルーウィンドに目をやると、片付けを始めた少年達と取り留めのない会話をしていた。その彼女がモーガンの視線に気付いて顔を向けて来る。
「ん、何かな」
「…その、胸の傷は。痛んだりとかは?」
インクブスならばオーガやライカンスロープなどが時折有り得ないレベルの再生能力を示す事もあった。それを更に超える様な能力のウィッチが-人間が居るなどとは思いもしなかったのがモーガンの心境である。
「ないよ」
「傷って、ブルーウィンドさん。またどっか怪我したんで」
学生の1人が彼女を心配したように問いを投げる。
「…HARAKIRIはやめようぜ、Lady」
ここでshopのエディも話に加わった。「shop」、CIAを指す符牒として時折使われる言葉だった。彼らの方でもブルーウィンドの事は確認済みだと、今の発言でモーガンも理解する。
「僕、弱いんで。あと僕の動画は見ない方がいいですよ」
「まあ、「exciting」な映像なのは認めるがね。horror funがhorrorを見られなくなるくらいだがな」
立て続けに内容に言及された彼女は顔を反らすが、今度は片付け中の少年達と目が合ってしまう。
「…なに、かな」
「あの、服は着た方がいいかと」
「あ馬鹿」
眼鏡の少年の言葉を別の少年が咎める。衆人環視というには少人数だが、ややデリケートな忠告をするには少々人が多い。
「またヤブヘビだよ…まあひん剥きたがるのは向こうさんなんだけどね。肉ごと削げて手が止まったりとか雑だけど」
彼女の言葉にモーガンは息を呑んだ。ブルーウィンドの見掛けの肉体強度は確かに脆く、インクブスのハラスメント攻撃がそのまま「損傷」に繋がる事が多い。連中の目的からすると獲物の損傷=損失ともなるので一時の困惑を誘発出来、彼女はそれを利用している節があるのも動画で確認していた。理屈としては理解はしていた、彼女の浮かべる苦悶の表情を別にすればだが。それをこうもあっさりと口にされると、なんともやりきれない。
そうこうする内に片付けも終わり、解散となる。やや気まずい空気の中、それを無視するようにあっけらかんと「気を付けて帰ってね!」と件のウィッチは皆に声を掛けるともう1人を連れてその場を去って行った。モーガンたちも、というかその場にいた残りの全員も公園を後にして大通りに向かう。
「彼女たちとはどうやって会っているのですか?」
歩きがてらにダメもとでモーガンが少年達に聞く。
「どうやって、と言ってもなぁ」
「今のところ、彼女の方から会いに来る感じです」
「あ、背の低いブルーウィンドって子の方。もう1人の子は今日紹介されたばかりで」
「その分だとFrancescaのcomebackはまだ先かねぇ」
「rehabilitatingってのは本当みたいだな」
エディとブライスの発言に少年達が顔を見合わせる。
「リハビリ中なんですか、あの子」
「動画によればな。馬鹿なpaparazziのおかげで引っ張り出されてたが」
まあその馬鹿のおかげで彼女らの活動を知れたわけで、頭ごなしに否定も出来ないんだが、とブライスが笑う。
「…そもそも馬鹿な行動のせいで知り合えたみたいなもので」
眼鏡の少年の言葉にほう、とブライスが声をあげる。
「落ちたドローンを取りに行ったんです。馬鹿な行いでした」
「Hey、Boy。気を落とすなって。ガキのうちはそれくらい元気じゃなきゃ」
エディが少年の背を叩きながらオレもガキの時は色々馬鹿やったもんさ、と嘯く。
「戦争ってのはイヤなもんだ。馬鹿やってるヒマがなくなっちまう」
ブライスの愚痴にまた少年達は顔を見合わせる。馬鹿ぐらいやっとけ、という大人はどうも新鮮に映るようだ。
「それはそうと、Francescaってどこから出て来たWitchかねぇ?」
「何か不審な点でも?」
「Witch見たさに商品testにかこつけてdrone飛ばす職場よ?voodoo girlとはteamが違うとかもう調査済みでね」
「チームって、ブルーウィンドはソロでは?」
少年の指摘に立てた人差し指を振ってNo!とエディが否定する。
「Blue Windはもともと5人teamの1人ね。しかもactiveなarea自体違う」
「…その、他の4人は?」
「最近になってcomebackしてるよ。当然彼女もjoinしてる」
「エリアが、違う?」
蒼白な顔でモーガンはエディに聞き返した。それは彼女にとってありふれていて、なおかつ慣れたくない事柄であるのが容易に推測出来る事だった。それでも聞かずには居られない、彼女はウィッチだから。
「…彼女たちのtownは、もうないね…」
エディの言葉にブライスがFuck!と毒付く。直後、
「Sorry、休暇に口にする言葉じゃなかったな」
と彼は謝罪した。
「OKOK、こっちこそ暗いNEWS、しかもold topicsで悪いね」
「本国でも残念なことに聞き飽きたやつだ」
