クラスで浮いてるあの子は俺と性行為の練習をしている 作:黒宮魚
「月本!! 行こう!」
月本の手を取った俺は、振り返って祭壇を飛び降りた。だん、と衝撃が足に伝わる。月本を転ばせてしまったかと不安になったが、彼女もよろめきながら着地できていた。
髪をおろした上、白装束をまとった彼女は学校で見ていた姿と違い神々しさすら感じる。
しかし、その表情はあの頃のままだった。いきなり俺に連れられるという状況なのに、何も言わず、澄んだ瞳でただ俺を見ている。
預けてくれている、俺はそう受け取った。
「走るぞ、月本」
うん、と小さく頷く月本。
信者たちはほぼ全員が俺たち二人に視線を向けている。だが、ほとんどが突然のことに驚いている。
俺は迷わずその中をまっすぐに走り抜けた。俺達を止めてくる人間はいなかった。一人を除いて。
「香澄! 待て!」
後ろから迫ってくる声。日出だった。
もう少しでホールの出口だ。だが、二人で走っている俺達と向こうではあちらの方が速い。
振り向くと日出が伸ばした手がすぐそばにあった。それが触れようとする瞬間。
「ごめんね」
月本が左手を日出に伸ばす。そして何かを指さすように人差し指を立てた。
「うあっ!?」
どしん、と鈍い音が響く。どうやら日出は、服を足で踏んづけて転んでしまったようだ。かなりゆとりのある服を着ているから仕方ないだろう。
かなりタイミングが良すぎる気がしたが、今は都合がいい。勢いのまま扉を開けて廊下に飛び出る。
道は覚えている。曲がり角をいくつか曲がり、エレベーターホールまでたどり着いた。
ボタンを押すと、都合よくこの階にいたようですぐに開いた。
「月本、早く乗れ!」
二人で乗り込み、すぐさま閉扉ボタンを押す。離れたところから何人もの足音が聞こえてきたが、こちらの方が早い。
無事に扉が閉じ、上に昇っていく。ほっと胸を撫でおろし、隣の月本を見る。
「大丈夫?」
こんな状況だというのに、月本はいつもの調子でそんなことを言ってきた。動転していたし走ってきたおかげで俺の息はぜえぜえと上がっている。
「だ、大丈夫だよこんぐらい。それより、月本はどっかぶつけてないか?」
「平気」
ほら、と手を広げて無傷をアピールする月本。
ていうか何で俺よりそんな平然としてるんだ。息もほとんど上がってないし。
「ダメって言ったのに」
月本が呟く。それは非難の言葉ではなく、意地悪のようなニュアンスだった。くすりと笑った彼女の黒髪が揺れる。
月本はいつもの月本だった。握った手の冷たさと、その表情が伝えていた。
「何も考えらんなかったんだよ。入り口で見たお前、普通じゃなかったし」
「そ。まああなたってそういう人だし、仕方ないね」
肩をすくめる月本。
重い音を立てて上がっていくエレベーターの中、懐かしい空気を感じた。
「そろそろつくよ」
「お、わかった。また走るから準備してくれ」
「多分平気だよ。この時間なら一階は誰もいないと思う」
軽く足のストレッチをしようとしたが、その言葉に思わず力が抜けた。
「え? いや、見張りとかいないのかよ」
「別にうちって映画のカルト宗教みたいなのじゃないんだからいないよ」
呆れた顔が向けられるとほぼ同時、電子音とともにエレベーターの扉が開いた。
恐る恐る顔を出すと、エントランスは静まり返っていた。電灯は落とされ、非常灯の橙色が薄暗く室内を照らしていた。
「ほら、大丈夫でしょ。裏口から出よ」
あっさりと歩いていく月本。慌てて俺もそれに続く。
さっきとは逆に月本に俺が付いていく形。驚くほど簡単に裏口にたどり着き、外に出ることができた。
身を貫く寒さと、雨の匂い。そういえば大雨だと監視役の男性が言っていたが、今はちょうど止んだようだ。
色々と都合のいいことが重なりすぎているような気もする。今は助かるから別にどうでもいいのだが。
「どうするの? これから」
「え? あー……」
月本に言われ、何も考えていなかったことに気づいた。月本を連れ出すことしか頭に無くて、そのあとどうするかなど思慮の外だった。それが伝わったのか、月本は仕方ないなとばかりにため息を吐いた。
「えっと、俺の家――はまずいから……そうだな、その辺のネカフェかなんかにでも行こう」
月本は俺の言葉に、いいよ、と頷いた。
正面入り口に回ると、俺が乗り捨てたままの自転車が転がっていた。起き上がらせて、二人でまたがった。
