クラスで浮いてるあの子は俺と性行為の練習をしている 作:黒宮魚
「月本っていつも何の本読んでるんだ?」
昼休み。12月に入っていよいよ冬もその本気を出してきた。暖房がついている教室で談笑する生徒は多い。
ざわつく教室の隅、月本の席で俺は彼女に質問した。
「色々かな。その時興味があるものだね」
「今は?」
「ネットワークの技術書」
ほら、と机の片隅に置いてあったほんのカバーを外して月本は見せてくれた。タイトルとシンプルな装飾だけという、いかにも難しそうな本の表紙だった。
「すごいな。工業学生かよ」
「どっちかっていうと専門学生じゃない?」
ははは、と軽い笑いが漏れる。
あれから、俺と月本は休み時間に話すようになった。空き教室の秘密の関係から少し変わったけど、俺はこの時間が好きだった。
「あなたは読まないの?」
「読まないな」
「即答だね」
きっぱりと答えた俺に、月本は目を細めた。
文字だらけの本は読んでると頭が痛くなってくるから読まない。だから俺はあんまり成績がよくないんだろう。
「アンガーマネジメントの本とかいいんじゃない?」
「あんがー……なに?」
「アンガーマネジメント。怒りを制御するための手法。パワハラしちゃった人が講習受けたりするらしいよ」
「俺はパワハラ上司かよ」
まあ正直言い返せないが。
月本は意地悪そうな目線を向けてきている。肘をついた彼女のポニーテールがさらりと枝垂れる。
「まあ考えとくよ。実際俺みたいなやつに必要そうだ」
「ん、そうだね。……そういえば」
少し間を置いて、月本が続けた。
「あの動画って、結局何があってああなったの?」
反応が遅れた。思わず目を見開いて、月本の顔を見た。
そんな俺を見て、珍しく「しまった」という顔をした。
「あ、ごめん。ここでする話じゃないよね」
「ああいや、いいんだ。……そうだよな。あの時に聞こうとしてくれてたし、いつか言わないととは思ってた」
俺もこの話を自分からするのはなんだか釈明をするみたいで避けていた。月本もわざとこの話題を出そうとしていなかったとも思う。
俺は少し頭の中で整理して口を開こうとした。
「じゃあ、さ」
だが、その前に月本の言葉が遮った。
「放課後に話聞かせほしいな」
俺に見せた本のカバーを戻しながら、月本は小さく言った。
「どこで?」
「また、空き教室で」
返答に迷った。楽しかった記憶と、月本を傷つけた記憶の場所。二人きりにならないようにしていたから、すぐに頷くことは出来なかった。
「えっ……いや、いいのかよそれ」
「ここだと誰も来ないようにするの大変だし、あそこのほうがいいでしょ」
月本は俺の心配なんて気にしてもいなそうに、簡単にそう言い放った。
「月本がそれでいいなら、そうするよ」
俺の返事に、月本は小さくうなずいた。
そこでちょうど予鈴がなる。俺は「それじゃ」と軽く挨拶をして、自分の席に戻った。
「最近月本さんと話してるんだね」
次の授業の教科書を広げていると、隣の日出が話しかけてきた。そういえば彼とはここしばらく話していなかった。
「ああ。たまにだけど」
「珍しいね。月本さんってあんまり人と仲良くしないのに」
「そうみたいだな。でも前に日出が言ってたように良いヤツだったよ」
俺の言葉に日出ははっとした顔をした。自分が言ったことを忘れていたようだ。
だが、すぐに人当たりのいい表情に戻った。
「なんかきっかけとかあったのかな? クラスの人からもたまに不思議そうに思われてるみたいだから」
「え? あー……なんかそれ恥ずかしいな」
日出はクラスのほぼ全員とそれなりの関係を築いている。確かにそういう話が耳に入ることもあるだろう。だけど俺と月本が人から見られているということがむず痒かった。
「ちょっと雑用手伝ってもらったことがあって、それで」
