クラスで浮いてるあの子は俺と性行為の練習をしている 作:黒宮魚
「見られちゃった」
初めて聞いた、明らかに動揺した月本の声。俺もそれでやっと意識が現実に戻ってきた。
「あっ、あ、ごめん! この本に、資料室たのまれ、てっ」
動揺しすぎて何を言っているのかわからない。現実に戻ってきただけで、頭の中は交通渋滞を引き起こしている最中だ。
だが俺のその反応が面白かったようで、月本のほうは幾分か冷静さを取り戻したようだった。
「その、とりあえず一回外出てもらっても、いいかな」
スカートで大事な場所を隠しながら彼女が言う。はい、と教師に呼ばれた時のような返事をしながら、ドタバタと教室の外に出た。
ばしんっ、と思いっきりドアを閉めて一つ息を吐いた。
だが、心臓は筋肉を突き破ってしまいそうなほど暴れている。脳内にはさっきの映像がまだ鮮明に焼き付いているのだから。
動揺した月本の表情、薄い黒で覆い隠された彼女の秘密の場所、そしてそこに宛がわれた玩具。どれも彼女に対する既存イメージの理解を超えていた。
とんとん、と音が響く。ドアごしに月本が入ってきて、と伝えていた。
「し、失礼します」
恐る恐るドアを開けて中に入る。
月本は先ほどの机に寄りかかって立っていた。先ほどとは違い、きっちりとした制服姿に戻っている。
「あー、なんか悪かったな」
とりあえずの文句を言いながら、月本と少し離れた正面に立つ。でも気恥ずかしくて彼女の顔を見られなかった。またさっきの光景を思い出してしまいそうだったから。
「いや、私もごめん。ヘンなとこ見せて」
ちらりと月本の顔に目をやると、彼女もまた俺から視線を外して窓の外を見ていた。ぴっと口を一文字に結んでいる。
月本のそんな顔はなんだか意外だった。関わることが少ないとはいえ、半年も同じクラスにいればそれなりに顔は見る。だが、彼女はあまり感情を表に出さない、そんな女子だった。
「それ、置きに来たんじゃないの?」
「えっ? あぁ……」
黙ったままの俺に、月本が口を開いた。ぴ、と指さされて、抱えていた本の重さをやっと感じた。
気のない返事をしながら、教室の隅の本棚へ足を向ける。もう一度彼女に向き合うのが気まずくて、ついノロノロと棚へ本を戻す。そんな悪あがきなどほとんど意味もないのだが。
全部戻し終えて、何となく近くにあった椅子に座る。腰かけた後で、「じゃ」とか言って出ていけばよかったと後悔した。
「珍しいね、こんな時間に来るなんて」
顔をあげると、月本はもういつも通りの澄まし顔に戻っていた。
「ああ……居眠りしてて。先生に罰として運んどけって」
「そっか、不運だったね」
ふふ、と月本が笑う。こっちはまだ緊張しているというのに、向こうはまるでさっきのことはなかったような態度だ。
「月本こそこんなとこで――」
何やってんだ、と。反射的に言いかけてやめた。そんなのナニやってたのを見たんじゃないか。
「それ聞きますか、普通」
ジトっとした目線が痛い。月本はスカートについた埃を払いながら続けた。
「まぁ、練習?」
「は? 練習、なんの」
「ほら色々あるでしょ」
よくわからない回答をして、月本はまだ埃を払っている。
俺もこれ以上突っ込むのはデリカシーが無さすぎると思い聞き返さなかった。
「よくわかんねーけど、俺はその、何も見てないから」
「その言い訳は無理でしょ。とりあえずそうしてくれると嬉しいけどね」
そう言うと月本は、何か考え込むように「んー」と唸り始めた。
「なんだよ。考えことか?」
「んー、うん。なんか不公平な気がするんだよね」
何が、と聞き返す。
「あなたのほうだけ秘密を守ってもらうのは不公平じゃない? これネタに脅されるとかい嫌だしね」
「そんなことするわけねーだろ」
「だってあなたってちょっと怖い人でしょ?」
「ケンカ売ってんのかよ」
「ほら怖い」
つい一歩踏み込みそうになる自分を抑える。またこの前みたいになるところだった。
一瞬たじろいだが、月本は意地悪っぽく「ごめんごめん」と笑った。どうやら結構冗談を言うやつらしい。
「だからほら、一つ交換条件言ってよ」