チェーンが外れていなかったことに安堵し、夜の暗闇へ自転車を走らせた。
ここ周辺はあまり発展している方とは言えないから、ネカフェなんてのはそもそも無かった。入れたのは、山の方に立つラブホテルだった。
月本と二人でそういうところに入るのは気が引けたが、背に腹は代えられない。
無人端末でチェックインを済ませ、そそくさと部屋に入った。
「で、どうして私を連れ出したの?」
最初に口を開いたのは月本だった。ベッドに腰かけた彼女は、穏やかな笑みを浮かべている。
いつもと違う純白の衣装は、どこか圧倒される感覚もある。だが顔に非難の色はない。ただ純粋な疑問という印象だ。
「知りたいから。月本のことを」
隣に座るのも変だと思った俺は、ベッドのそばのソファに座っている。俺は正面の月本をまっすぐに見つめ返しながらそう答えた。
計画性もなく連れ出してきたが、その根底にあるものだけははっきりと自覚している。
「日出から色々聞いた。お前と日出が調停者とかいうのになる、とか。……でも俺はぜんっぜんわかんねーんだよ、月本が何でそんなことしないといけないんだって」
日出の言ったことは否定できない。でも信じ切ることもできなかった。
だから月本の口から聞きたいと思った。
月本は俺の言葉を咀嚼するように何度か頷きながら答えた。
「うん。……そう、そうだね。そうしないとこの地域が危ないから、っていうのはもう純也に聞いてるんだよね」
「大体。正直、超常的っていうか映画みたいっていうか……全然信じられないんだが。」
「それもそうだよね。私も同じ立場ならきっとそう思う」
柔らかく笑う月本。彼女は、何かを探すように視線を動かした。
「そうだね……そのライト、見て」
月本が指さした先には、デスクライトがあった。ピンク色の妖しい光を放っている。
「あと五秒くらいでチカチカって点滅するよ」
自信満々というより当たり前のように月本はそう宣言した。頭に疑問符を浮かべながらもそれを見つめる。
脳内のカウントがゼロになるとほぼ同時に、ライトは本当に明滅した。
思わず目を丸くして月本を見た。
「なっ、マジだ。……え、いや、なんでわかったんだよ」
「私がそうしたから」
またも当然のように言い放った。
「私はね、こんな風に因果律――偶然とか、そういうのを動かせるんだよ」
月本は広げた手のひらをもう片方の手でさすりながら言った。あくまで平坦な声色で。
そこには妙に納得させる感覚があった。だが、脳の理性的な場所が情報を処理しきれていない。
あるいは、理解したくないのか。
「いや……え? まあ、言いたいことはわかった、けど。それが調停者ってのとどう関係があるんだよ」
混乱する思考をいったん置いておき、疑問を投げかける。
「調停者っていうのはね、大きな災害、事故、人の悪意――そういう良くないことを起こらないように操作する役割を持ってる」
月本は少しも言い淀むことなく、淡々と説明する。
日出が語ったことと同じ内容だ。それは、月本と日出は同じ認識を持っていることの何よりの証拠だった。
「私は生まれつきこの力があった。だから私が後継者なの」
月本の視線が俺を向く。真実を突きつけるように。
思わず引きつった笑いが出る。少しも面白くなんてないのに。
「いや……はっ、はは、さっきのは偶然だろ。月本、お前あいつらに騙されて――」
「三秒後、隣の部屋のお客さんが壁にぶつかるよ」
直後、本当に左隣の壁がどん、と鳴った。それに驚く暇も与えず、月本が続ける。
「エアコンの風であなたのコートが落ちる」
壁のハンガーにかけてあったコートに目をやると、ちょうどずり落ちる所だった。軽い音を立てて黒いコートが床につぶれる。
少しの間、それから目が離せなかった。起こったことを何とか理解し、恐る恐る月本に顔を向ける。
「今のは私がやったこと。それに逃げてくるときすごく上手くいったでしょ? それも私」
そんな俺の気など知ってか知らずか、残酷なまでにとどめの一言を口にした。あくまで穏やかな微笑みのまま。
おかしいと思っていた。偶然が味方してくれたと思っていたが、たった二人で簡単に逃げ出してこれるなんて普通じゃない。
「これで信じてくれた?」
優しい声だった。それが逆にやり場のない苦しさを与えてくる。気遣うような目線を向ける月本を、俺は見ることができなかった。
さっきの逃走の件だけじゃない。月本と一緒にいて不自然に思うことは何度かあった。