別に嘘ではない。月本とまた話すようになったあの日、残りの仕事を月本が少しだけ手伝ってくれた。
日出は「へぇ」と短く返して俺を興味深そうに見た。まだ何か話したそうだったが、そこで次の授業の教師が入ってきて話は終わりになった。
「お邪魔しまーす……」
一日の授業が終わり、俺は約束通り空き教室にやってきた。
ゆっくりと扉を開いて中に入ると、月本がいた。
「なに緊張してるの」
ふふ、と柔らかく顔をほころばせる月本。夕日が差し込む教室の中、いつかのように机の上に彼女が座っている。
ほっと肩の力が抜けた。
「緊張するだろ、久しぶりなんだから」
「んーそう? 昼休みだって話したじゃん」
「いやそういうんじゃなくてさー……まぁいいや」
相変わらずよくわからないヤツだ。でもこういうやり取りが心地よく感じる。
「えーっと……俺から話せばいいのかな」
彼女から少し離れた所の椅子に座る。
「いきなりだね」
「なんか掴みのトークとか必要だったか?」
「できるなら」
「そういうの俺が苦手なの知ってるだろ」
そうだね、なんて月本が意地悪っぽく笑う。
取り留めのないやり取り。だけどそれで少し気が楽になった。
「あの動画のこと、だったよな。じゃあえっと、どっから話すかな」
うん、と月本が頷く。澄ました表情の中の瞳はまっすぐに俺を見ている。
ここに来るまでに頑張って整理してきた内容を、俺は月本に話し始めた。
あの動画は、中学三年生の冬だった。当時は友達も何人かいて、ちょうどその日も友達と二人で学校から帰るところだった。
ショッピングモールの近くを通りかかったとき、敷地内の噴水の近くで何人かの学生が騒いでいた。俺は何も思わなかったが、一緒にいた友達が「弟がいる」と言ったのだ。
様子を見ていると、どうやらその弟は同級生らしき生徒に「噴水に飛び込め」と言われているようだった。大方、その様子を動画撮影してネットに上げようとでもしていたんだろう。
俺は友達の弟が嫌がっていると思って、そこに割って入った。当然反感を買い、言い争いになった。あとは動画の通りだった。
ちょうど両親が離婚したのもあり、高校進学を機に今の場所に引っ越してきた。だから今の同級生はこのことを知らない。
「……まあ、これが経緯、なのかな。できるだけありのまま言ったつもりだよ」
話し終えて、そう言葉を区切った。
黙って俺の話を聞いていた月本は、うん、と頷いた。
「それを、近藤くんはどう思ってるの?」
ゆっくりと月本が口を開き、そう問いかけてきた。夕日に照らされたその表情から感情は読み取れない。
「やりすぎだった。絡まれてた友達の弟がそこまで嫌がってたかって言うと、多分、違ったかもしれない。相手にケガさせたし、学校にも噂が広まってみんなに距離を取られた。そん時の友達にも。……それに、月本も怖がらせた」
正直にそう答えた。
一時の感情の昂ぶりで、俺は色んなものを無くした。自分では正しいとあの時思ったけど、それを暴力として振りかざすのは間違いだった。
「そう。……そうだね。でも、今はそうならないようにしてるって、こと?」
「全然できてないかもだけど、抑えられるように努力してるつもりだよ」
でも一度は抑えられずに月本を怖がらせた。もう一度月本がチャンスをくれたのだから、もう同じことはしたくないと思った。
「だから、俺は上手くやれるようになりたかった。また誰かと友達になったり、関わりたかった。月本に話し相手になってほしかったのはそういう理由だよ」
そうなんだ、と月本は納得したように頷いた。だが、すぐに左手を口元に当てて、何かを考えるように視線を窓の外に向けた。
「どうして、誰かと関わりたいって思ったの? 怖がられて、イヤだって思ったはずでしょ。またそうなるかもって思ったんじゃないの?」
