土曜の深夜。
小田切は薄汚い自室のパソコンの前に座っていた。
安物のオフィスチェアが彼の体重を受けて軋んだ音を立てる。
部屋に満ちているのは澱んだ空気と、彼自身の体から発する微かな汗の匂いだけだった。
彼は慣れた手つきでマウスを操作し、デスクトップに無造作に保存された動画ファイルの一つをダブルクリックした。
すぐに見慣れた車内の映像がモニターに映し出される。
先日、多摩センター方面まで乗せた女の記録映像だ。
小田切はヘッドホンを装着し、映像の世界に没入した。
彼は女が眠りに落ちる場面まで映像を早送りし、そこからは再生速度を落として、食い入るように画面を見つめた。
映像の中の女の体は薬の効果によってゆっくりと弛緩していく。
抵抗を失った頭が窓ガラスにこつんと当たり、几帳面そうに結われていた髪がわずかに乱れる。
その無防備な姿が彼の支配欲を静かに満たしていく。
やがて、その瞬間は訪れた。
映像の中の女のスカートの生地、その中央部分に、じわりと黒い染みが広がり始める。
小田切は、その染みが明確な形を取り始めた完璧なタイミングで、待っていたかのように再生を一時停止した。
彼はマウスを動かし、女の顔の映像をデジタルズームで拡大する。
これから起きるであろう最高の瞬間を前に、彼は一度息を止めた。
数秒の静寂の後、彼は再生ボタンをクリックする。
映像の中の女の眉間が、ぴくりと痙攣した。
重たいまぶたが、ゆっくりと持ち上がる。
まだ覚醒しきらない、焦点の合わない濁った瞳が虚空を彷徨う。
その瞳が、やがて自分の身に起きている惨状を認識し、混乱から驚愕へ、そして取り返しのつかない絶望へと染まっていく、その一連の変化。
小田切は、その表情のグラデーションだけを、まるで至高の芸術作品でも鑑定するかのように、何度も、何度も巻き戻しては再生を繰り返した。
女の整った顔が屈辱に歪み、人間としての尊厳が崩壊していく様を彼は飽くことなく鑑賞し続けた。
そして、彼は満足げなため息を一つ漏らすと、ぶっきらぼうにPCの電源を落とした。
ブツンという音と共に画面が暗転し、モニターには彼の無表情な顔がぼんやりと映り込んだ。
次に彼は椅子から立ち上がると、机の上に無造作に置いてあった小さなブリキの缶を手に取った。
蓋を開けると、中にはこれまでの犯行で得た、いくつかの「記念品」が無秩序にしまわれている。
彼が指先でつまみ上げたのは、一枚の、くしゃくしゃになったクレジットカードの利用控えだった。
印字された「¥50,000」という数字が薄暗い部屋の中でもはっきりと読み取れる。
これは埼玉の寮まで乗せた学生の女に請求した時のものだ。
小田切はそのレシートを眺めながら目を閉じた。
映像を再生するまでもない。
彼の脳裏には、あの時の光景がありありと焼き付いている。
自分が巧妙に仕込んだ下剤のせいで、逃げ場のない車内で情けなく汚物を漏らし、しかしその原因が自分にあるとは露ほども思わず、ただひたすらに罪悪感に苛まれていた若い女の姿。
恐怖よりも、自責の念に歪んだあの顔。「ごめんなさい」と涙ながらに繰り返し、怯えながらも、どこか許しを乞うようにすがってきたあの瞳。
肉体を強制的に支配した時とは違う、心を捻じ伏せ、相手の良心そのものを汚辱の共犯者に仕立て上げた瞬間の、あの甘美な感触。
小田切の口元に、これまでのどの時よりも深く、どす黒い侮蔑と愉悦に満ちた笑みがゆっくりと浮かび上がった。
彼はそのレシートを宝物のように、そっと缶の中に戻し、蓋を閉めた。
ひとしきり楽しんだ小田切は、次の獲物について思いを馳せる。
もはや、単純な獲物では物足りない。
より抵抗し、より苦悶し、より精神的に崩壊する獲物が必要だ。
今までの女たちよりも、もっと自尊心が高く、自分の価値を信じて疑わないような女。
そういう女が足元から崩れ落ちる様を見てみたい。
小田切は静かに立ち上がると、ハンガーにかけてあった安物のベストを羽織り、仕事着に着替えた。
深夜の街が、新たな獲物が彼を呼んでいる。
彼はアパートの鍵をかけると、深夜の冷たい空気の中へと足を踏み出し、相棒である古びたセドリックへと乗り込んだ。
エンジンが低い唸りを上げて目覚める。
彼はゆっくりとブレーキから足を離した。
濃紺の車体が闇に溶け込むように静かに次の狩り場へと向けて滑り出した。