「まったくだ、5年だよ。5年も我らがStatesが巻き返せてない、正直今でもunbelievableさ」
「まったくだ、何の気兼ねもなくbusinessがしてえ」
「戦時は仕入れの幅もnarrowでつまらないんだよねぇ」
「弾代も上がって気軽にplinkingも出来やしねえ。そもそもgunのselectも自由ってもんがねえし、的があいつら一択だ」
「ダチのfarmでflightさせてもらう約束もパーでさ。P-38だぜP-38!gasは値上がりしたまんまだし連絡にも輸送にも使えるってんでダチごと徴発されてんだよ」
「いいなぁ、38。まさかCOIN機代わりに使ってねえだろうな」
「機銃弾full loadでflightしてるとか言いやがったから馬鹿は止めろって言ってやったけど、馬鹿やってそうで心配だよ」
「ああクソッ、一杯やりてえ」
「休暇じゃ?」
「車なんだよ。送迎もあるし、そもそも外泊は無しなんだ」
「ああ、そりゃ残念。まあnipponで飲んで外泊は止めた方がいいけどね」
「何があるんだ?」
「酔ったままだと外泊許可証だと言って最前線送りの書類にsignさせられる、て都市伝説があるってさ」
「おいおい、本当にそれニホンのやつか」
2人のボヤキにモーガンも少年達も目を丸くしている。おまけに会話内容もギリギリか、わずかにアウト。民間人を装え、という指示も半ば無視している状況だ。
「…君のおじさんて、軍の人?」
「部署までは聞いてません。大体は警備の仕事だそうですが」
モーガンは否定せず、やんわりとぼやかして答える。大体有事が頻発するご時世だ、滞在中の同盟国の人間と来れば軍人が多いのは当然だろう。なるほど、と頷く少年達に取り合えずは誤魔化せた、と彼女は嘆息する。
「その、これからもドローンを?」
「しばらくは修理に掛かりっきりですね」
部品手に入るかなぁ、と少年が不安を口にする。
「bussiness chanceだけど仕入れのrouteがnothing!」
「我らがStatesのdroneを勧めるべきだよなぁ」
「そうは言っても最近はマシになったとはいえ、本国からimportするだけで一苦労だよ」
「まだ時間かかるよなぁ」
「その、今後も連絡は取れますか?」
「え?」
突然のモーガンの提案に少年達は混乱する。そりゃお年頃である、可愛い子とお近付きになれるなら喜んで了承するところだ。しかしながら、現状でさえウィッチと直接会えるという幸運を「ドローンの墜落」という不運、いや半ば失敗という経緯で果たしている。素直に頷くべきなのか判断に迷うのだ。
「その、私も今後ドローンを使うと思います。それならお互いトラブルが付き物です」
「まあ、確かに」
「また墜落となったとき、一人だったら無茶をしてしまうかもしれません」
「そうならないように、声を掛け合う感じですか?」
「そうです。あとは彼女たちの好意頼りになりますけど」
「どうする?」
「SNSでいいんじゃないかな」
「あと、明確に違法な事を書き込まないくらいかな」
旧首都圏については法の範囲外になってはいるが、そこに到達するまでのドローンの飛行は法の制約を受ける。違法状態の飛行を自ら公開してはいけないのだ、そうなっては警察も黙認出来なくなる。
「ニホンの警察もなかなか柔軟だな」
「いいですよね、おじさん」
「ああ、今回は俺のaccountでmessageを送ったが今度は自分のを用意するといい」
実際のところ用意されるのは情報収集用のアカウントだ。戦況が急激に改善されていく現状、友好的な現地の情報提供者及び戦力保持者との連絡手段といえど重要度は低い。それでもこのパイプは要るとモーガンは判断した。
「それでは後日連絡します」
「そうですね、その時はドローンの画像とかと一緒にお願いします。そうすれば分かり易いので」
「詐欺メッセージとか怖いんで」
「そういうsecurityは大事ダネ」
やがて表通りに出たところでそれではまた、と互いに声をかけてそれぞれの帰路につく。
同日、夜。
部隊に与えられたオフィスにてドローンの回収についての報告書をまとめていたモーガンに、ブライスが声を掛ける。
「ちょっといいかな少尉、昼間の件なんだが」
「メッセージを送信済みで、先程返信が来たところです」
「…早いな、俺も見ていいか?」
閲覧の許可を求めてはいるものの、今後の方針によってはブライスもまた「保護者」の役をこなす必要があり、作戦行動上の方針もそのように決定されていた。それでもわざわざ聞いたのは命令として「見せろ」と指示するのは何か違うぞ、と彼が思ったからである。そもそも子供は保護者にほいほいとSNSを見せたりはしないわけで。
どうぞ、とモーガンがブライスに端末を渡す。挨拶のやり取りから始まり、続く話題は修理中のドローンについてが主だった。他には最近注目しているウィッチの話などもあるが、