そうしてもう一度俺のほうに向き直って月本は言った。
「イヤかって……うーん、俺の責任だし。友達やってたころは楽しかったし、それに距離を置かれても思い出は残るだろ」
「思い出……」
俺の返答を、自らの中でかみ砕くように繰り返した。
ヘンな答えだっただろうか。
「月本は違うのか?」
「私……わたし、は――誰かと関わってもそういうことで離れたら意味ないなって思う」
存外極端なことを言う月本。
「そっか。……なら俺と話してくれてるのは月本的には結構レアってことか?」
「あ……」
何気なく返した言葉だったが、月本は小さく口を開けたまましばし固まった。
そうして、何か腹落ちしたように頷いて微笑んだ。
「そう……そうだね。ふふ、レアかも。今まで誰かのことを知りたいって思ったことはなかったのに、あなたはなんか違った」
「お前を怖がらせた、のに?」
俺の問いに、月本は表情を変えずに続けた。
「うん。怖い、けどそれでも知りたい。……それに、私のことを知ってほしいとも、思った」
意外な返答だった。きっと、月本は本当にただありのままを口にしただけなんだろう。それでも俺は、少しだけ月本が俺を受け入れてくれたみたいで。
「……そうか。それは、その、嬉しいよ」
それが素直な気持ちだった。まっすぐ見つめてくる月本の目を俺は見られなかった。
「じゃあ一つ、月本のことを教えてくれないか」
「うん」
照れくさくて話題を変える。
「月本は好きな人がいるって言ってたよな。その人のことは知りたいとか知られたいって思わなかったのか?」
月本の話を聞いていて、そこだけ引っかかっていた。
月本が言う「好きな人」の像が、ずっと前から俺にはわからなかった。というより、月本が誰かを好きになるというイメージが湧かない。
「え……」
月本の表情が固まる。踏み込みすぎたかと思い、反射的に口を開いた。
「あっ、ごめんごめん! 嫌なら答えないでいい! その、月本の話聞いててそれがちょっと不思議だなって、思って」
慌てて取り繕う俺とは対照的に、月本は落ち着いていた。しばし考えるように下を向いた後、俺に答えてくれた。
「そうだね……昔から知ってる、からかな。あんまり思わない。それに私はなんていうか、入ってこられるのが苦手」
「入ってこられる?」
言い回しに独特なものを感じて思わず聞き返してしまった。
「あ……その、踏み込まれるとか、自分の領域に入ってこられるのが、って感じ」
「ああ、なるほど」
月本は時々引っかかる言い方をする。意味は合ってるのに、なぜその言葉を選ぶのか、と疑問に思う。ただ月本の語彙センスが俺とズレてるのか、それとも何か真意があるのかはわからない。
「だから、あなたに練習させてもらってたんだよ」
「……そっか」
頭を書きながら視線をそらす。
今まであまり考えないようにしていた月本との「練習」を思い出してしまった。
「ねぇ、近藤くん」
押し黙った俺を月本が呼ぶ。その声はトーンが少し落ちていた。
「私はあなたが怖い、けど――でも嫌い、じゃない。だから、ずっと怖いままにはしたく、ないとも思う」
珍しくたどたどしく言葉を繋ぐ月本。見ると、両手でスカートのすそを握っていた。
俺と視線がぶつかると、すぐに逸らされてしまった。
「また、さ。してみない? 練習」
ぽつり、と月本の言葉が落ちる。伏せられた彼女の目は俺を見ていない。
月本が何を考えているのかわからなかった。
「えっ……それは――」
「近藤くんのこと、どう思ってるのか自分でもよくわかってないんだ。そういうことまたしてみたら……その、何かわかるかもしれない、って思って」
否定の言葉を口にしようとした俺を月本が遮った。
自信の無さげな声と表情。だが、彼女がそうしたい、と強く思っていることは伝わってきた。