先ほどよりも少し安心したような声だった。
その問いに天井を見つめながら思案する。急に言われてもこういうのは思いつかない。一瞬邪な考えもよぎったが棄却する。
「じゃあ、言うけど笑うんじゃねーぞ」
どうぞ、と月本。
自分の言った言葉のせいで無駄に緊張する。それでも月本の目を見てはっきり言った。
「俺の話し相手になってくれよ」
「あ、来た」
がらり、と扉を開けると、そこには約束通り月本がいた。
物置と化した空き教室。昨日と同じように夕日が差し込んで部屋は鮮やかな橙に染まっている。昨日と違うのは、月本が普通の格好で机の上に座っていることだけだ。
「よう」
「どうも」
軽い挨拶を交わし、近くにあった椅子に座った。
「正直本当にいてくれるとは思わんかった」
ぽり、と頭をかきながら思ったことを口にする。
「ひどい。私は約束はちゃんと守るよ。そんなこと言ってるとモテませんよ」
悪い、と反射的に言いかけて顔をあげる。が、わずかに口角をあげた月本の表情にそれも引っ込んだ。
「別にモテたいとかねーよ」
「あれ? 意外。女子と話す練習したいのかと思ってたんだけど」
違うって、と否定する。
昨日、「話し相手になってほしい」という俺の言葉に、月本は意外そうにしながらも了承してくれた。じゃあさっそくまた明日の放課後にここで、と解散になったのだった。
「じゃあまずは理由を聞かせてほしいな」
「理由って、なんで話し相手になってほしいのかってことか?」
そ、と月本がうなずく。
「変わってるなって思ったんだよね。友達になってとかならわかるんだけど」
いきなり友達になって、のほうがヘンな気もするが、俺の感覚がズレているんだろうか。
「えー……いきなりその話題かよ」
「ほら、お話の練習ですよ」
ふふ、と月本が楽しそうに唇を開く。
正直いきなりこの話題は恥ずかしいのだが、月本に完全に主導権を握られてしまった。
「その、友達とかそういうのわかんねーんだよ」
「どうして?」
月本が少し身を乗り出す。反射的に目をそらした。
「俺結構短期で、怖がらせたりとかそういうのあったんだよ。友達とかの前に、なんていうか仲良くなるとかがよくわかってねーの」
「ふーん、確かにあなたっていつも一人でいるね」
月本の言う通り、俺はいつも一人だ。別に人が嫌いなわけではないが、距離感がわからない。
「お前だってちょっと浮いてるだろ。まあそういうお前なら練習相手になってくれるかなって思ったんだよ」
月本にまた目線を戻す。一瞬目が合ったが、珍しく彼女のほうから目をそらした。
「素直だね。……まあわたしも踏み込まれるの得意じゃないんだよね。友達付き合いってそういうものかもだけど」
意外な反応だった。彼女はあまりそういうことを気にしていなさそうな印象を勝手に持っていた。澄ましていて、いつも人と違うところ見ているような女子だと思っていた。
「お前も結構苦労してそうだな。まあ聞かんけど」
「練習相手にはいいでしょ?」
「それもそうだ」
ははは、と二人笑った。
少し、月本の印象が変わった。頬が緩んで、どこか柔らかな表情。その反応に俺も一つ安心した。
「じゃあさ」
不意に月本が口を開く。ん、と彼女に視線をやると、向こうもまっすぐこちらを見つめていた。
「あなたも私の練習相手になってよ」
少し声色が違った気がした。迷いなく澄んだいつもの声に、僅かな震えが混ざっていた。
「練習って……何の」
「昨日してたコト」
誤魔化すようになのか、微笑を見せた。だが、却ってそれが彼女に妖しい雰囲気をまとわせた。
昨日してたコト。思い起こされる夕暮れの一場面。固まった月本の表情、露になった白い太ももとその先。
空気が変わる。ごく、とつばを飲み込むのがやっとだった。
「性行為の、練習」
決定的な一言を言ったのは月本だった。
「えっ……? いやその、そもそも何で練習なんか」
強がりも含めての質問だった。
「あ……そうだね――えっと、好きな人がいるから。その人とそういうことになったときのため」
妙な間があった。だが月本は表情を変えない。微笑を浮かべたまま、淡々と俺に答えている。