理解したくない。だけど、納得させられた。
落とした目線の中、俺の拳が震えていた。
「……なんで、月本なんだよ」
「血筋。昔からずっとそうなんだって」
他人事のように月本は答える。きっと、月本にとっては当たり前すぎることなんだろう。
「日出も……同じことができんのか」
「純也は違う。私と役割が違うから。でも調停者になるのは同じ」
俺の質問に、月本は目を伏せた。その視線の先、彼女の左手がシーツをぎゅっと握っていた。
「調停者になると死ぬって、日出は言ってた。それも……本当なのか」
一番聞きたくない質問。でも、知らずにいるのはもっと嫌だった。
月本の目が一瞬開く。その視線が俺と彼女の間を彷徨う。
「死ぬ……とは、違うかな。そういうのと違う次元に行くんだって。今までの調停者になった人は誰も戻ってこなかったって話だから、実際どうなるかはわからないけどね」
それは、死ぬことと同じじゃないのか。静かな怒りをどこにぶつければいいかわからない。
「月本、お前はそれでいいのかよ……! 平和のためか知らねーけどなんで月本がやんないとなんだよ」
思わず身を乗り出して詰め寄る。しかし、月本は動揺もせずにそれを受け流す。
「そういう役割だから。仕方ないよ。……でも」
俺から視線が外れる。遠くをその視線が揺蕩う。
さっきのデスクライトがまたチカチカと点滅した。
「そうだね……寂しいとは、思う。あなたともう会えないのは」
小さく息を吸いこんでから、月本は言った。僅かに沈んだ声のトーン。そこへかすかな希望を抱く。
だけど。
「じゃあ――」
「でも平気。今、ちゃんとお別れを言う時間をあなたが作ってくれたから」
はっきりと発せられた月本の言葉は、俺の希望を砂に還した。
「私が誰かを知りたいって――知ってほしいって思ったのは初めてだった。あなたと話して、知らない感情に出会えたことは幸せな思い出だって、私は思う」
目を伏せて、ゆっくりと言葉を繋いでいく。一つずつ、言葉の意味を踏みしめるように。
口をはさむことなんてとても出来なかった。
「あの時、なんでちゃんとお別れを言わなかったんだろうって考えてた。私は……私は、離れ離れになるのが怖いから、逃げてた」
月本が転校すると俺に告げた時、あまりにあっけなく終わってしまった。だけど何か腹に残るものがあったんじゃないかと、どこかでそう思っていた。
それを今、彼女は俺に伝えてくれている。嬉しいはずなのに、聞きたくなかった。だって、これは本当に終わりだというしるしなのだから。
「だから、今度はちゃんと言うよ。――近藤くん、あなたは私を変えてくれた。ありがとう」
彼女らしい、飾り気のない真っすぐな言葉だった。
だから、俺の心に驚くほど自然に入ってきた。こみ上がってくるものがある。嬉しさか、悲しさかわかるほど、俺は賢くなかった。
だが、きっと俺の顔はその感情を伝えたのだろう。月本は満足そうに微笑んだ。
「――じゃあ、私はもう行くよ。あなたと逃げるのも、すっごく楽しかったよ」
無邪気に笑う月本。それは、憧れすら抱く大人びた彼女が、俺と同じ立ち位置に戻ってくれたような、そんな笑顔だった。
しかし、それは束の間。鎖のような責務に引き寄せられるように、月本は立ち上がってドアへ歩き出す。
俺の身体は勝手に動いていた。
「月本!」
月本は俺の腕の中にいた。後ろから抱いた彼女の華奢な体。それが、俺が想像もできないほどの重荷を背負っているのが、どうしようもなく悔しかった。
「……ふざけんな。勝手に自分の中でだけ完結すんなよ。俺は納得してねえ」
口に出した言葉が震えていることに気づく。
「いいだろお前の役割なんか。そんなの放り投げて逃げちまえばいい。――俺と一緒に」
衝動的な言葉。でも嘘じゃなかった。
月本はすぐに答えなかった。息を吞む音ともに、俺たちは静止した。
静まり返ったホテルの一室に、小さな水音が流れている。いつの間にか、雨がまた降り出したらしい。
「……ダメ、だよ」
たどたどしく、月本は否定の言葉を口にした。
「そうしたら沢山の人が不幸になる。あなたの家族だってそう」
「そんなの――」
「どうでもいいって、言える人じゃないよね。近藤くんは」
月本の静かな声が俺を刺す。
開きかけた口は、何の言葉も発することはできなかった。代わりに、月本の体を強く抱いた。
「でも、そんな風に思ってくれるのは嬉しい。ありがとう」