「月本が、そうしたいなら」
躊躇う気持ちもありつつ、頷いた。何より、月本がひとつ歩み寄ってくれたその気持ちを無駄にしたくはなかった。
「こんなもんでいいかな」
ホワイトボードを動かし終えて一息つく。教室の少し奥で、ダンボールやらの資材を動かして誰か入ってきてもすぐに見られないスペースを作っていた。
「別に今日は誰も来ないってば」
「まあこんなところ来ないだろーけど。わかんないだろ」
机の上に座った月本は脚をぶらぶらさせながら呆れたように笑った。
前に練習していた時も思ったが、なんでこんな落ち着いてるんだ。まあ実際誰も来たことはないんだが。
「じゃあ、する?」
「ああ、うん。そうだな」
たん、と机から降りて、月本は俺を見た。さりげない上目遣いにどきりとする。
「どしたの? こっちきなよ」
「えっ? ああ、行くよ」
言われて、月本に近寄る。
月本の目の前に立ち、向かい合った。いつかとは違い、一人分のスペースが間にあった。
くすぐったいような居心地の悪さがある。月本に触るという行為に、ぬぐえない躊躇いがあった。
「月本。月本がどうしたいか、決めてくれないか。俺はもうお前を怖がらせたくない」
だからそう告げた。男気が無いと思われるかもしれないが、また怖がらせるよりずっとマシだ。
月本は目を見開いて少し驚いた顔をした。そしてゆっくりと頷いて言った。
「ん……うん、ありがとう」
小さく微笑む月本。白い肌に鮮やかな夕日の橙が差している。彼女の微笑みなんて初めてじゃないのに、俺は思わず心を奪われた。
「じゃあ、手、握って」
ぽつり、月本が呟く。とても小さな、だけど確かな始まりの合図だった。
俺は頷き、右手でそっと月本の細い左手に触れた。ぴく、と小さく震える白い手指。でもそこに拒絶の意思は無い。
滑らかな肌を滑らせて、赤子の手を握るように包んだ。
「ふふ……あったかいね、やっぱり」
「月本は冷たい。変わんないな」
柔らかく笑う月本。
冷え性だと言っていた月本の手は変わらず冷たかった。緊張で熱くなった俺の熱がゆっくりと伝わっていく感覚がする。
反対に俺の手は冷たくなるが、どこか満たされた感じがした。懐かしいこの手をまた握れた嬉しさに、小さく息が漏れた。
「じゃ……抱きしめて、みて」
その言葉に思わず彼女の目を見た。月本は答えない。ただ、俺の手を小さく握り返した。
一歩近寄る。互いの息遣いも伝わる距離。その小さな顔を通り過ぎ、彼女の細い身体を抱いた。
「っ……」
反射的に月本の体が震えた。
「あ、怖かったか……?」
「大丈夫」
思わず離れようとしたが、結ばれたままの月本の左手が強く握ってきた。
ぴたりと体の動きが止まる。俺の左手は月本の背中に回されたまま、頼りない彼女の背中を支えている。
そのまま数秒。月本はひとつ息を吐いて呟いた。
「――大丈夫。怖くない」
小さい声だが、意思の強さを感じさせるものがあった。彼女の左手からゆっくりと力が抜ける。
俺はほんの少しだけ左腕で月本の身体を抱き寄せた。今度はその身体に震えはない。ただ俺の胸に月本の小さな息が当たっただけだった。
「男の人の身体って、固い」
少しだけ明るい声だった。
「月本の身体はやわらかいな。すごく、抱き心地がいい」
「えっち」
「うるせ。思ったこと言っただけだ」
「そ」と月本のくすりとした笑いが漏れる。
実際、月本の身体は本当に抱き心地がよかった。遠目では華奢で儚い印象すら受けるのに、俺に触れるその体は包み込まれるような柔らかさがある。まるで抱きしめるためにできているように、ぴたりと俺と月本の影が重なっている。
「……触って、みてよ」
しばし抱き合っていたが、こくりと唾をのむ音が聞こえたかと思うと月本がそう言った。