「何で俺なんだよ」
「んー……秘密守ってくれそうだから」
確かに口が固いとか以前に秘密を漏らすような相手がいないが。
「で、相手になってくれるの?」
月本はまっすぐ俺を見ている。それが期待しているのか、何も思っていないのか、俺にはわからなかった。
頭の中に疑問符はいくつもある。だけど、どくどくとなる心臓が逃れようのない興味を伝えていた。
「いいぜ。後悔すんじゃねーぞ」
精一杯の虚勢を口にして、月本を見つめ返した。
月本の顔がまた一つやわらぐ。ふう、と息を一つはいて、彼女は口を開いた。
「じゃあ、こっち来てよ」
おいで、と言うように月本が腕を広げる。望むところだと俺も腰をあげて、彼女の目の前に立った。
机の上に座ったままの月本が俺を見上げている。いつでもどうぞと言われているようだ。
「てか、誰か来たらどうすんだよ」
「こないよ、今日は」
月本は妙にきっぱりと言い切った。自信ありげというよりは普通のことのように、彼女は俺を見上げて微笑んでいる。
どくん、と大きく心臓が跳ねる。こんな近くで女子の顔を見たことなんてない。小さな違和感はそれだけでどこかへ消え去った。
「じゃあ……とりあえず触って、みてよ」
俺の躊躇いを見抜いたのか、月本が最初の一歩を手びく。だけどその声はたどたどしい。
「っ……言われなくても」
そう口にしたもの、俺は経験が無い。本能は緩い曲線を描く膨らみを触りたいと言っているが、がっついてると思われるのも癪だ。
妥協案で俺の頭が出した答えは、がし、と両手で月本の両肩を掴むことだった
「んっ……」
小さい声が漏れる。それと同時に僅かな震えが両手に伝わる。
怖がらせた。そういう声だ。緊張しすぎて力を入れすぎてしまったんだと理解した。
「あっ……悪い月本」
「だいじょぶ。……そのまま、触って」
吐息を多く含んだ声。不安か期待か俺にはわからない。月本も緊張している、それだけが伝わってきた。
両手の力を緩める。片方の手をゆっくりと下に滑らせる。白ブラウスが擦れる音だけが静かに耳に届いた。
「っ……ん」
月本が身じろぎをする。彼女の顔を見ると、くすぐったそうな顔をしていた。しかし、口から小さく漏れる息がそれを色気に変える。
ふわり、と良い匂いがする。生々しく人間的でありながら、本能で心地よさと甘美さを感じさせる匂いだ。
気づくと、滑らせていた手は月本の手の甲にたどり着いていた。
「月本……手、冷たいんだな」
「ん、うん。冷え性、だから」
俯いてぼそりと答える月本。
そのまましばらくその冷えた手をさする。それは次どうするかの誤魔化しだった。
「ぅ……っん」
少し暖まったところで手を離す。そのまま俺の手は月本の腰に触れた。
手のひらには骨盤の固い感触。反対に指先は柔らかい肉に受け止められる。
細いんだな、と思った。改めて月本の身体を見ると、腰はしっかり締まっていてバランスのいいシルエットだ。
「っふ……ヘンなとこ触るんだね」
こらえきれなかったような笑みが月本から漏れた。
「こういうもん、だろ。知らねーけど」
「知らないんじゃん。胸とかすぐ触られると思ったのに、意外だった」
馬鹿にしやがって、と思って月本を見る。しかしすぐに思考が止まる。
はぁ、と呼吸が僅かに乱れている。半開きになった唇が夕日でてらついている。口ではからかっているくせに、表情はちぐはぐだった。
視線が絡み合った瞬間、呼吸が止まった。
「いいなら、触ってやるよ」
俺だって全然余裕が無かった。こく、と小さなうなずきが月本も同じなんだと伝えていた。
「ん……っ」
腰には手を添えたまま、もう片方の手で膨らみのふもとに触れる。そのまま下から持ち上げるように力を入れた。
ずし、とした重さが伝わる。俺の手にちょうど収まるくらいの大きさ。ブラウスと下着に包まれてやや固いが、それでもその熱と肉感はこれでもかと伝わる。
「やらか……」
思わず漏れる。
僅かに跳ねさせるように手を動かすと、たゆん、と手のひらが包み込まれる感触。ずっとそうしていてもいいくらい心地がいい。
「っは……」
