一ヶ月後。
リノベーションを終えたサトルの部屋(201号室)は、完全な静寂と、むせ返るような濃密な空気に満ちていた。
漂うのは、かつての安っぽい生活臭ではない。
高価なキンモクセイの香油と、微かなオゾン臭、そして栗の花にも似た独特の甘い匂い――雌の生体エネルギーが飽和した香りだ。
畳敷きの居間の中央に、一基の美しい行灯(あんどん)が鎮座している。
高さ一・五メートル。
格子は高級な白木で組まれ、和紙の代わりに、半透明の「バイオ・スキン(生体培養皮膚)」が張られている。
「ただいま、サヨコさん」
サトルは帰宅すると、上着を脱ぎながら行灯に近づき、愛おしげに格子を撫でた。
格子の向こう、薄紅色の皮膜の内部には、かつて隣人だった女が「機能」として展示されていた。
サヨコは全裸で、両膝を大きく左右に割った「M字開脚」の姿勢で、透明な高硬度ゲルの中に封入されている。
最も恥ずかしい部分を、所有者であるサトルに向けて強制的に見せつける屈辱のポーズ。
だが、それは同時に、彼女を「生かす」ための必然的な形状でもあった。
彼女の身体には、生存と発電に必要なラインが冷徹に接続されている。
雅な意匠が施された猿轡(ギャグ)の中には、食道へ直結する給餌チューブが隠されており、彼女の意思とは無関係に高カロリーの流動食を胃へと流し込む。
そして、大きく開かれた股間――。
尿道には透明なカテーテルが、そして肛門には、太い金属製の「循環プラグ」が深々と埋め込まれていた。
彼女の排泄物は即座に吸引され、台座の下でろ過され、再びこの部屋を潤す「加湿用の蒸気」としてリサイクルされる。
彼女はもう、トイレに行く必要も、食事をねだる必要もない。
不潔な営みさえも、ここではクリーンな循環システムの一部としてデザインされていた。
そして、秘裂の奥には、金色の「オルガ・コネクター」が子宮口をこじ開けて鎮座している。
サトルはリモコンを手に取る。
「今日は冷えますね。……出力を上げましょう」
ダイヤルを回す。
『ゴボッ……ジュルリ……』
行灯の台座から、卑猥な水音が響いた。
コネクターが振動し、子宮を内側から愛撫するピストン運動を開始する。
同時に、乳首に吸着した吸引カップが収縮し、未開発の乳腺を強い負圧で刺激する。
「――ッ!!? ……んぐ、ぁ、あぁッ……!!」
猿轡の隙間から、押し殺した絶叫が漏れた。
苦痛ではない。
だが、脳髄を直接レイプされるような、逃げ場のない強制絶頂。
彼女の身体がビクリと大きく跳ねる。
血管がネオン管のように青白く発光し、内臓の熱が一気に上昇する。
白磁のような肌が一瞬で桜色に染まり、特にプラグが埋め込まれた下腹部が、熱を帯びて激しく明滅した。
ぼうっ、と六畳間に妖艶な桃色の光が灯る。
それは、サヨコの羞恥と快楽が変換された、あまりにも人間的な熱源だった。
「……あぁ、なんて美しいんだ」
サトルは行灯の前に座り込み、恍惚とした表情で中を覗き込んだ。
サヨコの顔は、汗と涙、そして垂れ流される涎でぐしゃぐしゃに濡れている。
瞳は快楽と屈辱で白目を剥きかけ、焦点は虚空を彷徨っていた。
時折、サトルの方を見て何かを訴えるように瞬きをするが、システムが感情中枢を制御しているため、その表情はすぐに虚ろな恍惚へと戻される。
そこにはもう、夫のために弁当を作り、電気代を気にして溜息をついていた「生活感のある妻」はいなかった。
あるのは、サトルの部屋を照らし、温めるためだけに存在する、永遠に美しい「雌の家具」だけだ。
「マサシ君には見えなかっただろうね。君の奥底に、こんなに淫らな光が眠っていたなんて」
サトルは格子越しに、発光する彼女の股間に指を這わせた。
バイオ・スキン越しに伝わる熱は、火傷しそうなほど熱い。
「君はもう、誰の妻でもない。家事も、借金の心配もしなくていい。……ただ、永遠にここで、僕のために濡れて、発電し、輝いていればいいんだ」
サトルは満足げに微笑み、彼女の放つ光の下で文庫本を開いた。
静寂に包まれた部屋に、行灯の中のサヨコが、プラグの振動に合わせて、ヒュッ、ヒュッ、と喉を鳴らす音だけが響き続けた。