校庭から聞こえてくる部活動の生徒たちの声に消え入りそうな呟き。それは抱き合っていなければわからないほど僅かに、震えていた。
「え、っと……どういう風に」
どうすればいいかわからず、素直に聞き返す。握った月本の左手にまた少し力が入った。
「近藤くんの、好きなように」
すとん、と俺たちの足元に落とされる言葉。
獣的な欲望をくすぐるその言葉は、実際俺のぐつぐつとした感情をかき混ぜる。喉元にせりあがるそれを飲み込み、代わりにできるだけ優しく言う。
「イヤなら言ってくれよ。すぐ、やめるから」
言葉はなく、月本が胸の中で頷く。
握っていた手をほどく。そして、それを月本の背中に触れさせた。それをゆっくりと上まで撫で上げた。
「ぁ……」
何度か月本の体が震えた。それは恐怖、というより身体の反射的な反応に思えた。
背中を片手で支えたまま、抱き合っていた身体をほどく。向き合った彼女の瞳が俺をとらえた。
きっ、と一文字に唇が結ばれている。恐怖か、緊張か俺にはわからなかった。
それでも、月本はただ一言告げた。
「いいよ」
静かなその声はするりと俺の耳に滑り込んだ。一瞬で俺は月本に魅入られた。
片手は背中に添えたまま、月本の脇腹に手を触れさせる。
「ん……」
それを上へ滑らせると、親指が膨らみを上り始める。ぴくん、と小さく跳ねる月本。
下着と、制服の固い感触。だが張りをもつその曲線は、たったそれだけで男を魅了する。
丘の頂上を通りすぎ、ふもとの鎖骨にたどり着く。そうしたらまた下から。それをゆっくりと、しかし少しずつ力を込めながら繰り返す。
「は……」
僅かに月本の口から吐息が漏れ始める。その目は陶然と俺の手を見つめていた。
「月本……」
思い切り鷲掴みしたい気持ちをなんとか押さえつけながらも、俺の手は遠慮がなくなっていく。脇腹よりになぞっていた軌道が、ゆっくりとその膨らみの真ん中にずれていっている。
手のひらに当たる月本の乳房。軽く押すと女らしい弾力を返してくる。下から上に撫でれば、すっぽりと手に納まる丘の形と肉の重さをこれでもかと実感させられる。
「は、あ……は――」
水面に落ちた雫の揺らぎのように静かに乱れている呼吸が耳に入る。それは俺と、月本の両方の口から漏れていた。
それに気づいたのは同時だったのか、俺たちの視線が絡まった。止まった呼吸をごまかすように、彼女の喉がごくりと鳴る。
「こんどう、くん」
先に声を出したのは月本だった。俺を見つめ返す視線が一瞬だけ下にずれる。
「下……脱いでよ。――私も、あなたに触りたい」
どっくん、と大きく心臓が跳ねた。それを悟られないように反射的に頷いてしまった。
一度月本の身体から手を離す。震えそうになる手を抑えながら、ベルトを外した。多少の恥ずかしさもありながら、制服と下着を一緒におろした。
「ほら、これでいいか? ……さすがに恥ずいな」
傍らに服を除けて、月本に向き直る。下半身がすーすーして落ち着かない。
しかし、月本は俺の言葉が聞こえていないようで、ただ視線を下に向けていた。それが向かう先は当然一つ。
「おっき……」
ぼうっとした目で月本が呟く。
恥ずかしさと同時に、興奮が上ってくる。俺のものは当然のように膨張している。それをそんな目で見つめられたら、それだけでどうにかなりそうだ。
「月本。その、お前も脱がしていいか? 俺だけっての、ヘンだろ」
「あ……ふふ、そうだね」
俺の言葉にようやく我に返る月本。静かに微笑む顔は薄い桃色を帯びていた。
かたん、と月本が机に後ろ手をついて寄りかかる。軽く反らされた身体は膨らみが余計強調されて扇情的だ。どうぞ、と言わんばかりの仕草。
ブレザーを脱がし、近くの椅子に置く。そして白いブラウスのボタンも外した。
細い隙間から白い肌と対照的な黒い下着がのぞいている。全て脱がしてこの目に収めたい衝動に駆られる。