月本の優しい言葉が、ざくざくと俺の胸を刺す。
もう止めることなんてできないんだと悟るしかなかった。
「……月本。なら、最後に一つだけでいいから聞かせてくれ」
行ってしまうのなら、せめて俺も悔いなく終わりたかった。
「月本にとって俺は何だ」
日出に問われた言葉。俺は何も答えられなかった。
パズルに一つ開いた穴のように、俺の中の引っかかりが消えていない。
「俺にとって月本は誰にも代えられないんだ。俺を……お前を傷つけて怖がらせた俺を、それでも知ろうとしてくれた。少しだけ、自分を認められた気がしたんだよ」
月本と出会って、話して、傷つけて、それでもまた言葉を交わすことができた。こんな自分でも、また誰かと分かり合えるとそう思えた。
「月本。――俺にとってお前は特別なんだ」
絞り出すような声で、俺はそう言った。
「わたし、は……」
月本の息が漏れる。それから短い沈黙が流れる。
気まずさはなく、俺はただ月本の言葉をゆっくりと待った。
「あなたは安心できる人。他のどんな人よりも。……抱きしめられても、ずっと一緒にいたって、怖くない」
そうして、一つ一つ言葉を紡ぐ月本。
彼女の両手が、抱きしめた俺の腕にそっと触れる。いつもは冷たいその手が、今はほんのりと温かかった。
「――近藤くんは、私の特別な人」
ささやくような声で、月本は俺と同じ言葉を告げた。
言いようのない想いがせり上がる。通じ合えた喜びと、別離へのやるせなさ、そうしたくない独占欲。
月本の顔が俺を向く。ほどかれた黒髪が肩から滑り落ちる。
長い睫毛が瞬きで揺れる。次の瞬間には、彼女の瞳が俺を映していた。時間が止まったような感覚。
それが動き出したのは、緩やかな、だけど確かな引力によってだった。
「……ん」
俺からか、月本からか、それは誰にもわからなかった。気づいた時には、すでに俺と月本の唇は重なっていた。
湿った粘膜が吸いつく。それらは最初からそうあるべきだったようにぴたりと触れあっている。
柔らかさと月本の香りが脳髄を焼く。壊れてしまいそうな口どけなのに、もっと唇を押し付けてそれを貪りたい衝動にすら駆られた。
「っ、は……」
だから、そうなる前に離した。途端、溢れ出る二人分の吐息。暖房が効いた部屋なのに強く熱を感じる。
「もう少しだけ……一緒にいないか。月本」
俺を見上げる瞳が見開かれる。その奥で熱が揺れていた。
答えなんて聞かずとも通じ合っている。それでも月本は小さな声で確かに答えた。
「……うん」
そうして、もう一度キスをした。くぐもった声が漏れ、言葉は何一つなくなる。
「んっ、む……」
月本が体をよじって正面から抱き合う。身体も、唇も密着して、柔らかい彼女の感触が全て伝わってくる。
もう十分触れあっているのに、それでも足りなくて彼女の身体を強く抱いた。すると、月本も俺の首に手を回してきた。
「ン……っ、ぅ――」
必然、深くなる口づけ。ぷるんとした月本の下唇が、俺の唇の間にするりと滑り込む。
彼女のとぶつかっている鼻から、月本の濃い匂いが漂ってきてくらりとする。生々しく女らしいそれは、俺の本能を刺激する。
「ん、ぁ……え、あ……っ」
腰に回した手に自然と力が入る。それと同時に、月本の濡れた口内へ俺の味覚器官が入り込んだ。
ぴくり、と月本の体が震える。だが、月本の反応は拒絶ではなく、むしろその反対だった。
「こんど……くん、っは……ン、ぁ……っ」
月本は顔を傾けて、より深く唇を繋ぎ合わせた。そして、熱と唾液にまみれたその中で、俺と月本が絡み合った。
ぞくん、と下半身から脳天まで衝動が突き抜ける。唇以上に柔らかく、濡れた舌同士が伝えるのは、動物的な情欲だった。
「んっ……ぁ、む……っん……っ」
どうするのが正しいキスかなんて知らない。俺も、そして月本も。そういう舌遣いだと思った。
だから、ただ気持ちがいいように動かした。舌先で慰めあうようにしたり、密着させたままうねらせたり、淫蕩に染まった脳が命ずるままだ。
「っは――」
息苦しくなれば一瞬だけ隙間が空く。でもそれはほんの束の間。次の瞬間には、少しだけ顔の角度を変えてまた口づけ合っている。
「ん……っぁ、ン……れ、ろ……っ」
耳に届くのは、互いのはしたない吐息と、上品さもない水音だけ。それが唇同士で繋がっている俺たちの脳内に直接響く。
欲望を止めるものなど何もなく、ただ快楽と色情へ飲み込まれていく。