「…ニホンの学生は随分ストイックだな。ハイスクール時代の俺なら誘い文句の2つや3つは混ぜ込んでるよ」
軽口のようなブライスの感想にモーガンは推測した理由を口にする。
「…多分、彼女達に迷惑をかけたくないのでは?」
「ああ、それはありそうだな」
ウィッチをダシにナンパ、ではウィッチもあらぬ風評被害を受けそうではある。ただでさえ日本ではウィッチがストーカー被害に遭った上にそれがインクブスによる被害にまで拡大した事例があるのだ、今回の件もおかしな方向に拗れれば、この国のマスコミはあることないこと書きたて騒ぎ立て、一般人による事件の混同を煽るだろう。大陸との接触パイプはかなり絞られている現状だが、この国のマスコミは国の戦力を削る方向に動きがちだ。本国の主要マスメディアも同様の傾向を持ったままだが、流石に現状ではあからさまな言説は控え気味ではある。最近の米マスコミの流行は軍の対応能力に対する疑問視が主であり、一頃のような「少年兵問題」報道は鳴りを潜めている。大衆は勿論のこと、それを煽動する連中も結局は命は惜しいもので、進んで城壁を崩すような真似はしないということだ。
「失礼いたします!」
取り留めもない会話を交えながら今後についても話し合っていたところに、伝令とおぼしき兵士が入室する。
「緊急招集です。ゴースト7及び支援部隊はブリーフィングルームに集合とのことです」
「…慌ただしいな。内容については何か」
「自分は知らされておりません」
「了解した」
それでは、と兵士が退出していく。
「いったいなんでしょう?」
「分からん。少なくとも短い休みが完全に終わったというところか」
ベッドに入るくらいまでは休暇の気分でいたかったんだが、と彼はぼやく。
「…報告書、明日にするんでした」
モーガンも生真面目さが災いしたともいえる状況になってしまった。宿題は片付けて眠りたいものだが、宿題のお代わりがきてしまったようなものだ。
「大したことじゃなければいいんだが」
端末の停止作業をするモーガンの傍ら、珍しくブライスが弱気とも取れる言葉を漏らす。ウィッチ支援部隊の人員、特に所属士官はウィッチが少しでも前向きに任務に当たれるよう支援するのも仕事の内である。それが建前となって久しいとしても、だ。故に頼れる大人としてあろうとする彼だったが、そんなベテランであってもそうこぼす程度には、この戦争は長かった。作業を終え立ち上がるモーガンに、それでも「さあ、行って片付けるとしよう」と前を歩くブライス。その背中は少しだけ小さく見えたとモーガンは後に語っている。
ゴースト7及び関係する実働部隊の集合を以って、壇上の基地司令は重々しく口を開く。
「諸君、本国にて重大な「事故」が発生した」
「事故?」
誰かが思わず聞き返すが、基地司令はそれに答えない。
「正式な報告はまだ届いていない。よって現時点では事故の詳細についても説明は出来ない」
そしてこれは事件であってはならない、とも彼は付け加えた。
「これよりパッケージ13、ウィッチ名「シルバーロータス」との再コンタクトが我らの最優先任務となる。探せ、彼女を。可及的速やかに、かつ慎重にだ」
全て順調に進んでいた、まるで夢の様に。機械仕掛けの神が舞台の端から出てきたかの様に。だが神官は再び問うた、神は今何処におわすか?救いの御子はいずこに?と。誰もがこれは振り出しではない筈だと己に言い聞かせながら、その行動を開始する。
元の木阿弥、そんなものであってたまるか
そんな誰かの呟きを、モーガンは聞いたように思った。振り返れど、それが誰かは分からなかった。
・歩哨に立っていたのはブルファントム。
・CIAのエディ
エディ・マーフィーでもウィル・スミスでも。個人的にはパイナップルアーミーのジェフリー(多分エディ・マーフィーだけど)。CIAの「shop」呼びは記憶違いでなければスティーブン・キングの「ファイア・スターター」から。日本での映画公開時の邦題は「炎の少女チャーリー」だったっけ?
・なんとなく単語と日本語を交えた偽外人的な会話にしてみた。あとは上の方はともかく現場の方じゃ横のつながりもあるだろうって感じで根回しに近い情報共有シーンにした。
・事務屋上がり
「書類仕事ばかりで現場に出てこない奴」みたいな揶揄だが、情報局員がそういう触れ込みで来てもまあ普通は信用しない。で、新しいボスが新顔引き連れてエディの職場に来たという、原作の流れの裏にこういう伏線あってもいいよね?って感じのシーン。
・シルバーロータスの一時離脱の影響は即時ではなくタイムラグがあっただろうという解釈で。「028 回路焼損/機能不全」後半部で既にシルバーロータスは戦線を一時離脱している。見直してみると記述が不足気味なので、もう1日くらい挟んだ記述を入れないと原作と食い違って駄目な感じだけど。