「月本。その、また触るけど、ヤだったらちゃんと言えよ」
「ん……わかってるってば」
心ここにあらずといった口調。事実その目は俺の顔ではないところに向いている。
そして、俺が月本に触れるより先に彼女の手が俺に触れた。俺の、欲望を主張する象徴に。
「は……熱っつ……」
「っ……月、本」
びりっ、と電流が走るような感覚。月本の指先が先端に触れる。そして感触を確かめるように優しくさすられる。
小さな刺激なのに、衝動に火をつけるにはあまりに強すぎる。
「月本っ……」
引き寄せられるように月本に触れた。ブラウスの細い隙間から手を入れ、月本の二つのふくらみを鷲掴みにする。
「あっ……」
月本の身体がまたぴくりと震える。その小さな動きで手の中の柔肉が揺れる。
触るのもおこがましいと感じるほどの白い肌を、黒のシンプルな下着が隠している。そしてそこに覆いかぶさる俺のごつごつとした手。
その光景だけで勝手に性的欲求を掻き立てられる。我慢できず、彼女のブラウスをはだけさせた。
「んっ……」
女らしい丸みを帯びた肩が露になる。右肩に沈みかけた太陽の光が眩しく反射している。
後は下着とスカートだけの姿。学び舎で淫らなことをしている事実を強制的に自覚させられる。
「月本って、結構いい身体してるよな」
勝手に思ったことが口から漏れていた。
「ん、なぁに、セクハラ?」
案の定、月本がからかってくる。時折見せる意地悪っぽい顔は、興じている行為のせいか蠱惑的に映る。
「あっいや、そういう意味じゃねーよ……! その、スポーツ選手みたいに引き締まってるよなって」
「あー、中学の頃は陸上やってたから、かな?」
晒されている月本の腹には余分な肉が見えない。かといって骨が浮き出るほど痩せてるわけでもない。
極めつけは俺の両手が今また触れようとしている胸。夕日が描き出す魅力的な影が、谷間と下乳を彩っている。正直、少なくとも俺のクラスでは一番いい体つきをしているように思えた。
「あっ……ブラも……」
膨らみを覆う黒をそっとすり上げる。固いカップに引っかかった肉が外れて、大胆に揺れながら姿を現した。
美しい形の乳房にまた両手で触れる。包んだまま擦り上げたり揉んでみたりすると、たゆん、と男を虜にする感触がダイレクトに掌に伝わってくる。
「ん……あなたの、びくってした」
言われて、意識が下に行く。
いつの間にか俺の男根を月本の白い手指がきゅっと包んでいた。まるであやすように上下に擦られ、またソレがびくりと跳ねた。
「っ……月本、気持ちいいい」
「そ……私も気持ちよく、してよ」
はぁ、と熱い吐息が顔にかかる。
月本の言葉に操られるように、両手が動く。親指で月本の乳首を上下に擦り上げる。
「はっ……あっ、は……」
せりあがるような声が月本の口から漏れだす。
親指でやるだけじゃなく、人差し指の爪でかりかりとひっかいてやるとまた違う反応を見せる。
「んっ……ぁ、あっ……」
いつかの月本の淫らな姿が重なる。あの時もこうして彼女の体を愛撫して、そして――
「月本、いいか?」
指で刺激を与えながら、片手を月本のスカートに触れさせた。
あの時出来なかったこと。怖い、と言うのならそれでいい。前と同じようにここで止める。
「ん……っあ、いい、よ……指、入れてみて……」
月本が選んだ答えはイエスだった。その返答に、嬉しさよりぞくりとした興奮が上ってくる。
「脱ぐよ。ちょっと、待って」
俺のものから手を放し、自らのスカートの下に手を入れる月本。そして、するすると慣れた手つきで黒い布を脱いで後ろに机に置いた。
「はい、どうぞ――」
悩ましい吐息とともに、月本が誘惑の言葉を放つ。
月本に寄って太ももに触れる。そして指先を滑らせてその付け根へ。むわりとした熱気を感じた。