月本の身体を抱いたまま、たどたどしく後ずさりする。とん、とかかとがベッドにぶつかり、そのまま二人ともシーツの上へ倒れこんだ。
「あっ……!」
軽い音ともに、二人分の体重でベッドが沈み込む。
仰向けに倒れた俺と、そこによりかかるように体を預ける月本。上体を起こすと、自然とまた視線が絡まった。
彼女の瞳の奥に、ゆらゆらと妖しいものが揺れていた。
「月本――!」
「こんど――んっ……!」
呼吸に必要なものが酸素ではなく、月本の唾液になってしまったかのように、本能的に唇を奪った。月本もそれを何の躊躇いもなく受け止めてくれる。
唇と舌で淫らな戯れをしながら、一枚、また一枚と服を脱ぐ。今はただ、月本の熱を感じたかった。
月本もまた、腰の帯を強引にほどいて、茨を払うように脱ぎ捨てた。そして、俺は月本の両肩に手をかけて、ぱさりと白装束をはだけさせた。
「っは……」
唇を離して、月本と見つめあう。
「月本、お前下着は」
「つけてない、の、儀式に邪魔だから」
荒い呼吸を繰り返しながら、月本が短く答える。聞いてはみたが、その答えは正直頭に入らなかった。
お互いに上半身はまっさらな姿。そんな上体で密着しているのだ。
月本の目は俺を見ているようで、焦点が合っていない。つい先ほどまで交わしていたキスの熱にやられて、何かを渇望してさえいるような瞳だった。
「月本……」
「ん……っ」
吸い寄せられるように、月本の首筋に口づけた。陶器のように白いそれは、吸血鬼ですら噛みつくのを躊躇いそうなほど美しい。
俺の唇が触れると、月本の体が小さく震えた。
「あっ……ん、もっと、触って……」
月本は左手で俺の右手を掴むと、自らの胸に宛がった。そのうえ、手のひらで押し付けて弧を描くように動かした。
流されるまま、彼女の乳房を愛撫する。広げた五指で滑らかで弾みのある肌を鷲掴みにして、感触を味わい尽くす。
「んっ……は、ぁ……はぁっ、乳首、いじってよ……まえ、してくれたみたいに……」
半開きの口からは涎が垂れている。そんなことを気に留める余裕もない、切ない声だった。
「言われなくても。月本、えろすぎ」
秘密の関係だったころのような、いや、それ以上に扇情的な月本。我慢なんてする必要なかった。
彼女の胸に顔を埋め、ピンク色の突起を口に含んだ。そして、さっきのディープキスのように舐めまわす。
「あっ……ぁ、んっ、は……っ、きも、ち……っ、あ、はーっ、もっと、シて……っ」
引き上げられた興奮のせいか、月本はいとも簡単に感じた。
俺の舌が彼女の固い乳首を擦るたび、甘い声を出しながら体を震えさせる。もう片方の乳首を指でひっかいてやると、ベッドが軋むほどだ。
「ん……もう勃ってんのかよ」
「はっ、ぁ……っ、ん……あなたのだって、勃起してるクセに」
意地悪い視線が俺に向く。
俺の股間のふくらみが、彼女の股を押し上げている。こんな行為をしているのだから当然だ。
「全部脱げよ、月本。俺も、裸になるから」
「ん……そうだね」
互いを隔てるものはすべて邪魔だった。俺は下にはいていたスウェットと下着を。月本は脱げかけの着物を脱いで、ベッドの端に寄せた。
そうして、純粋な姿になった俺たちはもう一度抱き合った。
「あっつ……近藤くん、興奮してる」
「月本だって」
抱き合うと、互いの鼓動が伝わってくる。どくどくと早鐘を打つそれのせいで、俺たちの体温は熱にうなされたように引き上げられる。
「月本の体、めっちゃ柔らかい……」
邪魔な布がなくなり、女らしい体が全て押し付けられている。
押しつけられた胸はその膨らみと固くなった突起が欲情を煽る。俺の脚に載せられた彼女の臀部からは、むっちりとした尻肉の弾力がこれでもかとのしかかっている。
その全てを貪って、めちゃくちゃに犯す妄想がよぎる。
「近藤くん……キス、もっかいしよーよ」
耳元で月本が囁く。その熱と吐息によって、接吻を求める言葉に淫靡な響きが混ざっている。
頷いて、月本とまた向き合う。視線を合わせたまま、俺たちの唇が重なり合った。
「ん……っ」
甘いキスで済まそうなんてできない。すぐに舌を突き入れ、熱と湿り気に支配された淫らな戯れに興じる。
「っ……! つき、もと」
電流が下腹部から流れる。それは、月本の手が俺の固くなった肉棒に添えられた刺激だった。
焦らすこともせずに、すぐに上下に愛撫される。しゅっ、しゅっ、と男を堕落させる単純でこれ以上ないほど気持ちいい刺激。
