安藤 優花 (あんどう ゆうか) 31歳
法律事務所に勤めるパラリーガル。几帳面で真面目、決まったルーティンを好む。
武蔵野市のアパートで一人暮らし。
深夜1時過ぎ。
疲れ切った表情の優花がビルから出てきて、大通りでタクシーを探し始めた。
小田切はタイミングを見計らい、彼女の目の前に車を滑り込ませる。
優花は、以前乗ったことがあるタクシーだとは気づかず乗り込んでくる。
赤信号で、小田切は「月末でお疲れでしょう。これ、よかったら」と、強力な睡眠薬を仕込んだ、少し高級な瓶入りの栄養ドリンクを差し出した。
優花は疲労から判断力が鈍っており、その親切を素直に受け、一気に飲み干してしまう。
優花は完全に意識を失い、アパートの自室へと運ばれていった。
カチリ、と硬質な音を立てて、安藤優花のアパートのドアに鍵がかかる。
小田切敦夫は、その完全な密室の成立を背中で静かに確認した。
外の世界からの光も音も、そして救いも、この薄い鉄の板一枚で完全に遮断された。
ここはもう、彼の聖域であり、これから始まる神聖な儀式の祭壇だった。
部屋は住人の性格を雄弁に物語っていた。
まるで定規で測ったかのように整然と並べられた本の背表紙、埃一つないガラスのテーブル、そして微かに香る清潔な柔軟剤の匂い。
あらゆるものが分類され、管理され、完璧な秩序の中に収まっている。
その息が詰まるほどの几帳面さが、小田切の口元に、ほとんど目には見えないほどの歪みを浮かべさせた。
この完璧なキャンバスを自らの手で汚し、破壊することへの静かな、しかし確かな興奮が彼の内側でゆっくりと熱を帯びていく。
彼はまず、意識を失ってベッドに横たわる優花を一瞥した。
深く、そして穏やかな眠り。
強力な睡眠薬は彼女の自我という名の城壁を内側から完璧に崩壊させていた。
彼女はもはや人間ではなく、ただの美しい人形だ。
小田切は仕事用のカバンから黒く小さな塊――小型のアクションカメラを取り出した。
そして、部屋の隅にある本棚、その最上段に積まれた法律関係の専門書の陰に、カメラを巧みに設置する。
レンズはベッドの中央で眠る優花を冷徹に見下ろしていた。
録画ボタンを押すと、小さな赤いランプが闇の中で心臓の鼓動のように静かな点滅を開始した。
この儀式の唯一の観客であり、記録者だ。
記録の準備が整うと、小田切はベッドへと歩み寄り、眠る優花の顔を無表情で見下ろした。
きつく結ばれた唇、規則正しく上下する胸。
その生命の徴候が彼にとってはこれから奪い去るべき尊厳の証に他ならなかった。
彼は、まるで貴重な衣服を脱がせるように、彼女が身につけているスーツのジャケットのボタンに指をかける。
一つ、また一つと、社会的な記号が剥がされていく。
続いて、シルクのブラウス、タイトスカート。
彼の指の動きには一切の躊躇いも猥雑さもなく、ただただ目的を遂行するための機械的な正確さだけがあった。
やがて最後の一枚である下着が取り払われ、優花の柔らかな肉体が部屋の青白い蛍光灯の下に完全に晒された。
小田切は、その無防備な裸体を、まるで美術品を鑑定するかのように、頭のてっぺんから爪先に至るまで、執拗に、そして隅々まで検分するように眺め回す。
しばらくその姿を鑑賞した後、彼はゆっくりと身をかがめた。
そして無防備に投げ出された優花の腕を持ち上げ、その脇の下に顔をうずめる。
汗と制汗剤が混じり合った、生きた人間の匂いを、彼は記憶に焼き付けるように深く吸い込んだ。
次に彼は彼女の脚を割り開き、女性器の茂みに顔を近づける。
そこから発せられる、より濃密な、生命の根源に繋がる匂いを、彼は恍惚の表情で味わった。
だが、彼の探求はそれで終わらない。
彼は眠る優花の体を横向きにし、丸みを帯びた臀部を露わにさせる。
そして、その割れ目に、ためらうことなく、自らの人差し指をゆっくりと差し入れた。
ぬるりとした内部の粘膜の感触、括約筋の微かな抵抗。
その全てを指先の神経に集中させて確かめる。
やがて指を引き抜くと、それを自らの鼻先へと運び、目を閉じて、その背徳的な残り香を恍惚とした表情で深く、深く吸い込んだ。
小田切は立ち上がると、再び本棚からアクションカメラを手に取った。
そしてベッドに近づき、眠る優花の体にレンズを向ける。
まるで昆虫標本を記録するかのように、肌のきめ、産毛の流れ、体の柔らかな曲線、そして無防備に開かれた唇。さらには先ほど自らの指で蹂躙したばかりの湿った粘膜の入り口まで。
その全てを高解像度のデジタルデータとして、執拗なまでの接写で記録していく。
彼のファインダーの中では、彼女は「安藤優花」という個人ではなく、ただの「肉体」という名の美しい、そして無機質なオブジェクトに過ぎなかった。