「は……っ」
ぴと、とソコに触れる。掌に茂みの感触。そして、指先には肌よりも柔らかい感触。
「濡れてんだな……月本」
「あなたがえろいこと、するから」
「月本だって同じだろ」
ささやき声で言葉を交わす。少し近づけばキスしてしまいそうな距離。
さす、と月本の手が俺のものを包む。何度か玉のところを撫でたかと思うと、裏筋をつう、と指先でなぞってきた。
「じゃ……一緒にしよ」
そして、亀頭を優しく握られる。その先の快楽を否が応でも想像させられる。
「んっ……」
俺も彼女に応えるように、指先をずぶりと沈めた。
身体を震わせながら、彼女の秘裂は柔らかく俺の指を受け入れる。じゅわり、と熱い粘液が出迎えてきた。
焦りを抑えながら、入り口を探す。粘液をまといながら、人差し指が月本の熱い粘膜を滑る。
「ん、もう少し、下……ぁ、ん……あっ……!」
月本の声が跳ねる。それは俺の指がソコをとらえた合図だった。
俺が彼女を見ると、月本は言葉を返さずただ目を伏せて頷いた。
「はっ……ぁ、あっ……はい、って……」
人差し指に恐る恐る力を入れると、ぬるりと吸い込まれるように穴に迎え入れられた。入り口を超える湿り気に挨拶をされながら、ゆっくりと奥へ入れていく。
ふるふると揺れる月本の身体。それは恐怖、というよりも別のものに思えた。
「あっ……ん……こんどう、くん……」
頼りなく俺を呼ぶ月本の声が切なさを帯びている。
俺は本能的にナカの指をくいくいと動かした。別の生き物のような月本の穴は、きつく締まっているのに簡単に俺を受け入れる。
「あっ、ぁ……あっ……それ、きもちい……あっ、はぁ、はっ……」
動かしているうちに、何となくいい場所がわかってくる。指を折り曲げたところにあるざらついた場所。そこをこすると、月本の身体がいやらしく跳ねる。
「月本っ……めちゃくちゃえろい」
「んっ……は、あなただって、こんな勃起させて……ん、えっち――」
しゅっ、しゅっ、と乾いた音を立てながら、月本の手が肉棒を滑る。ぎこちないながらも、すべすべした手指にいともたやすく快感を煽られる。
勝手にとろとろと先走りが漏れ出て、月本の手を濡らす。
「はっ、はーっ、ぁ……っ、ん、ナカ、きもち……っ、あっ……」
お互いの熱い吐息が混ざって、媚薬のように興奮を引き上げられる。即席で作ったこの狭い空間が、どうしようもなく淫らな空気に染め上げられていく。
俺の指も、月本の手もだんだんと動きが激しくなっていく。奥のほうからの快楽を無理やりに掻き出してくるみたいに。
「つき、もと……っ、やばい、月本、入れたいっ……」
「あっ、ぁ……んっ、はーっ、それ、は……っ」
荒い吐息の中、理性も壊れかけの言葉を交わす。
「いれ、るのは、っく、は……っ、だめ……っ」
「っ……じゃあ、こうする」
我慢できず、月本の中から指を引き抜いて抱き寄せた。
熱を持った太ももの間に、限界まで膨張した生殖器が挟まる。その先は何をするかなんてお互いに言葉にしなくてもわかった。
「月本っ……!」
「あっ……! んっ、ん、あっ……!」
俺は月本の尻を両手で抑え、彼女の股に腰を打ち付けた。ぱんっ、ぱんっ、と乾いた音が鳴りだす。
一歩遅れて、やりすぎたという後悔が来る。でも月本は俺を拒みはしなかった。
「あっ……ん、はっ、近藤くんっ、の……あっ、すごっ……んあ……っ!」
それどころか、俺の腰に両手を回して彼女の方からも俺を抱き寄せた。それで躊躇なんて全て無くなった。
弾力のある尻肉に指を沈み込ませながら、遠慮なく何度も腰を振る。愛液と先走りでどろどろの陰部と太ももが肉棒全部を包んで、沸騰寸前の快楽を与えてくる。
「っ、月本っ……月本、ごめん、もう出るっ……!」
