『その角の先です』
「ありがと!この辺でいいよ、証拠品扱いになると困るよね!」
走りながらドローンからの声に返事をする。
『…お先に!』
「おつかれ!」
上空に離れていくそれに声をかけつつ、武器と余分の腕を収納する。多人数に見せるもんでもないし。
「ずいぶんきてるなぁ」
減速しつつ胸と服を元に戻すとそこを小突かれた。
「いやお巡りさん来てるし、露出で逮捕とか困るから」
歩きながら下らない言い訳をする。
「なに増やしたの減らしてんのよ。ずるい」
「そうは言ってもこれ重さも増えるし、振り回すと痛いんだよね。自分のサイズじゃないから動きにくいし」
そもそも腕を増やす時って奇襲も兼ねてるから服なんて武器で突き破っちゃうんだよね。着た状態を維持しちゃうと動きにも干渉するしで大体おっぴろげ。うっすい胸を哂って腕から注意逸らすバカもいるし、フロッグマンみたいに貧乳に反応する奴もいるしで着てない方が腕の効果が出る始末。そこへわざと増量するとがぜんヤル気が出た阿呆がそのまんま槍に飛び込んでくるとかまで起きるし。
まあその奇襲とか視覚誘導も初手とかまでだし、オークの隊長格だと無視して突貫してきたりと結局使いどころの問題で、そうすると増量したままだと痛いのなんのって。
「おつかれさまです」
出迎えてくれた婦人警官に挨拶する。彼女は敬礼を以って答えてくれる。
「ご協力感謝します。あとはこちらで対処いたします」
救急隊員の押すストレッチャーがガラガラと悪路上で音を立てる。そこへくるんだままの彼女を移そうとして抵抗される。
「まって」
「そう言う訳にもいかないでしょ」
強引にストレッチャーに彼女を置くと、毛布をお願いしますと救急隊員に告げる。今、彼女を覆ってるのは普段は使わない僕のマントだし。
「いいからまちなさいよ!」
言うが早いか人目も気にせず自らマントを剥いで身を起こすと、彼女は自分の上から落ちかけたバッグをひったくってぶちまける。メモから紙を引きちぎるとそこに何かを殴り書いて、こちらに突きつけた。
「いや、まずいって」
それはまずい。僕がじゃない、接点を持つ一般人って露見した状態になるのがまずい。
「もっててよ」
「おねがいだからぁっ!」
くしゃくしゃの顔で泣き出すまでどれくらい?ときた。
「…わかった」
仕方なく僕が紙片を受け取ると彼女は今度こそ隊員の指示に従う、泣きそうな顔のままで。僕はずいと出てきた現場責任者らしいフル装備―SATとかあの辺っぽい人に向き直る。
「マント、一時的に鑑識に回してもいいですけど必ず彼女に返してください」
「理由をお聞きしても?」
「鎮静剤とかの量、減るでしょ?」
実際は違うけれどまあ表の理由ってことで。上にあの人がいるから本当の理由はすぐばれるし、正直持たせたままにしておくのはかえって危険なんだけれど。
「ないんですよね、連絡手段」
ひらひらと受け取った紙片を振る。この時点で半ばゲロってるけれど、
「お望みでしたらこちらで用意しますが」
身分ごと、だろうねこの返事。まあこの時点でお巡りさんクラスじゃ気付かないか、と判断する。上に報告がいったらラーズグリーズに呼び出し喰らうの確実だけど。どうやってあの人が僕を呼び出すか分からないけど、下手すりゃ行動中に首を落とした上で連れてくだろうね。
「いいですよ、近いうちに僕から訪ねに行くだけなんで」
あまり良くないけど、完全に放置って訳にもいかないし。ただまあ、あの人待ち構えてそうだけど。
「はい?」
連絡手段がないのに訪ねに行ける、その矛盾した言動に相手が戸惑った。
「それでちょっと別件なんですけど」
「…何でしょう」
「たまに「落とし物」見つけるんですけどね。交番の前にでも置いとけばいいですか」
今夜も大分飛んでるし。こっちとしても便利なんだけどね。彼らは結構いい場所に陣取ってることが多い。今日みたいに「往き」まで案内してくれるのはやり過ぎの範疇なんだけど、能力が偏ってる身としては有難いし。
「お邪魔でしたら、取り締まりを強化しますが」
「いえ、逆でして。あれの位置を頼りに動くことも多いんで」
当てにし過ぎると上空から視認出来ない位置から不意打ち喰らったりするけど。
「ただ、機材トラブルで落っこちてるのとか目にする時もあるんで。持ち主が回収しようとしたりすると危ないでしょ?普段は領域ギリギリのところに適当に移したりしてるんですが」
「それで良いと思われます」
現在の警察に取り締まる余裕はないが本来は違法行為だ。夜間外出の禁止を守るならばドローンを自宅から飛ばすしかなく、市街地での原則飛行禁止に引っ掛かる。法律に引っ掛からないような小型機ではここまでの航続距離も高倍率の撮影機器の搭載も無理だ。かといって市街地を避けて飛ばすなら夜間外出禁止に大体引っ掛かる。
「その件について問題にしますと、今現在を以ってあなたを逮捕する羽目になります」
「ああ、そういう」
うん、そうだった、ウィッチは夜間外出禁止に引っ掛かってる。ウィッチだから黙認されているだけであって、元の身分で行動していたら大半のウィッチはそのまま補導される筈だ。
「それじゃ、もう行きますね」
「お気をつけて」
道を駆けて適当に廃ビルの陰に入る。歩いていたハリアリの後ろについて行きながら今夜のヤサをどこにするか考える。
「いきなり当日に近くまで行くのもな」
警察病院か、関係の深い医療機関に収容されるだろうから監視装置も多いだろう。勧誘の人が多くなりそうな行動は控えるか。
「まあなるようになるでしょ」