短い息が月本の口から漏れた。軽い興奮状態になっているのだろうか。
自分で考えるより、勝手に手が動く。その柔肉の丘全体を撫でまわすように、ゆっくりと弧を描く。
「手、やらし……」
「やらしいこと、してんだろ」
もう余裕もない。初めての触れ合いに、頭の情報処理が追いついていない。
自然と彼女の胸を撫でる手に力が入る。ブラウスの無機質な衣擦れとともに五指を刺激する肉感。
「あ、近藤くん……」
腰に添えていた手も、欲望に突き動かされる。
無防備にさらされている月本の太もも。スカートの上から、なんて無理だった。中に手を滑らせ、がっちりと熱い肉を掴んだ。
「ちょっと、そんな……っあ」
力のない言葉。嫌がっているわけではない。むしろその反対のように思えた。
服越しの胸と違って、肌の熱と感触が直接伝わってくる。冷たかった手とは真逆で、興奮を伝えるかのような体温だった。
ほとんど手を入れなくても沈み込む柔らかさ。少し滑らせれば、なめらかな感触に脳みそが焼けそうになる。
「っ、ちょ! 月本、何してんだよ」
「私だけなんて不公平、だから」
下腹部から一直線に熱い電流が走る。月本の手が俺の股間をさすっていた。
「ほんとに、こうなるんだ……」
行為の興奮で陶然のように熱く膨らんでいる下腹部。ソレを撫でながら、陶然とした目線で月本が見つめている。
「月、本……」
指先でなぞられているだけなのに、興奮しているこの状況ではその感覚が何倍にも増幅される。
その刺激に、欲望がエスカレートするのは自然のことだった。
太ももを触る手がさらに奥のほうへ。熱くてすべすべとした肌とは違う感触が指先に当たる。
手触りのいい布がぴっちりと彼女の臀部を守っている。ただ触りたい、という肉欲がその下へ指を突っ込ませた。
「あっ……こんどう、くん……」
机が揺れる。下着の下へ指を入れた瞬間、驚きか月本の身体が跳ねた。
いつの間にか俺の下腹部をなぞる彼女の手は、手のひら全体でさすっていた。それを自覚すると同時に、ぞくぞくとしたものがこみあげてくる。
「月本、気持ちいい……」
その言葉に、月本が顔をあげて微笑んだ。その口から漏れる息は荒い。人形のような白い頬が、わずかに桃色になっていた。
月本のその扇情的な顔に、バチンと頭の中がはじける。
下着に侵入した指先をさらに進める。細く固い茂みを躊躇なくかき分け、その先へ。
「っ、こんどう、くん……ぁ、そんなとこ――」
そうして、指先に明確に違う感覚。熱くて、濡れた場所。しかして、そこで俺の指は止まってしまった。
「っ、あ……っやば、月本っ――!」
先に限界が来てしまったのは俺のほうだった。
どくん、と逃れられない衝撃が下半身に走る。次の瞬間、直接触られてもいないのに快楽の塊を放出してしまった。
「えっ? あっ、あ……すご――」
月本の手に包まれたまま、びくびくと膨らみが痙攣する。月本は驚いて一瞬だけ手を止めたが、そのままさすさすとこすり続けている。
どっくん、どっくん、と漏れ出る。恥ずかしい状況のはずなのに、終わるまで何も考えることができなかった。
「はあ、はぁ、は……」
お互いに手を止め、荒い息を整える。
「いや、まじでごめん」
そう口にするしかなかった。正直、月本を思いっきり感じさせてやろうと思っていたのだがこのざまだ。
下半身の濡れた不快感と合わさって、俺の気分は急転直下だった。
「ううん、平気。気持ちよかった?」
「ああ、うん。それはめちゃくちゃ」
自分以外の手で出したのは初めてだ。あんなに気持ちがいいとは思わなかった。
「その、お前はどうだったんだよ」
「私? あー、うんまぁ」
微妙な反応にまた落ち込む。
「男の人に触られるのって、不思議な感じ。でも思ったより怖くなかった、かな」
くす、と月本が笑った。その反応でかなり救われた気がした。
「次! 次はもっとちゃんとやるから、だからまた機会くれないか」
プライド的にこのまま終わるのなんて嫌だった。月本の肩を掴んで無駄に気合の入った声で宣言する。
月本は微笑みを崩さないまま答えてくれた。
「うん、また次も。もっと練習させてね」