「んっ、うんっ……あっ、ぁ、はぁ、はあっ……わたし、も……クる……っ!」
もともと互いのを慰め合っていたのだから、果てはすぐに来てしまった。
下腹部の奥から熱く煮えたものがせりあがってきて、それを出すことしか考えられない。脳みそが月本に種を蒔くと勘違いして、快楽物質がどくどくと生成されている。
「っ……! 月本、イクっ……!!」
「あっ、あ……いく、いく、イっく……っ!!」
俺と月本はほとんど同時に身体を反らせながら絶頂した。腰はお互いの手でぴったりと引き寄せたまま、びくびくと快楽に震える。
月本の陰部に挟まれた俺のものからはびゅくびゅくと快感の塊が放出され、月本のスカートと素肌を汚していく。
「はっ……ぁ……あー……きもち、いい……っん……」
月本が天井を呆然と見つめながら、甘い吐息を漏らす。快楽に緩んだその表情は、普段の月本のイメージからは考えられない。それを俺だけが見ているという事実にぞくりとした。
「は、はぁ……はー……っ」
絶頂の波がおさまった後、俺たちはゆっくりと身体を離した。太ももの間から引き抜くと、どろりと白濁が零れ落ちた。
「すっご……いっぱい出したじゃん」
くす、と月本が笑いながらそれをすくいあげた。その仕草にまたどきりとさせられる。
だが、そのあたりでようやく頭が冷静になってきた。
「あ……ティッシュ、出すからちょっと待っててくれな」
脱ぎ捨てた制服のズボンからポケットティッシュを引っ張り上げて月本に渡す。
「ん……ありがと」
その時、ばちっと静電気が走った。反射的に手を放してティッシュを落としてしまった。
『入れたかった』
そう、月本の声が聞こえた気がした。
「えっ……?」
思わず月本の顔を見ると、まるで向こうも同じことを思ったみたいに俺のほうを見た。
そのまま一瞬固まる。
「あ……月本、何か言ったか?」
「えっ……と、言ってない、よ」
俺から目をそらしてそう否定した。が、月本も明らかに何かを感じ取った素振りだった。
だがまあ大したことでもないかと、落としたティッシュを拾い上げた。
「悪い、落とした。はい」
「あ、うん。どうも」
月本が受け取ったのを見て、俺は背を向けた。そして手早く制服を着なおした。
後ろでごそごそと音が聞こえる。気まずさを紛らわせるため、しばらく全然関係ないことを考えていた。
「近藤くん、もういいよ」
しばらく後、月本に言われて振りむいた。月本はいつもの制服姿に戻っていた。
「あー、月本。俺、怖がらせたりとか、しなかったかな」
さすがにさっきの今で気まずい。制服の袖口のしわを直しながらそう聞いてみた。
「うん、大丈夫。怖くなかった」
「……そっか。そんなら、よかったよ」
まっすぐに俺の目を見て月本は言った。安心した、より正直嬉しさが強かった。
しかし、安堵の息を吐いたのも束の間、月本の目が怪しく細められた。
「出すときすごい必死だなって思ったけど」
「なっ……! いや、それはそういうもんなんだよ!」
かっと顔が熱くなる。言い返したが、その瞬間の自分を想像すると恥ずかしくて仕方なかった。
「まぁ、そういう冗談言えるなら安心したよ」
「……なんか大人な反応だね」
月本は澄まし顔に戻り、小さく呟いた。
「そんなんじゃねーよ。……ほら、そろそろ暗くなるし帰ろうぜ」
窓の外に目を向けると、山の輪郭が太陽が沈む寸前といったところだ。この教室もずいぶんと暗くなってきた。
「そうだね。途中まで、一緒に帰ろ」
ごく自然に月本は言った。そして俺も当たり前のように頷いた。
教室の備品を元に戻して、二人で部屋を後にする。それから校門を過ぎて、お互いの帰り道が同じところまで俺たちは他愛ない話をしながら歩いた。
大きな交差点で俺たちは「また明日」と別れた。俺が誰かと一緒に帰るのは、本当に久しぶりだった。