撮影という名の記録作業を終えると、彼はカバンの中から、この儀式のクライマックスを飾るための「道具」を取り出した。
白と青のパッケージに包まれた市販のいちじく浣腸。それを三つ。
小田切は、そのうちの一つを手に取ると、キャップを捻って先端を剥き出しにした。
そして、再び優花の体を横向きにし、その白い尻の谷間に冷たいプラスチックの先端をゆっくりと押し当てた。
彼は眠る優花の肛門に、浣腸のノズルを慎重に、深く、深く挿入していく。
そして球根状の容器を、まるで熟した果実を絞るかのように、ゆっくりと、しかし確実な力で押し潰していった。
透明な薬液が彼女の体の中へと注入されていく。
その様子を彼は恍惚とした表情で見つめていた。
一滴も無駄にしてはならない。
彼は容器が完全に空になるまで、時間をかけて薬液を注入し続けた。
同じ行為を彼は、あと二回繰り返した。
合計三本分の異物が、彼女の意思を無視して、その体へと注ぎ込まれたのだ。
注入を終えると、小田切は再びカメラを本棚の元の位置に戻し、録画が続行されていることを確認した。
そして、部屋の隅にあった椅子を引き寄せ、そこに深く腰を下ろす。
腕を組み、脚を組み、まるでオペラ座の特等席に陣取る観客のように、ベッドの上で眠り続ける「作品」を見下ろした。
舞台のセットは整い、役者への仕込みも完了した。
あとは自然の摂理という名の脚本が最後の幕を開けるのを待つだけだった。
時間は死んだように静かに流れた。
部屋に響くのは、壁の時計の秒針が刻む、無慈悲な音だけ。
やがて小田切が待ち望んでいた「現象」が始まった。
眠ったままの優花の体が、小さく、そして不随意に痙攣する。
彼女の意識とは全く無関係に、その体内で臨界点に達した圧力が、出口を求めて蠢き始めたのだ。
最初に、それは音として現れた。
くぐもった、腹の底からの音。
そして、それは形になった。半固形状の汚物が、彼女の意思を無視して、括約筋の抵抗を押し破り、体外へと排出され始めたのだ。
それは清潔だったはずの白いシーツの上に醜悪な茶褐色の染みを、ゆっくりと、しかし確実に広げていく。
決壊したダムのように、それはとどまることを知らなかった。
浣腸液と混じり合った汚物が次から次へと溢れ出し、純白のベッドを無惨な姿へと変えていく。
小田切は、その光景を椅子に座ったまま、ただ黙って、満足げに見つめていた。
人間の尊厳が抗いようのない生理現象によって、音を立てて崩れ落ちていく。
完璧に管理された秩序が内側から噴出した混沌によって汚されていく。
それこそが彼の求めていた「芸術」の完成形だった。
彼の歪んだ美学が完璧な形で具現化した瞬間だった。
夜明けの気配が窓の外に滲み始める頃、小田切は全ての「鑑賞」を終えた。
彼は本棚からカメラを回収し、それをポケットにしまった。
そして優花のハンドバッグから抜き取っていたアパートの鍵を元の場所へとそっと戻す。
まるで最初から誰もこの部屋を訪れてなどいなかったかのように、彼は静かに、そして足音もなく立ち去っていった。
翌朝。
頭蓋骨を万力で締め付けられるような激しい頭痛。
そして、胃の腑からせり上がってくる強烈な吐き気。
安藤優花は、うめき声とともに目を覚ました。
視界が白く霞み、自分がどこにいるのか、今がいつなのか、即座には理解できない。
だが思考よりも先に体が異常を訴えていた。
肌にまとわりつく、不快な湿り気。
そして自分の体に、一枚の布さえ纏っていないという衝撃的な事実。
「……っ、いやっ!」
自分の裸の姿を認識した瞬間、声にならない悲鳴が喉の奥で凍りついた。
パニックに陥りながら身を起こそうとした彼女は、そこで、さらなる絶望の光景を目の当たりにする。
自分が寝ていたはずの白いシーツが見るも無惨な茶色い汚物で、ぐっしょりと汚れている。
鼻をつく耐えがたい悪臭。
それが自分自身の体から排出されたものであると理解した瞬間、彼女の全身から急速に血の気が引いていった。
何が起きたの? どうして?
混乱する頭で必死に記憶の糸をたぐり寄せようとするが、昨夜のことは、まるで分厚い壁に遮られたかのように、何も思い出せない。
疲労困憊で会社を出たこと。そこまでは、確かに覚えている。
でも、そこから先が完全に空白だった。
どうやって、この部屋に帰ってきたのか。
タクシーに乗ったのだろうか。
誰かと、一緒にいたのだろうか。
目の前にある、自分の身に起きた惨状という動かぬ「結果」と、そこに至るまでの記憶という「原因」が、全く繋がらない。
その断絶された事実だけが彼女を論理の通じない、底なしの恐怖の沼へと引きずり込んでいく。
優花は汚れたシーツの上でうずくまり、ただ、なすすべもなく震えることしかできなかった。