「ぁ……っン、は……っ、え……っ、ふふ」
お返しに、というよりはそうするのが自然のように、月本の秘部へ指を宛がった。指先だけでもむわりとした湿気をまとっているのがわかる。
割れ目へ触れさせると、くちゅりといやらしい水音が鳴る。誘われるままそれを滑らせ、密が溢れ出る穴へと。
「あっ……! ん、んぁ……っむ――ん、は……っあ、ゆ、び……っ、ん、きて……っ」
月本のナカは、きつく締めつけながらも奥へ入るのを拒みはしない。きゅっ、きゅっ、と窄ませたり緩ませたりしながら、月本の性欲を雄弁に語っている。
前にしたみたいに、指を折り曲げてくちゅくちゅと擦る。そうすると、簡単に月本が官能的な反応を見せる。
気持ちのいい場所が擦られる度、びくっ、びくっ、とその体が跳ねる。だけど唇は決して離さず、情熱的に絡ませ合っている。
「んっ、は……っ、ぁ、きも、ち……っン、んっ……! は、こんどー、んっ……くん、ぁ、む……っ」
唇も舌も、性の象徴も全て快楽と互いで埋め尽くされている。俺と絡まった月本の視線はとっくにとろけきっていて、欲望を加速させる。
「っは――わっ!」
唇を放し、体を反転させた。ごろん、と月本をベッドに転がし、今度は俺のほうが上になる。
「近藤、くん」
どっくん、と大きく心臓が跳ねる。
俺に組み敷かれた月本は無防備にその肢体をさらしている。緩やかな曲線を描く白い体。
可愛らしく膨らんでいる乳房は、その大きさと勃起した乳首で扇情的な女らしさを見せつける。視線を下に落とすと、引き締まった腰と、柔らかそうな肉感が目を引く太もも。
そして、その間のうっすらとした茂み。内腿にはわずかながら雫が滴っていた。
「月本――シたい」
「うん。わたし、も……あなたとシたい。つながって、みたい」
自然とこぼれ出た欲望の言葉を月本が肯定する。その頬は紅潮して興奮の残滓がある。だが、まっすぐな視線が俺を見つめていた。
頷いて、彼女の両脚を掴む。それをそっと開くと、彼女の濡れた場所が露になった。
「ん……さすがに、恥ずかしい」
「いまさら、だろ」
月本はすねたように横を向いた。しかし、俺が熱くなったものを彼女の陰部へ押し当てると、その視線がそこに向けられた。
「じゃ、入れる、から。……ヤだったら言ってくれよ」
「ん……わかった。入れて……」
弱弱しい声だった。月本がこういうことに怖がりやすいのを、もう俺は知っている。怖くしないように、ゆっくりと始める。
限界まで固くなったものを握り、入口へ先端を触れさせた。ひくん、と蜜穴が反応する。
「んっ……」
月本の体が震えると同時に、先端が熱の中へ飲み込まれた。
「っあ……はいって――」
月本の声に恐怖はない。接合部に向けられたその視線は、むしろ期待しているようにすら見えた。
腰に力を入れ、ゆっくりと挿入していく。ずぶぶ、と抵抗がありながらも確かに奥へ誘われていく。
「んっ、あぅ……っ、く……お、っき……っ、ア、んんっ……!」
「つき、もと……痛い、か?」
月本はふるふると首を横に振る。だが、その顔は明らかに耐えている表情だった。
「だい、じょぶだから……っ、ん、おくまで、いれて……っ」
必死さすら感じさせる声だった。
迷ったが、俺は彼女の言葉に従った。経験なんてないからどうすれば痛くないのかもわからない。だから、せめてゆっくりと奥へ突き入れた。
「月本、はいった……」
そうして、時間をかけて奥まで挿入した。
俺の生殖器は根元まで飲み込まれ、お互いの股が密着している。
「ん……ん、うん……奥、押されてる、かんじ……」
「痛い、よな? 隠さないで言ってくれ」
そう声をかけると、月本は逡巡したのち小さく頷いた。
そのまましばらく、動かずに待った。月本は肩で息をしていたが、少しするとそれも落ち着いていった。
「ん……もう、平気。ごめん」
「気にすんな。俺はもう月本が怖がることはしたくない」
俺の言葉に、こわばっていた月本の表情から力が抜けた。
「やっぱり、あなたは優しい人だね」
安心しきったような声で月本が言う。彼女の飾り気のないストレートなこういう言葉は返答に困る。
照れが伝わってしまったようで、月本は面白そうに微笑んだ。
「近藤くん。――動いて、みて」
ベッドに手をついた俺の腕をそっと握り、月本が告げた。目を合わせると、「大丈夫」と続けられた。
「わかった。……正直、もうめちゃくちゃ気持ちいから……あんま我慢できない、かも」
「いいよ。あなたなら、怖くないから」
汗ばんだ彼女の微笑みが俺を受け止める。
俺は顔を寄せて月本に口づけた。彼女の手が頬に添えられる。そのまま二度三度と唇だけで啄んで離した。
そして、浅く腰を引き、ゆっくりと動かし始めた。
「んっ……」
カリ首まで引き抜き、優しく突き入れる。たったそれだけで、のけぞりそうな快感が走った。
とろとろになった月本の粘膜が肉棒にしがみつき、腰の動きで擦り上げられる。滑らかな動きなのに、きつい締め付け。
肉棒の根本から先が快楽の海に浸されている。それを味わいながら、ぬぷん、ぬぷん、と腰を動かす。
「はっ……ん、っく、ぁ……っ、お、っき……いっ……あぅ……っ」
呻き声か、嬌声か、どちらも混ざったような声がが月本の口から漏れ出ている。彼女の顔は赤く汗ばみ、きゅっと目をつぶっている。
「あ……月本、平気か?」
「んっ、へーき、だから……っ、とめ、ないで……」
荒く息を漏らしながらも、月本ははっきりとそう言った。不安に思いながらも、それは俺の欲望の背中を押した。
「あっ……ん、あっ、あっ……奥、すっご……あっ、く……や、んっ……」
ずぷ、ずぷ、と緩やかに、でも確かに一定のリズムで抜き差しをする。互いの腰が密着するたびに、亀頭が彼女の奥に突き刺さる。その瞬間、きゅぽ、と子宮口がはまって、白濁を打ち出したい衝動に駆られる。
「月本……月本っ、やっばい、気持ちいい……」
「んっ、う、んっ……あっ、ん――わたし、も……っあン、きもちよく、なって……きた……っ」
月本の黒髪がシーツの上に翼のように広がっている。その中心、彼女の顔からはいつの間にか苦しそうな色が消えていた。開けられた瞳が俺を映している。
欲望を受け止めている月本のナカも、肉棒になじんで吸いついている。まるで月本の膣内が俺の形を覚えたように。
「あっ、ん……すご、いっ……ぅあ、アっ……なんか……っく、ぞくぞく、して――あっ、あっ、ぁんっ……」
下半身から溶岩のようにせり上がってくる快楽に、頭がぼうっとする。勝手に腰の動きが速められ、ベッドがぎしぎしと軋んでいた。
「月本の中、気持ち良すぎ……やば、腰止まんね……」
動物的な本能のまま月本に抜き差しを繰り返す。結合部からはどちらのものかもわからない淫液が流れ、シーツを汚している。陰毛にも絡みついたそれは、俺と月本の間で何本も糸を引いていた。
「は、ぁ……っ、ちんちん、こすれて……っ、あ、きもち……っン、あっ、う……っ、もっと、こんどーくん……っ、こし振って……っ」
月本のとろけた瞳が俺を誘惑してくる。半開きになった唇からは俺の動きに合わせて淫らな声が漏れ、際限なく情欲を煽っている。
誘われるまま腰に力が入れられて、月本の奥を何度も突く。その動きは俺の理性を離れて、ただ本能の赴くまま交尾に没頭してしまう。
その動きで、月本の胸のふくらみがゆさゆさと揺れている。躊躇うことなく、両手でそれを鷲掴みにした。
「んっ、あっ……あンっ! こんどーくん、ぁ、あっ、えっち……っ、んっ、は、ぁう……!」
それだけの刺激で体をのけぞらせる月本。危うく結合部が抜けそうになり、奥までずぷんと突き入れた。
「あっ……!?」
びっくんと月本が大きく痙攣した。おまけに挿入されているモノを思い切り締めつけながら。その下品さすら感じさせる反応に、俺の中の何かが外れた。
俺は両手で月本の腰を掴み、固定した躰に激しく腰を打ち付け始めた。
「あっ! ん、あっ、アんっ……すっご――ぅあっ、あんっ、はげ、し……っ、あ、はぁ、あ、あー……っ、きもち、いいっ……ん、あっ!」
ぱん、ぱん、と乾いた音が室内に響く。外からの静かな雨音など簡単にかき消すほどに。
俺の動きで月本の胸は激しく上下に揺らされ、情欲に油を注ぐ。
絶えず抜き差ししている膣内はもうぐちょぐちょに濡れていて、たやすく俺のものを受け入れている。いくつもの膣ヒダが媚びるように絡みついて、快楽を煮えたぎらせる。
「つきもと、月本っ――も、出るっ……」
「んっ、あっ、ん……っ、わた、し……も、イく、んぁ、アっ……イくから、もっとシてっ……!」
そんな激しい交尾をしていれば、当然すぐに限界がやってくる。気づいたときにはもう押し戻せないほどに、白い欲望が昇ってきていた。
それでも最後まで快楽を味わい尽くしたくて、何度も月本の中に突き入れる。一番奥で射精する妄想をしながらのそれは、頭が焼ききれそうな快感だった。
「月本……っ出る、イクっ!」
「あっ、あ、アんっ、わたしも、いっく、あっ、イくっ……あっ、あ――っ!!」
がくん、と月本は体を大きく跳ねさせて絶頂した。かくっ、かくっ、といやらしく腰をひくつかせながら。
きつい締め付けに抗って、ぎりぎりのところで引き抜いた。
「あっ、あ……ん、あっつ……っ」
びゅくっ、びゅくっ、と勢いよく精液が吐き出される。それは月本の体に容赦なくかけられて汚していく。
どろりとした白濁液が、月本の恥丘、腹、胸にまで飛び散って、淫らに彼女を彩る。その光景にすら興奮材料になり、どくんとまた放出された。
「ん、近藤くんの……せーえき、すっごいね……」
自らの体にかけらえた粘液を見つめながら、うっとりとした声で月本が呟く。
その手が、欲望を吐き出し終えた俺のモノに触れる。愛おしむような手つきで優しく撫でられ、とくん、と最後の一滴が月本の手にこぼれた。
「月本……大丈夫、か? 俺けっこう乱暴にやった、気がする」
そのままの体勢で月本に問いかける。ヤってる最中は途中から我を忘れていて、痛くしていないか心配だった。
「平気だよ。……でも近藤くんってケダモノだね」
僅かに朱の差した顔で月本が笑う。その言葉に恥ずかしさを覚えながらも、安堵の息を吐いた。
「じゃあ――」
一旦ティッシュでも取ってくるかと離れようとした瞬間だった。
ばちん、と強い静電気が走った。
『気持ちよかった』
『うれしい』
『中で出してほしかった』
そう、月本の声が聞こえた。でも目の前で固まっている月本は口を動かしていない。
「え……?」
訳も分からず困惑していると、月本は顔を真っ赤にして声を上げた。
「ちょ、ちょっと一回離れてっ!」
どんっ、と突き飛ばされて、情けなくベッドに転がった。
体を起こすと、月本はシーツで体を隠しながらこっちを見ていた。変わらず顔は赤いままだ。
「……とりあえず、シャワーでも浴びてきて」
目線を落とし、月本は彼女らしからぬいじけたような声で俺に言った。
全く状況が飲み込めていなかったが、月本に従うべきだと思い言う通りにした。シャワーを浴びて出てくると、入れ替わりに月本も浴室に入ってしまった。
「ごめん、取り乱して」
月本がシャワーから出てきた後。
俺と月本はベッドに並んで座っていた。しばらく沈黙が続いていたが、切り出したのは月本だった。
「いや、なんかわからんけど俺が悪かったん、だよな?」
「んー……そういうわけでも」
月本は歯切れ悪そうに、視線を泳がせた。
「近藤くん。言わないといけないことが、あるんだけど」
ぽつりと月本が呟く。彼女と視線を合わせると、目を伏せられてしまった。
俺が「何だ?」と答えると、月本はしばし黙り込んだ。自分の手のひらをなぞり、何かを迷っている様子だった。
一分ほどだろうか。月本は意を決したのか、再び俺と目線を合わせた。
「純也は、役割が違うって、言ったよね」
「え? あ、ああ」
先ほど言っていたことを思い出す。月本自身のことじゃないからか、あまり印象に残っていなかった。
「調停者はね、儀式のときに一人がもう一人に繋がる必要があるんだ。そうやって、二人でなるもの」
抽象的な話だったが、ひとまず頷く。
「純也は私に繋がってくる方の役割」
繋がる、という言葉に何かが引っかかる。聞こうとしたが、月本の言葉が続いた。
「でも上手くいかなかった」
「それは、どうして」
「私が怖がったから、純也を拒絶しちゃったんだと、思う」
区切りながら話す月本は、自分自身でも答えを出せていないような印象だった。
俺が月本を連れ出したときのことを思い出す。儀式の部屋から一人出てきた彼女は、何かを怖がるような素振りを見せていた。
「でも……でもさっき、近藤くんと私は一瞬だけ繋がっちゃった」
静電気と、流れ込んでくるような月本の声。さっきのあれがそういうことなのだろうか。
そこまで考えて、一つの当然の答えに帰結する。
「月本、それは……それってもしかして」
はっとして顔を上げた。月本は表情を変えず、いたたまれないような視線を向けていた。
「あなたとなら、儀式がうまくいくかもしれない」
どく、と心臓が跳ねた。
俺がその言葉を飲み込む前に、月本はゆっくりと告げた。
「私と――来て、くれる?」